死憶の異世界傾国姫 ~ねぇ、はやく、わたしを、殺して~ 作:ぎむねま
王族との婚約の意味は重く。格を考えれば今までのパーティー用のドレスでは失礼になってしまう、……らしい。
新しいドレスを用意するのはシノニムさんにとっても頭の痛い問題だった。
今まで楽士や料理の競技会を行ってきたが、いずれも木村が勝っている。
しかし今回は貴族の礼服、ドレスの作成だ。
一流の針子は一朝一夕で育たないし、布の仕入れルートも信用第一。新興の商会じゃ手が出せない分野と聞いている。
しかも今回は致命的に日にちが無い。コンペで選ばれてから三日程度しか時間が取れない。
普通はそれこそ年単位で準備する晴れ着なのだから、とってもじゃないが一から作っていたら間に合わない。
その為、元となるドレスをリメイクする事になるのだが。まずそんな高級素材のドレスを手に入れるのが既に難しい。
その上で、入手のメドが立った商会がそのドレスを元にした、リメイクのデザインを提示する形となる。
そうやって選ばれた後、実際のリメイクに入るのだが、期間を考えれば多くの針子を投入しての作業が必要で、新興の商会では無理だろうとはフィダーソン老の言葉だ。
本来、王子との婚約ドレスともなれば大々的にデザイン案を募るのだが、ハードルが高過ぎてボルドー王子が頼みにしている商会に一任するしか無いと思われていた。
新郎の衣装とも合わせる必要があるからだ。
なので今回は競技会と言いつつも出来レース。一応デザイン案を募った事実と、木村の顔を立てるために、競技会を開いてやるかと言う程度だと思っていたのだが……
「七組も候補が集まったのですか?」
「ええ、これも姫様の人気の表れでしょう」
シノニムさんが言うには、俺の人気が高まり過ぎたのが全ての原因らしい。
まず大きなハードルとなるはずの元のドレス。
かなり高位の貴族でないとそんな格の高いドレスは持っていない。それも結婚や婚約のドレスに限られる。
それだって縁起物だし、記念にとっておく貴族が多いのだが、俺の人気が高すぎて『ユマ姫に着て頂けるなら』と容易に集まってしまったと言うのだ。
「発表形式ですが、ドレスの持ち主、または同じ貴族家のお嬢様が実際にドレスを着てお披露目をするそうです」
「そうですか……」
加えてアレだ。貴族のお嬢様にとって、自分の家ゆかりの自慢のドレスを着て、有名人とお話し出来るオイシイイベントになってしまったと、そう言う訳か。
「ではそろそろ行きましょう、まずはドルト商会とバンザール侯爵家のドレスとなります」
シノニムさんが言うには、既に個室に待たせているらしい。
二つの応接室を交互に使い、終わった組から退場してもらい、お嬢様はリビングルームでアイスでも食べながら待っていて貰い、最後はみんなでおしゃべりして、結果発表して解散と言う流れらしい。
「では、行きますか!」
「そんなに気負わなくても宜しいのでは?」
そう言われても、なんだかんだ同い年ぐらいの貴族のお嬢様と話すのが一番緊張するんだよ。
価値観とか違いすぎて、話が合う気がしないんだよねぇ……はぁ、気が重い。
……想像通り、俺はテンションの高いお嬢様に圧倒されていた。
「私、ずっとユマ様と二人でお話ししてみたくって、噂以上にお綺麗で! 憧れます!」
「ありがとう、でもユマ様だなんて。今の私はただの国を追われた女の子に過ぎないのですから」
「でも、ボルドー様と婚約するのでしょう? そしたら今度はこの国のお姫様になる訳でしょう? 二つの国でお姫様なんて聞いた事がありませんわ! なんて素敵なの!」
「……え、ええ、大変名誉な事だと思うのですが。夜寝る時なんて、いつも不安で押しつぶされそうになりますの」
「そうよね、貴女に国の命運が掛かってしまっているのですもの。でも、他人事だから気楽なモノねと笑われてしまうでしょうけれど、壮大な運命に巻き込まれるって、女の子の憧れなのよ!」
「……もし、代われる物なら代わって欲しいと願わない日は無いのです、何故私なのかって、いつもそればっかり」
「わかる! わかるわ! でも! 一目見て解ったわ。私じゃ貴女の代わりにはなれない! だって凄く可愛くて、本当に物語のヒロインみたいなんですもの」
「そんな! 王国の女の子はみんなお洒落で、私なんてと物怖じしてしまって」
「まぁ! まぁ! まぁ! ユマ様でそれなら私なんて外に行く顔が無くなってしまうわ」
などなど、ちっちゃなおばちゃんの如くグイグイ来る。
ドレスやデザインそっちのけで喋るもんで、商会の人涙目、俺も若干涙目だ。
とは言え実際の所、商会も貴族のお嬢様も、俺への顔つなぎに来てる感がある。
ドレスの由来を説明する過程で、貴族家の説明も出来て一石二鳥と言う程度。本気で狙いに来ている感じはしない。
ボルドー王子が推薦した商会は流石に真面目に服をプレゼンしていたが、他は大体がそんな感じで、応対するこっちはドッと疲れてしまった。
そしていよいよ、残るは木村んトコのドレスだ。
ココは待たせても大丈夫だからと後回しだったらしい。
「次はキィムラ商会の番なのですが、キィムラ商会は貴族家のドレスを使用していません」
「どう言う事です?」
「新品のドレスを用意したとの事、この短期間ですから、あらかじめ用意してあったのかと……」
「うっ!」
愛が重い! 重すぎる!
しかもその愛が、同性だったかつての友人からの物なのだから、なんとも言えない物がある。
ってか、俺と結婚する事を夢見てドレスを作っていたんじゃあるまいな?
それにしたって俺だってまだ色々と……その、成長するだろうし!(胸回りを抑えながら)
折角今のサイズで作っても、全くの無駄になる確率が非常に高い物をウッキウキで作っていたと思うと、もはや重いと言うよりキモいまである。
「ですが今回、商会長のキィムラ様は別件があるとかで来ておりません、代わりの人間がドレスを着てプレゼンを行う様です」
「? ドレスを着て、ですか?」
「はい、そう書いてあります」
メモを見るシノニムさんも困惑している。
女性にして商会の幹部と言うだけで珍しいのに、俺のサイズを考えればその人の体格はまるきり子供だ。
あり得ないと思うのも無理は無いだろう。
「とにかく会ってみましょう」
そう言って、応接室に入ったのだが。そこに待っていた人物を見て、俺は驚く事になる。
それは、王国の女性に対して初めて抱いた感情だろうか?
――自分よりも可愛いかも知れない。……なんか、悔しい。
っと、コレが嫉妬なのだと初めて思った。
そしてそれと同時にこんなに綺麗な子がいたと言う事実に、俺は何故か嬉しい気持ちにもなってしまった。
「あの、初めまして。で、宜しいですよね?」
恐る恐る聞くと、相手は不安げな様相を一変、どこか恨めしそうな目で睨んでくる。
初対面だと思ったが、何か恨まれるような事でもしたのだろうか?
いや、彼女がキィムラ商会の人間だとすると、ここに来て専属を外すどころか関係を切りたいなどと言われれば、俺に対して恨み骨髄なのも無理からぬ所。
「うっ、いいえ。以前に会っていまス」
しかし、顔を赤らめて少女が言うには、俺はこの人と会った事があるらしい。
どこだ? 参照権!!! 該当データ無しッ! データありません。
「いえ、間違い無く初対面だと思うのですが?」
尋ねる俺に、シノニムさんから待ったが掛かる。
「ユマ様! ユマ様!」
「なんです?」
「多分ですが……この方は」
「え゛?」
シノニムさんの予想は斜め上、まさかと思いつつ確認するも、本人から帰ってきたのは間接的な肯定の言葉であった。
「ううっ、笑うが良いでスよ」
「ほ、本当に? 本当なのですね??」
ア゛ッーーー
木村の腰巾着だったフィーゴって男の子かーーーっ
この世界で初めて自分より可愛いかも、と思った相手が男の子かー
罪深いなー
ってか、こんな可愛い少年を囲ってるのか木村は。
アイツ、もう死んだ方が良いよな。
変態だーッ! おまわりさーん。
フーッ落ち着け。
俺は素数なんかに負けたりしない! 取り敢えずお茶を飲もう。
「ふふふ、驚いたようでスね!」
すると、羞恥で赤くなっていたフィーゴ君が一転、突如勝ち誇った顔で挑発してくるではないか。
そんな顔も可愛くて、どう反応して良いか困るんだが?
でも、確かに驚いた。
驚き過ぎて、ペロペロしたいのかペロペロして欲しいのか、ペロリストなのかペロストレイカなのか。
何が何だか解らない。
脳内で巻き起こる革命に次ぐ革命に、受けとか攻めとかそう言う次元を越えてしまっている。
ホモなのか? レズなのか? 揺れる狭間で
お茶だ! お茶を飲んで落ち着くんだ!
「ふふっ、まるで『タカハシ』みたいな間抜け面でスね?」
「ブッー」
えぁ? はぁ?????
「お茶を吹くのが癖になっていますよ?」
シノニムさん? 今ッ、それどころじゃ無い!
「あの? 『タカハシ』とはなんです?」
「あ、ウチで飼っている海トカゲです」
「そっかー」
もう意味が解らなすぎて、どうでも良くなってきたぞ!
とは言え、気になるのはドレス。
「あの、それで……あなたの着ているドレスについてなのですが……」
そんでね、少年が着ているドレスの方もツッコミ待ちと言うか、非常に気になる仕上がりなの。
「このドレスは、いつかアナタに着て貰うんだと、キィムラ様が丁寧に丁寧に、一針一針縫った物でス」
やっぱりかー、キッツイ! 重ッイ!
何がキツいって、一番キツいのが、フィーゴ少年が自らの肩を抱きすくめ。愛おしそうにドレスの縫い目に指をなぞらせる所だ。
もう俺は口がガバガバ。お茶をこぼしながら、呆然とその様子を眺める他に無い。
倒錯していた少年はハッと我に返ると、キッっとコッチに向き直り、ビッっと指さしてくる。
「なのに! アナタは王子と結婚して、キィムラ様を捨てようとしている!」
「…………」
えーーコッチだって木村を守ろうと必死なんだっての!
ってかアレだよ? むしろここでキッパリ断らないと、キープみたいで酷いよね? 酷くない?
ってか、最後に最大のツッコミ所なんだけどさ。
「あなたの気持ちは解りました、では次に、そのドレスのデザインについて教えて頂けますか?」
「これは……、キィムラ様の故郷で流行っているデザインだと聞きました」
「そ、そうですか……」
出ました、地球への熱い風評被害。
俺はこの衣装を知っている。設定資料も薄い本も買ったから間違いない。
ゴスゴスロリロリしながらも、絶妙に体のラインが出るフェティッシュな衣装。
バルディアン戦記のリューナ姫の衣装に間違い無い。
こんな服が流行っているのは、一部のマニアの間だけだと弁解したい。
なるほどなーリューナたん、銀髪エルフだからなー、俺にダブらせるのも仕方無いよなー
……ってなるか! たわけが!
「いくらなんでも、王子の礼服とデザインが異なり過ぎて論外でしょう?」
「で、ですが、ドレスの素材も、刺繍も、間違い無く一流の出来映えです! 仮に選ばれなくても、一度は袖を通して欲しいと言っていました」
フィーゴ少年の弁解も空しい。
木村の奴、ただ俺にコスプレ衣装を着せたいだけじゃねーか!
「とは言え、ユマ様は異国の姫なのですから、多少デザインに個性がある位が宜しいと思われますが?」
シノニムさん! その助け船はいらない!
「こんな扇情的な衣装では問題でしょう?」
「そうですか? それほどでも無いような?」
体にピッタリ張り付いて腰回りのラインが見えるが、露出は多くない。
国が違えば、エロの基準が違うのかも知れない。逆に肩とか出すのは非常に大胆な衣装って扱いなんだよね。
「目新しく、キィムラ商会らしい斬新さを感じます。それに素材の高級感も申し分ありません、ただ私には衣装以上に気になる事が幾つかあります」
そう言って、シノニムさんがグイッとフィーゴ少年に食いついてきた。
「まず、その髪。カツラですか?」
「は、ハイ」
「染めているのですか? 染料は?」
「僕の瞳の色に合わせて、キィムラ様が調合しました」
「では、次。その睫毛です。あなたはそんなに睫毛が長かったでしょうか?」
「いえ、コレは付け睫毛です。付けるのが大変で、痛くて」
「付け睫毛! そんな物まで! では? その肌は?」
「昔から商品の化粧水と乳液は宣伝も兼ねて使っていたのです、今回はファンデーションを何種類か使って顔にメリハリを出した、とか言ってました」
「凄いメイク技術ですね、噂以上です」
シノニムさんは唸る。
どうも、キィムラ商会の本領は食品、そして何より化粧品だと言われるらしい。そして商会長の木村自身が施すメイクは神業とまで言われてるとか?
なるほどー!
そのメイク技術を強調するために、わざわざ男の子を女装させたのかー
って信じるか! ボケェ! ホモォォ!
「ユマ様、やはりキィムラ商会を切るのは無理筋です、ボルドー王子推薦の商会に衣装をお願いし、メイクはキィムラ商会にお願いするのが落とし所じゃないですか?」
「う、アナタはそれで良いのですか?」
俺は一縷の望みを託して女装少年に問う。
「あの人が幸せなら、それで良いでス……」
いやー純愛だねー。もう、勘弁して下さい。
とは言え、衣装はやはりボルドー王子の商会の衣装に決まりかー
文句をブツブツ言ったけど、結局は俺もオタク。
リューナちゃんの衣装、正直言ってちょっと着てみたかった……
女の子に生まれ変わって間もなくの頃、大人になったらコスプレとかしてみたいって思っていたのを思い出してしまった。
その後は健康問題が長引いて、服なんて笑われない程度に楽で負担にならないものならなんでも良いとなってしまう。
つまり、前世と服の選択基準が同じになってしまって、お洒落に興味が薄れてしまっていた。
そんな俺が、この服を着てみたい! って思ったのは前世を含めてもコレが初めての経験だっただけに、晴れ舞台で着れないのはちょっと残念かも。
……などと思ってしまった俺に、罰が当たったのかも知れない。
事態はフィーゴ少年を連れ立って、貴族のお嬢様方が待つリビングに戻った時に急転した。
「「「「「「キャーーーーーーー」」」」」」
迎えたのは、黄色い絶叫だ。
「ホントに? ホントに男の子?」「凄い! お肌ツルツル」「睫毛長い! これがお化粧?」「こんなドレス見た事無いわ! 綺麗!」
「あう、……あうう」
フィーゴ君は六人の腐り始めの女子にもみくちゃにされた。
男の娘。
倒錯した危険な魅力は、お嬢様方を一瞬で虜にしてしまった。
先程までは、あんなに俺にチヤホヤしてくれた女の子達が、今ではすっかり女装少年に夢中である。
そう言えばシノニムさんも先程、若干鼻息が荒かった気がします。
「素敵ですわ! このドレス! あのキィムラ商会に言えば作って頂けますの?」
「あの、コレはキィムラ様の手作りなので注文は受けられないのでス」
「え? ええっ! 本当に? じゃあ、キィムラ様がユマ様を愛するあまり、手作りのドレスを作ったって噂は?」
「あの……本当です」
「「「「「「キャーーーーーーー」」」」」」
いちいち絶叫が五月蠅い。
悲鳴を聞いて度々衛兵が飛び込んで来るので、俺はシッシと追い払う作業に必死だ。
「愛する人に手作りのドレスを贈る、それだけでも素敵なのに」
「それが他人との婚約を発表する舞台で着ていくドレスだなんて!」
「悲恋だわ、なんて一途なの!」
「でも、ユマ様を見てると。惚れ込んでしまう殿方の気持ちもわかるわ」
「二人の男性に愛されるユマ様、悩んだ末に王子を選ぶも、揺れ動く気持ち!」
「はぁー私もこんな風に愛されたいわ」
なんか、スッゲー盛り上がってる。
生暖かい目で見守っていたら、その熱はコッチにまで飛び火してきた。
「ユマ様! キィムラ様の最後の贈り物。選んであげなくちゃ可哀想です!」
「私達、断固キィムラ様を応援します!」
「……え?」
なんだろう? 流れについて行けない。
なんかボルドー王子の選んだ商会、そのドレスの提供元の貴族の女の子が、控えめに手を上げている。
「あの、私、衣装の提供を辞退しようかなって」
「私も!」「私もよ!」「この衣装を着ているユマ様を見たいわ!」「そうそう!」
えーーーー
そうして、結局俺は木村に三度目の敗北を喫するのであった。
いや三度か? もう数えるのもいいや、ハイハイ、ワロスワロス。
俺はすっかり投げやりになってしまうのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一方で同時刻、ボルドー王子の私邸はヒッソリと静まり返っていた。
殆どの護衛はユマ姫が居るオーズドの屋敷に詰めており、最近暗殺者の襲撃が有った場所とは思えぬ程に手薄であった。
これもヨルミの策。
ここまで手薄で有れば、ボルドー王子はここに居ない、それどころか既に死んでいるのでは? と思わせる手管である。
しかしボルドー王子はここから一歩も出ずに、気付かれぬように部下を巧みに動かし暗殺者の尻尾を掴もうとしていた。
事実、第二王子は既に死んでいるだの、伏せって一歩も動けないだの、実行犯が流したと覚しき噂が流れており、その出所を必死に追っている段階だ。
……しかし結果は芳しくない、全ての情報は巧妙にコントロールされていた。
そのために、今日は逆転の一打として一人の男を呼び寄せていた。
「君に来て貰うのは同じ男としてどうかと思ったのだがね」
「お気になさらず、ユマ姫を狙う暗殺者を退治したい。その思いは一緒で御座いましょう」
ボルドー王子の対面に座る男こそ、王都に名を馳せる新進気鋭の商会の長、キィムラ男爵であった。
商会長の領分を越え、ボルドー王子の婚約者となったユマ姫に入れ込んでいると評判で。ボルドーとしても顔を合わせづらい相手。
それでも今回の難題、頼るべきはこの男以外にあり得なかった。
「君に作って貰いたい物が有る。適任をと調べれば皆が口を揃えて君しか居ないというのでね」
「それは光栄に御座います、未熟な身なれど、精一杯務めさせて頂きます」
提案されたのは納期が短い一つの仕事。しかし木村は澄ました顔でこの難題を了承する。
その澄ました様子に、ボルドー王子は何故か苛立ちを覚えた。
「今日はドレスの選定があるはずだが? そちらは良いのか?」
「私がおらずとも、ユマ様は私のドレスを選ばれるでしょう」
「その自信はどこからだ? ユマ姫は絶対に選ばないつもりと言っていたが?」
「私の思いは必ず届くと、そう信じておりますので(腐女子達に)」
自信満々のキィムラ男爵の様子に、ボルドー王子は益々苛立ちを募らせる。
「君は……、いやお前は。私の婚約者であるユマを好きだと公言しているとか?」
「はい、憧れの女性です」
「まだユマ姫は十二、お前との年齢差は相当な物だろう? お前は子供が好きなのか?」
「失礼ながら、それはボルドー殿下も同じでしょう? 歳に関わらない魅力をユマ様はお持ちでいらっしゃいます」
「そうか、だったら俺とは違うな」
「と、言いますと?」
不思議そうにするキィムラ男爵に近寄り、ボルドー王子は耳元でささやく。
「ユマ姫には裏の顔がある。清純な少女の顔の裏に、大人顔負けの恐ろしい顔を隠している。お前の知っている可憐な姫はアイツの一部分でしか無いぜ」
王子には、ユマ姫を戦友と認めるだけでなく。あんな厄介な女を愛せるのは俺だけだと言う思いがあった。
ユマ姫の表の外面だけを見て、好きだと恥ずかしげも無く公言する男に、あの裏の顔を突きつけてみたいと言う意地悪な感情が抑えきれなかったのだ。
……しかししかし、ボルドー王子が相手にしているのは稀代の変人だったのだ。
「……ボルドー殿下はその二つの顔のギャップに惚れ込まれたのですか?」
「ギャップに? そうか、そうかもな」
現代の萌え文化に、首までどっぷり浸かった木村にとって、当たり前と言えるのがギャップ萌え。
しかしボルドー王子にとっては、指摘されて初めて気が付く概念だった。
その様子に木村は目を細める。
「一粒で二度美味しいと、ますます殿下が羨ましく思います」
「そうか……しかし並の男ではあの少女は扱い切れんよ」
「ハッ、その通りで御座いましょう」
自分が『並の男』だとは欠片も思っていない物言いに、ボルドー王子も苦笑が漏れる。
「ふっ、お互い変なのに惚れたもんだ。苦労するぞ」
笑いながら木村の肩を叩くと王子は部屋を後にした。
部屋に一人、残された木村もホッと息を吐く、木村も流石に呼び出された間男みたいな具合の悪さを感じ、緊張していたのだった。
ドサッとソファーに沈みながら呟く。
「ユマたんは多重人格っと」
嘘発見器をすり抜けたと聞いた時から、木村はその可能性を考えていた。
「にしても、亡国の姫で、オッド・アイで、銀髪エルフで、自称伝説の姫の生まれ変わりのサイコな多重人格とか、属性盛りすぎ問題」
……まぁ、だから好きなんだけど。
と、口の中で付け加えるも、彼もまた厄介な娘を好きになったと自嘲するのであった。