死憶の異世界傾国姫 ~ねぇ、はやく、わたしを、殺して~   作:ぎむねま

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欠声裁判1

 俺は木枷(ぼくが)を嵌められた状態で広場まで引っ張り出されていた。

 

 木枷。ご存知ない? エロゲーでよく見るアレだよ。エロゲーは何でも教えてくれる。二枚の板で挟まれて頭と手だけがコンニチワ、ご丁寧にも板は金属枠でがっちり固定されている。

 しかも枠には鎖が付いており、犬の散歩よろしく半ば引きずられる様に広場まで移動させられた。

 

 広場には俺が初めて王都に来て、挨拶した時以上の人がギッシリでビックリ。正直、血の気が引いてしまった。

 設置された断頭台を見た時なんざ、自分の頭と胴をさよならバイバイさせる装置だと言うのに、変な話、ちょっと安心した程。

 

 ……いやさ、エロゲーだとエイブラハム・木枷=リンカーンなのよ、次の一枚絵では白濁液に(まみ)れてるのが普通だから要らない心配しちゃったね。

 

「コレより、ボルドー王子暗殺事件の裁きを始める」

 

 ステージの一段高い所で裁判官が宣言する。

 いや、良く作ったねコレ。数日で広場にステージを作るばかりか裁判セットまで(しつら)えてある。つーか断頭台まで用意して今更何が裁判かって話。

 でも、処刑は地球の中世でも庶民の娯楽だったと聞いた事がある。今から殺すけど、良いよね? 申し開きあるなら一言聞くよ? って奴だ。

 俺程の有名人となると、こっそり処刑なんてしてしまうと庶民は納得しない。この辺の理屈はこの世界でも全く変わらない訳だ。

 で、被害者から証言があって、反論が無ければそのまま死刑って流れよ。

 ……反論があっても大概はそのまま死刑なんだけどね。

 

 今回はその証言者も豪華絢爛、第一王子カディナールが涙ながらにボルドー王子の死を嘆き。殆ど話した事も無い第一王女やら第二王女やらも、ボルドー王子との思い出を声高に語る。

 

 俺はボルドー王子からお前らの良い話、聞いた事無いけどな! 

 彼らが言うには、俺が魔法でガルダさんを操って殺したんだって! 

 いやー俺、そんな魔法使えたとは驚きだなー、だったら真っ先にお前らを抹殺するのになぁー。

 

 証言はそれに終わらない、ココで真打ち、我らが木村さんの登場である。

 コレは事前に聞いていたので驚かない、当然証言が許されてると言う事は、木村さんはカディナール殿下のご意向通りに喋ると言う事だ。

 

「お前の熱心な支持者が裏切ったぞ」

 

 地下牢で鎖に繋がれた俺に、楽しそうに報告してくるカディナールの笑顔がキュートな事、一刻も早く忘れたいね。

 ……ま、木村の狙いは解るよ。すまし顔の木村が俺を見下ろす視線は冷たく、まさしく裏切った男のそれだが……

 

「私はキィムラ商会の商会長を務めるキィムラです、貴族の端くれとして男爵位を頂戴しています」

 

 そう言いながら慇懃に挨拶するも、裏切り者の木村に対して民衆からはブーイングが上がる。

 この民衆の反応を見るに、俺の人気はいまだ健在なのだろう。片目を失ってボロボロの姿で現れた俺に、痛ましい悲鳴と、狂おしい呻き声が上がったので解っては居たが、まだまだ俺も捨てたもんじゃ無い。

 だからこそ、内情を知る木村に俺の悪評を語らせて、この裁判でイメージダウンを計る。そうで無ければ処刑に反対する民衆の反応が怖いからだ。

 民衆の人気がある姫を処刑した事で起こった暴動と言えば、オルティナ姫の伝説だ。しかも俺はオルティナ姫の生まれ変わりを標榜しているので、誰もが其れを想像しているのが見て取れた。

 

 ステージの上、証言台の木村と目が合う。

 

≪お前≫≪頭オカシイ≫

 

≪相手≫≪凄く良い≫

 

 俺は木枷から出た両手でハンドサインを送ると、同様に木村から返事が返る。

 このハンドサイン、フィーゴ少年が木村の横でコチョコチョやっていたので参照権を頼りに分析したものだ。

 恐らく、木村が少年に交渉を任せた時に、良いぞ! とか、ダメだ! とかをジャッジしてハンドサインで伝えながら教育していたのだろう。

 で、フィーゴ少年は俺に対する苛立ちを思いっきりハンドサインに乗せていた訳で、なんとなく解読出来たのだ。

 ≪お前≫と≪相手≫ってのは甲と乙みたいな感じで、お前と相手では無いのかも知れないが、フィーゴ少年がやっていた通り≪相手≫が≪ユマ姫≫で、≪お前≫が≪木村≫と置き換えて良いだろう。

 

「この女はボルドー殿下の死を味方である私にも隠しておりました、≪ユマ姫≫≪悪い≫ その事からも此奴(こやつ)が王国の乗っ取りを企んでいた事は明らかで御座いましょう≪No≫」

 

 木村の言葉に合わせて、ハンドサインを送る。隠していた事は悪かったので素直に俺が悪いと送る。

 そして、別に王国の乗っ取りまでは考えてないので否定のNoを送っておく。

 

 何が狙いか解らんが、木村の証言に合わせて返事をしてやる事にする。

 多分、俺が喋れないのは織り込み済み。それでハンドサインの解る木村が証言して俺から何かを聞き出そうとしている。

 正直、今の俺に、どの程度の味方が残っているか知れない。何か策があるのだろうか?

 

「正直、私はこの女の処刑に反対です≪良い≫、と言うのも現在行方不明となっておりますシャルティア様の居場所をこの女が知っている可能性が極めて高いからです≪ユマ姫≫≪No≫」

 

 俺がハンドサインで答えると、木村は僅かに眉を歪めた。

 ……なるほど、木村が俺に期待していたのはシャルティアの居場所。

 確かにシャルティアは裁判で俺に有利な発言をすると墳墓で約束した。そして、其れを木村も聞いていたのだろう。

 だが俺はカディナールに捕まってからシャルティアの姿を見ていない。

 これはいよいよ終わりかな?

 木村の発言は予定に無かったのか、カディナール王子が慌てた様に弁明する。

 

「いや、シャルティアの奴は病に伏せっているのだ。その、体調不良から自ら婚約破棄を強弁したぐらいでな」

「それはそれは、存じませんでした、考えてみればこの度の変事の一番の被害者はシャルティア様で御座います。体調不良の原因も此奴の呪いの可能性があります、是非すぐにでもお見舞いに向かわせて頂きたいのですが」

「いや、其れには及ばない。アイツもああ見えて繊細でな、伏せっている姿を見せたくないらしいのだ」

「それは出過ぎた真似を、失礼致しました」

 

 王子と木村の化かし合い。シャルティアも馬鹿じゃ無い「わたくし、ユマ様の味方をする事にしました」などと宣言をしては居ないだろうが、カディナールとしては両目を潰されたセンセーショナルな姿を表に出したく無いのかも知れない。

 そうで無くても要らん事言いそうと判断された可能性は高い。

 

 しかし、困ったな。実の所、俺にはカディナールを失脚させる特大ネタがあるのだが、其れを表現する術が無い。

 何とか伝えられないかと悩んでいると、木村が続けた。

 

「思えば、ボルドー王子の婚約者ルミナス様≪凄く良い≫の死に関しても不審な点が多い≪Yes≫≪Yes≫、彼女の死も森に棲む者(ザバ)が仕込み、何年も掛けて王国を乗っ取る策と思えば納得も行きましょう≪No≫」

 

 まさか、このタイミングでその名前を出してくれるとは思わなかった! ひょっとしてカディナールの凶行に当たりがついていたのだろうか? 俺は慌ててサインを送った。

 

 ――え?

 

 すると、そんな声が聞こえて来そうな程、驚いた表情で木村が俺を見てきた。

 あ、コレ完全な偶然だわ。余罪を追及する為にと俺の死刑を遅らせる策とか、その程度のアレだ。

 だが瓢箪からコマ、このチャンスをモノにしたい。俺は≪木村≫≪凄く良い≫のサインを打つ。

 だが、カディナールは慌てて木村の発言に食ってかかる。当然だろう。

 

「それは聞き捨てならないな。ピーグル家は(くだん)の悲しみからやっと立ち直った所なのだ、それをまたぞろ、ほじくり返すのは、貴族を代表する存在として看過出来ぬよ」

 

 その王子の様子に、木村の方も何か思うところがあったのだろう、俺には見えないが後ろ手で何か合図を送っているのが肩の動きから察せられた。

 その証拠に、それを合図に慌ただしく動く人物が一人。フィーゴ少年だった。

 少年と木村では、もっと細かい意味が通じるサインがあるのかも知れない、少年の側に屈み込んで話を聞いているのはシノニムさんだ。

 その様子に、俺はなにやら感動してしまった。皆がまだ俺を助けようと一生懸命に協力している、投げやりになっていた自分が若干恥ずかしいほど。

 木村は木村でカディナールに食い下がる。

 

「いえ、だからこそ真実を明らかにせねば。失礼ですがルミナス様は貴族ですから、火葬では無かったのですよね? ≪Yes≫ 今の私の持ちうる技術を持ってすれば死因の特定が適うかも知れません≪良い≫。非礼を承知でお願いしますが、ルミナス様の墓を暴く許可を頂けないでしょうか? ≪木村≫≪良い≫」

「乙女の墓を暴くなど! たかが商人上がりの男が恥を知れ! ≪凄く悪い≫」

「これは! 出過ぎた真似を、失礼致しました」

 

 木村が頭を下げるが、その目はキラリと光ったように見えた。

 俺の陣営はシノニムさんを中心に慌ただしく、騎士達がルミナスの墓を暴きに行ったに違いない。

 だが、ソコには何も無いのだ。墓が空だったとして、それがカディナールを追い詰める証拠にはなり得ない。

 シャルティアの証言か、ルミナスの剥製そのモノが必要だ。

 

 そう言えば……ルミナスの死体はどうやって手に入れたのだろうか? ルミナスは婚約段階で、王族の墳墓には入れなかった。

 だからボルドー王子はルミナスの為に巨大な墓を作ったと聞く。カディナールにとって王族の巨大墳墓よりも入り込むのは骨では無いだろうか?

 

「実は、ボルドー王子の暗殺に関しても謎が多いのです≪ユマ姫≫≪No≫(知らないの意味)。更に、一度目の暗殺未遂では犯人を取り逃していると聞きました。≪Yes≫その犯人の正体を暴かなくては王国にとって拭いがたい汚点となるのでは無いでしょうか?」

 

 木村がつらつらと語る内容は市民にしてみれば初耳の内容で、驚きの声が上がる。しかし、俺にとっては特に重要な意味が無い。恐らくは時間稼ぎの策。ルミナスの墓を暴いた結果を待つために粘ろうと言う策略だろう。

 

 いや……そう言えば、アレは煙突からシャルティアが入ってきたんだったな。それでガルダさんは煙突清掃の業者を調べていた。当然の様に始末されていたらしいが……

 あ、ルミナスの墳墓も換気口が必要だよな。そこから死体を取り出したのか? そうじゃなくても、ボルドー王子の屋敷の作成に関わる工房が、ルミナスの墓を作っていてもおかしくない。

 

 だとすると……あっ!!!

 

 驚愕する俺を余所に、カディナールと木村の会話は続いている。

 カディナールは木村の証言が打ち合わせと違う事に焦っていた。

 

「この国を預かる者として、暗殺者の存在は見過ごせないが、このユマ姫を生かしておく事こそが森に棲む者(ザバ)の暗殺者を調子づかせる事になりかねないだろう?」

「つまり、殿下はボルドー王子の暗殺の犯人が森に棲む者(ザバ)の暗殺者だとお考えですか?」

「ああ、ボルドーの居城は半ば要塞の様な作りと言うのは王都では語り草。そこに忍び込むなぞ森に棲む者(ザバ)の魔法を無くしてあり得ないだろう?」

「ふむ、私が聞き及んだ所ではボルドー王子の屋敷の煙突≪凄く良い≫から入り込んだと聞いておりますが?」

 

 俺のハンドサインにふむと考え込む木村。頼む! 気付いてくれ。

 それを受け、木村は更に続ける。

 

「勿論でありますが、貴族家の煙突、おいそれとこそ泥が入り込める作りにはなっておりません。≪Yes≫だとすれば、煙突技師ぐるみの犯行と言えます。≪木村≫≪凄く良い≫その調査を行わなくてはならないのでは? ≪良い≫」

 

 ついさっきまで俺が囚われていた地下室にも換気口はあった。言われてみればと『参照権』で確認すれば、その通風口に設えられた金具の意匠がボルドー王子の要塞で見た暖炉の意匠とそっくりだったのだ。

 シャルティアが忍び込んだ煙突、俺は煙突清掃の業者が怪しいと思っていた。だが、煙突自体が初めから侵入しやすい様に仕掛けが成されていたらどうだ?

 その技師に作らせたルミナスの墓から通風口で死体を運び出したとしたら、それを剥製にし、飾りつける地下室だってもちろんその技師に作らせるだろう。

 人間を剥製にする悍ましい狂気、知る者は少ないに越したことはなかったはず。

 カディナールの屋敷は複数ある。その技師が関わった屋敷と言うだけで、一気に絞れるんじゃないか?

 

 そう言えば、ガルダさんは煙突に関して調査していた。

 てっきりルージュを洗う内に、相手に捕まって洗脳されたのかと思っていたが、そっち方面で尻尾を掴んでしまった故に、邪魔者として洗脳された?

 だから、暗殺が成功しようが失敗しようが自殺するようにコントロールされていたとしたら?

 考え込む俺を余所に、カディナールと木村の会話は続く。

 

「気が長すぎる。そんな事をする前に国を安定させなければいけないのだよ。森に棲む者(ザバ)の姫が居ては纏まる物も纏まらないだろう」

「お言葉ですが殿下、ココで真相を明らかにせず此奴を殺してしまえば、狂乱した森に棲む者(ザバ)の暗殺者が何をしでかすか解りません」

「ふん、だったらどうしろと言うのかい? この様な少女を拷問し、真実を吐かせろと? 貴様はそれでも人間か! 僕には年端もいかない少女を嬲る趣味は無いね≪No≫」

 

 俺の≪No≫を見た木村はギリリと歯噛みする。俺が禄でも無い扱いを受けたと悟ったのだろう、ま、俺が喋らない時点で解ろう物だがな。

 カディナールの言葉に激昂しかけた木村だったが、深呼吸を一つ。チラリとステージに構えられた巨大な衝立を一瞥。

 

 ……あの衝立、よく見れば穴が開いている。ひょっとして裏では鉄砲隊が待機しているのか?

 カディナールが帝国と繋がっているなら銃も持っているのは当然か。

 危険な発言が飛び出そうものなら、一発放って神罰に倒れたとか言えば銃を知らない人間は誤魔化せるって寸法だろう。

 俺は憔悴して失声症になっているとか設定らしいが、喉を取り除いていると指摘するのは銃で撃たれる危険があると言う事か?

 

 あー、コレ本気で厳しいな。

 

 アレ? でも帝国と繋がっているのは隠さなくて良いのか? 

 と、その疑問はご丁寧にもカディナール自身が解説してくれた。

 

「それに、新しく婚約したルージュは帝国の技師を何人も引き抜いて連れてきてくれた、今や帝国と我らにお前らが主張してきた様な技術格差は無い! それはつまり帝国同様に森に棲む者(ザバ)など恐るるに足らずと言う意味だ」

 

 なるほど、帝国の技術を引っ張ってきた功績で婚約と。そう言う筋書きにしたのね。無理筋だけどまぁ、シャルティアだって無茶苦茶だったし通るのだろうさ。

 木村は当然、それに食い下がった。

 

「だとしても、ボルドー王子の死因は側近のガルダ卿の裏切りに依るところと聞いています。彼の忠心は誰もが認めるところ≪Yes≫。その死因には謎が多い≪Yes≫、森に棲む者(ザバ)に人間を洗脳する技術があるとするならば≪Yes≫恐ろしい事になる。彼が出入りしていた所を徹底的に洗うべきでは? ≪良い≫ 先ほどの煙突技師≪Yes≫≪凄く良い≫の件もあります、そうでなくてはカディナール殿下≪頭オカシイ≫も枕を高くして眠れないのでは?」

 

 木村が言い終わると同時、俺は両手で下を指さす。≪地下だ!≫と言う俺の思いが通じたのか木村は俺を見て頷いた。

 

 通った!! 意図は通じた!

 

 ってーか木村の奴、天才的な勘の鋭さとしか言い様が無い。俺の言いたい事が大体伝わった感触がある。

 

 以降も真相を明らかにするために処刑は延期すべきとする木村と、カディナールの口論は続いた。

 その最中、いよいよルミナスの墓は空だったと言う報告が来たのだろう。フィーゴ少年へシノニムさんが耳打ちしている。

 それを受け、少年はなにやら木村へとサインを送っている。さぁ、どうなる? このカードは何時使う?

 

 ルミナスの墓に、ルミナスの遺体が無く、カディナールが焦って見せる。

 コレに、俺の≪頭オカシイ≫の合図を併せれば、剥製と言うのは木村に辿りつけない結論じゃ無いハズ。

 

 ……まさかと俺を見る木村に俺は頷く。

 意味が解ったのか、爪を噛む木村。カディナールが動物の剥製をいっぱい持ってる事は周知の事実、このまま行くと俺もコレクションに加わりまーす。

 

「話にならんな、僕は暗殺者など恐れない! 王国の安寧の為に正義を成すことに躊躇は無い! この者を断頭台に!」

 

 しかし、時間稼ぎも限界だった。俺はカディナールの宣言で木枷のままに断頭台に引っ張られる。

 で、木枷のまま、跪くようにギロチンの真下にセットされた。

 

 ――ん?

 

 俺はてっきり一旦、木枷から外されて、断頭台にセットされるのかと思いきや、この木枷、そのまま断頭台にセット出来る構造なんだ!

 へぇー便利だねーって、この木枷を外す時が最後のチャンスかと思っていたのにクソッ! ガッカリだよ! ってか首だけじゃ無くて両手も切るの? 血がビュービュー出るよ? あー血抜きに丁度良いんですかね?

 荒んだ目で俺は広場の人間を一瞥する。するとどうだ? みんな悲しげな顔で俺を見ている。どうやらボルドー王子暗殺の犯人が俺と本気で信じている人間は少なそうだ、なんせ俺は可憐で華奢なお姫様。まさか殺人を犯すようには見えないのだろう。

 

 実際は殺しまくってる訳で、いやー申し訳ないね。

 

 そう言えば、やることも無く這いつくばって食っちゃ寝だけしていた数日で、俺の怪しげな見た目(魔女じみた濃いクマと痩せぎすの体)は大分改善している。

 それでいて着替えも許されずボロボロになった服と痛々しい眼帯で、一言も喋れない様子を見れば、一般市民だって何やら察してしまおうと言うモノだ。

 

「お兄さま、このまま殺しては不味いのではなくて?」

「長引かせて良い物じゃないさ」

 

 市民の悲しむ顔を見た第一王女やらが不安を口にするが、それでもカディナールは退く気が無い。

 どうにも俺を早く殺したい様子。察するに俺を支持する勢力は裏で相当暴れ回っている。

 だが、この場に乗り込んで暴力に訴えても、俺達の立場が危うくなると知っているのだろう。

 

 逆転の一手を探しているのだ! コレは時間との勝負。なら、どうやって時間を稼ぐ? なにか、何か無いか?

 

 と、その時、発言が終わったハズの木村が駆け寄ってきた。

 

「話が違います! カディナール殿下! 私にこの者の身柄を自由にさせて頂けるのでは?」

 

 ――ん?

 

「なにを言っている! そんな約束はしていない!」

「で、ですが、この者はこの幼い体一つで軍部を骨抜きにしたのです、その技術、気になるではありませんか。首を飛ばしてしまうのは余りに惜しい」

 

 突然の木村の妄言に俺は、≪木村≫≪頭オカシイ≫を連打である。

 が、この木村の妄言に食いついたのが第一王女やら第二王女だ。俺の人気が面白く無いと思っていた二人で、俺のゴシップを熱心に探っていたと聞く。

 

「まぁ! まぁ! 堅物の近衛兵長や軍団長が骨抜きになっていると聞いて、どんな魔法を使ったのかと思いきや、まさか体を使っての接待だとは思いませんでしたわ」

「詳しい話を聞かせて下さいまし、キィムラ男爵」

 

 ゴシップ好きの王女が身を乗り出す。釣れた! それにこう言った話題は俺の人気を落とすにも一役買う、カディナールも続けろと促してきた。

 

 そうして、木村から語られたのは根も葉もない下品な話の連続だった。ボルドー王子は俺の売春の仲介を行い、そのコネで権力を拡大したとか。木村も抱かせてくれるとの約束で味方したが、いまだ指一本触らせて貰っていないとか。

 

 いや、根も葉もないでは無いな、俺が宴会上で雌犬みたいに振る舞って出席者に媚びを売って回ったと言う下りなんて、ある意味そこの王子にやらされたからね!

 

 王女二人はキャーキャーと興奮しきりだったが、カディナールは思うところがあったのか舌打ちを一つ。

 お姫様が自分からエサを啄む不自然。あらかじめその様に調教されていたとすれば筋が通ると思ってしまったか?

 

「そんな! そこまで下劣な女だったのか!」

 

 激昂した声でカディナールが吠える。コレから人形にして飾ろうかと言う女が売女だったら嫌だよな。俺も中古フィギュアは良くても『ぶっかけ済み』はNG。

 

 と、そこにもう一人の乱入者が現れてしまう。

 

「姫様は! そんな事しません! それどころか、処女です!」

 

 とんでもなく恥ずかしい事を叫んでやって来たのは、ネルネだった。

 

 えっ? おまっ? 裏切ったんじゃ?

 

 ネルネはドスドスと怒り心頭の様子でステージに上がる。

 

「私は姫様の侍女です。私が保証します! 姫様は処女です」

 

 また、大声で宣言である。一方で俺に向かって走り込んで涙ながらに語る。

 

「ごめんなさい、ユマ様ぁ、私、親戚の家で風邪引いて、寝込んでて」

 

 なるほど、なるほどー、全て俺の考え過ぎか? でも違和感あるな。まぁ良いや。

 

 この場に出て来てるって事はシノニムさん達のチェック済みと言うことだろう。

 つーか処女処女、連呼するのやめて欲しいね。オブラートに包んで、ヨロシク。

 

「ねぇ? 本当に処女なの?」

「そんなの! 当たり前です! 結婚前なんですよ!」

「じゃあ、確認する?」

「!」

 

 好奇心まんまん丸と化した王女二人の言葉に、ネルネは詰まった。

 って言うか俺も、えっ? ってなった。

 

 ――まさか?

 

「ほらお尻突き出してるし、スカートをバサッとやって見せてよ。きっと使い込んで真っ黒よ」

「そんな! 違います! 新品です!」

 

 し、新品って……ネルネさん? あなたは敵なの? 味方なの? え? 俺、この衆人環視の状況で処女膜確認されるの?

 俺が木枷のコッチ側で顔を真っ赤に、口をパクパクさせていると、いよいよ後ろからスカートをごそごそとやる感触が!

 

「あら、臭いわね何日も服を替えていないんじゃない?」

「ふふ、不潔ね、売女にはお似合い」

「違います! 新品です!」

 

 あなた達さー、楽しみすぎじゃない?

 

 拘束されてるときも、下の世話は最低限して貰ってたからね? クズ王子だって、ウンコまみれで皮膚がかぶれまくってるフィギュアは嫌みたいで、おっかなビックリ侍女がお世話してくれたよ。臭いって言っても最小限じゃない? 普通もっと匂うよ?

 なんせ俺、体臭に至っては何か甘い匂いするしね。体、大丈夫か?

 

 なんかもう、このままじゃ生き残っても俺の尊厳とかアウトじゃねーか?

 と、そこに救いの声が広場に響き渡った。その大音量は恐らく拡声の魔道具だろう。

 

「その必要はありません、姫様が体を捧げたとキィムラ男爵は言いましたが、実際に捧げたのは汚れ無き神秘の御業に他なりません、その力で彼女は我らを救ったのです」

 

 この声は! ゼクトール隊長! 人でいっぱいの広場には巨大な櫓が一つ。俺が初めてスピーチをした時、木村が居た場所だ。そこに拡声器を前にした隊長と白いシーツを掛けられた物体が一つ。

 

 ――間に合ったか!

 

「我々はルミナス様の死に不審なモノを感じ、許可を取ってその墓を改めました。しかしその姿は無く、全軍をもって調査した所、一つの場所が浮かび上がりました」

 

 ゼクトール隊長がシーツを剥ぎ取る。出て来たのは、当然ッ! ルミナス嬢の剥製だ!

 

「コレは恐れ多くもルミナス嬢を剥製にしたもの! 他にも幾人もの少女が剥製で見つかりました! カディナール殿下! 貴方の別邸の地下からです!」

 

 静まり返る民衆、対して顔を赤くし、唾を飛ばして反論したのがカディナールだ。

 

「嘘だ! 罠だ! この僕が! そんな下劣な真似をする訳が無い。陰謀だ!」

 

 そう怒鳴るが、ハッキリ風向きは変わっていた。別邸とは言え家令(かれい)や執事は居て、現物を押さえた上で証言を迫れば、罪悪感から真実をこぼす者も居る。

 櫓の上からゼクトールさんがスピーチさせている男がそれだ、見る人が見れば、聞く人が聞けば、それが嘘の証言では無いと一目瞭然。

 曰く、王子は死体を愛でる趣味がある。気に入った美女を剥製にしたいとダダをこねる。

 それは聞くに堪えない証言の連続。

 

 だが、カディナール王子は粘る。

 

「馬鹿な! 言わされているだけだ! それに見ろ! その剥製の見事なこと! まさに森に棲む者(ザバ)の邪法ではないか!」

 

 などと証言しており~状態だが、コレはコレでシャルティアを引っ張り出す好機であった。木村がそれを逃がすハズが無い。

 

「思えば、シャルティア様は剥製作りの名人と聞きました。彼女が剥製を作っていたのでは?」

 

 当然、シャルティアの趣味が剥製作りなどと聞いたことも無いが……肝は死苔茸(チリアム)だ。アレは防腐剤としての効果がある。

 アレで死んだ動物は腐らずに死苔茸の温床と化して長く森に止まる。その特性を利用して剥製作りに利用されるのだが、初めから死苔茸を使って殺せば話が早い。

 シャルティアが噛んでると予想したのだろう、本当に頭の回転が速い。≪木村≫≪凄く良い≫

 

「そ、それは……」

 

 口ごもるカディナールに、控えめに声を掛ける女性が現れる。

 

「あのカディナール様、シャルティア様に話させてあげれば良いのではないですか?」

「ルージュ、君か!」

 

 この声は? そうか! コイツが! ルージュかぁ!

 後ろが向けない俺は必死に体を捻る。が、見えない。

 

 ――ん? 鏡を持ったネルネが俺の前に来てくれた。っと、見えた! コイツが?

 ……地味で冴えないタイプの少女漫画の主人公みたいだが……本当に黒幕なのか?

 そんなイメージが全く湧かないぞ? 人の良い女の子と言う感じ。

 

「あの、差し出がましいですが私、シャルティア様をお連れしました」

 

 そう言うルージュが手を引いて案内するシャルティアは目隠しをされていた。軽くグロい両目を見せない様にだろう、いや、ただの包帯なのかな?

 ただ、特筆すべきはその足取りだ、フラフラと落ち着かない。意思を感じない。

 見えないだけで、あのシャルティアがこんな足取りになるだろうか? ゾンビみたいに「あ゛ーー」とか叫びだしそうな感じじゃ無いか。

 

 ――まさか?

 

 その様子にカディナールは笑みを深め、許可を出す。

 

「そうだな、シャルティアよ、君がこのおぞましい剥製作りに関わっていると言われているのだぞ! その汚名を(すす)いで潔白を証明するが良い」

 

 シャルティアはぼーっとした様子でコクリと頷くと、ヨロヨロと拡声器の前に立つ。それを見ているルージュもニコニコだ。

 

 ――ひょっとしてシャルティアも洗脳されているのか?

 

 邪気が無い笑顔のルージュ。もし彼女が洗脳しているのだとすれば、コイツはトンだサイコパス少女。全く笑えない!

 歯噛みする俺に、心配そうな声が間近から掛けられた。

 

「あの? 姫様、喋れないんですか?」

 

 不意に、鏡を持つネルネが尋ねて来たので俺は頷く、「そんな!」と泣くネルネ。

 そんな俺達をボーッとした様子で眺めるのはシャルティアだ、目は見えないだろうに、コチラを見て、笑った。

 

「さぁ! 早く発言しろ!」

 

 苛立ったカディナールが叫ぶ。

 すると、急にシャンとしたシャルティアが笑顔を湛え、楽しげに宣言した。

 

「剥製? ええ、私が作ったの! カディナール王子のために丹精こめてね♪ どう? 綺麗に出来ているでしょう?」

 

 うん、コイツを洗脳とか無理だわ。

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