死憶の異世界傾国姫 ~ねぇ、はやく、わたしを、殺して~   作:ぎむねま

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王国の行方

 俺は柔らかなベッドの上で目を覚ました。

 ぼんやりと薄目を開けて、記憶を整理する。

 ちゃっちゃと整理するべきなのだが、辛い記憶が多くて中々意識は浮かび上がってこない。

 現実を受け止めるのを、意識が拒否している。俺は布団から引き抜いた左腕を目の前に掲げた。

 

 ――無い……か。

 

 意識を失う直前、エルフの使者ガイラスが俺に回復魔法を掛けてくれたのを覚えている。

 なので、目を覚ましたら腕がくっついていたと言う奇跡に一縷の望みを託していた。

 だが現実は厳しい。間に合わなかったのか、ひょっとして傷口がグチャグチャになっていたのか。

 そうで無くても、切断面を結合するのは回復魔法を高度に使いこなす必要がある。ガイラスはエルフの国の特殊部隊の一員なのだろうが、医療の専門家じゃ無い。

 あまり責めるのは酷だろう。

 

 ……だが、俺はこんな体で今後どうやって戦えば良い?

 

 弓も引けず、片目で、喉を失い魔法も使えない。

 

 それで前線に立って、兵士を鼓舞して。今度は右目か? 右手か? 足か?

 

 こっぴどくズタボロに犯されるのか? 見せしめに吊されるのか?

 

 それでも俺は生きたい。そうやって最期の瞬間まで戦って、一人でも多くの人間を巻き添えにしたい。

 だが、逆に言えば俺にはもう、そんな生き方しか出来ないのだった。

 『偶然』に頼った人間爆弾みたいな生き方しか。

 

 その時、心の底から、魂の叫びが、思わず口を衝いて漏れ出した。

 

「――くやしいッ!」

 

 …………??

 

 

 ……えっ? 俺の口からはしゃがれた声。喉には激しい痛み。でも!

 

「『我、望む、この手より放たれたる光珠達よ』」

 

 しゃがれた声でも意味は通じる。魔法は発動し、ふわふわと光の珠が宙を揺蕩(たゆた)う。

 使えた! 魔法が! コレなら俺はまだ。でも、弓が……いや、銃がある。

 木村が使っていた銃なら片手でも撃てる、銃と魔法を組み合わせた全く新しい戦い方が出来るかも知れない。

 だが……これ以上、木村を俺の戦いに巻き込んで良いのだろうか? このままじゃアイツも『偶然』に殺される!

 そうだ、木村とは一度、じっくりと話をしなけりゃな……そうだ、いっそ。

 

 と、その時、寝室の扉が控えめに開かれた。

 

「お目覚めでしたか」

「シノニムさん!」

 

 俺はしゃがれた声で、久しぶりの挨拶をかわした。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「そう、ヨルミさんが……」

「はい」

 

 シノニムさんが語るその後の顛末は、意外なモノだった。

 権力を忌諱していたヨルミちゃんがなんと国王になったのだ。

 ま、カディナールは勿論ダメとして、第一、第二王女も謹慎。それどころか俺の復讐を恐れて引き籠もる有様だから消去法と言うことか。

 人気が無いどころか、知名度が全く無いヨルミちゃんだ。当然、俺がサポートにドサ回りを重ねる必要がある。今から気が重い。

 ってか、ユマ姫が協力しないなら王位を継がず出奔するぞ! とまで宣言してるらしいので、本人だって嫌々なんだろう。

 

「私を治してくれたガイラスさんはどうしました?」

「…………亡くなりました」

「……そうですか」

 

 死んだらしい。

 んー? なんで?

 

「ガイラス様の代わりに使者として訪れたエルフの方にお伺いしたのですが、エルフにとって、この地は魔力が薄く生きているだけでもやっととか」

「そうですね」

「そんな場所で魔法を使うのは自殺行為と聞きました」

 

 コクリと俺は頷く。

 

「どうして? 今までそんな事はおっしゃって無かったではないですか!」

「私はハーフです、純粋なエルフとは条件が異なります」

「それについても聞いています。そもそもハーフでは魔法は使えないのが普通とか?」

「そうですね」

「結局、無理を重ねていたのではないですか!」

 

 はぁ……俺はため息をひとつ。心配してくれるのは良いが大きなお世話だ。

 

「見くびらないで下さい、私は王の血を引く者。そして神の意志を継ぐ者なのです」

「まだ! そんなことを!」

 

 いや、大マジだけど? どちらかと言うと、ハーフの俺にとって魔力が渦巻くエルフの王都での生活の方が酷だった。

 だが、一種の高地トレーニングみたいなもんで徐々に高い魔力に体は適応。王族の血のなせるワザか、魔法も使いこなせた。

 そして、記憶の回収によって、本能的な魔力の扱いを覚えれば。俺はこの人間界でも魔法が使える特異点として完成していた。

 

 逆に言えば、俺以外のエルフはココで魔法が使えない。無理して使おうモノなら死ぬ! 文字通り。

 

「ですが、今や体に魔力が滾って仕方が無い位なのです。この貫頭衣のお陰ですね」

「ええ、ガイラス様が残して下さいました。姫様の魔力に同調する様にあつらえてあるそうです」

 

 寝ている間に着せられてたのはパジャマだけではない、ガイラスさんも着てた魔力を補助する青い貫頭衣だ。仕組みは魔石を加工して、着る人の魔力と同調する様に加工して、細かく縫い付けてあるらしい。

 同調しない魔力では、当然だが健康値で打ち消す事になり、逆に体調不良の原因にしかならない。

 言うまでも無く、高度な技術を必要とする。今の情勢で作れるとは思えない。実際、どこかの倉庫から回収してきたとの事。

 こんなモンが出てくるって事は、あらかじめ俺が出て行く事を両親はなんとなく察していたのかも知れない……

 

 今となっては知れない、その真意に思いを馳せる。

 

 ……と、しんみりしてしまったな。

 

「私の事はひとまず良いでしょう? 他の情勢を教えて下さい」

「……承知致しました」

 

 渋々と言った調子でシノニムさんが答える。

 木村は俺を辱める発言をしたとかで責任論が出てるとか? ちゃんと庇ってやって欲しいとシノニムさん。

 カディナールは最低限の処置をして取り調べの最中。これはアレだね、お任せして欲しいね。主にストレス解消目的で。

 シャルティアは、罪状を考えれば問答無用で死刑なんだけど。証言を拒否しているらしい。俺に言うことが有るとか。あー俺が殺す必要があるの?

 と、そんな事より重要な要件があるだろう?

 

「死んだ? ルージュが?」

「厳密には、生きては居ますが廃人状態とか。取り調べの最中、突然奇声を上げてそれきり……と」

「ふぅん」

 

 つまり、ルージュも操られていただけ。そう言う事だろ?

 本命のヒントはシャルティアの発言にあったはず。アイツも洗脳されたフリをしていたつまり……

 

「シャルティアが言っていた帝国の魔術師とは?」

「何しろ、シャルティア様は盲目でしたから。姿が解りません。声は憶えていらっしゃるそうで、『目の前に連れてくればすぐに解る』と豪語しているのですが」

「既にルージュの屋敷はもぬけの空と?」

「……その通りで御座います」

 

 空振りか、後手後手だねぇ。

 それにしても……帝国の魔術師ねぇ? 何度も言うが俺は特異点だ、帝国に魔術師など……いや? まさか?

 

 ……考えても仕方が無いか。

 

「あの……」

 

 俺がソファーと一体化する勢いで、柔らかなクッションに埋もれて色々考え事をしていると、シノニムさんから控えめな声が掛けられた。

 

「実は本日の午前中にヨルミ様の戴冠式でして」

「もう、午後に差し掛かりますが?」

「ですから、お体に問題がないなら、午後のパレードに参加して頂けませんか? ヨルミ様と一緒の姿を見せれば市民も納得するかと」

「……ふぅん」

 

 一体全体、俺に無理をさせたくないのか、無理をさせたいのかちっとも解らんね。

 ま、解るよ。結局社会のしがらみってヤツは、個人の体調など気にしちゃくれないんだ。ブラックだね、全く。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 俺は起きて早々にパレードの馬車に押し込められていた。

 ワーワーと歓声が聞こえるが。馬車の中からも、盛り上がりに欠けることが解る。

 そんな様子を眺めながら、俺はお茶とスコーンを頂きながらホッと一息。

 

「何をまったりしてるんですぅー」

 

 階上から間延びした非難の声が掛けられる。ヨルミちゃんだ。

 この馬車は、アレだ、選挙カーをイメージして貰えば良い。階段があって登ると馬車の屋根の上に出られる。

 そこで国民に手を振りながら、大通りをぐるりと回って新王のお披露目と言う訳だ。

 そりゃお祭りだから人通りは多いのだが、いまいち盛り上がりに欠けるのは明らか。俺が初めて王都にやって来た時とは比べようも無い。

 

「あまり人気が無いのですね」

「言うねぇぇぇ」

 

 ヨルミちゃんは額に血管を浮き上がらせて、控えめに言ってブチ切れている。やりたくも無い仕事をさせられた挙げ句。「お前向いてないよ!」とか言われれば誰でもキレる。

 

「今まで人前にすら出てこなかったのですから、仕方無いのでは?」

「そりゃ、コレまではー、あんまり人気が出ると暗殺の危険もあったしぃー」

 

 ふむ、典型的な本気出せばイケるってヤツだ。

 

「最低限、民衆の支持を集める方法は心得ていた方が良いですよ」

「ほーん、お手本を見せて欲しいものですにゃー」

「良いでしょう! 本当の人気取りと言うモノをご覧に入れましょう」

 

 語尾が意味不明化してるヨルミちゃんと上から目線の俺。そんな二人のやり取りを見つめるシノニムさんはニコニコしながら「仲が宜しいのですね」とか嬉しそうにのたまっているが、どー見てもハチャメチャなだけだ。大丈夫か? この国。

 

 と、まぁ仕方が無いので俺は階段を上り馬車の上に顔をだす。

 

 ――ウォーーーー

 ――キャーーキャーーー

 ――ワーーーワーーーー

 

 悲鳴の様な歓声が一斉に上がり、耳をつんざく。

 ふふっ、どうだねヨルミ君。コレが人気の差だよ。と、横のヨルミちゃんを見やれば、遠くを見つめ、ひたすらに心を無にしていた。

 

 ……まぁ良いだろう。そのレイプ目みたいな瞳に俺の勇姿を焼き付けておけよ。

 

 俺は満面の笑顔で周囲を一望。それだけで皆の心を鷲掴みにする。

 今日の俺は、ウェーブの掛かった髪にちょっとゴスロリっぽいゴテゴテとした衣装でとにかく目立つ事が最優先。

 ともすれば痛々しい眼帯も、ちょっと中二っぽいデザインで逆に格好良く見えるんじゃないか?

 そして、皆の歓声に応えるように左手を高く上げると、優雅に手を振った。

 

 

「………………」

 

 

 ――シンッと、先ほどまでの熱狂が嘘の様に、静寂が訪れる。

 

 そう、俺の左手は『無い』のだから。

 

 ハッとした様子で、俺は無くなってしまった左手の先端を眺める。

 青い顔で果てしない絶望の表情を浮かべるも、ソレは一瞬。すぐにちょっと困ったような、はにかんだ笑顔を浮かべ。代わりに右手をブンブンと元気よく振り回した。

 

 ――ワァァァッ

 

 悲痛な熱狂が、人々を支配していく。「何故、世界はこんな幼気な少女に過酷な試練を与えるのか」「俺なら、命を賭けて守ってやるのに」

 人々の表情から、そんな声が聞こえて来そうなほど。

 目を瞑れば、膨れ上がっていく俺の運命力がハッキリと感じられ、なかなかにご満悦。

 

「やり過ぎじゃ無い?」

 

 そんなヨルミちゃんの苦情は無視。仕方無いので彼女と腕を組んだり、顔を寄せ合ったり。親密さをアピールして過ごす。

 声優さんの百合営業みたいな感じか? 全然違うな。

 

 と、まぁこんなもんで良いだろう、ここらで引っ込もう。俺は急勾配の階段を降りようとする。

 この手の階段、正直上がるより降りる方が怖い。慎重に慎重を期して――

 

 ――ゴロゴログシャッ!

 

 俺は盛大に階段を転がり落ちた。

 

 ちゃうねん、手すりをガッチリ握ったつもりだったんだって。そしたらまぁ、左手が無かったんだなぁ。

 

「大丈夫ですか?」

 

 当然、シノニムさんが大慌てで駆け寄ってくるし、その痛ましい様子に。うぅっと嗚咽を漏らす兵士まで。

 そして、屋根上からはちょっと戸惑ったヨルミちゃんの声が聞こえた。

 

「そ、そこまで徹底するの?」

 

 ……そう言うことにして貰おうか!

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