死憶の異世界傾国姫 ~ねぇ、はやく、わたしを、殺して~   作:ぎむねま

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シャリアちゃん♪

「状況を整理しましょう」

 

 俺は喉の痛みをおして声を上げる。ちなみに、敢えて痛めつけている。なぜかってーと傷口が開く度に回復魔法を使う作業を日ごと繰り返す事で、喉の肉は徐々に盛り上がっているからだ。

 だからまぁ、肉体的には言うほど絶望的な状況では無いのだ、舌だってちょっとずつ味が解るようにはなっている。ま、流石に目や腕はどうにもならんけど。

 

 場所は変わらず、無闇に豪華な俺の寝室だ。黒歴史の極致になるはずだった場所だが、幸か不幸か俺はまだ処女だし、死ぬ事も出来ないらしい。

 

「取り敢えず、そのエルフの使者に、詳しい話を聞くことは出来ますか?」

 

 そんな俺の問いに対し、大理石の床に正座させたシノニムさんが控えめに手を上げる。

 

「お言葉ですが、エルフの使者は帰してしまいました」

「なぜ!?」

「本日は二人でお楽しみと聞いていたものですから」

 

 そう言って、俺と木村をチラチラと見比べるシノニムさん。

 

 ……うん、そうだね。

 

 しゃーなし! でも、俺が怒ってるのは田中の事、別に理不尽に床に座らせているのでは無いのだ。

 と、シノニムさんを問い詰める、その前にだ。

 

「でしたら、まずはキィムラ男爵に私が個人的に雇った新しいメイドさんを紹介させて頂いても?」

「これはご丁寧に、しかし個人的とは?」

「シノニムさんはオーズド伯付きで、ネルネは中央の侍女ですから、私が私的に雇う初めてのメイドと言うことになります」

「…………」

 

 何かを察して、「うわぁ……」と言う声が聞こえて来そうな程に嫌な顔をする木村。勘が良くて困るね。

 

「シャリアちゃん出て来なさい」

「は~い♪」

 

 可愛らしい声と共に、部屋の奥の小部屋からフリフリのメイド服にツインテの女性が現れる。

 

 キッッッツイ!

 

「あの?」

「質問は受け付けません!」

「いや、お待ちを。どう見てもシャルティア嬢じゃないです? 処刑されたと聞きましたが?」

「シャルティアは死にました、別人です、シャリアちゃんです」

「さいですか」

 

 木村は諦めも早いので助かる。

 

「ダックラム家は公爵から一気に子爵まで降格。実行犯のシャルティアは処刑。後は罰金刑で済ませました。家ぐるみの犯行では無く、シャルティア個人の凶行、それだってカディナールの命令で仕方無く、と言う事にしたので妥当でしょう」

「大変な恩情処置だったと、噂で聞いてはおりましたが……」

「因みにその沙汰を私の代わりに読み上げたのが、シャリアちゃんです」

「うわぁ……ととっ、それは……さぞや見物であったでしょうね」

「面白かったですよ。娘は処刑しました。で、泣かせてからの、あなた達の処分を発表します、で、現れたのがコレですから」

「いえ~い♪」

 

 シャリアちゃんや、何が「いえ~い♪」なんだい? 君のお父さんは泣いたり喚いたり、笑い出したり大変だったじゃない?

 それを淡々と無表情でたしなめる君を見て、俺は究極のサイコパスを見る思いだったね。

 ま、やらせている俺が一番のサイコとヨルミちゃんに言われたけども。

 

「あの……やはり、幾つか質問宜しいでしょうか?」

 

 渋面の木村から、再度質問を要求される。仕方無い……

 

「良いでしょう」

「まず、シャリアちゃんの目、治っていませんか?」

「何の話です? シャリアはシャルティアとは無関係ですので」

「それはもう、良くないですか?」

「……針で刺しただけだったので、回復魔法をかけてみたら治りました」

「魔法ってヤツは……次の質問ですが、どうして奥の部屋に居たのです?」

「そりゃ、この腕ですから一人では着替えも出来ませんし?」

「ん? ちょっと待ってください。ずっと奥の部屋に居た?」

「そうですが?」

 

 俺の答えに、ぎゅーっと木村が目頭を押さえる。

 

「え? 大丈夫ですか?」

「何がです?」

「殺されません?」

「私を殺そうとした人が、それを言いますか?」

「いや!? 命じたのはあなたですよね?」

 

 このやり取りには流石にネルネやシノニムさんも仰天し、質問や非難が相次いだ。そして色々話しあった末に出た、俺の結論を言わせて貰おう。

 

「みんなして私を殺そうとする癖に、いざ殺しても良いよ! って言うと殺さないんですよね」

「メチャクチャだ!」

 

 抗議の声は受け付けない。

 エロいことばっか言ってる癖に、実際にエロい事しようとすると尻込みしちゃう耳年増の女の子みたいな感じだと俺は判断しているよ?

 

 ま、俺もシャリアちゃんのリスクは承知の上。それでも俺の『偶然』の性質を考えると、これだけの特殊な人間に守られるのは意味が大きい。

 

 それにシャリアちゃん相手なら、多少ヤバい事を漏らそうとも問題ない。そもそも噂話をする相手も居ないハズ。それでも面倒な事態になるようなら、いっそ殺してしまっても誰からも文句が出ないと言う、メイドとして究極の優良物件なのだ。

 護衛としても、これ以上の人材はいないだろう。腕っ節は勿論、薬物や罠、侵入や逃走経路に関する知識で並ぶ者が居ない。

 

 唯一の欠点と言えば、俺を殺すかもって事ぐらい。

 

 繰り返すが、抗議の声は受け付けない。

 

「それで、シノニムさん。そろそろ田中の事を教えて欲しいのですけど?」

「それなのですが……」

 

 いよいよ正座が限界に至ったシノニムさんが立ち上がって説明してくれた。

 

 曰く、あの死体(ハンバーグ)が田中じゃない事は知っていた。

 なぜなら、スフィール城に捕らわれていたのを執事となり潜んでいた工作員が解放したから。しかし、セレナの秘宝を持ち逃げした帝国情報部を追いかけた後、行方不明。

 

 そう言われても、黙っていられた俺は面白く無い。シノニムさんに詰め寄った。

 

「なぜです? アレだけ私が田中の事を気に掛けていたのに、どうして黙っていたのです?」

「気に掛け過ぎていたからです。あなたは谷底で、酷い状態の死体を真っ青になりながら、ひとつひとつ確認して行きました。今度は同じ事をゼスリード平原の無数の死体に対して行うかと思うと、私はとても耐えられませんでした」

「つまり、シノニムさんは田中が死んだモノと……そう思っていたのですか?」

「当然です! その後の調査で見つかったのは帝国情報部の破壊された馬車、それに姫様がグリフォンと呼ぶバケモノが暴れた痕跡と、無数の腐乱死体です。これで生きていると思う方がどうかしています」

 

 ……チッ! 確かに筋は通るね。次っ!

 

「次に疑問なのですが、田中から連絡は無かったのですか?」

 

 ……そう、国交は無くとも、手紙なりなんなり連絡の取り様は……

 あ!

 

「無理だと思いますよ、今、王都中からユマ様宛てにしたためられる手紙の量をご存じですか?」

 

 シノニムさんの言う通りだ、手紙の仕分けだけで人を雇っている程。しかも大半は気持ち悪いラブレター。

 気を引くために、我こそタナカだと書くヤツだって一人や二人じゃ無いだろう。

 そもそも、死んでいるのだから誰だって悪戯だと判断する。

 

「じゃあ、セレナの秘宝を追っていった田中が、どうして救国の英雄と化しているのです?」

「さぁ? 使節の方も全く存じていないそうで」

「そうですか……」

「今回の一報は先触れで、じきに正式な報告があるようですから、それを待ちましょう」

「その正式な報告には、田中は帯同するのですか?」

「いえ……大変な盛り上がりで、英雄としてもてなされているらしく、しばらくは離れられないだろうと」

「そうですか……」

「コレは使節の方の個人的意見だそうですが、寧ろ姫様にエルフの国へと戻って頂いて、英雄と二人で国を再興してくだされば。と国民は願っているそうですよ?」

 

 ……ん? それってどう言う?

 ハテナで埋まった俺の脳みそに、ネルネちゃんの必死の訴えが響く。

 

「わたし! それを聞いた瞬間。今すぐお伝えしなきゃって!」

 

 対してシノニムさんは。

 

「私は手遅れだった場合、気まずい事になるので止めようとしたのですが……。まだしておられなかった様で、結果的に良かったですね」

 

 ……なーんも良くないんだが? それって、つまり?

 

 オイ木村! 耳元で「お前ホモなの?」って聞いてくるの止めろ。その理論でホモならお前が一番ホモだろ! 参照権でお前の愛の告白一生語り継いでいくぞ!

 

 まぁもう田中の事はそれで良いとして、今回の騒動。最後に残った謎がある。そこの話をして締めと行こうか。

 

「田中の事は解りました、では最後に、帝国の魔術師について私が調べた事をお伝えしたいと思います。ですが、話が長くなりましたね、一旦お茶にしましょう。ネルネ、今日はアナタがお茶を淹れてください。シノニムさんはそのサポートをお願いします」

「えぇ? ハ! ハイ!」

「かしこまりました」

 

 別の意味で緊張した二人が部屋を出て行く。この場には俺と木村とシャリアちゃんの三人になった。

 早速、木村は表だって言えない疑問をぶつけてくる。

 

 ……要するにセクハラだ。

 

「で、田中のお嫁さんになる気はある?」

「ねーよ! 大体、今俺が居なくなったらヨルミちゃんの求心力じゃ貴族の反乱を招いて即瓦解するぞ」

「それが解っていて死のうとしたのかよ」

「死んだ後なんざ知ったこっちゃねーよ。正直なとこ、俺が居れば貴族が大人しくしている理由も謎なんだが?」

「ボルドー王子が死んでるって判明しても、ユマ姫を支持する軍属は多かったろ? お前の媚び売りが効きまくってる。熱狂的なシンパは増える一方だ。それに、ボンディール伯のグラム騎士団を一人で壊滅させたんだって? 当然、誰もお前一人の犯行と思っていない。エルフの魔法使いが山ほどバックに居ると思われてんだよ、締め付けには過剰戦力だな」

「ほー、俺がやって来たことは何一つ無駄じゃ無かったと」

「それどころか、全部が上手いこと噛み合ってとんでもない事になってるぜ、ユマ姫グッズは飛ぶように売れて、商会としては嬉しい悲鳴よ」

「ライセンス収入、今度確認してみる」

「パチモンをちゃんと取り締まって欲しいね。うま味が無くなっちまう」

「OK、わかった」

「で、帝国の魔術師って誰よ? セクロスしたら、一人で帝国に喧嘩売り行くつもりだったって言ってたよな? 犯人に目星がついたか?」

「それがこっからの話よ」

 

 と、そんな話をしていたら丁度、ネルネがお茶のカートを引いてやって来た。

 カチコチに緊張していて、普通にお茶が淹れられたかどうかも怪しいもんだ。

 

「どうでした?」

 

 とシノニムさんに尋ねれば。

 

「おかしな所は無かったと思うのですが……」

 

 と答えが返る。

 それに対し、ネルネは緊張を深める。コレが侍女としての実力のチェックとでも思っているのだろう。

 

「どうぞ」

 

 と、つたない動作でお茶が入ったカップを差し出してきた。

 

「では、シャリア」

 

 しかし俺はそのままカップをパス。

 

「はい、では失礼して」

「えぇ?」

 

 受け取って、カップに口を付けるシャリアと、なんで? と疑問の声を上げるネルネ。

 うーん、演技では無いよな?

 

「えーと、黒ね。リオネライル入り」

 

 判定は下った! 早い! いやープロの仕事ってスゲェな。

 

「なるほど、ネルネ、ではあなたもこのお茶を飲んでみてください」

「えぇ? は、ハイ」

 

 不思議そうにネルネは差し出されたお茶を気負いも無く飲もうとして……

 ――俺はそのカップを叩き落とした。

 

「え? えぇ?」

 

 高級なカップがガシャンと粉々に割れる。うーん勿体ない。

 

「なるほど、こういう事ですか。いやはや、凄いですね。コレが洗脳魔法ですか?」

「恐らくは」

 

 事態を察した木村が楽しそうに訊ねてきた。呑気なもんだよ。

 ちなみにリオネライルとはその筋(シャリアちゃん曰く)では極めてメジャーな……

 

 ――お茶に混入させる毒だ!

 

「えっ? え?」

 

 一方で、錯乱し幼児退行したネルネは指をしゃぶろうとして……

 ――その手をシャリアちゃんに押さえられた。

 その手の中に収まっていたのは小さなペンダント。

 

「自殺用の薬が塗ってありますわ。私も似たものを持たされましたから」

 

 なるほど、で? ネルネは? と覗き込めば、壊れていく真っ最中だった。

 

「え? ええぇぇぇ゛ あ゛ぐぅぅぅぅ」

 

 こうなるのか……マジでおっかねぇな。白目を剥いて、発作を起こしている。

 

 恐らくは、俺の侍女の中で隙だらけの彼女が狙われたんだ。

 

 侍女だったらお茶を淹れる機会ぐらいある、その時を狙って無意識に発動する洗脳。

 実の所、ペンダントもリオネライルもとっくに気が付いていた。毒の専門家(シャリアちゃん)に言わせれば、その毒の特性を考えれば、どういったタイミングで洗脳が発現するかもあたりが付こうと言うものだ。

 ネルネの突然の狂態に眉を(ひそ)めつつも、俺は一つの呪文を唱える。

 

「『我、望む、揺蕩う海の寄る辺なき魂よ、我、指し示す先に安寧あれ、

一つ、母なる命脈に身を委ねん、

二つ、父なる世界を恐るるなかれ、

三つ、内なる自分に目を向けよ、

息吹を強く持て、鼓動に耳を澄ませよ、汝は生きている。

我、指し示す先に安寧あれ』」

 

 クッソ長い! 多分一行目にしか意味はないんじゃないかと思う。

 

 コントロール用だかなんだか知らないが、魔法書に書いてある呪文の記述には余計な文言がいっぱい付いていて、俺はガンガン端折ってしまうのだが、慣れていない魔法なので一応従った。

 コイツの正体は精神安定魔法。ガイラスさんの置き土産で、禁術の中から必死に探してきてくれた魔法だそうだ。

 数ある禁術の中で、精神安定を選ぶあたり、どんだけ俺の精神状態が危ういと思われてたかって話よ。

 

 ま、結果、役に立ちそうなんだがね。

 

「あ、あああぁ……ふぅー」

 

 狂乱状態が一転、今度は眠る様に穏やかに、うわごとの様にしゃべり出す。

 その状態で、俺は優しい口調で質問を重ねる。いわゆる催眠状態だ。

 

「ネルネ、あなたが居なかった二日間。本当はどこに行っていたの?」

「街で、パンを買ったんです。そしたら声を掛けられて、占いに興味はないかって……」

 

 ネルネはつらつらと語り出した、とりとめが無く、時には脱線する話を纏めると。

 占いと言われてついて行ったら攫われて、心理テストと称して色々質問されたらしい。

 いよいよ俺の話題に入るまで、たっぷり一時間は掛かってしまった。

 

「……ユマ姫様の事を聞かれたので、凄い綺麗で、目が離せない不思議な人と答えました」

 

 ほーう、嬉しいね。同性? からの評価はなんとも言えず気持ちが良い。

 

「そしたら、悔しくないのか? 同じハーフエルフなのにどうしてこうも自分とは違うのか、と思わないのか? と聞かれました」

「それで?」

「わたしは、とんでもないと、姫様と私では生まれから星の巡りまで、私とは何もかも違うのだと答えました」

「そう言ったら相手はなんと?」

「もしもユマ姫と君が成り代わる事が出来るとすればどうする? と、聞いて来ました。お互いに薬を飲めば、精神を入れ替えられる魔術があると言っていました。あの姫の人生をソックリそのまま自分のモノに出来るのだぞと」

 

 なるほど! 殺人や自殺は抵抗感が大きい! 催眠が解けてしまう危険がある。

 だから入れ替わりの薬と嘘をついたという訳か! 俺はいよいよ暗示、洗脳の本質に近い話題だと身を乗り出した。

 

「それで? あなたはなんて答えたのです?」

「わ、わ、わたしは」

 

 ネルネは何かとてつもなく恐ろしい想像をしたかの様に、ギュッと自分の肩を抱きしめた。

 

「嫌だと! 仮に世界中の金貨を積み上げられても! 絶対に姫様の代わりなんて御免だと答えました」

 

 …………え?

 

「………………」

 

 部屋を重い沈黙が支配する。

 コレは意外すぎるでしょう?

 

「それは……そうでしょうね」

 

 シノニムさん? それにシャリアちゃんも困ったように首を傾げている。

 そうなの? 誰もが憧れる悲劇のヒロイン枠じゃないの? 俺の人生の評価低すぎない? 俺だってホントはスローライフで無双する人生を歩みたかったよ! (自己矛盾)

 

「それで、相手はなんと言ったのです?」

「驚いた様子で、何故だ! ……と」

 

 だよな! 俺だって聞きたいわ!

 

「あんな、国のため、一族のため、復讐の為に、その身をすり潰すのは恐いと答えました」

 

 ほらね? みたいな顔をしてシノニムさんが見てくる。無視で!

 

「そしたら、君がユマ姫を楽にしてあげなさいって」

「楽にって?」

「ぐっすりと長く、長く眠れる薬だって、ペンダントを渡してくれたんです。眠ったら君もコレで一緒に眠る様にって」

 

 ……なるほど、俺が深い安眠を、いっそ永眠を望んでいたと?

 

 ぐっすり眠れる薬。洗脳状態とは言え、その意味が解っていなかったと言ってしまって良いのだろうか?

 精神安定の禁術を使ってみて解ったが。おそらく催眠術と精神系の禁術もそれ程遠いものじゃ無い。自分の望みと全く反することを植え付けるのは難しいのでは無いだろうか?

 そして、俺と四六時中一緒に居る侍女だからこそ、俺の潜在的な願いに気が付いてしまっていた可能性はある。

 つまり、全ては俺の死にたがりが原因か。

 

 因みに、ガルダさんの洗脳方法にもあたりが付いている。

 ガルダさんの日記が見つかったからだ。

 

 彼はボルドー王子が好きだったらしい。自分ではずっと女好きだと思っていたが、俺とボルドー王子の婚約が発表されて、本当の気持ちに気付いたと。

 

 で、精神が不安定な所に、心中をけしかけられたのだろう。

 

 恐いのは洗脳された自覚が無い事。後になって調べればネルネは親戚の家にいっておらず、それで洗脳が発覚したのだ。ひょっとしたら俺の回りに、他にも居る可能性がある。

 当然、犯人を捕まえるのは急務だ。

 

「ネルネ、あなたはその質問者を見ていないの?」

「部屋が暗くて、でも、髪も目も部屋よりも暗かった」

 

 やっぱりな。

 と、そこへシャルティアからも質問が。

 

「訛りはありませんでした? 丁度、キィムラ男爵の様な特殊な訛りが」

「はい、ありました」

 

 ……決まりだ。

 

「つまり、犯人はキィムラさまですか?」

 

 ハハッ! シノニムさんナイスジョーク。

 

「いえ、恐らくは同郷の者です、タナカも私も、この世界の人間に比べ超常の力を持っています」

 

 木村のカミングアウトに俺も乗っかる。

 

「神の国の使徒と言うべきでしょうか? 私に使命を与えた神とは別の」

「そうですね、そして彼女は我々の敵に回った」

「彼女? その魔術師は女性なのですか?」

 

 木村の言葉にシノニムさんが食いつく。だが、その質問に答えるのはネルネとシャリアちゃんの二人だ。

 

「はい、女の人の声……でした」

「そうね、女性の声だったわ」

 

 そこで、俺は逆にシノニムさんに尋ねる。

 

「聞いたことはありませんか? 帝国の黒き魔女、クロミーネ」

「噂ぐらいなら、まさか彼女が王都に居たと?」

「まず間違いないでしょう」

 

 そう……黒峰さんだ! 田中が『強い体』を、木村が『器用さ』をチートとして貰ったなら。彼女が貰ったのは!

 

「圧倒的な魔法を使う、恐るべき相手の可能性があります」

「そんな! 姫様以上の? ですか?」

「勿論です、恐らく及びも付かない」

 

 俺の言葉に一同が静まり返る。

 それだけ、恐ろしさが飲み込めたと言うことだろう。俺の暴れっぷりを見ていればそれも当然。

 

 俺だけじゃ無かった、魔力が薄い人間界で自在に魔法を操れる。

 世界でたった二人の特異点!


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