死憶の異世界傾国姫 ~ねぇ、はやく、わたしを、殺して~   作:ぎむねま

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ゼスリード平原EX

「見えた!」

 

 日が昇ったばかりのゼスリード平原をひた走る馬車が視界に映る。地平線まで見渡す大地に米粒みたいに小さい姿。

 それでもアレがギデムッドとか言うジジイの乗った馬車なのは間違いねぇ。

 

「どうにも臭うぜ……」

 

 朝の平原って奴は、本当だったら風が澄んだ空気を運んでくるハズ。俺が帝国からスフィールに入ったときにゃ、その爽やかな空気を胸いっぱいに吸い込んだものだった。

 つい先日、姫様と来た時だって、あんなトラブルが起こる前は春風が気持ち良い程の爽やかな陽気だった。

 

 だが、今のゼスリード平原はどうだ?

 

「壮絶だな、まるで地獄かよ」

 

 死体がそこら中で腐乱していた。恐鳥(リコイ)についばまれた人間や馬、そして当の恐鳥(リコイ)自身も又、至る所で無残な姿を晒している。

 

 様々な思惑が入り交じった末の死闘の残骸。違うな、もはや半分以上は事故と言った方が良い塩梅だった。

 その爪痕はいまだハッキリとゼスリード平原に残されていた。

 

 こんな場所を朝も早くに突っ切ろうなんて、そんな奴が他に居るわきゃねーわな。

 

「ったく、平地じゃ走れよこの野郎」

 

 俺は跨った馬に毒づく。平原に至るまでの坂道、俺は馬を降りて走った。

 馬に乗るよりその方がよっぽど速かったからだ。逆に馬のケツを引っ叩く勢いで、急峻な斜面を登り切った。

 

 だが平原を走らせた馬は脚を溜めた甲斐も有って、素晴らしい速度で平原を駆けて行く。

 対して奴らはどうか? あの斜面で馬車を曳くのは馬にとっちゃキツかったに違いない。その距離はみるみる縮まって行く。

 

「お出迎えかよ」

 

 三百メートル程に距離を詰めた所で、いよいよ相手も動き出す。

 馬車の集団から一人と一匹、騎乗した従者が速度を落とし距離を詰め、俺へと向けて大声で誰何(すいか)する。

 

「何者だ? 何の用でこちらを追う? 答えろ!」

 

 アレは? 通常は顔の判別などつかぬ距離。だが俺の視力は並じゃない、格好は違うがアレは城の地下で俺を吊るした下男で間違いない。

 

「ハッ!」

 

 少し強めに腹を蹴ると、馬は思いに応え、更にその歩幅を広げる。

 一足(ごと)に飛ぶような加速、速度を落とした相手と一気に交錯した。

 

「な? お前は! ガッ」

「あばよ」

 

 駆け抜け様、一太刀で首を刎(は)ねる。

 俺を一晩中吊るしやがった恨み、スッキリ爽快って奴だ。馬上での戦闘にゃてんで自信が無かったが、存外にやれそうだ。

 

「オイ! なんだアイツは!」

「止めろぉ!」

 

 当然馬車は途端に騒がしくなる、楽しくなって来やがった!

 

 声に答えて騎士が二人、俺へと馬首を翻し左右から挟み込み迫って来る。手には槍、隙の無い身のこなしから、実力はさっきの下男とは大違い。

 そもそもが馬上で剣と槍、そのリーチの違いは強烈に尽きる。

 

「慣れない事はっ! するもんじゃ無いよなっ!」

 

 俺は手綱を手放しゴロンと転がる。馬上から左後ろへと転がり落ちて、危うく馬の後ろ足に蹴られそうになりながらも、綺麗に地面へ着地する。

 剣を振り回した後、バランスを崩して無様に落馬。そう見えてくれれば御の字、そうで無くても意味が解らん行動だろう。

 

 だが俺はその辺の馬より速く走れる、並走するぐらいは訳無いんだぜ?

 東からの刺すような鋭い日差しが、平原に長い長い影を落としていく。俺は馬の影へと滑り込み、並走する。これは右から迫る騎士からは完全に死角になる位置。

 落馬をチャンスと見た騎士は止めを刺すべく歩を速め、俺が落ちた所に一気に駆け寄った。

 

「馬鹿! 油断するな!」

 

 声を荒らげるのは左から近づいた騎士。アイツからは馬の影に隠れ、並走する俺の姿が丸見えだから当然だ。

 だが、その位置からは突出した騎士を止める術は無い。

 とは言え、騎士から見て死角と言う事は、俺からも突っ込んで来る騎士が見えないと言うこと。これじゃタイミングが命の奇襲は成立しない。下手を打てば騎士に挟まれる格好になる。

 

 ――普通は、な!

 

「何?」

「貰うぜ、槍とッ! 首もだ!」

 

 駆け寄った騎士は、馬が走り去った後に落馬した俺が居ない事に驚愕する。

 一方で俺は走る空馬の影から飛び出すと、想像と寸分違わぬ位置で槍を構え呆然とする騎士へ駆け寄り、左手で槍を掴み、思い切り引っ張った。

 

「なっ? グッ!」

 

 抵抗も一瞬、馬上で前のめりになっていた姿勢では耐えられず、降りて来た首筋を振り上げる刃で向かい入れた。

 パッと鮮血が舞うと、首が一つ転がる。

 そして当然、右手の剣を振り切った無防備な俺の背後へと、残った騎士が距離を詰める。

 

「貴様! よくも!」

「ありがとよ! 助かるぜ!」

 

 クルリと体を反転させ、左手で掴んだ槍を投げつける。

 

「グッ!」

 

 投げられた槍は見事に騎士の胴体へ突き刺さった。

 

「目線で相手の位置を教えてくれたばかりか、背後から襲う時まで声で位置を教えてくれるなんて、律義にも程が有るぜ」

 

 気配で大まかな位置は解るが、ここの所今ひとつ信頼出来ないので助かった。

 コイツら訓練は重ねていた様に思うが、実戦経験の無さは明白だった。

 最近大きな戦争が無いってのがその原因だろうな、だとすると破戒騎士団の場慣れた雰囲気はどうだ?

 あいつらは俺と同種の実戦叩き上げの雰囲気が有った。この世界の平均を考えるとひょっとして図抜けた存在なのかもしれない。

 蜂起だかクーデターだか知らねぇが、ひょっとしたらマズい事になるかもしれねぇな。

 

 ま、こっちだって他人の心配出来る程の余裕はねぇか。

 

 見れば馬車とはまた距離が離れちまった、距離は四百メートル程。

 十メートル先では空になった俺の馬が、コチラを不思議そうに振り向いていた。

 

「悪りぃな待たせた!」

 

 俺は馬に飛び乗り、馬車への追撃を再開した。

 

 馬が気持ちよく下草や土を踏みしめる音に混じって、時折グチャリと湿った音がする。

 死体を踏んだ音だ。いよいよ激戦区だった平原南部の中心地点に差し掛かる。

 走る馬に優しい足場と言えないが、馬車にとってはもっと厄介であろう。

 見れば死体は裸。鎧も武器も身につけていない、もう数日経ってるだけにすっかり漁られている。

 通常、こんな暴挙は許されず厳しく取り締まられるが、スフィールがあの様じゃそうは行かなかったに違いない。

 俺達は腐臭立ち込める地獄をひた走る。馬も大分ヘバって来たが、どうやら間に合いそうだ。護衛も品切れなのかこれ以上突っかかって来る奴も居ない。

 その時、目指す馬車の屋根上で何かが光った。

 

「何だ? ッ!? クソッ!」

 

 目を凝らせば光ったのは(やじり)、屋根には弓を構えた男が一人。

 放たれた矢が音も無く迫る。俺の視力は矢の軌跡をしっかりと捉えたが、狙われたのは俺じゃ無かった。

 

「畜生! 済まねぇ!」

 

 撃たれたのは馬。軌道から解っちゃ居たが、俺の未熟な馬術じゃ避けようも無かった。

 鼻先に突き刺さった矢は致命傷じゃ無いだろうが、無事とも言い難い。ちょうど呼吸の邪魔になる位置だった。

 痛みに暴れちまって俺の技術(テク)じゃ制御しようもない。

 

「お前はスフィールに帰れ、俺は……」

 

 短い間だったが相棒だった馬を乗り捨てた。発したセリフは通じないのが解っていても思わず馬に叫んだモノか、それとも自分に言い聞かせたのか。

 

「後は走って追う!」

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「やりました」

 

 屋根の上からスルリと降りて来た男はアイク、商人としてスフィールに紛れ込み対魔法兵器の管理をしていた男だ。

 情報部のホープとも言える存在で、何でも器用にこなす。走る馬車の屋根に飛び乗ったばかりか、激しく揺れる中、迫り来る騎馬に矢を放ち当てて見せるなど、並大抵の腕で出来る事では無いのだ。

 

「殺ったのか?」

「いえ、狙ったのは馬。狙い通り落馬しました、タナカとか言う男が無事か否かは解りませんが、馬の方は使い物にならないでしょう」

「部下を殺されたと言うのに、手堅い男よのぉ」

 

 尋ねたのは皺を刻んだ老人、ギデムッドだ。

 ギデムッドはアイクを信用していた。

 歴戦のギデムッド老とて、タナカが追って来たと聞いた時はまさかと思った、なにせ奴はスフィール城に幽閉した筈、なによりゼスリード平原で帝国に甚大な被害をもたらした男だからだ。

 被害を受けたのは肝いりで編成した第三特務部隊だけでない、アイク率いる情報部の中心メンバーもだ。

 

 健康値を吸収する対魔法兵器、霧の悪魔(ギュルドス)

 地方の伝承に出て来る魔物の名を付けた魔道具だが扱いにくく、下手を打って自らの健康値を根こそぎ吸われれば命に係わる。

 その制御を行える人間は多くない、アイクとて手塩に掛けて育てたその部下達の殆どをあの事件で失った。タナカへの恨みは深い筈。

 それでも仇を狙わず、確実に馬を撃ち追撃を妨害に徹する。

 なかなかできる事では無い。

 

「コレで何とかワシの首も繋がりそうか。スマンな……」

「……いえ、任務ですから」

 

 ギデムッドは謝るが。今回は不運だっただけ。むしろギデムッド老は慎重に慎重を期して行動したとアイクは知っている。

 急展開に備え、第三特務部隊を待機させた上で、万一を考えて霧の悪魔(ギュルドス)はスフィールから撤収する。

 過剰なほどに、まさかに備えた布陣だが、何の因果かその二つが交錯する。まさにその瞬間、その場所に、特大の不運が待ち構えていた。

 

 これが誰かの策謀だと言うならあまりに出来過ぎた、薄氷の上に立てられた作戦と言わざるを得ない。

 あり得ない、『偶然』だとアイクは思っていたし、ギデムッドの判断は正しかったように思う。

 

 ただ、全てが『偶然』と言うのは引っかかる気もしていた。

 

 出来過ぎた相手のカード運を罵る様な、全く無意味な考えだとは解っている。

 だが、酒場で勝ちを重ねる男が言っていた一言が思い出された。

 

「ここぞって時にその『偶然』を引き当てられる男がギャンブラーなのよ」

 

 アイクはその言葉を思い出しながら、誰にも解らぬように(かぶり)を振った。

 ユマ姫とタナカ、奴らがそうだと言うのは思いたくも無いし、なにより言った男自身が後にイカサマで捕まっている。

 タネの無い幸運も不運も長続きはしないものだ。だと思えるから、自分が特別不幸だと思わずに済む。

 ツイてる男とツイてない男などに分けられる筈が無い、『偶然』は平等にやってくるのだと言い聞かせた。その時だ。

 

「大変です、奴です、まだ追って来ます!」

「まさか! あり得ない!」

 

 御者の叫びにアイクは怒鳴り返す、彼らしくない冷静さを欠いた声だった。

 それもその筈、アイクは馬を射った矢に手応えを感じていた。

 

「あの怪我じゃ、馬は使えない筈だ!」

「そ、それが……」

 

 アイクは御者の言葉を待たずに馬車の小さい窓から身を乗り出して後ろを見た。

 

「馬鹿なっ!」

 

 走っていた、走って馬車へ追い縋っている。

 これが低速で歩かせる荷物を載せた荷馬車ならともかく、この馬車は四頭立ての上に車体も小さい貴族用の快速馬車だ。

 まして一見して普通の馬車に偽装しても、サスペンションや車輪は帝国の先端技術をつぎ込んで作られている。並の馬車の速度とは訳が違うのだ。

 

 アイクは知らない事だが、田中が神から貰った体は上限一杯、人間最高峰の肉体だ。

 そのスペックは地球のオリンピックで活躍する選手のそれに近い。

 だが百メートルを十秒以下で走り、なおかつ42.195Kmを二時間ちょっとで走り切る男など居る筈が無い。

 短距離用と長距離用、用途別にカツカツに仕上げられた肉体での上限値がそれなのだ。

 だが田中の体はそれに近い事を可能にする。常識を無視して、世界最強、遠近問わず、上限一杯の基準で揃えられている。

 

 ましてやこの世界の人間の大半はオリンピックに出て来る超人には程遠い、それ所か農民の身長は150cm程度、貴族や騎士で170cm有れば上出来と言った所。

 

 地球でも平均身長が今の様に伸びたのは近代の事、そんな中、田中の鍛えられた肉体は常識をぶち壊す物だった。

 ブッガーは田中に匹敵する巨漢だったがアレだって例外も例外。中国の兵馬俑(へいばよう)の様に、国中から集めた近衛騎士となれば似たような大男も居るが、数は少ない。*1

 

 そんな例外にしたって短距離も長距離もこなせる男など居る訳もない。

 もっと言えばトレーニングなんて概念も殆ど無い世界だ。継続的なトレーニングはスタミナの持続に如実に効いて来る。

 だからこそ馬に追い縋れる人間など完全に彼らの常識の埒外だった。

 

「化け物かッ!」

「奴も純粋な人間では無かったと言う事じゃろう」

 

 だからこそ、アイクとギデムッドがそう結論付けたのも当然、一応は遺伝子レベルで人間の範疇を超えない様に調整されている物の、そんな事が二人に解る筈も無い。

 彼らはタナカを森に棲む者(ザバ)に作られた人造人間の様な物と結論付けた、おあつらえ向けに伝説にはそんな人造人間の記述も有ったのである。

 

「まさか実在したとは」

「サンプルに欲しいがリスクしか無いな、ここは逃げの一手だ、アレを使う」

「危険ではないですか?」

「テストは十分、今使わずに何時使うのかね?」

「ハッ!」

 

 それでも彼らには余裕が有った、とっておきの切り札を用意していた。

 ギデムッドは自らが腰かけていた備え付けの長椅子の座面をパカっと開ける。

 

「よし、いけるぞ」

 

 中にはぎっしりと魔法陣が刻まれた歯車、怪しげなポンプとガラス瓶に詰まった魔石が押し込められていた。

 

「『進め』」

 

 起動呪文を唱えればみるみる車体が加速する、魔道車だ。

 

 帝国は限定的ながら魔道車を開発していた。燃費も悪く、操縦も出来ない為に馬との併用が必須だが起動すれば、馬に取ってみれば馬車の重量が消えたような物だ。

 

 アイクが窓から顔を出せば、タナカは手が届こうかと言う程に迫っていた。

 だが、裸馬同然の速度と持久力で走り続ける馬車に追いつくのは流石に無理だったらしい。ジリジリと距離が離れていく。

 

「逃げ切れそうです」

 

 アイクの言葉にギデムッドは頷くだけ。なにしろ揺れが酷い、下手に喋れば舌を噛む。

 通常の馬車では未知の速度。帝国の最先端のサスペンションでも振動を殺しきれていなかった。

 それでもギデムッドは手すりにしがみついて御者に指示を出した。

 

「警笛を吹けぇ! 全速前進だ!」

 

 ――ピィィィィ

 

 そして甲高い笛の音が鳴る。

 帝国の進軍の笛で、馬はこの音と共に前進するように調教されていた。

 この世界の馬車の常識を外れた速度で有るので、念の為進路に向けて警告を発する目的でも有った。

 

 

 しかしギデムッドもアイクも知らない事が有る。

 彼らが魔道車と呼ぶ魔力を動力とする車が、魔法文明が発達したエルフの間でも広く普及していない理由だ。

 自分達が開発出来るのだから、エルフも当然開発している筈。その考え方は正しい。

 だが、サンプルが手に入らない理由はその秘技を帝国侵略に先んじて廃棄したためと思い込んでいた。

 しかし、エルフにそんなつもりは無かった。負けるどころか苦戦する事すら予想もして居なかったのだから当然。

 サンプルが無い理由は極端に数が少ないから。その理由は大規模に吐き出される魔力が強力な魔獣を引き寄せるからだ。

 そして、間の悪い『偶然』で、彼らが吹いた警笛が、『奴』を呼ぶトリガーに成るなどと、彼らの思い至る範疇を易々と超える事実であった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「嘘だろッ!」

 

 もう少しで手が届く、その寸前で馬車が急加速してグングンと距離を離して行く。

 その速度は異様。騎馬はおろか、裸馬もかくやと言う速度。流石の俺もズルズルと距離を離される。

 

「ハッ、ハッ、あり得ッ! ねぇ」

 

 この世界の馬はサラブレッドじゃねぇ、ましてや馬車を曳くのはずんぐりとした足の太い馬が多い。

 更に言えば、馬は案外にマラソンみたいな超長距離走は苦手としている。

 だからこそ、本気で走ればあっと言う間に距離は詰められるハズだった。

 だが実際はどうだ? 馬は馬車の重さが無いかの様な加速で駆けていく。

 

 ――いや、マジでそうなんじゃ無いか?

 

 よく見れば馬と馬車を繋ぐ輓具(ハーネス)は緩み、御者台は馬の尻を叩きそうな程に接近している。

 

「もう出来てるんじゃねぇかよ!」

 

 魔道車、奴らがそう言ってた物が既にある。俺が適当に吹いた前世の自動車の様な妄想じゃ無く既に形が有った訳だ。

 

「でもまだ不完全って事だよな!」

 

 息を整えながら叫ぶ、だってそうだろ? 既に完成してるならエルフの技術を欲しがる道理が無い。燃費か操作性、安全性もか? 何らかの不備が有るからエルフの持つ完成品を欲しがった。自分らが不完全な物しか作れないから余計にな!

 

 半分は願望、だが的外れでも無いはずだ。萎えて行く気力に鞭を入れ、息を整えて再び駆け出す活力に火を灯した。

 

 その時だ。

 

 ――ピィィィィ

 

 笛の音だ、どこかで聞いた音に近いなと微かに思った。

 

 

 ――ビィィイィ

 

 その音に答える様に、笛の音よりも少し低い音が返された。

 

「うっそだろ! オイ!」

 

 その音こそ、ハッキリと聞き覚えが有った。

 朝日の差す平原、その空を切り裂く様に、再び奴が現れた。

 鷲の上半身にライオンの下半身。だが翼を広げたサイズはそのどちらをも上回る。

 なにせ、圧し掛かられた馬車が玩具箱みたいに見えるのだ。

 

「グリフォン!」

 

 俺の雄叫びがゼスリード平原に響き渡った。

*1
近衛兵長であるゼクトール氏など


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