死憶の異世界傾国姫 ~ねぇ、はやく、わたしを、殺して~   作:ぎむねま

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混線する記憶

 気が付くと嫌と言うほど見慣れた自分の部屋のベッドの上だった。

 そう、別荘の部屋じゃない、離宮のベッドだ。

 

「え?」

 

 思わず声が漏れる、意味が解らない。旅行先に居たハズだが……

 

「気が付きましたか? ああっ……良かった」

 

 ピラリスの声が聞こえる、ギュっと手を握られて、目には涙を浮かべている。

 

「えっと、わたしはどうしたのかしら……」

「蛙を追いかけて、湖で溺れたのです」

 

 なんという間抜けか。

 

「そう、また迷惑を掛けてしまったわね」

「いえ、えっと姫様はその蛙には触っていないんですよね?」

「え、ええ、触ってはいないと思うわ」

 

 そもそもあの蛙が本当に存在していたかどうかすら怪しいものだ。

 便利に参照権を使い過ぎた罰が当たったのか? 神にはそんな事を聞いていなかったが全てを教えてくれたとも思えない、チートスキルと思っていた参照権にも何かリスクが有るのかもしれないな。

 

「ああ良かった」

 

 ピラリスはその場にへたり込んでしまう。

 

「どうしたの、ピラリス、あの蛙に何かあったの?」

「ええ、実はその姫様が見たという、赤くて棘が生えた蛙、猛毒が有る危険な蛙のようなのです」

 

 え? あの蛙やっぱ危険なの? いや、見た目から毒々しいもんな。むしろあんな蛙に突撃した自分が信じられない。

 

「そう、触らなくて良かったわ、あの後、私はずっと眠って?」

「え、ええ。心配したんですよ、姫様が突然湖に入って足を滑らせて、助け上げたものの気絶していらっしゃって、毒蛙に触ったのかもしれないと、少し早いですが皆さんで切り上げてお帰りになられたのです」

 

 う゛ぇ、あんなに楽しんでいたセレナも巻き込んで早帰りしてしまったのか、うぅぅぅ罪悪感が凄い。

 

「……ごめんなさい」

 

 ほんとに泣けてくる、なんだよコレ、馬鹿にも程があるだろ。

 

「で、でも姫様が蛙に気が付かなければ、誰か危ない蛙の餌食になっていたかも知れないんですからお手柄ですよ!」

「そ、そんなに危ない蛙だったのですか?」

「そ、それはもう、あの蛙、赤棘毒蛙(マネギデスタル)が井戸に入ったばかりに、大勢亡くなった村も有ったそうですから途轍もない毒を持ってるようですよ」

「そ、そこまでの毒が有るのですか」

「は、はい、だから三日も目覚めなかったのも蛙の毒に僅かながら触れたせいではと」

 

 うへぇ……それは、もしセレナが蛙に殺されたら世界中の蛙を殺しても殺し足りないぞ。

 

「記録によれば、国を挙げて赤棘毒蛙を駆除した結果、500年も前に絶滅させたと有るのですが、もしも生き残っていたと有れば一大事です、湖を探させています」

 

 500年も……前に? 俺は一体何を見たんだ?

 

 

 その後、お父様まで心配してお部屋に来てくれたり、セレナに泣かれたり、母様に叱られたり、お兄様に頭を撫でられたりした。

 数百年前の赤棘毒蛙のスケッチも見せて貰ったが、間違いなく私の目の前にいた蛙だ、参照権で確認する。間違いない。え?

 

「影が無い」

 

 思わず呟いた、違和感の原因はこれだ。やはりあの蛙は幻、ではなぜあんな幻を見たのか? 原因はさっぱり解らない。

 結局、蛙は多分見間違いだと皆に伝えた、でもピラリスは懐疑的だった、そりゃそうだ本をぱっと見で全部覚える奴がだぞ?

 

 そしてもっと信じられない事が有った。

 

健康値:11

魔力値:75

 

 寝込んだ後の健康値なんて5も有れば十分、それが過去最高の11なんて言う値だ、そして魔力値が異常に増えている。

 健康値はある意味常人に近づいただけとも言えるが、魔力値の伸びは異常だ。大騒ぎになるかと思えばそうではなかった、むしろ喜ばれたのである。

 どうやら、どうやら悪くないと思っていた俺の魔力値。これはエルフとしてはやはり低かった様なのだ、それがエルフとしても恥ずかしくないレベルに上がったと言う事で、母などはお祝いをしようと言う始末。

 

 何かの拍子に成長しただけなのか? それともアレは幸運の蛙だったのか? 今となっては解り様が無い。

 結局あの後、湖での必死の捜索に関わらず、蛙は見つからなかったのだから。


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