死憶の異世界傾国姫 ~ねぇ、はやく、わたしを、殺して~   作:ぎむねま

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夏風邪を引き、改稿すらできんかった。


帝国の陰

 俺たちはピルタ山脈の麓の村、クドラックへとたどり着いた。

 

 俺の読みが正しければこの辺りに吸血鬼の根城があるハズだ。

 神のぼやき? によれば吸血鬼の最期は恋人との心中。

 自殺なんだから、住み慣れた場所なりで息を引き取った可能性は大いにあるだろう。

 吸血鬼の目撃情報が一番多かったのはダントツで王都なのだが、俺は吸血鬼が死んだのがココだと確信していた。

 

 理由は単純な消去法。なんせ王都の中はシャルティアやカディナールを狙って、くまなく駆けずり回った自信が俺にはある。

 

 俺の参照権の制限なのだが、切っ掛けとなる記憶の欠片を手に入れる為に、前世の人物が死んだ場所に行く必要がある。

 そうじゃなかったら、ひたすら王城に籠もってアレコレ手掛かりを探すように命令するだけで済んだのに、非常に惜しい。

 

 外に出るとそれだけで不確定要素は増える。不確定要素があれば俺の『偶然』は俺を死へと近づける。

 かと言って、引き籠もって普通にしていても最後には隕石みたいな理不尽で死ぬ。

 だったら俺は、『参照権』がもたらす可能性に賭けたかった。

 死にたく無い、死にたく無かった。そんな思いを複数束ね、記憶と共に能力も手に入れれば俺は死から遠ざかるハズ。

 更に言うと、今回、俺を守りたいと心の底から思っている兵士を千人単位で連れてきた。

 そう言った思いすら、俺の運命を補強し、『偶然』を遠ざける力になるだろう。

 ここまで大事にする理由はひとつ。吸血鬼の能力が恐らく回復だからだ。目や腕はともかく、美味しいモノを楽しむために舌だけは絶対に治したい。

 なんだかんだ痛みにも痒みにも慣れてきたが、味だけは如何ともし難いのだ。

 

 目指せ、美味しいご飯! 俺は絶対に諦めない!

 

 そんな野望に燃える俺が村人に聞き込みを始めて間もなく、最近ここらで怪しい人物の目撃情報が相次いでいると判明するのだった。

 

 もう諦めて良いかな?

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 部屋の中、シノニムさんが険しい表情で村人を問い詰める。

 

「白髪の男が山中を歩き回っていたと?」

「へぇ、最近は魔獣が暴れ回って危ないと言ったのですが聞く耳を持たずで、どうしたもんかと」

 

 答える相手はこの村の村長。俺達は村で一番立派な村長宅を借り上げ宿にしている。小さい村なので宿なんかは少なく、あっても素泊まりの安宿なので仕方が無い。

 同行した近衛兵達もその辺の民家を借りているらしい。

 それでも千人からなる後続の本隊なんざその辺でキャンプだろうから、コッチは恵まれている方だろう。

 

 話が逸れたが、白髪の男と言うのが気に掛かる。田中が見たと言う帝国軍の怪しい双子が確か銀髪だった。

 お茶を飲みながら話を聞いていた俺だが、眉をひそめながらティーカップをコトリと置いた。

 

「白髪ですか? 銀髪ではなく?」

「いえ、すいやせん森の中なんで、色の見分けはちょっと」

「そうですか……どちらにしろ、それ程珍しい髪色では無いと思いますが」

 

 そう、俺もシノニムさんも銀髪だし、この世界では超レアと言うわけでは無い。

 

「へぇ、ですがこの辺りにゃあんまり無い色でして。それに召し物もなんぞけったいなもんで」

「シノニム、紙とペンを」

「かしこまりました」

 

 俺は渡されたペンをサラサラと走らせる。そうは言っても参照権で表示した映像をなぞるだけ。

 

「姫様の絵心には驚かされます」

 

 それだけで普段は厳しいシノニムさんすら持ち上げてくれるし、(ろく)に絵も見たことが無い村長なんぞは口を開けっぱだ。

 俺は王都を襲った兵士の服装を一通り描いた。その内の一つを村長が指差す。

 

「コイツはおでれぇた! そうですこんな服装でしたわ! いんやーお上手だ」

「……そうですか」

 

 何でも無いフリをしてカップを口に運ぶが内心は複雑だ。

 絵を褒められるのは嬉しいし、久しぶりにチートっぽい事出来た! と喜ぶ気持ちもそこそこに、憂鬱な気持ちが大半であった。

 俺の絵を見つめるシノニムさんの目線も険しい。

 

「帝国の軍服、それも最新のモノですか?」

「迷彩服です、森の中で見つからない事を目的にした柄ですね」

 

 軍隊みたいな迷彩柄と言うのはファンタジーなこの世界で酷く浮いている。誰の考案かは一目瞭然だ。

 

 ――黒峰さんが来てるのか?

 

 ネルネ洗脳の後、ドコに隠れたかと思っていたら、また先回られたか?

 嫌な予感に身を焼かれ、()いた心を落ち着かせる為に反射的に親指の爪を噛んだ。

 

 ――ガリッ

 

 思ったよりも強く噛んでしまい血が出た。下らない自傷行為に苦々しく思いつつ、滲む血を見つめるしかない。

 

 ――パクッ

「え?」

 

 思わず間抜けな声が出てしまう。血が滲んだ親指をしゃぶる横顔は幸せそのもの。

 

 ……シャリアちゃんでーす! ってクソたわけ! ビックリするわ!

 

 村長は目を丸くしてるし、先輩侍女として叱る役目のシノニムさんは、どうにもシャリアちゃんには腰が引けている。

 いや、腰が引けない方がどうかしてますけどね! マジキチだから仕方がない。

 

「あの、考え事をしているので今は控えて頂けますか?」

 

 なーんて優しくお願いするも。

 

 ――ペロペロ

 

 だめだ! コイツ聞いてない!

 だが我らには彼女がいる。こんな時に頼れるのが我らがネルネ。

 

「な! 何してるんですかぁ! ほら! コッチに来なさい!」

 

 飛び出してきたネルネがシャリアちゃんに抱きつくと、ズルズルと隣の部屋へと引き摺って行く。

 

「あ、なんで私の耳まで舐めるんですかぁ! いい加減にしなさい!」

 

 ぴしゃりと閉められた隣の部屋から、そんな悲鳴まで聞こえてくる。

 ネルネよ、君の勇姿は決して忘れない!

 

 俺は隣の部屋へビッと敬礼するのだった。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 次の日「うぅー、私、食べられそうになっちゃいましたよー」とぼやくネルネと、ソレを聞いて顔を引き攣らせるシノニムさんをヨソに俺は村長宅で会議を開く。

 メンバーはゼクトール近衛兵長、木村、シノニムさん、俺。計四名。

 

「私は(せん)(けん)(たい)として数名を山へと先行させるべきだと思います」

 

 先に帝国軍が来ている。その事実に焦っての提案だったが、計画外なので止められると思っていた。

 

「そうですな、後続が揃うまで遊んでいる訳にもいかんでしょう」

「別に姫様が出る訳では無いのでしょう? ならば問題はないと思います」

 

 だが、ゼクトール兵長もシノニムさんも賛成の様だ。

 

 ま、最後には俺が出張って行かなくてはならないが、それは目標が定まってからで十分。

 近衛兵が何人か出張っても護衛が減る位で特に問題も無いと許可が下りた。

 

 

 ……で、木村にセクハラされたり、それをシャリアちゃんに物陰から監視されたりしながら数日。ようやっと後続の歩兵が追いついた。

 その頃には先遣隊によって探索すべき場所も絞られていた。

 

 俺たちは設えられた作戦室で目標を確認する。地図を広げて進行役を買って出たのは実際に山に入ったゼクトールさんだ。

 

「ピルタ山脈は複数の山々が連なる険しい場所(ゆえ)に未踏の魔境と化していますが、本当に危険なのは山頂よりもむしろ谷です」

 

 そう言ってピルタ山脈の中心を指し示す。そこは山々に挟まれて深い谷間が広がっている場所だ。

 そんな報告にやっぱりなと頷くのは木村。

 

「私の仮説ですが魔力の比重は重く地を這うように広がると考えられます、それが山に遮られ吹き溜まる事で山岳地帯には魔獣が多い、この仮説が正しいとするならば本当に危険なのはむしろ谷でしょう」

「おっしゃる通りです、谷の魔獣は強力な上、濃厚な魔力溜まりに体調を崩す者が続出、ですが、だからこそココが怪しい」

 

 ゼクトールさんが言うには谷には人工的なオブジェが散見されると言うのだ。

 エルフにとってもピルタ山脈は禁忌の土地、それ程に危険な場所。遺跡があっても発見されていない可能性は高い。

 

 だがそんな魔力が濃い場所なら役に立つのは人間よりもエルフだろう。

 と言うか、人間の兵士が何人も居ても役に立たない可能性は高い。コレはマズったか?

 

「魔導車の運転手に連絡して、エルフの戦士を手配出来ないか聞いてみましょう」

 

 俺は慌てて指示を出すが、ソレを遮る声が響いた。

 

「それは無理ですよ」

「何者です?」

 

 現れたのは年若いエルフ。人間よりも老けづらいエルフだがそれにしても若い、って言うか見たことがあるような……

 

「あなたは……もしやマーロゥですか? 生誕の儀で共演した」

「まさか! 覚えていらっしゃったんですね! オレ、なんて言ったら良いのか……光栄です!」

 

 感極まった様子で涙ぐむマーロゥは俺より二つ上だったかな? 正直全く覚えて居なかったので『参照権』サマサマだ。

 そう言えば当時から色気付いたガキで、王族の地位を狙って色目を使って来やがったのをギリギリ覚えているが、ソレは今でも変わらないらしい。

 

「オレ、姫様を守る為に役者を止めて戦士になったんです。当時のオレは本当に情けなくて、でも覚えていてくれた、ソレだけで……オレ!」

 

 ボロボロと涙を流すマーロゥ。だが俺はだまされんぞ! コイツは役者、嘘泣きなんてお手の物だ。

 

 ココだけの話、エルフの国エンディアンで俺の噂は気持ちが良いモノばかりでは無い。

 確かに見た目は良いため、生誕の儀では初お披露目と言うこともあって大好評だったが、アレは役者陣が超豪華だったと言うのも大きい。

 あの劇だってマーロゥ君にしてみれば、悪夢そのもの。俺を好きになるハズが無いのだ。

 加えてプライドの高いエルフにとって、人間とのハーフは忌むべき存在だし、俺は魔力も低く、不健康さでは並び立つモノも居ない存在。

 それに肉を食っては倒れたり、大牙猪(ザルギルゴール)に追い回されたり、おまけに侍女の顔をえぐってグロテスクな美容整形を繰り返して大騒ぎを起こしたり。

 

 お騒がせ者としての悪評ばかりが目立ってしまっていたのだ。

 

 だのに言うに事欠いて、何が「姫様を守る為に役者の道を捨てた」だ!

 エルフの戦士は普通にエリートコースなので、俺の為に役者の道を捨てたというのは眉唾。

 彼は元々魔力が多かったので、「東大生でバンド組んだけど、やっぱりお医者サマになりまぁす!」みたいなモノ。より安定する職業に就いたに過ぎない。

 あらかた最後の王族という未曾有のブランドに、降って沸いた逆玉チャンスを感じているに違いないのだ。

 

 なにより当時七歳の時分で既にカッコ良かったが、今は十四か五か? もう体つきは完全に大人、細マッチョに鋭い眼光のメチャクチャなイケメンなのである。

 

 おしゃれなイケメン=パコパコヤリチン コレは絶対の方程式。

 

 女を泣かせる為に存在しているような、人類の敵と断じてしまって間違いないだろう。女っ気無いままにホモに殺されたボルドー王子の弔い合戦として、こんな奴とは断固として仲良くしない所存!

 

 とは言え、話は気になる。

 

「ところで、どうしてエルフの戦士は動員出来ないのです?」

「それは……魔導車を姫様に届ける重要任務にオレみたいな若造が派遣される位には人手不足なんです。特に魔獣退治が得意な弓兵は少なく、魔剣は元々の使い手が少ないところに魔剣自体も帝国に相当数が奪われて……」

「……そうなのですね」

 

 聞けば冬の狩猟シーズンに魔獣の間引きが行われなかった影響は計り知れないのだとか。

 大森林には魔獣が溢れ、戦士達は帝国との戦争もままならない有様と聞く。

 コッチに回せる兵力は本当に無さそうだった。

 

「で、でも! オレ! マジで強いから! 魔導車を運ぶまでに牙猪(ギルゴール)だったら三匹も仕留めています!」

 

 マーロゥは力説するが牙猪(ギルゴール)なんざ俺だってワンパンである。

 いや、確かに一般的には強い魔獣だったな。インフレが激しい。

 魔導車が魔獣を引き寄せると言う話もマジって事だ、覚えておこう。

 

 と、まぁ、戦力として他の兵士よりマシな事に違いは無い。

 なにせ、笑顔はタダ。媚びの一つも売っておくか。

 

「解りました、頼りにしていますよ」

「ハイッ! 任せて下さい!」

 

 ビシッっとした、元気一杯の敬礼である。

 エルフの軍服はパリッとしていてカッコイイ。不覚にも俺の乙女の部分がキュンキュンするのが心底悔しい。

 俺はメッと眉を上げ、釘を刺す。

 

「かといって主力は人間の兵士達です、余り出しゃばってエルフの評判を落とす様なら容赦はしませんよ」

「心得ております!」

 

 若いだけに功を焦る恐れだってある。結局はたった一人、大した戦力にはならないだろう。遺跡探しがメインなんだからモノを言うのは人海戦術だ!

 

 そうして俺達は()(ちょう)(たい)や陣地の警備を残し、七百人近い規模で山地へと進軍することになったのである。

 その勇ましいこと! 凄い規模での進軍。コレでは数人の帝国兵などモノの数では無いだろう。

 

 トンデモナイ予算を掛けての出陣なのだ、この作戦に失敗はあり得ない!

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 

「失敗だったかも知れません」

 

 山狩りにしては多すぎる人数で突っ込んだ訳だが、俺は眼下の光景に早くも後悔していた。

 細い道を大人数でズラズラと連なって歩くのは効率が良いとは言えず、一つの山を越えるだけで数日を要した。何より一つ目の山を越えた辺りで一気に魔力の濃度が上がったのだ。

 濃すぎる魔力の影響で、密かに頼みにしていたシャリアちゃんが魔力酔いの症状でダウン。これは魔力に過敏なシャリアちゃんならではで、慣れるまでに時間が掛かりそうだった。

 他の隊員は単純に健康値が足りずに離脱する者も多く、問題の谷に差し掛かる頃には残りが四百人程に、更に谷に住む強力な魔獣との戦闘となると……

 

「うわあぁぁ! 助けてくれぇ!」

 

 舞い上がる兵士達。そう、全く頼りにならないのだ。

 

 精神的にも物理的にもだ! 兵士達が大牙猪(ザルギルゴール)に次々と吹っ飛ばされていく。

 谷の中では逃げ場が無く、突っ込んでくる魔獣を止める術も無い。

 何よりキツイのは人間の武器が全く歯が立たないこと。

 弓も槍も大牙猪(ザルギルゴール)レベルの魔獣には効果が無いので、群がる兵士には肉壁としての意味しか無い。

 

「仕方がありませんね」

 

 俺はホルスターから銃を取り出し、構える。

 

 立つのは()輿(こし)の屋根の上。

 

 神輿! 大名か! と突っ込みたい所だが『かよわいユマ姫』に険しい山道を歩かせたく無いと言う謎の配慮でアホ程揺れる神輿に詰め込まれた。

 魔法で木を蹴っ飛ばして移動すれば一瞬なのに! と、舌を噛みそうな揺れに強制閉口。食いしばりながらぼやいていたが。

 群がる人の健康値に左右されず、上から銃を撃てるのだけはありがたい!

 

 ――パーン! バシュ! パーン! バシュ! パーン! バシュ!

 

 火薬が爆ぜる乾いた音と、血肉をえぐる湿った音が三連続、それだけで大牙猪(ザルギルゴール)はその巨体をふらつかせて最後にはズシンと倒れた。

 

 アレだけ苦渋を舐めさせられた魔獣だが、銃と魔法の組み合わせの前には形無しだ。

 魔法の矢より火力が有るのに連射が出来るのだから即勝負が付く。

 どちらかと言うと、「姫様は俺が守る」とか言って、頼んでも無いのに近寄るマーロゥが一番強敵だった。

 折角潤沢な魔力に溢れている場所でノーリスクに魔法が連発出来ると言うのに、健康値に遮られてしまうと無駄弾を撃つことになる。

 と、言うか銃さえ有れば大抵の敵に負けない感じなので、兵士達をこんなにいっぱい連れてくる意味もかなり怪しくなってきた。

 麓で祈っていて貰った方が、よっぽど良かったのでは?

 

 さりとて人海戦術は偉大である。戦いも調査も数だよ!

 実際に谷の調査を開始して三日と経たず、崩れた岩盤の中から近代的な建物の痕跡を発見する。

 

「コレは間違いなく先史文明の遺産ですね」

 

 そう言うのはフィダーソン老が紹介してくれた吸血鬼の専門家であるトクラ博士だ。彼はこういった遺跡に関しても造詣が深い。

 博士やゼクトール兵長、ワッツ副長とマーロゥ君と木村とシノニムさんとバテバテのシャリアちゃん、他数名の兵士と共に遺跡の中に侵入する。

 と言っても既に決死隊として先行した兵士が先の安全を確認済みだ。

 

 しかし、遺跡に入った瞬間、ギョッとした。

 話には聞いていたが、想像以上に近代的だ。地球のアスファルトに近い道路だし、淡く光るのは非常灯だろうか?

 雰囲気で言うと完全に長距離トンネルのソレであるが、終着に雪国は無いだろう。

 代わりにその終端にあったのは如何にもな感じの鋼鉄の扉だ。

 先に侵入していた部隊はどうしても開けられなかったと、申し訳なさそうに報告してくる。

 

「破壊しようにも余りに強固で、我々には歯が立ちません」

「そうでしょうね、気にしないように」

 

 なにせ見た目はシェルターの入り口だ。普通にやっても絶対に開かないだろう。

 となると、気になるのが扉の横にある数字入力コンソールだが、肝心のパスワードが解らない。

 記憶を手に入れたら解るのかも知れないが、記憶を手に入れる為に中に入りたいので残念無念。

 しかし前向きに考えれば、コレは初めての謎解きイベント。異世界ファンタジーな世界とは言え、小説だったらバトルの合間にこう言うイベントはつきものだ。

 だとすれば、案外身近な所にヒントがあったり……

 

 と考えている俺をヨソに木村がコンソールをポチポチと。

 

「あ、開きました」

 

 ハイハイ! まーたそういうオチかよ。

 

「一体、なんと入力したのですか?」

 

 一応答えは聞いておくよ、一応ね。

 

「いえ、単純に正解の番号部分だけボタンがえぐれてまして、数通りの組み合わせでアッサリ開きました」

 

 俺の使っていた自転車の鍵みたいな単純な奴かよ!

 本気でつまらないんだが?

 

 と、俺のガッカリを無視して、扉はゴゴゴと開いていく。

 

 ゲームだったら魔獣が飛び出して来てのバトル展開だが、出て来たのは残念ながらもっと厄介なモノ。

 

 より濃厚な魔力であった。

 ハーフエルフの俺だって結構キツい魔力に顔をしかめる。

 

「なんて濃い魔力!」

「コレは強烈ですね」

 

 ゼクトールさんも辛そうに歯がみするが、それでも他の兵士に比べればマシな方。後は木村とマーロゥ君が無事なぐらい、他に動けるのは数人の近衛兵ぐらいと言う惨状だ。

 エルフか、普段から良いモノ食ってて健康値が多そうな連中だけが無事。それだけ強力な魔力が渦巻いている。

 いよいよ大人数を連れてきた意味が無い。結局、マーロゥ君とゼクトールさんを筆頭に、健康自慢の近衛兵を数人。頭脳労働担当に木村を連れだって、遺跡の中へと入らざるを得なかったのである。

 

 危険は百も承知だが、欠損を治す千載一遇のチャンスに俺は抗えなかった。

 ココまで金も時間も、犠牲だってソコソコ出ている。どうしても何か成果が欲しくて諦める事が出来なかった俺は、きっとFXとか向いていない。

 

 それはもう後悔することになるのであった。


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