死憶の異世界傾国姫 ~ねぇ、はやく、わたしを、殺して~   作:ぎむねま

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隔日のつもりだったけど
昨日は眠気に耐えきれず、寝てしまった。


魔女の罠2

「そりゃあ、コイツら洗脳されてるからね」

 

 血塗れの笑顔で、俺は転がったワッツ副長の生首を蹴飛ばした。

 ソレを目で追うシャリアちゃんは信じられないと言う顔。

 その顔、嗜虐心をそそるね。シャリアちゃんにはこれまでやられっぱなしだったから余計にさ。

 

 あ、口調が『高橋敬一』に戻ってしまった。ピンチになると流石にね。

 

「どう……して?」

 

 またシャリアちゃんに問われる。うーん、そうだな。理由は色々あるんだけど……

 

「私の姿を見て、何か感じませんか?」

 

 俺は両手を広げてシャリアちゃんにアピール。

 

「ケガが、治って」

「それ以外に」

「……?」

 

 アレ? 解らない?

 

「髪の色が変わってませんか?」

「ああ……」

 

 ああ……ってリアクション薄いなぁ。ぱっと見の印象って意味では、腕や目よりも大きいと思うんだけど。

 アイツらがそれをナゼと聞かなかったのが違和感の一つなんだけど……実は髪の色って王国ではデリケートな問題だったり? だから誰も突っ込まなかった? あと、そう言えば俺は服だって変わってたな、忘れてた。

 

「実はわたくし、殆ど色がわからないのです、服が変わっている事には気が付きましたが……」

 

 突然の色盲カミングアウトである。なるほどね。

 

「それは……私が目を刺した後遺症ですか?」

 

 だとしたら申し訳無いが、どうやらそうでは無いらしい。

 

「元からですわ。その代わり暗所では人一倍よく見えますの」

「そう、だったのですね……」

 

 目まで暗殺専用に仕上がってんのか、恐ろしいね。

 

「髪が銀からピンクに変わっているのに、兵士の皆さんがその事を気に掛けないのは流石に不自然です。今考えると、予定通りの会話をしているような違和感がありました」

「気を使っただけでは?」

「確かにそうですが、それだけじゃありません」

 

 たしかに女の子の髪色はデリケートな話題と避けた可能性は高いよな。もちろん理由は他にもある。

 

「光点の数が合わないのです」

「こうてん?」

 

 むぅ、中央制御室のモニターの話からしなきゃいけないから面倒だ。

 

 近衛兵達は七人。一方であの時見た上層の光点は十個。今考えると全く数が合わない。

 スグに気が付きそうなもんだが、あの時は上層の光点なんてロクに見てないんだから仕方が無い。もし『参照権』なんて能力が無ければ、俺は永遠に気が付かなかっただろう。

 中央制御室で光点を見てから精々二時間かそこらしか経っていない。大冒険の果てにゼクトールさんとはぐれてしまったみたいな言い分だったから、余計に辻褄が合わない。

 

 そして、ゼクトールさんを入れても八人。まだ二人足りない。

 一人がシャリアちゃんとして、もう一人は?

 

 ……魔女なんじゃないか?

 

 そう考えると、コイツらは下手すりゃ何時間も魔女と仲良く過ごしてたって事になる。

 いや、マーロゥ君と合流してたとか、他にも色々可能性は考えられるけどさ。だったら一言あってしかるべきじゃない?

 

 何より最も決定的なのは、ココが遺跡の深部ってコト。

 魔力が相当に濃いんだよ。俺はハーフエルフだし、木村も田中も神の体で健康値は高い。

 強がっていると思っていたけど、シャリアちゃんの辛そうな様子を見ると流石に無理だと思えてしまう。

 一度まさかと思えば、髪色に突っ込まないのも、ゼクトールさんが居ないのも、変な小部屋に案内しようってのもドンドン怪しく思えてくる。

 

 ソコで気がついたんだけど、コイツら匂いが無いんだよ。汗だくだった木村が居なくなって、初めて気が付いた。

 

 近衛兵のみんなだってここ数日、遺跡の中を駆けずり回ったに違いないのだ。獣染みた男の体臭をさせていて当然。

 だのに、代わりとばかりに爽やかなお香の匂いがする。

 こんな遺跡でお香を焚く理由ってなんだって話よ。

 

「兵士たちの匂い、嗅ぎ覚えがありますか?」

 

 今度は俺がシャリアちゃんに問う。匂いって言うのは不確かで、主観が混じりがち。『参照権』が頼れない部分であるからだ。

 

「きっと魔女が使っていた……お香です、ケシの香りの……」

 

 ……なるほどね、ケシと来たか。

 黒峰さんは、本格的に世界を壊す気だ。人の事は言えないけどな!

 それで、シャリアちゃんに洗脳が効かない理由にも合点が行った。彼女は幾つかの毒物への耐性を身に付けている。だから洗脳が効かないのだ。

 意思がある人間を好きなように操るには、やはりタネも仕掛けも必要だったか。

 

 ――本格的に決まりだな。近衛兵は操られている。

 

 勢いよく首をカッ斬ったけど実のトコロ、確信なんて全く無かった。シャリアちゃんとワッツ副長、それぞれの命を天秤にかけただけ。

 もっと言うと、俺の『偶然』を信頼した格好であった。なんせ、この状況。シャリアちゃんよりも、近衛兵が敵だった方が『最悪』に近いではないか!

 

 まぁ、結局は最悪の状況なんだけどね。

 

 いやいや、前向きに考えよう。首を切り落として「やっぱり間違いでした」ってオチだったらシャレにならない。むしろラッキー。

 

 そんな時、部屋にドカドカと入り込む複数の足音。

 

「何事です?」

「ワッツ副長! どうして?」

 

 部屋に入り込んできたのは残った五人の近衛兵。

 彼らが見たのは首が千切れた副長とピークさん。それに血塗れのお姫様と侍女。こりゃあ意味不明だろうね。

 

 とは言え、状況を考えると全員洗脳済みと見るのが正しいが……どうだ?

 

「何があったんです?」

 

 血相を変えて問い正す彼らに怪しいところは見当たらない。

 認識をズラされている可能性がある。じゃあどうやって何をズラすのか?

 

「ワッツさんとピークさんが急に襲ってきて、それで無理矢理に脱がされそうになって、それで! シャリアが」

 

 まぁ、この方向性で行くか。当たらずといえども遠からずだろ? なんでって、人気の無い部屋に理由を付けて呼びだそうってのがアレ。

 この部屋、怪しいところなんかまるで無いからね。

 ネルネの時に解ったが、殺すってのはやっぱり忌避感が強い。毒殺の時もゆっくり休める薬と言ってネルネに持たせたワケ。

 今回はどうか? 言ってはナンだが近衛兵達に俺はモテモテ。そりゃあもう、宗教染みたレベルで崇拝されている。そんな彼らに俺への敵愾心を植え付けるのは並大抵じゃ無い。

 どうせ欲望や独占欲と紐付けて、ユマ姫と結ばれるにはコレしかないとかそんなんだろう?

 わざわざキツい言葉で殺せなんて言わんでも。ユルユルになった精神力で俺の穴までユルユルにしちまえば、勝手に血みどろの殺し合いが始まるに違いないのだから……

 

「まさか! ワッツ副長に限って」

 

 だよな、真面目そうだもんね。俺はちょっと服をはだけたまま、残った兵士の一人に抱きつく。

 

「本当なんです! わたし! 恐くて!」

 

 嘘だがな! 涙ながらに見上げると、ハッと息を飲むのが解った。

 

「何を? されたのです?」

 

 何をって? 部屋に入ってそんなに経ってないだろう? たぶん整合性とか考える脳みそが飛んでるね。

 

「私の服を脱がすと、無理矢理……」

 

 兵士の手がプルプルと震える。俺は他人事の様にソレを冷めた目で見つめた。

 そんで、ゴクリと唾を飲む音まで聞こえたと思ったら、震える手でガシッっと肩を掴まれる。

 ちなみに肩はこの世界では性的な場所だからね、あんまり鷲掴みにするモンじゃないよ、お姫様との約束な。

 

「無理矢理、こうしたのですか?」

「キャッ!」

 

 更には押し倒される。コレはもう万国共通でアウト。半端に服をはだけていたから、冷たい床材の感触を味わうハメに。

 

「アイツは! 姫サマになにを? 俺より先に!」

 

 目が血走って正気では無い。それは他の兵士もだった。

 

「オイ、俺が先だ」

「まて、階級順だろうが!」

「この期に及んで、階級なんざ関係ないだろ?」

「真面目にやれ! 俺は姫サマをお守りしてるんだ!」

「その体勢でどう守ってるって言うんだ!」

 

 ギャーギャーと騒いでくれる。まさに脳みそトコロテン状態である。いっそ、色々と聞いてみるか? トコロテンみたいに、ビュッっと答えてくれるかも。

 俺はにこやかな笑みさえ浮かべ、覆い被さる無礼な男に、あえて自分から抱きついた。

 

「素敵な匂い。香水ですか?」

「にお……い? 匂いとは?」

「覚えがありませんか? でしたら、どこかでお香でも使いませんでしたか?」

「そうだ……野営の途中で良い匂いがしてきた、かも?」

「お香なんて焚いてない、だけど煙は良い匂いだった」

「きっと俺が勝手に焚いてたんだ、俺のお陰ですよ」

 

 みんなして、ボーッとした顔で語り出す。物事の整合性やらがグチャグチャだ。

 

「女性がいませんでした? 黒髪の」

「居た、かもしれない……」

「彼女は何と言ってました?」

「そうだ! ユマ姫が偽物かもしれないと」

「私が、偽者ですか?」

「あ……ああ」

 

 押し倒した体勢。兵士の顔が至近距離に迫る。お互いの顔が良く解る距離、相手はまたもゴクリと唾を飲む。

 

「犯せと。汚れ無き聖女が汚れるならば、偽者だと暴けると……俺が……俺だけが暴けると」

「なるほど……」

 

 グダグダだ、思った以上に洗脳は適当で良いのか。コレは良くない情報だな。

 

「そうだ、俺が、俺達が! ユマ姫の正体を暴くんだ!」

「何を!」

 

 今まで揉めていたのにどうした事か。五人の兵士が団結し、一斉に俺へと襲いかかる。

 腕を、足を、皆が寄ってたかって取り押さえ、口さえも封じる。

 

「ふぐっ! ふぐぐぐぐ」

 

 精一杯の抗議。そっくりさんじゃないよ! 本物だよ! 髪色は違うけどね!

 あ! アニメだとなりすました他人フラグじゃないですか、やだー!

 

「まぁ見てろよ、俺達がタップリ穢してやるから」

「ハァハァ……」

「そうだ、偽者なんだ」

「俺達が……俺達で!」

「俺達のモノだ!」

 

 力自慢の男五人に組みしだかれて、一斉に犯されそうになる。いやー恐い。

 キュンと来ちゃうね。エロゲーみたいだな!

 でも、こう言うシーンで大写しにするべきは犯されそうな女の子の姿だろ? なんで俺の目の前にはむさい男共しか居ないのか?

 あ、俺が女の子役ですか? そうですね。

 馬鹿な事を考える俺の眼前に迫るのは、突き出されたむさ苦しい男のクチビル。こんなクソゲー返品でしょ。

 

 ――サクッ

 

 でもコレ。ジャンルはホラーなんですよ。

 唇から出て来たのは舌ではなく、ナイフの先端。

 

「ハァハァ! 死ねッ!」

 

 はい、シャリアちゃんです。彼女が居るのに放置してる段階で兵士達はハッキリと壊れてるんですわ。

 服をはだけた俺しか見てないんだから、そりゃシャリアちゃんだって拗ねるよ。彼女もお年頃の女の子だよ? プライド傷つけちゃダメ!

 

「ゲッ! ゴフッ」

「きたないッ!」

 

 兵士の口から粘ついた血がゴボッっと零れるので、俺は体を捻って回避する。

 と、その間もシャリアちゃんはサクサクと死体を作成していくのだった。かるーく刺しただけなのに次々と殺していくから凄い。

 これぞプロの仕事だね。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 近衛兵の始末が終わってホッと一服。俺はシャリアちゃんとお食事会の真っ最中だ。

 モグモグ。

 

「で、魔女を追ったら近衛兵が洗脳されていたと?」

「ハイ、妨害しようにも見た事も無い怪物を使役していて。とてもじゃないですが今の私では倒せないと……」

 

 王蜘蛛蛇(バウギュリヴァル)だろう、あんなのが居たら手を出さないのが正解だ。

 

「それで、魔女と魔獣が離れた瞬間を狙ったのですが……」

 

 その辺りが俺が制御室で光点を見たところだろう、シャリアちゃんは少し離れた場所で様子を窺っていた。

 しかし、暗殺は洗脳された近衛兵に妨害されたらしい。

 

「ケシは痛み止めの効果があるので何度か使った事があるのです」

「そうなのですね、下手をすると中毒性のある危険な薬です、常用する事の無いようにして下さい」

「そうなのですか?」

 

 うーん、ケシが麻酔になるとは知っていても、麻薬に成る事は知らないか。

 

「どちらにしろ、手足の感覚が鈍るのであまり私は使いません。魔力酔いを起こすこの状況では使った方が良いのかも知れませんが……」

 

 下手をして魔女に操られたら元も子もないしねぇ……そうなると気になるのが生死不明の隊長さん。

 

「ゼクトールさんは? 近衛兵の隊長なのですが」

「一人、効きが悪かったらしく、その場で魔女に刺されていました。恐らくは……」

「……そうですか」

 

 ううっ、ゼクトールさんだけは頑張ったんだなぁ……泣けるぜ。

 と、ソコに木村の声が聞こえて来た。

 

「ユマ姫! ドコです!」

「ここです!」

 

 おおっ! 良くココが解ったな!

 

「なっ! 何ですか? コレは!」

 

 木村はすっかり腰が引けている。アラかわいい。

 うんうん、女子会のただ中に入っていくのはハードルが高いよね。その気持ち解るよ。

 

「食事中です、食べますか?」

 

 血の池の中。ナイフでこそぎ取ったモノを笑顔で木村へ突きつける。

 この女子会。話すのは恋バナじゃないし、食べてるのはクレープじゃ無い。

 殺戮の反省会と人間の脳みそだ。

 

 木村も混ざりたいなら混ざっても良いよ?

 

「いえ、遠慮しておきます」

「そうですか……」

 

 言いながらも俺は脳みそをパクリ。そう言えば味覚が戻って初めての食事だ。

 濃厚で旨いと言えば旨いけど、醤油が欲しいねコレ。

 そんな俺達に、引き攣った顔の木村から控えめな提案が。

 

「あの、食事でしたら腕によりを掛けたモノを提供しますので。まずはココから脱出しませんか?」

「そうですね……」

 

 ノリで食べてしまったが、もっと久々の味が解る食事を大切にするべきだったか?

 しかし美女が二人、血溜まりの中で人間を食べてるってビジュアルはどうかね?

 結構そそるんじゃありません? 俺は血塗れのままに妖艶に微笑んだ。

 

「私が、恐いですか?」

 

 凄惨な光景から目を背ける木村に問いかける。

 

「俺は、……可愛いと思いますよ?」

 

 ツンデレを披露した時と一緒じゃネーか! 俺のツンデレはそんなにグロ案件だったと言うのかね?

 プンプン!


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