死憶の異世界傾国姫 ~ねぇ、はやく、わたしを、殺して~   作:ぎむねま

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問題作


閑話_時間停止者は九割やらせ

 ココは王宮の一室。俺の私室の一つであり、寝室でもある。更に言うと木村に殺してくれと迫った部屋でもあった。

 

 つまり、俺にとって最もプライベートな部屋と言えるだろう。

 

 こんな場所で、またしても木村と二人きり。不貞を疑われても仕方が無いが、これには理由があった。

 

「カレーですね……」

 

 目の前に鎮座するカレーライスである。

 

「ええ、米と合うように改良を加えました。ご賞味下さい」

 

 何を隠そう久しぶりに味覚が戻って以来、俺は美味しいモノを食べる度に放心してしまう体質になってしまった。

 それに気が付いたのは、この前発見したチョコレートを食べた時。

 正に幸せの暴力。染みたね、臓腑に。

 

 で、気が付いたら夜だったから驚きだ。一服盛られたかと思ったね。

 このままではいけない、いざと言う時に大変な弱点となってしまう。音痴なんてこれに比べれば小事に過ぎない。

 毎回毎回、美味しいモノを食べるだけでポンコツになる姫なんて、社交界にも出せないだろう。

 俺には政敵だって多いし、何より気を抜けば『偶然』が殺しに来る。

 だからコレは特訓なのだ! 秘密を知られぬ様、美味しいモノは私室でコッソリ食べる必要があった。

 俺はこの弱点を人知れず克服せねばならない。

 

 絶対に、カレーライスになんて負けたりしない!

 

「では! 行きます」

 

 暴力的に食欲を刺激する香り。とろける様な飴色のルー。

 一匙スプーンに掬うも、口に運ぶのが怖い。

 

 厳しい戦いになりそうだった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 ご飯が手に入ったら是非作りたかったのが、このカレーライス。

 自分でも会心の出来ではあったが、食べたユマ姫の反応は想像以上だった。

 

 ――カチャカチャカチャ

 

 二人っきりの寝室に、静かに食器の音だけが響く。

 

 ユマ姫がカレーをかっ込む音であった。ワイルド感溢れる感じが最高に可愛い。

 だけど虚ろな瞳には光は無く、意志の力を感じない。

 

 その姿、完全にキマっていた。

 

 ……カレーでトリップするヤツ、初めて見た。

 

 嬉しいを通り越して、若干怖いまである。

 

 キレイに食べ終わると同時、「ほげー」と音がしそうな程に放心した。

 

 コレだ! 最近のユマ姫は美味しいものを食べると意識を飛ばし、無防備な姿を晒してしまう。

 この場で食べるように提案したのは俺。余人に見せられない顔であるので仕方が無い。コレを見るのも楽しみの一つであった。

 

 だが、今回はコレに終わらない! 全ては計画通りであった。

 

 俺は焦点の合わぬユマ姫の眼前でパタパタと手を振る。しかし無反応!

 

 キュッキュッ!

 

 カレーの付いた口をハンカチで拭き取る! しかし無反応! ほっぺた柔らかーい!

 

 再度目の前で手を振るも、やはり意識は無い。

 いよいよだな、始めるか!

 宴の時間だ!

 

 

 俺はユマ姫の背後に回り込むや、ウェーブが掛かったピンク髪を掻き分ける。

 

「これがユマ姫のうなじ!」

 

 まだ幼い少女の細い首筋が露わになった。ロングヘアだから中々見られないポイントである。

 ユマ姫の香り! ラクトン! 桃の香り! たまんねー

 髪がピンクになった影響か、最近はゴスロリっぽいフリフリの衣装を着ることも多いユマ姫。

 

 オラ、ワクワクすっぞ!

 

 次は正面に戻る。まだ光の戻らぬ眼差しを指差し確認すると、フリフリのスカートを大胆にめくり上げる。

 

 するとどうだ? 同じくフリルの入ったパンツとご対面!

 

 どぎついカラーリングの縞々タイツが作る絶対領域がアクセント! ゴスロリ感いいね!

 

 ちなみに、タイツもスカートもパンツだって、全部俺の商会から送ったモノだ。自分で作って自分でご対面! とか喜んでるの、正直キチガイ感ある。

 だけどな、こう言うのは履かれているのが良いんだよ! 俺が作ったのはタダの布! 履かれた時に初めてパンツへと進化するのだ! かといって『ユマ姫(下半身だけの姿)』はNGな!

 

 しかし、この聖域に手を出すのは早計だ。コイツの言う『偶然』は神のお墨付き。面と向かって逆らうには危険に過ぎる。決して安易に踏み込んではならない!

 

 俺は再び背後に戻ると、髪の間に顔を埋めた。

 あーユマ姫の匂い! たまらないんじゃー! クンカクンカ!

 と、その時俺に、電流走る。

 

 いや、待て! 後ろから密着したこの体勢! 胸を揉めるのでは?

 

 いつもいつも、揉みたい揉ませろと冗談めかして言っては居るが、実のところ心底揉みたい。

 このチャンス、逃して良いのか?

 

 良くない! 俺はやるぞ!

 

 おずおずと脇の下に手を入れる。ここも柔らかい! 脇を舐めたい!

 だが、目的地は先、小ぶりで控えめなふくらみだ。それが、いよいよ射程に収まった。

 包み込む様に手に収まる。それだけで堪らない背徳感があった。

 

 ――むにっ!

 

 揉んだ! 揉んじゃった! 堪らん弾力。

 乳首! 乳首はどこだ! ココか?

 

「ンッ!」

 

 あ! 声が出た! ユマ姫の! 覚醒した?

 俺は思わずフリーズしてしまった。こうなれば何事も無かったかの様に離れ、誤魔化すのが正解なのだが……

 

「…………」

 

 だが、姫の体が反応しただけで意識は戻ってないらしい。

 まだ? まだイケるか? よーし今度は乳首をコネコネと……

 

 

「……なにしてんのお前?」

「ファッ!」

 

 田中だった。

 

「え? お前、プラヴァスに行ったはずじゃ?」

「いや、何の用意も無しに行けるかよ。細かい要件を詰めてくれや」

 

 確かに、歌姫もカレーのスパイスも詳細を詰めていない。コイツの足ならどうか知らないが、通常は片道で二ヶ月は掛かる道のりを適当な情報で出発したくは無いだろう。

 

「で、何やってんの?」

「…………」

 

 うなじに顔を突っ込んで、後ろからおっぱい揉んでます! 見ての通りです。

 仕方無く俺は、田中に事情を説明することにした。

 

「え? 放心してる相手に? セクハラ? もう半分レイプだろ? そもそも、真剣に頼めばコイツそれぐらいやらせてくれるんじゃネーの?」

「それじゃ意味が無いんだよ!」

 

 絞り出すような俺の絶叫が木霊する。

 やはり、田中は全く解っていなかった。セクハラの醍醐味ってヤツを。

 

「いや、解りたくないんだけど? なんなの?」

 

 胡散臭い顔で見つめる田中に、俺は元気良く宣言した。

 

「時間停止モノのAVみたいで興奮します!」

「刑務所でも元気でな」

 

 俺の一世一代のカミングアウトは、しかし完全にスルーされた。

 肩を叩くの止めてくれ!

 

「いい、いやぁ? 殆ど同性の友達みたいなモンだし!」

「どう見ても未成年者略取です、ありがとうございました」

「待て待て? この世界では成人している扱いらしいよ?」

「一応、姫だぞ? この世界では断頭台一直線に決まってんだろ!」

 

 ですよねー。だが、俺だって聞きたいことがあるよ?

 

「お前だってどうしてココまで入ってくるんだよ! 姫の寝室だぞ?」

「そりゃ、無防備な姫を護衛しろってシノニム嬢に言われてだが?」

 

 はい、そうですね。完全に筋が通っている。コレは非常にマズイ。許して貰っても俺の立場がマズイ。

 悩んでいると、呆れた様子の田中が気になる事を言い始めた。

 

「ま、護衛は要らなかったみたいだけどな、乳繰り合うにしても仕事の話を先にしてくれ」

「ん?」

 

 

 あ、あれ? 護衛は要らない? まさか、ひょっとして、ユマ姫は既に意識があったり? 俺ってば、気を使って貰っていた? だとすると気まずさの断頭台一直線。

 俺は慌ててユマ姫の正面に回り込む。

 

「あー違ぇよ、オイ! そろそろ出て来てくれ!」

 

 田中が叫ぶと同時、顔を真っ赤にした女性がクローゼットから飛び出して来た。豪奢な金髪をブンブンと振り回している。

 

「どうして! どうして? いつもいつも! 良いところで邪魔をするの!」

 

 シャルティア嬢改め、シャリアちゃんだった。メイド服に身を包み、手には魔剣。

 マーロゥ少年からのお下がりであるが、キチガイに刃物を超えた危険な取り合わせ。

 ってか、なんで居るの? 護衛? ずっと見てた!?

 

「良いところだったのに! どうして! どうして!」

「うわっ! ふざけんな! 落ち着け!」

 

 シャリアちゃんは泣きながら魔剣を振り回す。

 

 遺跡の硬質な壁を削った魔剣は折れて、短剣のサイズになってしまった。

 それが却ってシャルティア嬢の手に馴染んだようで、素早い剣筋は田中ですら不格好に身を仰け反らせる程のモノだった。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「うひゃひゃ、コイツら! バカでしょ!」

 

 俺は『参照権』で放心していた時の顛末を確認していた。

 

 木村は気付いてなかったみたいだが、目で見たモノは、たとえ放心していようが後から参照権で確認可能だ。

 だからチョコを食べた時は勿論、お米ごと木村の手を舐め、抱える様に寝た時だって、俺は何が起こったか知って居るのだ。

 

 俺がチョコレートを食べたときは、もうちょっと控え目だった。

 なんかソワソワした様子の木村。髪を触ったりお尻を撫でたりの軽いセクハラ。

 それが解っていて、敢えて私室で二人っきりになった。

 

 ……別に、俺の体に何をしたって良いし、胸ぐらい揉もうが、うなじに顔を突っ込もうが、いっそ、手酷く犯そうが構わない。

 殺してくれと頼むぐらいなのだから、覚悟があれば何をしても構わないのだ。俺だって二人きり、それぐらいの気持ちでカレーを食べたのだから……

 

「それにしても時間停止モノのAVはねーだろ!」

 

 想像以上に楽しそうなんだけど? 俺も時間停止する女の子が欲しいです。

 アイツの性癖拗らせもここまで来たのかと感無量。俺も見習っていきたいね。

 

 それにしても誤算だったのはシャリアちゃんが俺と木村がイチャイチャ? 楽しそうにしているのを覗く趣味があったことだ。

 護衛としては頼もしいが、危険人物過ぎて恐い。

 

 田中と木村、シャリアちゃんの乱痴気騒ぎを確認しながら、俺はケタケタと笑うのであった。




七章がまだ出来て無いので、今後の更新がどうなるか誰にもわからない・・・

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