死憶の異世界傾国姫 ~ねぇ、はやく、わたしを、殺して~   作:ぎむねま

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七章開幕だが……もはや転載ストックはほぼ無い。
投稿は不定期へ……


七章 砂漠の歌姫の涙
紛争の始まり


 銀の穂先がズラリと並び、夏の陽光をギラギラと反射する。

 長大な槍、抱え並ぶは鎧姿の男達。その数は千にも届かんばかりだった。

 それだけではない。背後には彼ら以上に勇壮な重装騎兵が百も控えている。

 

 彼らこそ、王国南東部、テンタクール領のデルタ騎士団。そのほぼ全軍だ。

 暴力の権化たる騎士団の威容。この世界の人間であれば、誰でも心がざわつくに違いない。

 更に言えば、彼らは自領を守る為に出陣したのではない。

 彼らが陣を構えるはゼスリード平原の中心部、国境線である大河フィーナスを望まんとする場所だった。

 

 ゼスリード平原はユマ姫が恐鳥(リコイ)に追い回され、霧の悪魔(ギュルドス)が暴発した場所としても記憶に新しい。

 ここに再び帝国の魔の手が迫ろうとしている。その救援の為、遠路はるばる加勢に駆けつけたのだった。

 

「コレを見て攻めて来るというなら、遠慮せず来るが良い」

 

 自信たっぷりに言い放つのは白髪の老人。一癖も二癖もある笑顔を顔に貼り付け、馬上から陣容を見下ろしていた。

 この老人こそがテンタクール領主、ルメルド伯その人である。

 独立独歩で生きてきた偏屈老人、そんな彼に苦言を呈することが出来る人間は少ない。

 

「ルメルド伯、敵の策が読めません。コレほどの大軍で挑まず、まずは小勢で一当てするべきでしょう」

「くどい! その様な小細工、デルタ騎士団には不要!」

 

 ルメルド伯は素気なく一蹴するが、彼に進言したのは同格である伯爵。それも今回救援を求めたオーズド伯だった。

 

 口には出さないが、ルメルド伯はソレが気にくわないのだ。

 

 ルメルド伯はカディナール王子の熱心な支持者の一人だった。

 人間を剥製にする凶行で失脚……いや『処理』されたカディナールだが、見た目は美しくありながら、非情な決断も下せる人間として、王の資質は一定以上あったのだ。

 少なくとも庭に芋を植えるボルドー第二王子よりも華があり、貴族受けは良かったのは確かである。

 最大派閥の幹部として隆盛を誇っていたルメルド伯だが、ユマ姫の登場から全てが変わってしまった。

 現在、カディナール派の落日は目に余る程。狂人の片棒を担いだとして、ルメルド伯には王を暗殺した首謀者の疑いまでついて回る。

 偏屈なルメルド伯にとって唯一の親友であったルワンズ伯など、ユマ姫を嘘発見器にかけたしばらく後に不審死を遂げている。

 

 一方で気に食わぬ若造である、このオーズド伯はどうだ?

 スフィールを帝国へ委譲せんと企むグプロス卿を成敗し、ユマ姫を救った立役者として市井での評判もうなぎ登り。

 王国にこの人ありと言う名声まで手に入れてしまった。

 何事も如才(じょさい)なくこなすが慎重でつまらない男、と言うのがオーズド伯の印象だっただけに、ルメルド伯はこの英雄扱いが面白く無い。

 自分達の権勢をオーズド伯に奪われたかの様な、理不尽な苛立ちすらも感じていた。

 

 そんな彼にとって、『帝国に侵略の気配あり』の報はかつての地位を取り戻す為の一歩として願ってもない物だった。

 搦め手でスフィールを手に入れたオーズドなどより、優れた武力を誇り、堂々とスフィールを防衛した我こそが真の防人であると国中に知らしめる。

 その為には派手で大きな勝利を必要としていたのだ。

 

 だが、コレから侵略しますなど、そんな解りやすい侵略戦争などあり得るのだろうか? 少なくとも今までの帝国の手口から考えると、余りにも正々堂々としている。

 まるで、こちらの迎撃準備が整うまで待ち構えていた様な印象すらあった。

 それがオーズドには不安で仕方ない。だからこそ必死でこの老人を止めているのだ。

 

「コレは罠です、ルメルド伯! 遮蔽物の無いゼスリード平原。銃撃に(さら)されれば命はありません」

 

 オーズド伯の訴えは正しい。既に戦争の形は一変しているのだ。

 

 今までの様に弓で牽制し、槍で突撃、満を持しての騎兵隊。そんな戦争は終わって

しまった。

 銃がこの世界に現れてしまった時点で、平和な戦争は終わりを告げた。しかしソレが老人には解らない。

 

惰弱(だじゃく)な! 我らが重騎士が鉄の欠片に後れを取ると思うてか!」

 

 唾を飛ばして大喝する。

 この老人も当然に鹵獲した火縄銃の試射を見ているが、本質的にその能力を理解していなかった。

 

「あんな物、何の脅威であるか! 一射するのに四十秒、その間ワシのロングボウなら五、いや六発撃てる」

 

 老人の言うとおり、火縄銃の欠点の一つがその連射性の低さにあるのは異論の余地が無い。

 弓の名手であれば、火縄銃を撃つ間に三、四発撃てるとしても驚きではない。

 

 ……それでもだ、それでも、火縄銃は戦国時代を大きく変える兵器であった。

 銃の数は少なく、精度も劣悪、火薬の製造もままならなかった時代であってもだ。

 

 和弓は決して弱い弓では無かったハズだ、竹を貼り合わせ、向きを変え焼きも入れ。一種のコンポジットボウの様な効果を持っていた。更に言えば馬上ですら使える大型弓は世界でも例が無い。

 それでも、銃の時代の到来を止めることは不可能だった。

 

「その鉄の欠片で、自慢の重装騎士が倒れる事になるとしてもですか!」

 

 オーズドが叫ぶ。

 彼は銃の恐ろしさを正確に把握していた。まずは威力が高い。そしてなにより弾速が早い。

 

 弾速が早いとどうなるか? 曲射の必要が無いのだ。コレが大問題だった。

 

 通常の弓であれば、遠距離となれば角度を付けて射るしか無い。そのため、密集陣形のど真ん中を狙ったとして、それでも矢の大半は地面に突き刺さる事になる。

 そうで無くても、頭上から山なりに落下してくる矢を防ぐことは難しくない。

 では銃はどうか? 小さな鉄の欠片が音速で飛来するのだ。防ぐことは不可能。更に言えば集団に目掛けて撃てば外す方が困難と言える。

 

 同じ射撃武器でも点と線の違いがあるのだ、命中率が全く違う。更に言えば習熟するための時間はもっと違う。

 そう言う意味で、このゼスリード平原は銃を相手に戦うに最悪の場所と言えた。

 

「あんな欠片が当たったところで、痛痒(つうよう)も感じぬわ! それをワシが証明してやる!」

 

 ルメルド伯はそう吐き捨てて、フィーナス川に掛かるゲイル大橋に向かってしまう。

 そこで対岸に待ち受けていたのは帝国兵。その数、五百。

 デルタ騎士団はフィーナスを挟んで帝国軍と向かい合う事になるのだった。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「やぁやぁ、遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ。我こそは――

 ――パァァァン!」

 

 帝国と王国を繋ぐゲイル大橋。アーチ状の石橋で長さは百メートル以上、幅は五メートル。この世界で最大の橋であった。

 帝国と王国の関係が良好であった時代に築かれ、どんな大水にも流されずに今日までその姿を保っている。

 戦端が開かれる際は、それぞれ最も優れた兵士を一人選び、両雄の決闘を合図に戦いが始まると言うのが千年続くお約束であった。

 

 しかし、その約束は乾いた発砲音で無惨にも引き裂かれた。

 

「卑怯なり! 武人として恥を知れ!」

 

 顔を赤くして叫ぶルメルド伯。

 無理も無い。橋で名乗りを上げたのは伯が自慢とする音に聞こえた豪傑だった。

 それが名乗りを上げることすら叶わずに、無粋な弾丸に引き裂かれた。

 

 コレで怒らぬ者は居ないだろう。

 

「突撃ィィ!」

 

 ルメルド伯の顔は赤を過ぎてどす黒く染まり、青筋を幾つも立てての絶叫だった。

 ゲイル大橋目掛け、伯が自慢とする精兵たちが殺到して行く。長槍を掲げ一目散に突撃する迫力は、魔獣であってもギョッと目を剥くに違いない。

 目の前で仲間が卑怯な手で討ち取られた。その怒りは一兵卒まで伝染する。全軍が一匹の怪物と化しての突撃であった。

 一方で帝国兵の士気は上がらない。誰が見ても卑怯な行い、無粋な新兵器で堂々名乗りを上げる兵士を打ち抜いたのだから当然の事。

 

 戦争と言うのは命の削り合い。通常の心理状態では行えるモノでは無い。

 ならばまずは両雄の一騎打ちで、その気分を盛り上げてから始めると言うのは理に適っている。現代人から見ると愚かなお約束に見えるかも知れないが、決して馬鹿にして良い行いでは無い。

 決闘を踏みにじった帝国の士気の低下は明らか。両軍がぶつかった時にその勢いの差はそのまま戦果となって現れる……ハズであった。

 

 ……だが、そもそもが、()()()()()()のだ。

 

 ――パァァァン!

 

 その斉射で十人の兵士が死んだ。それも、一瞬で。

 

 トリガーを引くだけ。特別な覚悟が要らず、特別な技術も要らない。

 橋に殺到した兵士、外す方がよほど難しい。矢と違い、守ることも不可能な不可視の弾丸が兵士を襲った。

 先頭の兵士達が死に、つっかえて動けなくなったところを横あいから打ち抜かれる。

 橋の上で動けない彼らは、対岸で扇状に広がって銃を撃つ帝国軍にとって的でしか無い。

 

 ――パァァァン!

 

 怒りに染まった兵士は味方の死体を掻き分けてでも前進するが、すぐに銃弾に倒れ、自分が新たな障害物として後続の進行を妨害してしまう。

 しかも、帝国は三百人の鉄砲隊を三つに分けての三段撃ちを行っている。その銃弾が途切れることは無かった。

 ルメルド伯は四十秒と言ったが、慣れれば二十秒ほどでの発射が可能。

 全員のタイミングを待っても、三十秒もあれば二発目が撃てる。つまり、三交代であれば十秒ごとの斉射が可能であった。

 

 ――パァァァン!

 

「クソッ! 駄目だ!」

「逃げッ、頼む」

 

 そうして無為に死に続ければ、止まらぬ一匹の獣とて、ただの群衆に成り果てるのも時間の問題。

 

「引けッ! 引くんだ!」

 

 コレは現場指揮官の判断。

 だが、引く時は攻める時より悲惨な行軍となった。死んだ人間を踏みつけて深く進行した兵は、今度は生きている人間を踏みつけて我先にと陣地へ戻ろうとした。

 このとき足蹴にされて死んだ兵士の数は十では効かない。

 

「卑怯な! 卑怯なり!」

 

 叫び続けるルメルド伯だが、戦争の変化の被害者とも言える。指先で人を殺せる銃であれば戦争にまつわる儀式は不要なのだから。

 しかし、アレだけ虚仮にされ、一当てすることも叶わず敗走したとなれば、一転、士気は地に落ちる。

 そこで動いたのはオーズド伯。

 

「私にお任せ下さい!」

「小僧が! やれると言うか!」

渡河(とか)だけならば問題はありますまい。そこからはルメルド伯にかかっておりますぞ」

「ふん、河さえ渡れれば騎士団は無敵よ!」

「では」

 

 彼が連れ立ったのは小勢、それもとてもじゃないが戦いが出来ると思えない程にとんちきな兵だった。

 武器を持たず、巨大な手押し車一杯に藁を積み上げている。

 

「何じゃアレは!」

「工兵です」

「工兵だとぉ?」

 

 この世界、まだ戦場を自分達に有利に整形すると言う発想は一般的ではなかった。なので工兵と言うのは、橋を作ったり、陣地を整形する為の兵科であり、前線に出てくるモノでは無かった。

 

「アレでどうするのだ?」

「突っ込みます」

「ハァ?」

 

 手押し車達がゲイル大橋へと殺到する。

 しかし、その大きな姿は火縄銃の的であった。

 

 ――パァァァァン!

 

 一斉掃射。……だが、濡れた藁を積み上げた手押し車は貫通出来なかった。

 火縄銃の威力は現代のライフルには遠く及ばない上、柔らかい鉛の丸玉は貫通力に乏しいからだ。

 不安定な手押し車で、死体を避けながらフラフラとした前進。通常ならば槍の一突きで粉々に粉砕される脆いモノだが、火縄銃には高い防御力を有していた。

 そして、積み上げられた藁を盾にして弓兵が前進する。

 

「グァァ」

 

 悲鳴を上げたのは火縄銃を持つ帝国兵。ココに初めて帝国側に被害が出た。

 弓兵が放った矢が砲兵に突き刺さったのだ。

 

 弓は曲射であるが故、積み上げた藁の上を飛び越えて射撃が可能。当然、めくら撃ちになるので命中率は劣るが、足を止めて三段撃ちを行う相手であれば多少は当たる。

 そして、今まで一方的に撃っていた側が一転、撃たれ始めれば案外脆いのは良くある話。

 規律正しい動きでの三段撃ち、その間隔が徐々に広くなっていく。

 

「荷を降ろせ!」

 

 そして、とうとう対岸に辿り付くや、手押し車は荷であった濡れ藁を投げ捨てた。言わば土嚢の様なもの、身を隠しながら矢での牽制を行えば、いよいよ渡河の準備が整った。

 

「良くやった! 行けェ! 騎士団の突撃じゃ!」

 

 ココでとっておきの重騎士団を投入する。積み上げた藁など、馬にしてみれば飛びごろのオモチャでしか無い。

 戦況に歯噛みしていたのは騎士達も一緒。接近さえすれば、鉄砲隊を馬上から散々に蹂躙出来るに違いなかった。

 

「……お待ち下さい!」

 

 しかし、ソレを止める者が居る。それもまた射撃を封じた功労者である、オーズドだった。

 

「何じゃ! 絶好の好機じゃぞ!」

 

 散々お預けを食らって、いざと言う場面でまたも止められた老人の苛立ちはピーク。

 だが、ルメルド伯はオーズドの次の言葉に顔を青くした。

 

「伏兵です、ソレも挟まれています」

「馬鹿な!」

 

 見れば左右から別の鉄砲隊が迫っている。その数はいずれも五百。これで兵数的にも完全に逆転された。

 

「奴らどうやって!」

 

 コレはオーズドと言えど予想外。

 ゼスリード平原は急流のフィーナス川で隔てられ、このゲイル大橋以外から兵を通すのは難しいハズであった。

 

 二人はあずかり知らぬ所だが、帝国はこの日のために準備を重ねていた。

 

 そのタネは竹。実は大森林で禁忌の植物とされているのが竹だ。

 

 竹は地球でも成長が早い植物。無数の節から一斉に樹高を伸ばすのである。しかもこの世界の竹は節が倍はあり、魔力を糧に成長するので更に早い。

 その幼木を河の両岸に植えれば、三日程度で成長し、根はびくともしないほどに固定される。

 両岸の竹同士を縄で結び、間に板を通す。これだけで人間一人ぐらいは渡れる橋が完成する。

 ただし、これでは馬は無理だし、軍の進軍など絶対に不可能。

 そこで、縄にフウセンカズラの様なつる性の植物を巻き付け成長させておく。

 数日で巨大な風船状の実を幾つも付けるのだが、この実は浮力が強く、決して沈まない。

 この縄に板を通せば、浮力で浮き上がり、竹に結んであるために流されることも無い。

 長く使えるモノでは無いが、一時であれば軍用にも耐える橋が完成する。

 

 コレは当然、帝国の技術では無い。エルフを裏切った植物学者、ドネルホーンの策であった。

 

「撤退ッ! 撤退だッ!」

 

 強力な射撃武器を持つ相手に包囲されれば命は無い。ソレが理解出来ぬ程の無能は居なかった。

 全軍は尻に火を付け逃げに入る。

 

「ワシが殿(しんがり)を務める!」

「ご武運を!」

 

 ルメルド伯は頭が固過ぎただけで、決して惰弱な将ではない。数名の騎馬と共に殿についた。

 オーズドとしてもコレを止める気は無い。ここまで急激に戦況が悪化するとは夢にも思わず、ただ忠告をするだけのつもりで来たので供も少数、打てる手は全く無かった。

 

「マズイぞ!」

 

 しかし、逃げるよりも追う方が早い。さらに、ゼスリード平原は遮蔽物が無く良い的だ。

 

 ――パァァァン

 

 銃声が響く、その度に多くの兵士が地に伏せた。

 だが、兵が転がる理由は銃弾だけじゃない。

 

「ぐわっ!」

「足が!」

 

 足を取られ、転がる兵士が続出する。

 去年に大量の恐鳥(リコイ)が死んだゼスリード平原、その大きな死体は腐り果て、所々で柔らかな腐葉土を作っていた。

 足を取られれば助けるために数人の足が止まり、行軍速度は上がらない。

 

「コレは……マズいぞ!」

 

 オーズドは汚名を被るのも構わず、軍を見捨て単騎での逃亡すら視野に入れる。

 

 ――パァァァァン!

 

 また銃声がゼスリード平原に響いた。

 

「ウグッ!」

 

 いよいよ、オーズドの従者までもが弾丸を身に受けた。最早これまで、散り散りに逃げて命を繋ぐしか無い。

 オーズドが散開の命令を出そうとした、その時だ。

 

 その時、兵の一人が空を見上げて祈った。

 

「天使サマ……」

 

 天使……違う、空には一人の少女が舞っていた。

 

「アレは……」

 

 すわ、帝国の新手かと身を固くしたオーズドだが、よく見ればその姿には見覚えがあった。

 

「ユマ姫……」

 

 まさか、空を飛ぶとは……だが、一体何の為に現れたのか。

 

「おおっ! アレは!」

「姫様!」

 

 確かに士気は上がった。だが、それならもっと早く現れてくれれば……そうオーズドが思った瞬間、ユマ姫は急降下してくる。

 

 その着地地点は? 敵と味方の丁度中間。

 言うまでも無く、銃弾飛び交う危険地帯だ。

 

「なにを……」

 

 その言葉を継ぐ事は、オーズドには出来なかった。

 

 ――ドゴォォォォ!

 

 ユマ姫の着陸とほぼ同時。平原のただ中に、突如せり上がったのは巨大な土壁。高さは二メートル、幅は十メートル以上もあった。

 

 ……これが、魔法かとオーズドは言葉が無い。

 

 しかし、これで逃げられる。自分の指揮下でスフィールの兵と城壁を使えば幾らでも籠城出来る。

 そう思ったオーズドだが、ユマ姫が発した言葉は耳を疑うモノだった。

 

「さぁ、皆さん、反撃開始と行きましょう」

 

 夏の日差しも届かぬ土壁の影の中にあって、ユマ姫の姿だけが後光を帯び、不気味に輝いて見えた。

 錯覚だ……そう思うが、現実に光は目に突き刺さる程。

 

 殺戮の天使がついに地上に舞い降りた。


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