死憶の異世界傾国姫 ~ねぇ、はやく、わたしを、殺して~   作:ぎむねま

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ぐぬぬ


歌姫の足跡

 田中が王都へととって返した翌日、俺はリヨン氏に一人の人物を紹介された。

 

「あの、よろしくお願いします!」

 

 そう言って片手で胸を押さえ元気良く頭を下げたのは、まだ十三歳の女の子カラミティ。

 

「私の姪です、可愛いモノでしょう?」

「いや、リヨンさん、俺、本当にロリコンってワケじゃ……」

 

 無いよな? いや、そうかも? 実際にカラミティちゃんはメチャクチャ可愛い。

 

「良かったな、カラミティ。キィムラ様はおまえの事を気に入ったらしいぞ」

「ホント? やったー」

 

 いやいや、やってないやってない。いや、でも可愛いなぁ。褐色で黒髪なのはリヨン氏と同じであるが、眼は赤く、キラキラと輝いていて可愛らしい。

 カラミティが着ているのは赤とモスグリーンのワンピース。地球で言うならばカフタンと言う民族衣装が一番近いだろうか?

 長袖で丈が長いのだが首元は襟が無くザックリと空いている。その分、ネックラインには緻密な刺繍がされているのだが、それが剥き出しの鎖骨を強調していて、身長差から見下ろす形になるのだから結構エロス。

 

「……本当に注意してね、何かされたらおじちゃんに相談するんだぞ?」

「わかったー」

 

 やべー相談されちゃう! 洒落にならない。

 ソレにしたって、こんな女の子を紹介されたって手を出すのは危険過ぎるし、俺にはやることがあるのだ。

 

「あの、僕は砂漠の歌姫絡みで遅くまで調べ回るつもりなので、遊んでいるワケには……」

「だからこそです、キィムラ様は土地勘が無いでしょう? かといって私は公務がありお付き合いできません、案内役はいた方が良いと思いますよ」

「……それは、そうですが」

 

 ちなみに護衛は別に付けて貰える。本当はコッチで雇おうと思っていたのだが、リヨン氏に強く言われれば面子を潰す訳にも行かない。案内役としてはソレで十分すぎると思っていたのだが……

 

「解りました、ですが邪魔になるようならば帰らせる。それで良いですね?」

「勿論ですとも、カラミティ。しっかり街を案内なさい」

「わかりました。しっかりお供します」

 

 可愛らしくピコッっと手を挙げたカラミティ。

 英語だと災厄だが、コチラの言葉にそんな物騒な意味は無いハズだ。果たしてどうなることやら。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「え、ラミちゃんのお婿さんってこの人なの?」

「うそー年上過ぎない?」

「ラミちゃんブラッド家の人だもん、いろいろあるんだよ」

「政略結婚かぁ、お金持ちなの?」

「ちょっと頼り無い感じだよね」

 

 はい、頼り無い感じの木村です。

 俺達は女学生の軍団に取り囲まれてしまっている。

 プラヴァスで最大の図書館にやって来たのだが、図書館は学校の敷地内にあったのだ。

 早速、入場するにあたって学生であるカラミティが役に立ったのだが、カラミティの友達に見つかってしまったと言う訳だ。

 

「や、やめてよーそんなんじゃないの! キィムラさん、ごめんなさい」

「いや、構わないよ、友達が多いんだね」

「あ、いえ、あのー」

 

「「「「ラミちゃん照れてるー!」」」」

「もーウルサイ!」

 

 図書館の中だというのに元気に走り回っている。

 

 とは言え、図書館は英知の結晶。俺が入る時は歓迎ムードでは無かった。

 外国の商人と言う事で司書や衛兵達には緊張をもって迎えられたが、探している本が歴史や民俗学の本だと伝えた途端に当たりが柔らかくなったのが印象的だ。

 彼らは情報の価値を正しく理解しているのだろう、国力や軍事力、地理や地形を調べられては勝てる戦争にも勝てなくなる。ソレを知っている人材が揃っているのは良いことだ。

 そして、歴史と文化に興味がある人間には最大限の敬意を払う。

 

 素晴らしい事だが、俺はプラヴァスの歴史を学びに来た訳じゃ無いのが心苦しい。

 当時の伝承や言い伝えをまとめた書物をペラペラとめくる。

 紙は恐らくパピルスの様なモノだが、ほつれた様子も無くしっかりと読める代物だ。

 そして何より驚くのはその蔵書量。製本されていない巻物や紙の束が多いとは言え十万に迫る数があると言うから驚きだ。この量は王都の図書館を大きく上回る。

 そしてカラミティ達が上流階級の子女である事を差し引いても、それなりに一般に開放されている事も特筆に値する。

 ゆるい身分制度で文明レベルも低いと侮ったが違った。人口や経済規模から考えると学術レベルは図抜けて高い。

 恐らくは、乾燥した気候が紙の保存に適していたのと、古くからパピルスが普及していた事で知識の積み上げが可能だった事に由来する。

 二百年前に授与された土地の権利など破棄してしまえば良いじゃないかと、うっすら思っていた自分を恥じる。

 そんな無理が通るような未開の地では無いと言うことだ。

 

 そう考えれば、女学生ってのも文明レベルが高い証拠。俺は王国で学校などに投資して次代の経営者を育てようとした。

 ワンチャン女子生徒でハーレムルートも考えるぐらいには、当時の俺は性欲滾るお年頃だったのだが、結局は男の子だけしか集まらなかった。

 それがココでは女学生が和気藹々と勉学している。それだけで先進的な場所だと判断するに十分だ。

 

「あの、見つかりました?」

 

 と、カラミティちゃんが首を突き出して来たので、見ていたページを開いてみせる。

 

「歌姫と言う二つ名は一般的過ぎるからね、中々絞ることは難しかったんだけど……」

「そうですよね、プラヴァスはみんな歌が大好きですから、リーリッドって酒場にも歌姫って言われている女の子が居ますよ?」

「へー、行ってみたいね。だけど今回探している歌姫はリネージュ、彼女一人に絞った」

「えっと、リヨン叔父さんの言っていたポンザル家の恩賞と関係があるんですか?」

「そうだね、都合良く名前が出ただけで偶然かとも思ったけど……」

 

 調べると、彼女は当時の帝国からも王国からも招聘されていた。政治的にプラヴァスは板挟みに合った訳だ。

 政治の犠牲者。ユマ姫が言っていた特徴と一致する。

 その人気は凄まじく、伊達に大国同士で誘致合戦をするだけの事はある。だが、それ以外にも胡散臭い逸話が山盛りなのだ。

 資料を読んでいくカラミティちゃんが、ポカンと口を開けっぱなしにする。

 

「赤ん坊が泣き止んだとか、動物も歌に聴き惚れたとか、歌で果物が色づいたとか、天が感動で涙して大雨が降ったとか……これメチャクチャですね」

 

 そうなのだ、トンでも無い逸話が多過ぎて何が本当か解らない。

 

「雨は良いなぁ……私が歌っても雨、降らないかなぁ」

 

 カラミティちゃんは残念そうに言うけれど、雨は無いだろう。

 赤ん坊や動物も歌に聴き惚れる可能性はあるし、果物に影響を与える可能性だってゼロじゃ無い、だけど雨は難しい。もしも降るならば、対帝国に軍事利用したいものだ。

 一応は超音波で――とかあらゆる科学的可能性を考慮したけど、無理。

 

「それよりも人となりを調べていこう、更に言えば死んだ場所が解れば一番良い」

「死んだ場所? ですか?」

 

 意味が解らないよなぁ、そんなの。

 でも、ユマ姫の記憶の回収にはそれが一番重要なのだ。

 そうしてリネージュの記録を集めまくったのだが……

 

「プラヴァス南部の生まれ、ラクダ使いの両親の子供で、境界地で遊ぶのが好きなヤンチャな女の子。趣味は凧揚げで小さい頃から歌が好き、何でもよく食べるけど甘い物が好き……意味ないですよね? コレ」

「うーん」

 

 生まれも育ちも平凡。神懸かった力を持っているようには思えない。

 ……だけど。

 

「参ったな、本物みたいだぞ」

「ええ?」

 

 雨を降らせたと言う伝説はその数が多かった。彼女が歌った次の日には雨が降ると言うジンクスがあったというのだ。

 

「なんだ、それってタダの偶然ですよね?」

「まぁ……そうなんだけどね」

 

 そう言い切れないのが確率だ、彼女が大舞台で雨乞いの歌を歌った翌日の降水確率、資料にあるモノだけで計算すると、何と……72%

 ビックリするほどでは無い、と思うかも知れないがココは砂漠の都プラヴァスだ。驚異的である。

 

「訳が解らないな……」

 

 凧揚げが趣味だと言うし、空を見る力に長けていたのかも知れない。翌日雨が降りそうな時にだけ歌を歌う。

 そうして雨が降れば、縁起が良いと引っ張りだこになることは間違い無い。

 実際に、リネージュが歌えば雨が降るという噂は広く伝わり、干ばつにあえいでいた当時の帝国や王国もジンクスにあやかっての招聘だったと資料にはある。

 

「だとしたら、抜群に歌が上手かったワケじゃないのか……いや」

 

 資料を読めば、非常に高い声を出すことが出来て、犬が逃げ出したとある。

 犬笛みたいな可聴域を超える声を出すことが出来れば……動物を操って天気を? 無茶だな。

 

「あの、そろそろ閉館時間ですよ?」

 

 カラミティちゃんに言われて気が付いた、もう日が陰っている。

 

「じゃあ帰ろっか?」

「ハイ!」

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 二人で(もちろん護衛は居る)ブラッド邸へと帰路につく。

 カラミティちゃんも俺が居る間はブラッド邸で寝泊まりするらしいのだ。これアレかな? なんかマジで押しつけられようとしてるのかな?

 

「なんですか?」

 

 見下ろせば小首を傾げるカラミティちゃん。どうしたって首筋と鎖骨が眼に入る。コレマジで狙った衣装に思えるの、俺だけか?

 

「あ~いや……」

 

 思わず口ごもる。

 カラミティちゃんのあどけない赤い瞳。暗い夜道で光っている様にも感じて、不埒な心根を見透かされたかのようであった。

 三十のオッサンが十三の女の子に照れ照れするのはバツが悪い。

 ソコへ更なる追撃が入る。

 

「あの……手を握っても良いですか? 暗いですから……」

「ああ……良いけど……」

 

 握った手は小さくて、熱いぐらいに体温が高かった。

 遅れてきた青春を取り戻す様で、気まずいったらありゃしない。

 だけど、俺の青春ってヤツはいつだって邪魔が入るのだ。

 

「オイ、そのガキは俺様が眼を付けてたんだ」

 

 まだ日が落ちて間もない大通り、街の明かりに照らされて、俺達に立ち塞がって見せたのは黒いターバンの男衆だった。

 

 どうやら、ガキと言うのはカラミティちゃんの事みたい。

 

「アイツらは?」

「えっと、ポンザル家の四男のボイザン様……です」

「俺様が目を付けてるってのは?」

「あの、婚約を持ちかけられていて……」

「あー」

 

 ポンザル家の四男とブラッド家当主の姪っ子。

 身分的には妾腹の兄の子であるカラミティちゃんの方が低いと言えるし、仲違いしている現状で、コレを断ればブラッド家には矛を収める気が無いと喧伝されてしまう。

 ……だけど、アレは。

 

「汚ぇなぁ……」

 

 しみじみと呟いてしまう。

 酒焼けた顔に、前歯も抜けている。不摂生で腹はでっぷりと膨らみ、顔からは下品さがにじみ出ている。歳は四十に近いんじゃないだろうか? 判然としない。

 コレと結婚したいと思う女は居ないだろう。動きまでいちいちキモい。

 

「悪いけど、リヨン=ブラッドに正式に案内役として借りているんだ。話はそちらに通して貰えるかな?」

「案内だったら俺がしてやるさ」

「あんたが? やめてくれ気が滅入りそうだ」

「なぁんだとぉ?」

「あわわ!」

 

 ボイザンは下品な顔を更に歪めるし、カラミティちゃんは可哀想に慌てまくりだ。

 帰ってひとっ風呂浴びて寝ようかって時にズイブンと祟ってくれる。

 

「よそ者が偉そうにしやがって、王国一の商人だか知らねぇがロクに護衛も連れてねぇ、こりゃあ騙りじゃねぇのか?」

 

 ボイザンの煽りに怒ったのか、俺達の護衛がサッと前に出る。だが俺はそれを押し止めた。

 

「お前らみたいな雑魚に護衛なんて要らないだろ?」

「テメェ! 言ったな? 後悔させてやる、手ぇ出すなよ! 俺がやる」

 

 ボイザンというデブが直々に俺の相手をしてくれるらしい。助かるね。

 でも、カラミティちゃんには心配させてしまっているのが辛いところ。

 

「そんな! キィムラさん必要無いですよ」

「逃げても良いんだけどさ、コイツをぶん殴った方が早いしね」

「殺すぞテメェ! さっさと抜け!」

 

 シャランと音をさせ、ボイザンが抜き放ったのはシャムシール。反りが強い曲刀だ。

 対して俺が取り出したのは、小ぶりなナイフ。

 

「オイ冗談だよなぁ? そんなオモチャでどうするつもりだ?」

 

 ガッハッハと仲間一同笑ってみせる。典型的な悪役ってツラだ。

 それにしても、俺は目の前で視線を切っても良いぐらいには弱そうにみえるらしいな。

 確かに体捌きは素人だし、体格はひょろいが、身長はそれなりにあるんだが……

 悲しくなってくるね、面倒だから早くして欲しい。

 

「ごたくは良いから早く来いよ」

「ソッチこそしっかり構えやがれ」

「必要ねぇよ」

 

 俺は散歩するかの様に、無防備にスタスタとボイザンへと歩みを進める。

 

「テメェ!」

 

 慌てたボイザンがシャムシールを振りかぶった――その瞬間。

 

「斬って良いか?」

「なっ!」

 

 俺のナイフがボイザンの首筋へと到達していた。

 

「テメェ! どんな手妻を使いやがった! まだ距離は十分にあったはず」

「オイオイ、ソッチから近づいてきたんだろ?」

「馬鹿なっ! オイ、お前等なんでそんなに遠くにいる!」

 

 振り返ったボイザンは存外遠い仲間との距離に顔色を変える。しかし、問われた仲間達にはワケが解らないと言った風情だ。

 

「違いやす、ボイザン様があっし等から離れていったんでさぁ」

「馬鹿言え! 俺は動いちゃ居ねぇ!」

 

 そりゃそうだ、ボイザンは俺が()()()()()

 右手にナイフをチラつかせながら、左手で自在金腕(ルー・デルオン)を闇夜に紛れて足元に忍ばせ、踏ませる。

 後は間合いに入るや否やで引き寄せれば、体勢が崩れて剣は振れないし、ナイフの前に首筋を晒すってワケだ。

 

 まぁそれでも危ない事は危ないぜ? だけどこう言うのはタネを見せず、とことん余裕ぶってやるのがコツだ。

 俺は正体不明の異邦人。その有利は徹底的に使うに限る。

 

「なぁ? 斬って良いか?」

「ぐぅぅ」

 

 ナイフを押しつけ改めて俺が問いかければ、脂汗を浮かべて唸るばっかりのボイザン。

 

「やれぇ! スレイヤ! オメェの実力見せてやれ」

 

 破れかぶれで用心棒っぽいヤツに叫びやがる。

 

「良いのか? 本当に斬るぜ?」

 

 俺はより強く首筋にナイフを押しつける。

 

「出来るかよ? ポンザル家を敵に回してプラヴァスで生きていけるのか?」

「別にプラヴァスで生きないし? 忘れたか? 俺はよそ者だぜ」

「くそぉ……」

 

 くそぉ……って、コイツ本当に馬鹿だなぁ。自分で言っておきながらマジで忘れてやがった。

 

「カラミティはどうする? テメェが俺を殺したら報復されても文句は言えんぜ?」

 

 そんな道理は無いと思うが、責任は取れとリヨンに押しつけられそうではある。

 困ったな。

 

「じゃあ、オマエが頼みにしているスレイヤってヤツを殺させてくれれば手打ちで良いぜ?」

「ハッ! スレイヤを甘く見るなよ。プラヴァス一の剣士なんだ」

 

 いや、プラヴァス一の剣士だか知らないが、オマエのケツ持ちとして無条件に殺されろって要求なんだけど? なんで勝負するって話にすり替わってるんだ? まぁ良いけど。

 で、呆れていたら黒いターバンの大男が一人、音もなく飛び出して来た。

 

「オイ、貴様。ボイザン様を解放しろ」

「いやいや、殺すけど? オマエがスレイヤか? 武器を捨てろよ」

「ふん、殺さば殺せ! その時はお前も道連れだ」

 

 いやーマジでコイツら話が通じないね。コレがプラヴァス流なんだろうか?

 きっとそうなのだろう、味方側もおバカに飛び出して来た。

 

「キィムラ殿、こやつの相手は私が」

「ほぅ、カーリーお前か」

「そうだ、俺が勝ったらお前等には引いて貰う」

「私が勝ったらボイザン様は解放しろ」

「ああ」

 

 と、スレイヤとか言うボイザン側の用心棒が二本のシャムシールを抜き放つ。

 一方でコチラの護衛は巨大な曲刀を構えると、気合いの叫びを上げながら打って出る。

 

 なんか互いの護衛が勝手に出て来て、勝手に約束して、勝手に戦いが始まってしまった。

 俺はその間、このボイザンとか言うデブと密着していなくてはならないらしい。勘弁なんだけど?

 

 俺の困惑を無視して護衛同士で激しい剣戟が始まった。剣を翻しながらキンキンと打ち合うチャンバラは、アラビアンナイトの戦闘シーンを見ているようで見応え十分。

 しかし、チャンバラと違うのはこんな全力の剣戟が長く続くハズが無いと言うことだ。

 流石はプラヴァス一の剣士を名乗るだけある。一瞬の隙を突いてスレイヤの二刀がコチラの護衛の首筋を切り裂いた。

 

「キャァァァァ!」

 

 カラミティちゃんの悲鳴が上がり、護衛の首からはピューピューと血が噴き出す。

 派手だね、どうも。

 

「約束だ、ボイザン様を離して貰おうか?」

「えー」

 

 俺はそんな約束していないのだが?

 だけど、敵側のマヌケってのは時として味方の名将よりも得がたい財産だ。ココで殺してしまうのは惜しい。

 

「解ったよ」

 

 俺が解放するなり、ボイザンは醜く叫びやがる。

 

「ゴホッゲホッ! おいコイツを殺せ! 馬鹿にしやがって! 生かして帰すな」

「そう言う事なので悪いな旅の者、ココで死んで貰う」

 

 スレイヤは堂々と二刀を俺に向けてくる。はークソ。コイツら俺ルールしか無いのかよ。

 何でも決闘で解決ってか? じゃあ俺も乗ってやるよ!

 

「オイオイ、俺とは決闘してくれないの?」

「ご所望なら」

 

 言うなりブンブンと二刀を振り回しポーズまで決めてくる。

 え? これどうするの? 訳が解らずに待っていると、苛立ったスレイヤの声。

 

「構えろ!」

 

 あ、そう言う感じだ?

 

「構えたら戦闘開始?」

「そうだ! 早くしろ」

「あいよ!」

 

 ――パァン!

 

 取り出したのはリボルバー。外すハズが無い距離。放たれた弾丸はカッコイイポーズを決めるスレイヤの眉間を正確にぶち抜いた。

 

 男の巨体がバタリと倒れ、一瞬の静寂が訪れる。

 

「なっなぁ!?」

「なにが起こった?」

「嘘だろ! スレイヤの兄貴ィ!」

 

 仰天する一同。だけど俺にとっては驚く事じゃ全く無い。それどころか……

 

 恥ずかしいなオイ! インディージョーンズかよ!

 

「まだやる?」

「引け! 引くんだ!」

 

 尋ねればボイザン達は蜘蛛の子を散らす様に去って行った。

 

「さーて」

「わ、あわわ」

 

 護衛の死体を前にへたり込むカラミティちゃんを抱き上げ、背中をさする。

 

「大丈夫、恐くないからね」

「あ、あああ」

 

 いやいや、流石に目の前で人が死ぬのはショックだったらしい。

 護衛の人、派手に血を噴き出してたからなぁ。シャルティア嬢に鍛えられてなかったら俺でも血の気が引いただろうね。

 シャルティア嬢は生きたまま人間を分解して、見せつけてくるから凄い。猫が雀とか捕まえて来るヤツだよってユマ姫は言ってたけど、絶対に違うと思うんだ。

 

「ううぅ、腰が抜けちゃって」

「じゃあ運ぶよ」

「はわわっ!」

 

 護衛も居ないからね。俺がカラミティちゃんをお姫様抱っこで抱き上げて、ブラッド邸までエスコートする事になるのだった。


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