死憶の異世界傾国姫 ~ねぇ、はやく、わたしを、殺して~   作:ぎむねま

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最近、年末モードで、忙しい。


★露出狂か?

 雷の直撃で死にかけた俺こと、ユマ・ガーシェント姫はこの世の理不尽と戦っていた。

 

「だーれも居ないのかよぉ」

 

 一年掛かりの療養が明けたと言うのに、お迎えが無いどころか、部屋まで無人とはこれ如何に?

 田中と木村は砂漠の方へ出張と聞いていたけど、シャリアちゃんまで居ないし! シノニムさんはネルダリア領に戻ったまま。

 挙げ句の果てにネルネはヨルミ女王と遊びに行ってる。ハーフエルフのネルネに「お美しい女王陛下!」と言わせると気持ちが良いとか。

 そのコンプレックスの解消方法はどうかと思うが、ヨルミちゃんがソレで満足なら俺は何も言わないよ。

 ヨルミちゃんは内政をずいぶん頑張っていて、木村から経済的な知識をドンドン吸収しているらしいからね。

 

「皆、砂漠に行ってるのかぁ」

 

 独り言にも磨きが掛かる。プラヴァスは帝国や王国の管理下に無い、唯一の自治領域。ここを味方に付けることは王国の正当性を主張するのに随分と助けになるに違いない。

 

「じゃあ、行きますか!」

 

 髪を纏めて、革のジャケットに、リュックにブーツ。お姫様らしからぬ格好で準備万端。取り出したのは巨大なハングライダーだ。

 

「さぁていっちょ取ってきますか、記憶を!」

 

 鼻息も荒く、俺は王宮の窓から飛び出したのだった。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 で、どうなったかというと……そうなんです! 遭難しました。

 

 いやー、思ったよりも砂漠って暑かったなー。砂嵐も襲ってくるわでグライダーがおシャカになってしまえば、水が全く足りなくなった。

 歩こうにも目印が皆無。その上、砂地がメチャクチャに歩きづらいのなんのって!

 ようやく人が居る場所に辿り付いた俺は、安堵のあまり、そのまま眠りについてしまったのだ。

 

 で、その後は酷い物だった。

 まず、誘拐されて、犯されそうになった。その途端、不思議と始まる、人攫い同士での斬った張ったの殺し合い。

 ド深夜だと言うのに、大の男達が大騒ぎした結果。何事かと踏み込んでくる衛兵。助かった! と思ったのに何故か衛兵にまで犯されそうになる俺。下着姿で逃げ出す俺。

 時間が時間だけど、ここにならヒーロー気取りの男が一人ぐらい居るだろうって飛び込んだ酒場は営業時間外。

 最早これまで……と思ったら、女の子達に取り囲まれて、何故だかダンサーになることが決まっていた。

 

「まぁ! なんてキレイなの!」

 

 俺の肩を掴んで大喜びなのはシェヘラさん。赤髪の気の強そうな美人なのだが、彼女は歌姫と呼ばれるこの地域の有力者の一人だとか。彼女のお陰で衛兵も引き下がっていったのだから感謝だろう。かなりの力があるに違いない。

 

「そうは言っても娼婦に毛が生えた様なモノよ」

 

 いやいや、それでも彼女が特別なのは明らか。実際に彼女は美しいだけでなく歌も物凄く上手かった。

 教えてくれと言ったら大層喜んだのだけど……

 

「うーん、諦めた方がいいかな……」

 

 はい、ダメでした。筋金入りの音痴。どうも、小さい頃にトレーニングしないとどうにもならないとかどうとか。

 ウソかホントかは知らないが、とにかく俺はルックスを生かしてダンサーになることが決定してしまう。

 しかし、俺はプラヴァスのダンスなど何も知らない。プラヴァス最大の盛り場と言う事で、流石に大きなダンスの練習場が完備されていたのだが……

 

「……あんまりキレイな鏡じゃ無いですね」

「えっ!?」

 

 俺が練習場に設置されていた大鏡をそう評したら、歌姫が素っ頓狂な声を上げた。

 

「こんな大鏡、ブラッド家のお屋敷にも無いって評判なのよ?」

「……そうなのですね」

 

 俺は生まれた頃から大鏡で健康値を測っていたから、つい口を衝いてしまったのだが、一般的に鏡があるだけで上流階級。こんな大鏡があれば大富豪と言うのがこの世界の常識だ。

 俺は王国でもそれなりにキレイな鏡を見ていたので、あれが普通という気がしてしまっていた。

 マズったなと見上げれば、鏡の向こうに神妙な顔をした歌姫シェヘラが居た。

 

「あなた、やっぱり凄い所の生まれなのね?」

「それを聞きますか? 聞かない方が良いと思いますけど?」

 

 脅しのつもりで振り返ってシェヘラさんの目をジッと見つめれば、気圧されたかの様に怯んだのも一瞬。逆に彼女は俺の肩を掴んで正面からグイッっと俺を見つめ返してきた。

 

「凄い目力、いえ、美しさと可愛さと、儚さの暴力ね」

「どういたしまして」

 

 俺がニッコリと微笑めば、降参の仕草で天を仰いだ。

 

「これはダメね、私達の手に余る。でもね、私はどうしても舞台で踊るあなたの姿を見たいのよ!」

「それは構いませんが、この衣装は……」

 

 見つめる先、鏡の向こうで羞恥に頬を染める俺の姿はくすみ、歪んでいたが、それでもハッキリと解る程の露出の酷さだった。下着同然なのだ。

 

「あら? もっと凄いのもあるんだけど?」

 

 そういって彼女が取り出したのは……マイクロビキニ? 大事な所がギリギリ隠れる程度のヤベーやつ。

 

「そんなモノ! 絶対に着ません!」

「そお?」

 

 怒鳴る様に宣言した俺に、残念がるシェヘラさん。

 その後に始まったダンス練習では、歌と違ってダンスはスジが良いとベタ褒めされた。

 

「コレならどんな相手の注目も集められるわ。実はこれから大きな仕事が入っているの! そこで大々的にデビューするのよ!」

「大きな仕事?」

 

 嫌な予感に訊ねてみれば、木村達が何事か企んで舞台に注意を集めたいのだとか。どうやらプラヴァスの存亡に関わるとか、木村は商会を担保に入れてるとか、そんな事まで言われてしまう。

 

「ぐぬぬ……」

 

 俺は仕方無くマイクロビキニを着るハメになるのだった。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 ソコまでして、俺はポンザル家の奴らの視線を集め。結果、作戦は大成功。俺は木村の商会を救った立役者。

 なのに、木村の第一声はコレであった。

 

「露出狂なの?」

「違うわッ!」

 

 当然、俺はブチ切れた。でも、マイクロビキニを着たままなので暴れることも出来ない。元々の意識は男とは言え、今生ではしっかりと女の子。

 それに元クラスメイトで親友の男に、体をジロジロと見られるのは落ち着かない。

 何も俺だって好きで半裸な訳じゃ無いのだ。

 

「着替えるタイミング、無かっただろうが!」

 

 そう、あの後、大変だったのだ。お客さんは楽屋に殺到するし、シャリアちゃんなんて楽屋に忍び込んだ上、興奮状態で迫ってくる。

 で、混乱する劇場の裏口から着の身着のままで脱出。

 その後はシャリアちゃんの手引きで、木村達のねぐらに転がり込んだと言うわけ。

 着替えるどころか、カーテンみたいな体を隠せる布すら纏えなかった。それなのに、ニヤニヤと木村はイヤらしい目で見てくるから、いっそ殺したい。

 

「で、なんで踊り子なんてやってんの?」

「それな!」

 

 俺はケロイド化した頑固な火傷跡がやっと完治して、ようやく王宮に戻ったのに、誰の出迎えも無かったと涙ながらに訴える。

 悲しみはやがて怒りに変わり、文句の一つも言わなきゃ気が済まないぞと思いつめる。

 

「そりゃ追うでしょ」

「追うかなぁ?」

「追う!」

 

 疑うな! 感じろ!

 

「雷で死にかけたのに?」

「雨雲が出たら、着陸すりゃ良いんだよ」

 

 馬鹿だなぁ、死にかける度にトラウマ作ってたら、ベッドの上で震えてるしか出来ないぞ? 同じレベルの不幸になってみたら解る。基本、『偶然』は何をしても防げない。

 むしろ、ベッドの上が一番トラウマが多いからヤバい。プラヴァスで襲われた人数とか、下手したらご飯食べた回数より多いぞ。全員死んだけど。

 

「で、二日もあればひとっ飛びと、リュック一つで飛んで来たんだけど……」

「来たんだけど?」

「水が足りなくなって、遭難した!」

「…………」

 

 オーバーアクションで肩を竦めるのヤメロ! お前も殺すぞ! ベッドで!

 まぁ良い、続きだ。

 

「で、ケンシロウリスペクトで、み…水…って言いながらさ迷ってたら、劇場に拾われたってワケ」

 

 まぁ物騒な所は丸ごと端折って、水と助けを求めて劇場に飛び込んだ所から説明する。

 

「何日前?」

「四日前」

 

 俺がそういうと、ふぅむと木村は首を捻った。確かに俺がその間ずっと劇場に居るのは不思議だろう。実際に逃げる手段は幾らでもあった、何故か?

 

「いや、歌姫が居るって言うから歌を覚えようかなって」

「成果は?」

「なにも!」

 

 切れ気味に答える。どうやら俺はワールドレベルの音痴だったみたいです。

 

「でも、顔は良いから踊りを覚えてねって言われて、結構楽しんでた。コッチは筋が良いって」

「そりゃ……」

「そんなとき、お前ら交渉の時に注意を逸らしたいって歌姫に注文出しただろ? それを聞いて俺も、文字通り一肌脱いだってワケ、上手く行ったんだろ?」

「うん、まぁ」

 

 うん、まぁ……じゃねーだろうが! 感動してむせび泣いて土下座して足を舐めろ! いや、本当に舐めてきそうだからソレは良いや、それよりも。

 

「でさ、着替え、ないか?」

 

 恥ずかしがるから却ってエロいのだと頭では解っているが、それでも恥ずかしいのだから仕方が無い。俺はモジモジと服を要求する。

 木村も気まずいのか赤くなって目を逸らすんだけど、その返事には慈悲が無い。

 

「いや……丁度良いサイズがなくてさ」

「ええ~?」

 

 絶対ウソだろー、俺のエッチな姿見たいだけだろー、その辺のカーテンでも良いんだぞ!

 あーでも動きにくいとソレが原因で死にそう。なになに? シャリアちゃんの服は胸部が合わない? うるせーぞ!

 赤くなってモジモジする俺を見て興奮したのか、木村のヤツ「ゴクリ!」とか口で呟きながらとんでもない事を要求してきた。

 

「折角だし、もう一回踊ってよ、俺、見てないんだよ必死で」

「何でだよ! 馬鹿かよ!」

 

 断れば露骨にガッカリする木村。コイツが俺を襲って死ぬのも時間の問題かもな。

 と、その時だった。

 

「俺からも頼むぜ、もう一度見たい」

 

 田中が帰ってきた。どうやら権力者であるブラッド家まで首尾の報告に行ってたらしい。ただ、その話をする前に、俺のダンスをねだる始末。

 

「じゃあ、シャリアちゃんが衣装を買って来るまでって事で」

「ヤンヤヤンヤ」

 

 木村はさっきから擬音を声に出し過ぎでは?

 

「ヤンヤヤンヤじゃねーだろ! 恥ずかしいっての! 露出狂じゃないんだから」

「恥ずかしがる事ないだろー、俺とお前の仲だし」

「どんな仲だよ! じゃあお前が着てみろ」

 

 俺がそう言うと、木村は「え?」っと言う顔をした後。

 

「嫌だよ、恥ずかしいし」

 

 とかのたまった。

 

「ぶっ殺!」

 

 コレは殺しても合法なのでは? 恥ずかしさも忘れ、のし掛かり、首を絞める。

 マジでコイツは最近調子に乗りすぎなので締めなくてはならない! ガチでイラついて、本気で締めに掛かる。

 体を密着させ、腕を交差させ喉に押しつける様に締め上げる。軽い俺だからこそ、手加減は無し。全体重を預ければ、みるみる顔色が赤く染まる。

 なのに、木村は懲りずに妄言を紡ぐ。

 

「いや、だって、俺が着たって見苦しいだけだし! ユマ姫は似合ってる。可愛いよ」

 

 うぐぐ……それで、褒めてるつもりか!

 

「……あぅ、いやいや、コレ(マイクロビキニ)が似合ってるって言われても嬉しくないし!」

 

 気がつけば、リクライニングさせた木村の膝の上。抱きつく様な格好で、我ながら痴女である。

 

「戻ったわ、……私が居ないときに、楽しそうなコトしてるのね」

 

 ソコにシャリアちゃんが帰ってきてしまうから、さぁ大変。でも彼女は街を探し回ってお疲れの様子だった。

 

「良い服が無かったのよ。そもそも貴族が着るような服が、その辺に売っている訳無いわ」

「それもそうだな」

 

 田中が頷けば、シャリアちゃんはコチラをチラリと見つめる。

 

「それに、その格好より可愛いってのは無理よ」

 

 え? この格好が可愛い? エロいの間違いだろ? と、問う前に。彼女は飛び掛かる様に抱きついてきた。

 

「止めッ! ああ、もう!」

「スンスン」

 

 ピンクの髪を掻き分け、うなじへと顔を埋めて匂いを嗅いでくる。ムカつくのがソレを幸せそうな顔で見ている、木村と田中だ。

 文句を言ってやろうかと口を開く前、シャリアちゃんが荷物を取り出した。

 

「でね、どうせなら突拍子も無い格好の方が良いと思ったのよ」

「コレはなんです?」

 

 シャリアちゃんが用意したのは、ベルトやカフス、チェーンなどだ。どれもゴテゴテした意匠で、中二病的お洒落アイテムの数々だった。

 

「コレらを、このコートと合わせるの?」

「はぁ?」

 

 コテンと首を傾げた俺の姿が可愛かったのか、いよいよシャリアちゃんに押し倒されてしまった。

 

「ハァハァ、コレ! コレが似合うわ!」

 

 そのまま着せられたのはコート。舞台で着ていたスパンコールのド派手なコートである。ソレをベルトとか金属でゴテゴテと彩れば……

 

「……怪しいな」

「怪しいぐらいで丁度良いのよ、この子には」

「ヒドイ!」

 

 可愛いはともかく、怪しいは確実にお姫様に言うべき言葉では無いと思うが?

 

「……コレ、どうなの?」

 

 くるりと一回転すれば、ジャラジャラと音がする。なんと言うかラスボス感がある。

 スパンコールのロングコートにゴテゴテとベルトを巻き、右腰に佩いたサーベルも彫金が眩しい程。一方で無骨な左腰のリボルバーがいっそ異様に映る。

 カフスやチェーンもゴテゴテと盛られ、紅白歌合戦に出るのかと言う感じ。

 でもシャリアちゃんは出来映えに満足そうだ。

 

「ココでは遠い異国のお姫様なんだから、コレぐらいで丁度良いわ」

「派手だな、オイ、宇宙世紀かよ」

「じゃあ、コレでリヨン氏に会いに行こう」

 

 田中が楽しそうに笑うのは苛立つが、木村まで、いっそこの位はっちゃけた方が良い、今すぐに会いに行こうとか言い出した。相手は相当な変人か?

 

 まぁ、プラヴァスでの戦略は任せたから良いよ? 良いけどこの衣装はダメ!

 

「暑いんだけど? 重いし!」

 

 そう訴えたのだけど、何故だか俺の意見は無視されて権力者の家にまで行くことに。みんなして面白がってるだけでは無かろうか?

 そんな疑問が頭をもたげるのであった。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 そうして案内されたブラッド家の応接間。だけど慌ただしい家の中で俺達は長い間放置されてしまう。

 

「で、俺は何すりゃ良いわけ?」

 

 ソファーで足をブラブラさせながら、手持ち無沙汰に木村を見上げる。

 

「あーそうだな」

 

 困惑する木村の様子をみるに、思った以上に状況は悪いらしい。そんなところにこんなふざけた格好で現れて良かったのだろうか? 不安が募る俺に、案の定、まずは最高責任者のリヨンと言う男を(なだ)める様にと言ってくる。

 

「とにかく、リヨン氏のご機嫌をとってください、頼めますか?」

「ああ、姪のカラミティって娘が麻薬で廃人になっちまってから、どうにもピリピリしてンだ」

 

 木村はともかく、田中までもが珍しく心配そうに気を揉んでいる。聞けば二人にとってそのリヨンと言う男は友達だと言うじゃ無いか。

 なんて言うか親友二人に知らない共通の友人を作られると、コッチはどうにも据わりが悪いと言うか、自分の居場所が無くなりそうで怖い感じ、解るだろうか?

 

 だが心配ご無用。コイツらは変人だ。一緒にいるのは中々に大変。

 どれほどの奴か俺が確かめてやろうじゃ無いか! 俺の魅力で丸裸にしてやろう。

 

「私を誰だと思っているのです? 王国の至宝、硝子の薔薇に例えられる私であれば骨抜きにすることだって造作もありません」

 

 堂々宣言する俺を、二人は何故だか目を細めて見てくるではないか!

 

「いや、口説いて欲しいワケじゃねぇんだけど……」

「変に刺激されちゃ堪りませんよ」

 

 さては信じていないな? 俺を巡って人攫いと衛兵が戦う程なんだぞ! ……ん? 普通か?

 

「信じていませんね? 私にはとっておきがありますから」

 

 俺には男を口説く才能の塊だった少女。プリルラの記憶がある。恋多き少女だったプリルラには相手の好み(性癖)を瞬時に見抜く力があるのだ。遠い昔の事の様に思えるが、強弓使いだったラザルードさんにお姉さんプレイを披露し、陥落したのも良い思い出。

 この能力には、実は何度も助けられている。だと言うのに木村は俺を信用していない。

 

「逆に、骨抜きにならないで下さいね」

「そうだぜ、リヨンは男の俺が見ても惚れ惚れするような色男だからな?」

 

 木村は恋多き少女だったプリルラの人格を心配するし、田中なんてリヨンってヤツがどんなにいい男か懇々と説いてくる。

 コレには俺も嫉妬心を爆発……するかと思ったのだが、いい男と聞いて俺が真っ先に思い出してしまったのは別の男……思わずギュッと膝を握った。

 

「……兄様よりカッコイイ男なんて居ませんから」

 

 私を守って、死んだ兄。最後には血風と共に霧が散って、セレナの魔法と共に守ってくれたっけ。

 と、俺はよっぽど思い詰めた目をしていたのだろうか。話を変えるように、田中がリヨン氏の情報を付け加えた。

 

「でもな、性格だって気取らない気持ちが良い奴なんだぜ? 俺のバイクに張り合ってラクダで砂漠を競争してな、気が付けば帰って来れない程の砂漠のど真ん中。二人で星を見上げてゲラゲラ笑い合ったもんだ」

 

 ……なんだよ、その爽やかエピソード! 俺もそういう青春したいんだけどぉ? いや俺も湖の前で愛を語ったりした青春があった。

 

「気取らない性格だったら、ボルドー王子の方が上ですから!」

 

 ……相手は死んでるけどな! 恨みがましくそう言えば、お手上げとばかり田中と木村が目を逸らした。

 と、その時、爽やかな声と共に扉が開けられた。

 

「境界地の権利書を奪ったと言うのは本当ですか?」

 

 浅黒い肌に引き締まった体。コイツが、リヨンか!

 

 ホントにカッコイイね……


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