死憶の異世界傾国姫 ~ねぇ、はやく、わたしを、殺して~ 作:ぎむねま
「おおっ?」
俺は謎空間で意識を取り戻した。目の前には威厳を感じる存在の気配!
はい、勝ちましたー、俺くん大勝利。
「異世界へは最強でモテモテチートでお願いします」
「無理じゃな」
却下! 0.5秒で却下!
「そんなモンで生き残れるなら、とっくにやっておる」
え? と詳しく話を聞くと、どうやら俺は隕石で死んだらしい。余りにも無理ゲーであった。
「酷すぎません? コレはもう、無双系チートを……」
「無駄と言っている、そんなのはもう
どう言う事かと詳しく話を聞くと、どうやら俺の魂が不具合を起こしていると言うでは無いか!
……いや、何だよそれ! ってか、魂って何なの?
そう聞いた俺に対して、神さまはふぅっと息を吐いた。
いや、そう言う気配がしただけで、俺も神様もぽわぽわした発光体で姿なんて無いけどね。
で、神様の解説はこうだ! 長いから心してくれよな!
魂とは何か?
それを説明するのは大変難しい作業じゃが、人の文明が発展するに従って、挑戦し甲斐の有るモノになってきておる。
もうお前たちは命を構成する要素を知っているし、不完全で不格好ながら大半を自らの手で作成することに成功していると言えるじゃろう?
例えばだ……
お前さんはパソコンを持っているか?
そうだ、パソコンだ。うん、まぁそれはいいとして……あー
「パソコンは命じゃない」……か。確かにそうだ、
ただ、神が作ったものが命として、人間が作った命をコンピューターと呼んでいるだけかもしれんぞ?
コンピューターが命を持ったかの様に振る舞う所を見たことは無いか?
心臓が電源、メモリが脳の海馬、ハードディスクが側頭葉で、CPUは前頭葉。
目や耳や手足が無いと言うのなら、カメラやマイクやロボットアームでもなんでも好きに付けてみたらいい。
ただ、魂にあたるパーツなんてどこにも無いと思わんか?
そりゃそうじゃ、そんなもんはどこにも無いからの。
人間が死んだらオシマイなのと同じようにコンピューターが壊れたらオシマイじゃろ?
ん?「データをサルベージして他のPCに入れなおせば同じように動く」か。なるほどのぉ人間も大分賢くなっておる。
で、それがパソコンだけでなく、人間にも出来ない理由があるかな?
そう、出来るのだよ。
つまりな、人間の記憶も感情も脳で作っているのじゃから、魂なんぞにはなんの「データ」も無いんじゃ。
逆に言うとな、お前の魂を突然に全く違う人間へと入れ換えても、人間は誰も気が付かん。
もちろんお主自身もな。
だから、輪廻転生して記憶が残っているなんてのは
通常はそんな不具合を許す様な真似はせん、すぐに
まぁそんな不具合が有りえないでは無いのが悲しい所じゃがな。
……夢が無い話って? いや、魂が無いなんて言ってないじゃろ?
わしが言ったのは「魂にあたるパーツが無い」じゃよ。
ああ……「それこそが命とコンピューターの差」だと?
そう買いかぶってくれるのはありがたいがね。
コンピューターにも魂(ソレ)にあたるものは有るんじゃよ、「パーツ」では無いだけでな。
……IPアドレスじゃよ。
それ自体に情報を持たず、通信の為に必要な番号。
そんなものが必要な理由……そう、魂は通信しておる、
それは神が情報収集と管理を目的とした外部システム。
外部システムで有るがゆえにそれが個体に影響を与えることは許されん。
特定のIPが与えられたパソコンが、立て続けに故障したらどう思う?
管理者はシステム上のバグを疑うじゃろうな。
そうだ、その管理者こそがワシじゃ、輪廻と運命の神、アイオーンとでも呼ぶが良い。
人が付けた名前は偉大じゃが、実態はIPアドレスの管理者に過ぎん。
魂によって収集されたラプラスシステムによる運命予報を元に、魂を割り振るだけの存在。
それがワシじゃ。
ワシを悩ませ続ける、16歳まで生きることが無い魂。
そこにはどんなバグが有るのか、もしくは世界のシステムが狂っているのか?
短命なお前さんの魂を、死から遠い場所に配置する事何と一万回。
バグの原因解明どころか、ラプラスシステムの運命予報の精度が疑われる程の破局と破滅で多くに死をばら撒いた。
輪廻のシステムを外れた異世界の、それも平和過ぎて、平和ボケと言う単語を固めたような島国の、何の変哲もない、長生きするハズの少年に無理くり割り振った魂。
アメリカのパソコンに日本のIPアドレスを割り振るような無茶なイレギュラー中のイレギュラーも虚しく。
15の少年は隕石の直撃で跡形もなく地球から姿を消したと言う訳じゃ。
この理不尽な純然たる『偶然』の攻撃に、ラプラスシステムの限界を感じ。
これは新しい視点が必要だ、もう『偶然』は有りえない。でも『偶然』としか思えない。
これはもう本人に聞くしかないと。
……以上。神様からでした。
「で、それが俺だと?」
「そうじゃね」
軽いなー、道理でなんかもう、俺の存在は意識だけの不定形。
異世界転生させてくれないなら、文句だけは言っておこう。不具合なんだから詫び石ぐらい貰っていくぞ!
「いやー運が悪すぎておかしいと思ってたんスよねー、確率論的に有り得ないですもん」
……怪しげな目で見られてしまった。しかし、コッチは被害者、ココは強気でごねるが吉だろう。
「もっと偉い人の息子とか、すげー丈夫でツエー男とか、大魔法使いとかそう言うのじゃダメだったんすか?」
「……そんなもんは何回も試した。強くなるハズの奴でも初めから強い訳でも無い、運命予報を裏切って勝てるハズの無いもんに突っかかって死んでいく。
超大国が出来た時は喜び勇んで皇帝の息子に転生させたよ。
暗殺されたがね。
一番無茶な所では、魂の規格を無視して土地神の龍子として転生させてみたんじゃが……
土地ごと死んで行きおった。何人死んだか数えたくもない程じゃ」
「マジすか! 俺ツエー出来ないで死んじゃう?」
「……マジじゃ、俺ツエー出来ても死んじゃう!」
何か馬鹿にされた様な気がするが、取り敢えずもっと詳しく話を聞く事にする。
「『偶然』には個人の強さでは抗えないのじゃ。お主を狙った矢はかわせても、味方の矢が、たまたまお前さんが気を抜いた一瞬の隙に後頭部に突き刺さるのは達人であろうとも防ぎようがない」
「どーゆう運の悪さなんスか? つーか普通に生きてたのに何度も死にかけたのは偶然じゃなかったんですね? マーフィーの法則じゃないっすよ、ハインリヒ? ヒヤリハット案件ですよ、起こるべくして起こったと言っても過言じゃない」
余りの無理ゲーに文句を言うしか無い。
「はー、それでもだーれも心配も同情もしてくれないんだからそりゃー死ぬよな……」
いや、もう愚痴! 愚痴しかないよ! だって酷いじゃん? 俺の人生、頑張っても頑張っても空回りしてたけど、やっぱり不注意が原因じゃなかったね。
せめて皆がもっと不幸だねって同情してくれたら救われたのにさ! 俺がどんくさいヤツって扱いだったモン、浮かばれないよ。
……ん? そう言えば、みんなに守って貰えば良いんじゃ無いの?
「じゃあ、じゃあ逆転の発想ですよい! いつでも死んじゃいそうな儚い感じの奴が却って死なないで生き残るもんですって。一人じゃダメでもみんなに守ってもらえれば良いんスよ」
良いアイデアだ! 俺は続けてまくし立てる。
「薄幸の美少女ってのは絵になりますけど? 俺なんて薄幸の普通少年ですからねー、どんな悲劇だって、なんかよくある事を大げさに言ってるなって思われがちなんスよ」
言いながら、数々の理不尽にイライラしてきたぞ! 猛アピール!
「あーせめて美少女だったらなー、みんなに心配して貰えたんだけどなー」
アピール終了! どうだと見てみれば、呆れた気配が漂ってくる。
「まぁ、さっきよりマシか」
「……マシって!」
「多くの人間の運命に乗っかってしまえば、しょーもない偶然でコロっと死ぬ確率は、理論上は下がるじゃろうな、だがな、そんなのはもう千回試した、みんなお前を守ってくれたよ。命を懸けてな」
コレもやったのかよ!
「えーそれでダメだった?」
「……まとめて死んだよ」
ファ――――!
「どーすんスか? オレあと何回無駄に死ぬんスか?」
「ワシが聞きたいわ!!」
神様の気配が激しく揺れる、声では無い衝撃が俺を揺さぶった。
不治の病を患った少女は不作の折に自害した。
戦争に行った父の帰りを待つ少年は門で馬車に轢かれた。
もっと多くの人を巻き込もうと、盲目の姫君にした時は国ごと滅んだ
人間に追い立てられ、最後の一人になった悲しい吸血鬼は愛した男と心中した。
砂漠の歌姫は政争の道具にされた末に暗殺された。
古代人の末裔だってやったし、さっきの皇帝の息子や龍子もそうじゃが。
運命予報を見て因果律の強い、ちょっとやそっとじゃ死にそうに無い奴を選んでな!
みんな死んだよ! 全滅だ! 周りのすべてを巻き込んで運命予報を丸ごと破壊する悪夢の号笛だ
さぁどうすればいい? どうすればお前は死なない? ワシが一番知りたいわ!
凄まじい激情そのものが俺を打ち付けるが、そんな事言われてもどうすりゃ良いのさ?
コロコロがあったら転がしてるよ?
呆気にとられる俺を無視して神は続ける。
……はぁ。 まぁ、今回は被害が少なかったのが勿怪の幸いかの……無理やり地球の管理者にねじ込んでテストを頼んだ甲斐が有ったというものだ。
「うへぇぇ?」
今、なんて言った? 『被害が少なかった?』そう言えば、俺の近くにいたアイツらは?
「えーと、俺だけ死んだんですかね?」
「いや? 隕石の直撃だからな、お前の周りの何人か一緒に死んどるよ」
「そんな……田中は? 木村は?」
「……死んどるな」
「なん……でだよ、なんであいつらが死ななきゃいけないんだよ」
「それを言うならお前さんが死ぬ理由もさーーぱり解らん! そんなわけないだろと鼻で笑った地球の管理者が頭を抱えて
神はヤケクソ。俺もヤケクソだ! 畜生ッ!
「そんな実験で田中も木村も死んだのかよ。なんでだよ……」
「その原因をワシはかれこれ数万年追っかけとるよ。お前らの体感時間で換算するとな」
「そんな糞ったれな運命を、運命を超える力を壊す力が……なにか無いのかよ……」
神が数万年と言うだけ有って、ここでは時間すらゆっくりと流れていた。覚悟を決めて、俺は一つの結論を下す。
何故かって? どうしたって俺は納得が行かないからだ!
「一つの運命じゃだめでも……幾つかの、運命を束ねれば……
……なぁ神様、全部じゃダメなのか?」
「どういう意味じゃ?」
俺は、とっくにおかしくなっていたのかも知れない。
「王国の姫君も、吸血鬼も古代人の末裔も、土地神も全部まとめて全部盛りだよ、世界中の人を無理やり同情させて、俺の運命に同乗させるんだよ!」
「世界を道連れに心中するのか? やけくそじゃな、全ての因果律を纏めて運命破壊の『偶然』に抗うか、どうしてそこまでする? きっと碌な人生にはならなんだ」
神に問われる、確かに……だが、俺はきっと悔しかったんだ。
「田中と木村が浮かばれねぇよ、絶対その『偶然』をぶっ飛ばしてやりてぇ」
「世界で一番不幸になって、世界で一番同情されて、地位も力も手に入れて世界を巻き込んで。
……それで世界のみんなを不幸にして、それでもやっぱりダメかもしれないんじゃぞ?」
「やってやる。薄幸の美少女で王国の姫君で吸血鬼で古代人の末裔で、もう何でもいい全部だ! 全部で良い!
史上最悪のヒロインをやってやるよ、世界の全てに命を懸けて守ってやりたい、なんとかしてやりたいと思われて
全部を載せて全部と心中する事になっても、一秒でも長く生き残ってやる!」
「ほ……本気なのか……いや、とは言ってもそんな都合のいい転生先が……だが、因果律は先天的な物だけじゃない、後から回収出来る物を積極的に集めて行けるなら……可能性はある!
良いじゃろ。覚悟があるなら記憶を持ったまま転生させてやる!」
「マジで!?」
さっきの話を聞くに、それは結構な特別措置だ、チート感がある。
「ああ、勿論わしの
「それは……どうやって?」
俺がそう聞くと、神は尊大に笑った気がした。
「魂じゃよ、魂は神が世界の情報収集用に付けたモノだと言っただろう? そして送信が出来ると言うことは、当然に受信だって出来ると言うことじゃ、お主の魂が送信したログの『参照権』をお主に与える。それでお前の意思と記憶、その全てを転生後にダウンロード出来るハズじゃ!」
おぉ! そう言う事かと驚く俺に、意地悪な神の意志が突き刺さる。
「だが、解ってるのか? その時いたいけな一人の少女の脳に「自分」を上書きすることになるんじゃぞ?」
神は俺に、覚悟を問うているのだ! 俺は親友を殺された怒りに打ち震えた!
「それでも……やってやる、俺やってやるよ」
「わかった、地球の管理者とも協議して転生先を探してやる、……よし良いのが有った。ヒヨるなよ小僧」
そして一人の少年は少女として転生する。
それは運命を壊す『偶然』に全てを賭けて抗う物語。