死憶の異世界傾国姫 ~ねぇ、はやく、わたしを、殺して~   作:ぎむねま

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やったか?

 場所は魔石商のバックヤード。魔石の保管庫へ続く地下への階段を前にして、俺と木村は厄介な敵の襲撃を受けていた。

 ルードフ家に占拠された魔石商に乗り込むまでは順調だった。しかし、魔石の保管庫には一番厄介な相手が待ち受けていたワケだ。

 

 奴の姿を見て、たまらず木村は虎の子の爆弾を投げつけた。

 

「やったか?」

 

 悪趣味に、やってないと解っていながら煙の中に問いかけやがる。当然だが、煙が散った後には平然と佇むエスプリの姿が現れた。

 

「やっぱ効かねぇか」

 

 木村が投げた爆弾なんざまるで効いちゃいない。オドロキの手品のタネは、大森林でセーラが見せた結界魔法に違いない。

 魔力が薄いプラヴァスでも魔法が使えやがんのか……

 王様専用にあつらえた魔導衣は隔絶した性能とは聞いていたが、ソレにしたって強過ぎる。魔石を食って魔力を一時的に上げられるユマ姫(アイツ)だってこうは行かないだろう。

 

 ……いや、ひょっとして?

 

「どうした? 来ねぇのか?」

「…………」

 

 やっぱりか、突然の襲撃に姿勢が崩れたままの俺と木村。

 なのにエスプリは追撃に来ない。何故か?

 

「来れねぇんだろ? 地上(コッチ)は魔力が薄いからな」

 

 考えて見りゃ当然だわな。相手はエルフ、魔力が薄いプラヴァスでは殆ど活動出来ないのが道理。活動出来る唯一の場所と言えば、魔石の魔力に満ちる保管庫。

 つまりヤツがココで襲ってくるのは必然だったってワケだ。

 

 つまりアイツはココから出られない!

 

 さぁ、どう出る? エスプリ!

 

「オイオイ、地下でしか戦えないとかモグラかぁ? かかって来いよ!」

 

 何故か木村が出て来た。

 決め顔で気合いを入れたのに、横からイキリ散らすのは止めて欲しい。

 

「……あの?」

「ビビってるのかぁ? そんなとこで引き籠もってないで表に出ろよ!」

「……あの? 木村サン? ちょっと?」

「……なんです?」

「因縁の対決なのに安っぽい挑発、恥ずかしくないの?」

「二人の門出をモブらしい発言で盛り上げてるんだが?」

「いらないです」

「……はい」

 

 示し合わせた様な木村との漫才。

 なのに好機と攻めてくるどころか、付き合ってられないとばかり、アイツは地下へと引っ込んじまった。

 

「来ねぇな」

「来ないねぇ……」

 

 コチラは隙だらけなのだが、それでもエスプリは仕掛けてこない。

 

「爆弾は残り二つ。取り敢えず投げ込んで良い?」

「無駄無駄、やめとけよ、チッ。長期戦になりそうだぜ。応援は来ねぇのか?」

「来ないんじゃ無い? ま、ココを押さえておけば十分だろ」

「面倒くせぇ」

 

 相手が待ってる所に踏み込むのは相当な実力差が必要だ。ただでさえ俺達の剣はお互いに一撃必殺。不格好でも死角から一撃決めればお終いなのだから、待ち伏せは決まりやすい。単純な奇襲なら気配を頼りに防ぐ自信はあるが、相手が相手だ。

 

「何かねぇのかよ? 木村ァ!」

「近代戦ならこんな待ち伏せは悪手なんだけどなぁ……」

「そりゃ、強力な爆弾がイヤって程あるからか?」

「まーな、毒ガスやフラッシュバンもあるし、最悪建物ごと吹っ飛ばす兵器まである」

「そんな無いモノねだりしてもしゃーねーだろ」

 

 参ったな、こんな所で睨み合いとは。いっそ放置するのも手か? アイツを? 冗談じゃねぇ。敵は最大戦力をぶっ込んで来た、ココが一番重要ってコトだ。

 苛立ちにゴツゴツと床を踏み鳴らす。ストレス解消兼、階下に対して今にも踏み込むぞとプレッシャーを掛けているのだが、こんな手が効く相手とは思えない。

 

「苛立つぜ」

「……なぁ」

「外はどうなってんだよ」

「……なぁって!」

「ンだよ?」

 

 今は木村と漫才する気分じゃねぇ、そりゃ名案があるってんなら話は別だが、どうにも楽しそうな雰囲気じゃねぇ。

 ……きっと悪い報せだ。そんなの聞きたくねぇぞ!

 

「あのよ、フラッシュバンは兎も角、ガスはあっただろ?」

「聞きたくねぇ!」

「お前とユマ姫(アイツ)の恋愛小説書いて良い?」

「だめ! くだらねーコト聞くなよ。二人してガスで眠っちまって大ピンチだったろ?」

「んでよ、あの地下施設を思い出せよ。地下何階だったか? アレ」

「三十階近かったな、ガキ二人担いで上り下りしてみろ、足がパンパンに――」

「ソレは良いっての、でよ、なんで古代人はあんなに深く掘ったと思う?」

 

 何故って? そう言われるとアレだな。ナニが怖くてあんなに深く穴を掘ったんだろうな? アレ……?

 

「……オイオイ、マジで言ってる?」

「マジだっての、あるんじゃねぇの? 『建物ごと吹っ飛ばす兵器』って奴がさ」

「お前、アレが核シェルターだったって言うのかよ?」

「核かは知らないけど、古代には近いモノがあるんだろうよ」

「マジかよ」

 

 魔力から守る為の施設だとアイツは言っていたが、それにしちゃあ過剰。あの施設自体、核戦争にも対応していますって感じは確かにあった。

 

「そんでよ、その兵器を起動するために魔石を集めてる。ってのは考え過ぎ?」

「面倒くせー!!」

 

 あり得ねぇ! 考え過ぎだ! と言いたい所だが、ユマ姫(アイツ)が絡んでるコトで悪い予感が裏切られたコトは一度も無い。

 

「悪い妄想するの禁止でヨロ」

「冤罪だっての、最悪のその上を飛んでいくから。頭が吹っ飛んでるとか考えてもなかったよ?」

「だよな……ぜんぶアイツが悪い」

 

 結論が出てみると、このまま様子見は怖くなる。そう考えると敵の動きも時間稼ぎに見えてくる。

 

「仕方ねぇ、イチかバチかで行くしかねぇか!」

「爆弾放り込んでからで良い?」

「崩れたら厄介だから駄目だろ」

「ぐへぇー」

 

 覚悟を決めて、階下に踏み込む。

 ……そこで俺達が見たモノは?

 

「まぁ、こうなるよな」

 

 何も無い地下室。そこにドンと開けられた大穴だった。

 

「向こう側、遺跡っぽくなってるんだけど……」

 

 木村に言われるまでも無い、向こうには近代的なコンクリートが見え隠れ。

 

「まぁーた、地下でネズミみたいに追いかけっこかよ!」

 

 俺の叫びは地下の奥深くまで響いていった。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 ――パーン!パーン!パーン!

 

「アイツら好き放題撃ちやがって!」

 

 地下に降りた俺達は見晴らしの良い通路で帝国兵による熱烈歓迎を受けていた。

 

「駄目です、踏み込めません!」

 

 律儀に報告してくるのはプラヴァスの衛兵や軍人達。彼らは突如街中に現れた帝国兵を追って、地下まで入り込んで来たらしい。

 俺達が辿り着いた時には、既に大勢の死体が山の様に転がる有様だった。

 

「奴らココをキルゾーンに定めたみたいだな」

「おせーぞ、木村ァ! 何やってた!」

「そう言うなっての、コレを取ってきたんだよ」

 

 そう言って木村が取り出したのは火縄銃だった。

 

「どうしたんだよコレ?」

「魔石商でお前が切り倒した奴が持ってたんだって」

 

 なるほどな、コイツを取りにわざわざ戻ってたのか。

 早速木村は左手の自在金腕(ルー・デルオン)から伸びる五本のワイヤーに、五丁の銃を絡ませる。

 

「何時見てもキモいなソレ」

「言うんじゃねーよ、ただでさえ手が痛いんだってのに」

 

 文句を言いながらも壁に隠れたまま、五丁の銃が帝国兵を狙う。その異様な光景に敵味方双方から驚愕の声が響いた。

 

「何だあれは!」

「銃か?」

「面妖な!」

 ――パーン!!!!!

 

 しかし、誰何の声は五丁の火縄銃による一斉掃射で掻き消された。

 タイミングは完璧。……だと言うのに姿勢を低くした帝国兵には全く損害が見られない。

 まー銃がワラワラと宙に浮かんでいれば、やな予感がして誰だって伏せますわ。

 

「やったか!?」

「やってないのを確認してから言うのはマナー違反だろ!」

 

 マナー講師(木村)は怒るが、アレだけ期待させておいて一発も当たらねぇのも立派なマナー違反だろうが。

 

「ありゃ弾幕だよ、本命はコッチ」

 

 言いながら懐から取り出したのはリボルバー。ソレを素手で構えている。

 

「ンだよ? 自在金腕(ルー・デルオン)を使って近くから撃った方が当たるんじゃねぇか?」

「奇襲なら兎も角、正面からだと警戒されちまうし、銃の方を狙われちまう」

 

 ――パン!パン!

 

 言いながらも、二連射。それで二人が沈む。流石の精度だ。だけどさぁ……

 

「それ、最初の火縄銃、意味あんの?」

「バンバン撃ってきてる所、顔出して撃たれたらどうすんだよ? 俺だって見えなきゃ狙えねぇよ」

「つまり、最初のは当てる必要は無い訳か」

「当てれるモンなら当てて見ろよ、ライフリングもない丸玉なんて狙った所に飛ばないからな」

「ンじゃあさ、お前が左手痛めてまで撃つ必要無くない?」

「……そりゃ、無いけど」

 

 ……ま、実際の所、アイツが自在金腕(ルー・デルオン)で撃ってる理由は、最も安全に牽制出来るからだろう。しかし、コレでは木村しか仕事が出来ない。

 

「つーか、暇!」

「ソレが本音かよ、ただ銃に触りたいだけじゃねーか」

「まーな、でも俺だけじゃネーゾ? ホラ」

 

 俺の後ろには銃に興味津々な兵士達が、目をキラキラさせて控えて居た。

 流石に木村も彼らを無視は出来ないらしい。

 

「……撃ってみる?」

「よろしくお願いします!」

 

 兵士達から一斉に敬礼が返る。

 そんな訳で木村に銃の扱いを習いながら俺達は細々と前進していく事になったのである。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 そうして、木村の射撃を軸に進軍。撃破した部隊から次々と火薬と銃を奪いながら地下遺跡を行軍していた俺達だったのだが……

 

「ヤベェ、銃弾が残り少ない」

 

 木村がぼやく。それもそのはず、敵は思いのほか数が多く、地下道もぐねぐねと長かった。地元の人間さえココまで地下道が長いとは! と驚く始末。

 地下道は数メートルおきにシャッターが下りていた。プラヴァスの人々はソレをただの行き止まりだとしか思っていなかったのだ。

 しかし、今、目の前のシャッターには大穴が開いていた。

 エスプリが魔剣で斬り裂いているのだ。綺麗な切り口を観察しながら、干し肉をビールで流し込む。

 

「モグモグ、流石にソロソロ打ち止めだろ?」

「食べながら喋るなよ」

「気にすんな、折角食いモンを分けて貰ったんだ、食うだろ?」

「まぁ食うけどな」

 

 返事を待たずに木村へ干し肉を投げる。嫌がらせの悪球だったが、一歩も動かず自在金腕(ルー・デルオン)でキャッチする辺り、集中力は鈍っていない。

 

「中々美味いな、何の肉かは考えたくないけど」

「どーせトカゲだろ?」

「折角なら幼虫が食べたいんだけどなぁー」

「馴染んでるねー、プラヴァスに」

 

 しばらく見ない内に、プラヴァス料理でも上級者向けのヤツにハマってやがる。

 それにしても昼飯を食ってなかったから、兵士から貰う非常食には助かった。毒かも解らないから、コレばかりは敵から奪う気もしない。

 そんな事を思えば、何故だか笑いがこみ上げてきた。

 

「ふへっ」

「どったの?」

「いや、ユマ姫(アイツ)がよ。俺にその辺で拾い食いとかするなって言い始めやがってさ」

「アイツこそ変なモン食べて死にそうだけどな」

「違いねぇ」

 

 二人で笑い合う。アイツのネタは鉄板だ。と、そこに兵士が一人駆け込んできた。

 

「この先で足止めを食らっています、ご助力下さい」

「どれぐらい居るんだ?」

 

 木村が残弾を数えながら問う。すると兵士は口ごもった。

 

「それが……」

 

 曰く、敵はたった一人。

 

 敵を追っていった先、地下にこんな場所が? と驚く様な大広間で一人の男が待ち構えていたと言う。

 木村に教えて貰った銃を撃ってもまるで効かず、大剣の一振りで十の人間が両断されたと、語る兵士は震えていた。

 

「やっと鬼ごっこは終わりか……」

「俺も手伝うことある?」

 

 半笑いで木村が茶々を入れるが、俺の答えは決まっていた。

 

「わざわざ俺を待ってるんだろ? サシでケリを付けるさ」

「ヒューかっこいー」

 

 木村の声援を無視して、俺はヤツが待つ広場へと駆けていく。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「待たせたな! エスプリ!」

「…………」

 

 兵士の案内で辿り付いた広間、地下なのにLEDみたいなギラついた照明が辺りを強烈に照らしていた。

 その中心に佇むのは顔をベールで隠した一人の男。エリプス王もといエスプリの姿がそこにはあった。

 

「こう言う時は、今来た所だって言うのがマナーだぜ?」

「…………」

 

 返事は無い、当然だ。コイツは洗脳されている。誰よりも深く。

 巨大な大剣を言葉も無く構える。

 

 集中が極限に至り、空気がザワめく。大気がキィィィンと高音を発している様に錯覚する。それ程の殺意と緊張が場に満ちていく。

 雑音が消え去り、体の芯だけが冷える。

 認めたかないが、俺は、この空気が溜まらなく……好きだ。

 

 冴えていく頭で、相手の構えを観察する。

 ……妙な構えだ。大剣を片手で持つのは良い。剣を持つ右手を後ろに構え、何も持たない左拳を突き出す姿勢もまだ許せる。

 だが、気にくわないのは決定的に斬る気が見えねぇトコだ。パンパンに張り詰めた殺意と釣り合わねぇ!

 

「『我、望む、放たれたる珠に風の祝福を』」

「!?」

 

 呪文? 魔法の矢? エスプリが握り締めた左手を開く!

 

 暗器? 爆弾? 何も、持っていない???

 

 違う! 小さい! 鉄球! 弾だ!

 

 弾丸を手に持って、お前は何を? 投げた?

 

 ふんわりと投げられた弾丸、たった一粒。きっとコチラに届きもしない。

 ……まさか!

 

「逃げろぉ! 木村ァ!」

 

 振りかぶった剣をラケットにして、宙の弾丸へと振り抜いた。

 カァンと高い音、大した速度は出ないだろう。……通常ならば。

 

 しかし、弾丸は魔法の力で加速され、通路の影に隠れた木村へ向かう。

 

 俺の叫びと同時、パァンと乾いた炸裂音。音の主は木村の拳銃だ。

 

 アイツは通路から虎視眈々とエスプリの隙を窺っていた。俺の剣士としてのプライドなんてモンに頓着しないのがアイツだ。横やりを狙っていやがった。

 言っても聞かねぇと放置していたが、エスプリは真っ先にアイツを狙った。

 

 二つの弾丸が交錯したが、エスプリは無傷。剣を振り抜いた勢いで、木村の弾丸を弾いて見せた。

 一方で、アイツはどうだ? 決死の覚悟でおまじないを唱える。

 

「やったか?」

「マズった!」

「死んだか?」

「生きてるけど、右手がイタイイタイ」

「ママに治して貰え!」

「うん! ママー!!」

 

 バタバタと足音が遠ざかる。

 締まらねぇなぁオイ! こんな時まで笑わせようとしてくるんじゃねぇよ。

 

 ニヤケそうになる顔を精一杯取り繕って、剣を構え、獰猛に笑う。

 

「お望みの一対一だ、トコトンやろうぜ」

「…………」

 

 こんな場面でもひと言も喋らねぇとは、敵も締まらねぇヤツだぜ。

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