死憶の異世界傾国姫 ~ねぇ、はやく、わたしを、殺して~   作:ぎむねま

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2020/3/16 どうかと思ったので伏せ字にしました。


引導

「パルメ……パルメ!」

 

 肺を貫かれ、仰向けに倒れた父はうわごとの様に母の名前を呼んだ。俺は引導を渡すべく、倒れた父へのし掛かる。

 

「違うわ。私よ父様」

「あ、ああ……ゼナ! 会いたかった」

「…………」

 

 俺と実の母ゼナ、果たして似ているのだろうか? そんな気はしないのだが……傾げた首筋から、はらりと一房、髪がこぼれた。

 

 ……赤い。

 

 霧に魔力を抜かれ、銀に戻った髪色に、再び赤みが差していた。

 ソレはピンクを通り越し、以前よりも赤みが増している。凶化して以来、魔力が特に濃い場所ではこうなることが多かった。

 

「パパ、目が……」

 

 きっと輪郭と色ぐらいしか見えていない。だから赤髪のゼナと間違えたのだ。

 俺が刺したから? いや、ずっと前からそうだったに違いない。

 前に見た、あの瞬間に、既に父の運命光はもって数年の大きさで固定されていた。

 

 エルフは森の外、魔力の低い場所では生きられない。そう出来ているのだ。

 魔導衣を着ようと、魔力が薄い場所で何年も暮らすのは自殺行為だ。ずっと命を削っていたに違いない。

 普通なら節々の痛みに悲鳴を上げている状況。麻薬漬けにされ、薬で研ぎ澄まされた反射神経だけで田中と切り結んでいたに違いない。

 

 これ以上は、もう……。

 

 覚悟を決めて、短剣を構える。

 

「治せないのか?」

「無理!」

 

 聞いて来たのは田中か木村か、それすらも解らない。切羽詰まっていた俺は、一瞥もくれずに叫び返した。

 

 麻薬で体は限界まで蝕まれている。治そうにも健康値が保たない。

 保ったとしても、母も妹も、守るべき国もない世界。そんな場所で父を生かしておくのは拷問に等しいと解ってしまう。

 俺は、ギュッと短剣を握り締めた。

 

「お前の気持ちはどうなんだ? 生きていて欲しくないのか?」

「私は……」

 

 俺の覚悟を察して、それでも止めてきたのは田中の声だった。父がどうでは無く、俺がどうしたいのか?

 

「お前は良くやったよ。少しぐらい我が儘を通しても良いはずだ」

 

 くぐもった声だ。きっと田中も重傷。それでも治せと言わず、俺の決心を聞いてくる。ソレで良いのかと。

 止める声は田中だけじゃない。

 

「そうだ、俺に言ったじゃないか。人形でも家族にそばに居て欲しいって。アレは嘘だったのかよ」

 

 木村も俺に聞いてくる。確かに俺はカラミティちゃんを治す時、人形でもいいからセレナが欲しいと言った。

 奇しくも同じマウントポジション、違うのは覆い被さる相手が実の父だと言う事。

 

 ……俺は、父にどうして欲しいのか?

 

「私は……父様には待っていて欲しい。私が帰る場所で」

「だったら――」

 

 言い募る田中の声を遮り、俺は、呟く。

 

「皆と一緒の場所で、待っていて欲しいから」

「そうか……」

 

 私が帰る場所は、セレナも、母も、兄も居る場所で、そこには父も居て欲しい。

 

 俺は、きっと、もうすぐ死ぬ。

 

 ただでさえ一万回も十六歳になる前に死んでいる魂なのに、私はもう、長生きしたいとさえ思っていない。

 運命すらもねじ曲げる『偶然』は確実に存在している。それに帝国を巻き込んで、一緒に滅びる事が出来るなら、思い残すことはなにも無い。

 

 ただ、それでも、魂がIPアドレスみたいな記号に過ぎないとしても、それでも神が気を利かせてくれれば、また皆で過ごせそうな気がして。

 

 ……いや、コレは感傷か。自分でも信じちゃ居ない。

 

 本当は、壊れていく自分の姿を父に見せたくないだけだ。

 それとも、壊れてしまった父を自分が見たくないだけかも知れない。

 

 なにより、壊れてしまう世界を父に見せたくないだけかも知れない。

 

 きっと、この世界はろくでもない終末に向かっているのだから。

 

 奥歯が割れそうな程に歯を食いしばり、私は短剣を父へと突きつける。

 

「ごめんね……パパ」

 

 何せ魔剣だ。俺の力でも斬れる。だからこそ、ホントは脳髄を一突きするのが正解で、それが一番楽に逝ける方法だ。

 だけど、私は……いや、俺は。敢えて苦しむ様に胸を突いた。

 

「ガッ! グッ!」

 

 当然、父は悶え苦しむ。

 

 なんの事はない。コレは初めから、俺の、私だけの我が儘だ。

 

 父の苦しみを、父の憎しみを、最後まで共有したかった。復讐の糧にしたかった。

 でも、苦しむ父の顔を見て、私はいつの間にかボロボロと泣いていた。

 

「ごめん……ごめんね……パパ」

 

 嘘だ。

 復讐の糧だとか、そんな高尚な理由じゃあり得ない。

 

 本当は、痛めつければ、最後には正気に戻るんじゃないかって……そんな期待があった。 最期ぐらい、名前を呼んで欲しいって、優しく頭を撫でて欲しいって。

 

 そんな欲があった。

 だけど、実際は苦しむ父の姿を見ていられない。復讐の糧にする事すら出来そうにない。

 

 だからこそ、俺は幻聴を聞いたのかも知れない。

 

「……ユマ」

 

 ハッとして顔を上げた先、優しく笑う父の姿があった。

 

「大きくなったな……」

「あ、う……」

 

 声が出なかった。

 幻覚でも、幻聴でも、それでも言いたい事が一杯あったのに、まともな言葉は一つも出てこなかった。

 

「パパ、パパッ!」

 

 子供みたいに、泣きじゃくるだけ。父様と言わないと叱られるのに。立派になったと思われたいのに。

 だけど、父様は私のことを叱らなかった。

 

「本当は、パパと呼ばれるのが、ずっと、ずっと……嬉しかった……」

 

 父様は軽く右手を上げて。そっと髪を撫でてくれた。

 

 きっと幻だ。こんな事はあり得ない。

 

 解っていても、私は泣き続けた。泣きじゃくった。何も言えず父を直視することすら出来なかった。

 

「パパ……」

 

 ……それでも、どうにか呼吸が整って、何とか顔を上げた時。

 

 

 父はもう、冷たくなっていた。

 

 

 こぼれる涙がピタリと止んだ。

 気がつけば、俺は必死に、短剣で父の胸を抉り続けていたのだから。

 

 私がやった、俺が父を殺したのだ。

 

「ハッー、ハッー」

 

 ままならない呼吸を何とか整えようとする。必死に胸を押さえる。でも、グラグラと世界が揺れて、明滅する。

 

「ああ、あああああ……」

 

 俺の復讐に、復讐するべき対象に、私自身も入ってしまった様な気がして、殺意が自分の内側へと向かっていく。

 

「あ゛ああああああー」

 

 必死に、叫んだ。体の周りを黒い靄のような悪意が渦巻いて包み込んでくる。まるで『偶然』が具現化したような悪意の塊に飲み込まれていた。

 払っても、払っても纏わり付いてくる悪意に、声を上げて、狂った様に私は暴れた。

 それでも悪意は少しも晴れなかった。

 気がつくと、私は黒い靄にすっかりと包み込まれていた。

 

 ……だけど。

 

「しっかりしろって」

「とち狂ってるんじゃねぇよ」

 

 私の腕を掴む手があった。

 

「あ……」

 

 木村と田中だった。彼らは発狂した私を恐れず、手を伸ばしてくる。

 

「あ、ありがと……」

 

 私は気恥ずかしくて、それでも何とかお礼を言った。

 

「ンだよ、それ」

「お前、なんか変わったか?」

 

 いや、変わっていない。()はまだ『高橋敬一』だ。きっとそのハズ。

 

『いや、何でもない。もう大丈夫だ』

『そうかよ、立てるか?』

『ああ……だいじょぶ』

『良かった、それにしても、敵の狙いは結局何だったんだ?』

 

 得体の知れない焦燥感に(さいな)まれているとばかり、木村が油断無く辺りを見回す。その予感はきっと正しい。

 

「敵の狙いは解ります。付いて来てくれますか?」

「当然だろ? お姫様」

 

 普段は慎重な木村が即答する。だが、一方普段はイケイケの田中が今回ばかりは俺を止めた。

 

「待てよ、まだ行くべきじゃない。少しは体をいたわってくれ」

「ですが!」

「カハッ!」

 

 反論しようと振り向いた俺の顔面。田中の口から飛び散った喀血(かっけつ)が俺の顔面に直撃した。

 

「メンゴメンゴ、でもホラ、少しは俺の体をいたわってくんない? そんで……あの、短剣仕舞ってくれる?」

 

 うーん、コイツも始末しておくか……

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「で、アイツはドコに居る?」

「アイツとは誰です?」

 

 怪我が治るなり、田中はまだ見ぬ敵へと鼻を鳴らした。

 

「ハッ、あのもやし野郎、ソルンだよ! 魔女のそばにも居なかったんだろ? なら主犯はアイツで決まりだ」

「そうですね……」

「どこだよ? 見当ついてんだろ?」

「二人は見ましたか?」

「ん?」

 

 俺は逆に訊ねる。コイツらも見たであろう、今朝の光景を。

 ポンザル家の三人を見舞った後、プラヴァスにほど近い場所に広大な空き地があった。聞けばガタガタの地面は荒れ果て、整地もままならない場所だとか。

 

「だから何だってんだよ?」

「あの下です」

「解る様に言えよ、オイ、どういうこった?」

 

 急かす田中だが、俺としても絶対の自信は無い。なにせ敵は動くからだ。自分の推理に答え合わせをするように、慎重に言葉を選ぶ。

 

「あそこはフォッガの産出地だとか。フォッガはキノコ。胞子は地下道を伝って繁殖している。だとしたら、あそこにはとびきり巨大な遺物があるハズです。整地出来ないガタガタ地面もその証拠でしょう」

 

 フォッガが好きだったリネージュの記憶を照らし合わせると、()()はあそこにあるハズだ。

 思わせぶりは俺の言葉に、焦れた木村が先を促す。

 

「なるほど……それは解りましたが、その遺物とは一体なんです?」

「…………」

 

 木村の問いに、俺は言葉に詰まった。なんと言えば良いのか悩んだからだ、近いモノなら思いつくのだが、少なくともコチラの言葉で表現出来ない。

 日本語で言うしかなさそうだ。

 悩んでいると、いよいよ田中が先を急かした。

 

「勿体ぶらず、早く言えって」

『じゃあ、言うけど』

『はよ』

『敢えて言うなら……』

『言うなら?』

「…………」

 

 言いたくはない。言いたくは無いのだが、敢えて言うなら……

 

『メ、メタ○ギア』

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 メタ○ギア。

 

 言わずと知れたステルスアクションゲームの金字塔なワケだが。その意味は、作中に登場する核搭載二足歩行型戦車の総称である。

 

「ちょっと待てよ? まさかあるのか? 『核』が」

「元々さ、魔法ってのは物質を変質させる技術が多いんだよ」

 

 そう言って俺が指差したのは田中の鎧だ。大牙猪(ザルギルゴール)の毛皮をカーボンファイバーみたいに加工している。

 火薬だって空気中の窒素から固定して作っている。魔力という存在が物質から要素を抽出、分解する事に向いているのだろう。

 

「だとしたら、核なんて簡単に作れるって訳か……」

「簡単じゃないけどね、作る以上に安全を確保するのが何より難しかったみたいだし」

 

 簡単に作れるからこそ、うっかり放射性物質を生成してしまって大惨事……ってのは多かったみたいだ。

 

「じゃあ、古代人は核戦争で滅んだのか?」

「んーそうじゃないな、そっちは魔力の変化が原因と言うか……それに核兵器はメジャーなモノにはならなかった」

「なんでよ?」

「そりゃ」

 

 魔力には弱点がある。健康値に掻き消されれると言う点だ。

 古代人の動力の大半は、化石燃料ではなく魔力だった。なにせ核よりも制御しやすく身近だったから。

 

「だから、大陸間弾道ミサイルが作れなかった。核の威力は過剰だったみたい」

「なんでよ? 地球以上の技術があったのに、あ!」

 

 木村は気付いた様だ。

 

「そうか! 境界地だ! 健康値の膜がこの世界を覆っているんだから、魔力を使った兵器は大気圏まで出て行けない、違うか?」

「違わない。だからこそ、アレを作った。健康値の膜で魔力が掻き消されて制御が出来なくなるなら、膜の内側に入ってから攻撃すればいい」

「膜の……内側に? ん? 色々気になる事があるんだが?」

 

 木村は首を捻っているが、コイツに納得させようとすれば何時間でも掛かってしまう。

 俺は父の形見である王剣を拾って、立ち上がる。

 

「説明は道すがらするよ、目指すは『戦車型機動要塞ラーガイン』」

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 古代人は古代に滅びたと言われている人類種だ。

 その痕跡は遺跡だけに残されていて、出会った人は誰も居ない。

 

「でも、彼らは恐らく今も生きている。境界地の外で」

「いやいや、境界地の外は見渡す限りの荒野だろ? なんだっけ? 紫外線とかが降り注いでるって木村は言ってるけどよ?」

「多分、合ってるよ。だけど彼らは元々、地上でなんて生活していない」

「つまり、古代人は地下に生きている?」

「そ、なにも核戦争を警戒して地下深くまで遺跡を作っていたんじゃない。初めから地下が彼らの生活の場なんだよ」

 

 語りながらも王剣を抱え、魔法を使い、俺は飛ぶ様に遺跡の道を進む。

 

「エルフや魔獣だけじゃなく、人間だって魔力をエネルギーに生きているのは知ってるよな? でもさ、魔力じゃなく健康値をエネルギーにしてる生物もかつては存在したんだ」

「それが古代人なのか?」

 

 田中の問いに「まぁね」とだけ返すと、木村が息も絶え絶えに呻いた。

 

「そっか、危険な魔力じゃなく、健康値をエネルギーに出来るならこれ以上は無いか」

 

 なんだかんだ、俺達の移動速度に付いてくる木村は流石だ。かなり辛そうだが。

 

「でもよぉ、健康値の中で生活してんなら、魔力文明なんて発展しようが無ぇだろ?」

 

 田中の奴め、馬鹿と見せ掛けて中々鋭い質問をしてくるから侮れない。

 

「確かに、魔力は健康値に削られる。だけどソレは他人の魔力の場合だけ。星の魔力を汲み上げても星の健康値には阻害されないのは当然だろ? 古代人は星の魔力で発展していたんだ」

「んんん? さっきの話と矛盾しない? 大気圏がどうとか」

「まぁ待ってよ、とにかく健康値を糧に生きていた古代人だけど、そもそも健康値ってのは異物に対応する免疫力そのもの。古代人はがん細胞よろしく、異物と認識されないように進化しただけ……でもソレがある日突然」

「星から異物として認識される様になった?」

 

 応えつつも納得していない木村。だけど、ソレが正解なのだ。

 

「そう、魔力を丸ごと奪われて文明はしっちゃかめっちゃか。古代人は健康値の無い地表まで逃げたりして、紫外線に焼かれたり酷い目にあったらしいよ」

 

 俺は肩を竦めた。その時に何人死んだのか、正確な記録はドコにも無いだろう。

 なにせ通信すらも遮断されてしまったのだから。

 

 古代人はその惨事の原因を調べた。いや、調べるまでも無く明らかだった。

 

「大森林のど真ん中、そこには大昔、星の魔力を汲み上げる魔力炉があって、ある日ソレが暴走したらしい」

「それで?」

「暴走した魔力炉は無限に魔力を汲み上げて、同時に魔力を包む健康値も押し出されて膜となって俺達の世界を切り取った」

 

 前代未聞の大事故と同時、健康値の変質が起こったわけだ。

 だから古代人は全ての原因を炉の暴走に求めた。炉を破壊したい。でも、炉は分厚い健康値に守られて爆撃出来ない。

 古代人達はだからこそ、移動要塞で膜の内側に入り込んでから砲撃するプランを立てた。そのための巨大兵器まで作った。

 でも、全ては失敗に終わってしまう。

 残ったのは神話めいた記録だけ。

 まさかそんなラーガインが現存するとは……俺は夢にも思っていなかった。

 

 失敗の理由は解らない。少なくとも、大森林に核兵器で爆撃された痕跡など聞いたことも無い。あったとしたら、エルフの科学者は見逃さないハズだ。

 

 ひょっとして、プラヴァス一帯がゾッデム砂漠に囲まれている原因は……

 

 いや、考えても仕方が無い。今は千年以上前の遺物、核発射可能な要塞を破壊しなくては。

 ……参照権で記憶した地図を頼りに道を進む。なにせ超巨大な戦車だ。幹線道路沿いを侵攻したに違いない。

 下りたシャッターは田中の剣で切り裂き、道無き道を進んでいく。すると、全てのシャッターが上がった通路に出くわした。

 

「案内してくれているようで結構じゃ無いか」

「いや、待てよ体が……」

 

 最初に不調を訴えたのは木村だった。

 

「クソッ、キツいな」

 

 気がつけば田中の顔色も悪い。そうだココは魔力が余りにも濃いのだ。

 奥から濃厚過ぎる魔力がにじみ出している。牽制の為にソルンがシャッターを開け放ったのだ。

 

「オカシイじゃねぇか、古代人は魔力に弱いんだろ? アイツも、ソルンも古代人なんだろ? 違うか? だったらどうして」

 

 田中が叫ぶ。まぁ、幾ら馬鹿でも流石にソルン達の正体に気がつくよね……彼らは古代人だろう。

 古代人の多くはコールドスリープで永い眠りについたみたいだ。

 環境が戻ることに期待したのがひとつ、そしてもう一つが魔力に耐えられる体に作り替える方法を探っていた。

 AIを使って遺伝子から無数のパターンを試行錯誤させながら眠りについた。凶化だってその産物の一つに過ぎない。

 千年も完成しなかった技術。文明も分断され、絶望的だとポーネリアも諦めていた技術。

 

 だけど彼らの執念はきっと結実したのだ。だからこそ、この魔力の渦の中心にアイツは居る。

 

「私がソルンを止めます、二人は……帰還してください」

「馬鹿ッテメェ!」

「行くなって! 死ぬぞ!」

 

 田中の剣を逃れ、木村の自在金腕(ルー・デルオン)を振り切ると、俺はラーガインの中心部へと侵入する。

 ますます強くなる魔力。こんな中で生きられるのは凶化した俺か、魔力に抵抗をもったソルン達だけだろう。

 

 目指すはロケット発射カタパルト。その『中身』だ。

 

 ロケットは有人。ソルンは乗っているハズだ。

 通信が不安定になった世界、ギリギリまで制御して目標にぶつける。もしくはそのまま特攻する兵器なのだから。

 

「ソルン……どうせなら、一緒に汚い花火になろうぜ」

 

 俺は笑った。俺の『偶然』に巻き込んで、帝国ごと滅びる絶好のチャンスに思えたからだ。


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