死憶の異世界傾国姫 ~ねぇ、はやく、わたしを、殺して~   作:ぎむねま

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灼熱の空

 抜ける様な青空が一転、夕暮れみたいに赤く変ずる。

 雲一つ無かった空に分厚い雷雲が立ちこめて、太陽が二つに増えていた。

 真っ赤に染まった世界で、あなたとわたし。

 

 大空で、世界を揺るがす追いかけっこ。

 お互いを意識する男女には最高のシチュエーションだ。

 暴風に舞う木の葉のように揺れる機体にしがみついて、向き合う先にソルンが居た。

 

「やっぱりお前は危険だ」

「奇遇ですね、私も同じ事を思っていました」

 

 こんな美少女を掴まえて何が危険だ! 核をぶっ放す奴にだけは言われたくない。

 

 コイツだけはココで始末する。その気持ちだけはきっと相思相愛だ。

 

 だけど、俺達を殺そうとするのは人間だけに限らない。

 

 ――ゴオォォォ

 

「うぁ!」

「ぐっ!」

 

 その時、突風が吹いて機体が反転。天地が逆さまになり、機体の上に立っていた俺は重力のままに落下しそうになる。

 それを救ったのが銃を撃つために突き刺したままの王剣。抱きかかえる様にしがみついて重力に必死に堪えた。

 踏ん張る必要に駆られたのは俺だけじゃない、天井を切り裂かれたコックピットでソルンもまた操縦桿にしがみついていた。

 

 おまけに機体は雷雲に飲まれてしまう。湿り気のある風が頬を打ちつけ、雨粒を吸い込んだ木村のマントがバサバサと暴れる。

 こんな状況では命を守る行動で精一杯。だと言うのにソルンは片手で何やらコックピットを漁っていた。

 

「死ね!」

 

 取り出したのは……銃! 小型の拳銃だった。それを見た俺は咄嗟に構える。

 

「あなたこそ!」

 

 こちらも銃。左手は王剣を握り締めたまま、右手で眼前に突きつけた。

 反転した世界で雷雲の中、至近からお互いの銃口を突き付ける。

 人の及ばぬ天空で突然の静寂(メキシカン・スタンドオフ)

 

「ぐっ!」

 

 ソルンは唸るが、俺のはハッタリ。シリンダーの中に銃弾は残されていないのだ。

 とは言え、ソルンの銃だって撃てるかどうかは怪しいモノだ。なんせコイツらの持つ銃は全てマスケット銃。

 雨に濡れる雲の中、撃つことなど出来るのか?

 

 ……いや。

 

 ――パァァン!

 

 撃てるに決まっている! 俺の『偶然』はそういう所に余念が無いのだ。

 そう確信があったからこそ、俺は思いきり体を捻って回避に成功。それでも銃弾は俺の頭を掠っていった。額に血がドロリと垂れて、銀色の髪が散っていく。

 

 ……そう、銀色だ。魔力はさっきの一発で使い果たしてしまった。

 そしてなにより頭が痛い。銃弾は痛みを自覚する切っ掛けに過ぎない、むしろ内からの痛みがズキズキと強烈だ。

 ここに至るまで無理をし過ぎた。意識がぼんやりと混濁していく。

 この感覚、昔と一緒だ。いつの間にか気絶して、気がつくとベッドの上。微睡む意識の中、父様に叱られる夢を見て、何度もベッドで飛び起きた。

 

 夢の中でも怒鳴られて、全てが夢だったと気付くのだ。今回も、そうだった。

 

「ご、ごめ……あっ!」

 

 気がつけば左手一本で王剣にぶら下がっていた。一瞬、意識を失っていたのだ。左手を手放さなかったのが奇跡。冷や汗が体中から噴き出す。

 

 そうだ、もう、俺をベッドまで運んでくれる人はどこにも居ない。

 

 ギリギリと歯を食いしばり、左手の王剣を強く握り締める。そして右手に握った拳銃は、俺を蹴落とさんとするソルンへと投げつけた。

 

「痛ッ!」

 

 命中! 俺はその隙に空いた右手も使って、両手で王剣を握り締める。それでもまだ宙づりの状態で、風に煽られた俺の体は、みの虫みたいに揺れていた。

 

「この! 落ちろ!」

 

 そこにソルンの追撃が入る。コックピットの淵に手を掛け身を乗り出し、王剣を握る俺の手を蹴飛ばしたのだ。

 

「うっ!」

 

 か細い指の関節が外れ、左手の人差し指に力が入らなくなる。クソッ! このまま何もせずとも二人仲良く墜落死だってのに、随分と念入りにやってくれる!

 苛立って見上げれば、俺が投げつけた拳銃が額にぶつかったのだろう。ソルンもまた、俺と同じく額から血を流していた。

 

「ふふっ」

 

 ソレを見て、思わず笑ってしまった。俺の『偶然』は今日も絶好調だ。俺だけじゃない、ソルンだって死へ誘おうと手ぐすね引いているってワケだ。

 このまま一緒に墜落死か? それとも雷に打たれて二人で仲良く感電死か?

 

 良いじゃないか! 予定通りだ。予定通り! お前も道連れだ、ソルン!

 

「なにを! 笑っている!」

 

 ソルンが俺を見て(おのの)き、固まる。

 

 その時だった。

 

 ――ゴォォォォォ

 

 再び強烈な風が吹き、機体がぐるりと回転する。

 

「そんなっ!」

 

 強烈な遠心力が俺の体を振り回し、たまらず王剣を手放してしまう。そのまま俺の体は中空へと投げ出されてしまう。

 

 終わっッ――! 

 

 ――ガコン!

 

 落下を始める瞬間。俺の体は回転する主翼に掬い上げられる様に着地した。

 

「なんっ?」

 

 声を上げるソルンだが、驚いたのは俺の方。再び反転した機体の主翼に俺は立っていた。

 曲芸じみた一発芸。もう一度やれと言われても絶対に御免だ。

 でも、これは千載一遇のチャンス。俺は着ていたマントを脱ぎ捨てる。

 

 木村には悪いが、雨を吸ったマントはかなりの重量になっていた。ターバンを巻いただけのあられも無い姿になってしまうが、文句を言う奴は誰も居ない。

 淑女たれと口うるさかった父を思い出し少しだけ胸が痛んだが、許して貰うよりないだろう。

 そのまま主翼を駆け、ロケットの胴体に刺さった王剣へと飛びつくと同時。

 

「どりゃ!」

「ぐあっ!」

 

 勢いのまま、しがみつくソルンの顔面を蹴飛ばした。もちろん素足でだ。サンダルなどとうの昔に脱げてしまった。

 コックピットの縁を掴んでいたソルンはたまらずコックピットから零れ落ちる。だが、惜しい。ソルンの体は主翼の上を転がるも、ギリギリの所で落下しなかった。

 

 しぶとい! もやしみたいな体の癖に随分と粘る。どうやっても生き残れないこの状況で、まだ折れていない。血まみれになった顔で俺を睨んでいる。

 

「このっ! 魔王め!」

 

 魔王と来たか! 悪魔とか、聖女とか、みんなして好き勝手呼んでくれる。俺はな、エリプス・ガーシェント・エンディアンの娘、ユマ・ガーシェントだ。

 

「勝手な呼び名で私を呼ぶな!」

「ぐぬ!」

 

 王剣にしがみついたまま、にじり寄ってくるソルンを再び蹴飛ばす。しかし、非力な少女の脚力だ。あっさりとソルンはコックピットに手が掛かる位置まで戻って来た。

 

 その時だ。

 

 ――ゴォォォォォ

 

 三度(みたび)突風に煽られ、再び機体が反転する。

 

「きゃあ!」

「うわっ! クソッ!」

 

 俺は王剣を手に宙吊りに、ソルンはコックピットの縁を掴んで宙吊りに。お互いぶら下がって見つめ合う、間抜けな絵面になってしまった。

 だけど、お互いに大真面目。俺はソルンを蹴飛ばそうと足を伸ばすが……届かない。

 一方でソルンは動く元気もないのか歯を食いしばっている。放っておいても落ちそうな勢い……と、俺達二人にパラパラと何かが降ってきた。

 金属片。機体のパーツだろうか?

 違う。見慣れたフォルムのコイツは!?

 

 それに気が付いた時、お互いの顔が驚愕に染まる。俺は絶望に、相手は喜色に。

 

 ――弾丸だ。

 

 もちろん俺のじゃない。ソルンがコックピットに持ち込んだモノだろう。

 コイツら! 既に弾丸を作っていた。雨に濡れても撃てる訳だ。それ自体が絶望に値するバッドニュースだが、それよりもヤバいのはソルンが零れ落ちる弾丸の一つを口に含む事に成功した事。

 左手一本で体を支え、右手で腰のホルスターから銃を引き抜くと、パカリと真ん中から折りたたむ。

 中折れ式! シリンダーじゃないのか? そうか! 銃弾が妙に大きい。まだ小型化が出来ないのだろう。

 だからショットガンみたいな機構にしか出来ていないのだ。

 ならば同時に撃てるのはたったの一発。でも、その一発を躱す術が無い。

 

「終わりだ!」

 

 ソルンが銃を突きつける。俺は宙吊りの状態で、柔らかなお腹を無防備に晒している。正直、もう指の力も限界で、少しも動けそうになかったのだ。

 弾丸は『偶然』に俺を外すことはないし、不発と言うのもあり得ない。だから何かしないと必ず死ぬ……でも打つ手がない。

 

 ……いや、たった一つ手があった。

 

 王剣から手を離せば良い。

 もちろん真っ逆さまに落ちて死ぬが、コイツに殺されるよりマシじゃないか?

 

「…………」

 

 でも、俺は手を離さなかった。

 どうせ死ぬなら、父と一緒が良かったから。

 死ぬときは、父の形見と一緒だと決めていた。

 俺は覚悟を決めて、ギュッと目を瞑った。すると予期せぬ事が起こってしまう。

 

 ――パァァン

 

 ソルンの銃が硝煙を吹き、俺の体は宙を舞っていた。

 撃たれたからではない。

 王剣が起動したのだ。

 覚悟を込めて集中した精神は、最後の最後、胸の奥底で僅かに残った魔力をかき集めた。思いがけず、かき集めてしまった。

 そうして埋まったままに起動した王剣は本来の力で機体を切り裂き、当然の様にすっぽ抜けた。

 

 落下する俺を苦々しく見つめるソルンと目が合ったのもまた、一瞬。

 ソルンの姿は雷雲の中に消え、俺の体は急速に落下して行く。

 

 これで、良かったんだ。結果的にソルンに撃たれることもなく父様と共に逝ける。

 心残りは復讐が中途半端に終わってしまった事だろうか? 何度か見た気がする走馬灯。前見たときよりも少しだけセレナも優しい顔をしている。

 

 ああ、今回は父様も居る。みんなみんな待っている。そうだ、帰らないと……

 

 

 

 今回は?

 

 前回こんな感じの走馬灯を見たのは何時だったか、同じ様なシチュエーションがあったハズ。

 ゼスリード平原でグリフォンに捕まったときだ! 霧に飲まれて俺は無惨に墜落した。

 あの時、田中が落下する俺の体をキャッチした。

 

 でも今回、田中はプラヴァスに居る。随分と距離があるし、高さだってあの時よりずっと高い。

 

 乙女チックな夢を見てしまったな。自嘲気味に笑い、目を瞑る。

 

 

 暗闇の中。俺の胸には輝く光。

 

 ……おかしい、俺の運命光はまだ消えていない。

 何故だ?

 

 と、その時、俺の耳に音が戻った。

 

 音が戻った事でやっと気がついた。

 先ほどまで音だと思っていた『モノ』。たとえばソルンと交わした会話、機体が軋む音、悲鳴、それら全ては極限状態の脳が相手の唇の動きなど、映像から作り出した幻聴だったのだ。

 実際には爆発の衝撃で耳が馬鹿になり、殆ど聞こえていなかった。

 それが回復した途端。伝えてきたのはプロペラの風切り音。

 

 ……これは? それに、この運命光は!

 

 と、疑問に思うと同時に衝撃。

 

「ぐえっ!」

『ユマ姫ゲット!』

 

 呑気な木村の声がした。

 

「な、に?」

 

 落下するには早い、まだ地面は遠い。なのに木村は俺を受け止めた。どうやって?

 

『凄いっしょコレ! 格納庫で見つけちゃった! ホバーバイク』

 

 木村が乗っていたのは、タイヤの代わりにプロペラで浮き上がるドローンみたいなバイク。四つのプロペラで浮力を得るのは前世で見たドローンそっくりだ。

 

『ただドローンに座席を付けただけじゃない。折りたたみで横向けのプロペラもあるから結構な速度が出るんだぜ?』

『いやいや、それよりお前、どうやって?』

 

 俺とソルンが戦っていたロケットは、雷雲に飲み込まれて外からは見えない。田中と違って木村には気配とか言う謎の能力も無いはずだ。

 

『俺のマントが雨雲の中から落ちるのが見えたからさ』

『あっ!』

 

 飛行機の上で脱ぎ捨てたマント。アレを目印に飛んで来たのか。完全に奇跡じゃんか!

 

 っと、そんな事より。

 

『あの、雷雲の中! 突っ込んでくれ!』

『え? 嫌だよ壊れちゃう』

『良いから!』

『なんでだよ? まさかソルンが居るのか?』

『ああ、居る!』

 

 魔力が抜けて、後は墜落するのを待つばかりの機体だ。殺るなら絶好のチャンス!

 

『ンなの放っておいても死ぬじゃん!』

『それでも!』

『ナンでよ!? 意味がワカラン』

『そりゃ……』

 

 俺は雷雲を見上げ、目を瞑る。

 

 運命光が、消えていない。死なないかも知れない。

 

『どっちにしろ無理だわ、諦めろって』

『どうして?』

『そりゃ……』

『なにさ?』

『ガス欠だし』

『え?』

 

 木村が指差したのは魔力の充填率を示すメーター。殆ど残ってないではないか!

 

『スッカラカンじゃん!』

『でしょ? 飛び上がって雲の中突っ込むどころかプラヴァスに戻るのも厳しいぜ』

『え? どうすんの? 砂漠の中帰れるの?』

『無理かも。水も食料もなんも持ってない! スッカラカン』

『死ぬじゃん!』

 

 どおりで! 消えてはいないが、すり減った俺の運命光は大きく戻ったとは言い難い。

 

『ま、なんとかなるでしょ、ホラ』

 

 ゆっくりと高度を落としていくホバーバイクからは、遙か遠くの地平線まで一望出来た。木村が指差す先にあったのは砂煙を上げる漆黒の機体。

 

『アレは? 田中の?』

『バイクだな。帰ろうぜ、プラヴァスへ』

 

 と、その時だ。

 

『雨?』

 

 ポツポツと上空の雨雲から雨が降り注ぐ。気がつけば雨雲は大きく成長し、砂漠全体に広がっていた。

 

『ヤベェな』

 

 呟いたのは木村。俺は首を傾げる。

 

『なんで? やっとプラヴァスに雨が降ったワケじゃん』

『核爆発に雨。黒い雨って知らないか?』

 

 言いながら、雨に濡れまいと必死で手を翳している。俺も……と、俺に関してはそれ以前の問題だ。

 

『放射能汚染された雨だって事? 全然色は黒くないけど? そう言えば俺、メチャクチャ光とか浴びたんだけど』

『マズいな……そう言えば、ドコでどうやって爆発したの?』

『あー……』

 

 俺は魔力で超絶加速した銃弾で、超音速で吹っ飛ぶ核弾頭を空中で撃ち抜いたことを説明する。

 ソレを聞いた木村は考え込んだ。

 

『それなりの至近距離、思ったより爆発が小さい。戦術核か?』

『わからんけど、元々は暴走した魔力炉を潰す為の核っぽい』

『そっか、やっぱり戦術核。規模は小さいか。それにしても衝撃が少ない。まさか高高度で爆発してEMPに? だとしても機械が無事だし……あ』

 

 木村は思い出した様に空を見上げるが、俺には話が見えないので苛立ちが募る。

 

『何よ? 端的に説明せーや』

『弾丸でベクトルが変わって高度が上がったとして、大気が無くなる様な高度に達する前にこの世界特有のモノにぶつかるわけだな』

『それって、健康値?』

『そう、そうなりゃ魔力は空になって、そんで核爆発を起こしたのかも。だったらきっと放射能の害は大して無いぜ』

 

 木村は自信満々だ。曰く、この世界を覆う健康値の膜は俺達の世界の電磁の膜よりよっぽど強力なのだと言う。

 

『地球に電磁場の膜? 知らないけど?』

『まー見えないし、でも無かったら地球だって宇宙からの放射線まみれだぜ、この世界では健康値がその代わりをしてるんだ』

『へーでも、それがどうして地球より強力だって言える訳?』

『そうじゃなきゃ、あんな要塞作らずにバンバンミサイル撃つだろ? 健康値の膜は俺達が思ってるよりもヤバいんだ。多分な。放射能の心配は要らないと思うぜ』

『はぁ……なるほど』

 

 やっぱり良く解らなかったのだが、木村が納得したならそれでいいや。話が長そうだし。

 

『それにしても、どうして雨が降ったんだろうな』

 

 と、木村が妙な事を言い出した。堂々巡りの会話に苛立って、俺は木村の脛を蹴る。

 

『お前、核の後には黒い雨が降るって自分で言ったじゃん』

『うーん、今回はそれなりの高度で爆発してるから上昇気流も発達しないし、キノコ雲だって無い。高度から言えば、逆に雲を散らせてしまっても不思議じゃ無いんだな』

『ふーん』

『そういやさ……歌姫の秘密って結局なんだったの?』

 

 雨を降らせる歌姫の秘密を木村はプラヴァスでずっと探していたというのだ。答え合わせが出来なければ納得しないと顔に書いてある。だが、申し訳ないが期待に添える様な秘密は無いのだ。

 

『ただのおまじないだよ。女の子特有のさ。ああっ!』

『どったの?』

『そう言えば、俺やってるわ。おまじない』

『?? なにを?』

『フォッガ!! 死苔茸(チリアム)をさ、凧に結んで大空にお供えするんだって、俺の場合はもっと豪快に爆弾でドーンって』

『爆弾で? なにやって……そうか! そうだったのか!』

 

 突然膝を叩いた木村は、ホバーバイクを乱暴に着陸させる。そのまま転がる様に砂漠に飛び出すと、砂まみれになりながら地面に転がった。

 

『え? 頭が壊れた?』

『これだ! フォッガ!』

 

 心配をよそに木村が砂漠から掘り当てたのは死苔茸(チリアム)、ここではフォッガとか呼ばれるキノコだった。

 嫌な思い出ばかりのキノコを俺の目の前に突きつけながら、興奮気味にまくし立てる。

 

『バイオエアロゾル!』

『なにそれ?』

『キノコの胞子とか。微細な生命の粒子が高高度で凍って雲の核を作る』

『だから?』

『最近のプラヴァスはフォッガを小さい内からとってしまうようになっていた。だから雨が降らなかったんだ。で、リネージュは胞子を凧で空にばらまいていた』

『そんなんで、雨が降るの?』

『降る! 事も、ある』

『なんだ』

 

 思わず顔を顰めるけれど、木村は首を振った。

 

『降る確率が上がるだけで全然違うって。雨が降れば霧の悪魔(ギュルドス)や火薬だって無効になる』

『それがさぁ……』

 

 もう雨で銃を止められない。奴らが不格好ながら弾丸を作り始めている事を伝えると、木村はニヤリと笑った。

 

『そりゃ、逆に量産に苦戦してる証拠だって。超科学で作れるならとっくに俺より良いのを量産してる。俺でも量産は苦しいんだ。逆に安心したわ』

『そういうもんかね』

『そうだっての』

 

 笑いながら砂漠に寝そべって、二人で田中を待つ。

 地平線から漆黒のバイクが何も無い砂漠を駆けてくる。

 

『っと、アイツを待つ間、歌ってよ』

 

 ん?

 

『アレでしょ? 音痴は治ったんでしょ? 歌ってよ一曲』

 

 謎のリクエストをする木村に、俺はニヤリと笑って見せる。

 

『どうせなら、ライブでもやろうぜ』

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