死憶の異世界傾国姫 ~ねぇ、はやく、わたしを、殺して~   作:ぎむねま

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エピローグ1 古代の記録

 雷雲の中、ユマ姫を落とす事に成功したソルンは、落下する機体にギリギリの所でしがみついていた。

 これで不確定要素の魔王を始末出来たぞ! と達成感を味わうのも一瞬。自らにも死が迫っていた。

 突風に巻き上げられた機体はいつ墜落してもおかしくは無い。それどころか、体力が尽きて機体から振り落とされる可能性も高かった。

 蹴られた頬の内側は出血し、血の味が滲む。握力も残されておらず、吹きすさぶ雨に体温を奪われたソルンはガクガクと震えていた。

 

「クソッ! こんなの認めないぞ!」

 

 雲の合間から見えたのは全く無事なスフィールの姿。今回もまた、何もかもあのお姫様に台無しにされたのだ。

 冷静に考えれば、あの少女には魔法がある。この高度から落下したとして、死んだとは限らないでは無いか。

 そう考えると、いよいよ今回の作戦に何の成果も無い事になる。

 ソルンは悔しさに歯を食いしばる。だが、いよいよ機体は急速に落下を始め、雲海の下に出てしまう。こうなれば墜落まであと僅か。

 覚悟を決めて目を瞑ったときだった。

 

「迎えに来たわよ」

 

 その声にガバッと身を起こしたソルンが見たモノは? 宙に浮かぶ黒い球体。クロミーネが乗る飛行ドローン。ザルザカートだった。

 

「どうして?」

 

 この場所が? 飲み込んだ次の言葉を待たずに魔女は口紅で彩られた真っ赤な唇を歪めて笑う。

 

「これよ!」

 

 指差したのは抉り出された右目。そして代わりにと嵌め込まれた古代の義眼。内蔵された赤外線センサーが落下して行くソルンの体温を捉えたのだ。

 

「ですが!」

 

 それにしても早い。ザルザカートではとても追いつけない速度。

 

「良いから、乗りなさい」

 

 しかし、それ以上は聞く時間が無かった。最後の気力を振り絞りザルザカートのフレームにしがみつく。

 

「行くわよ」

 

 そしてザルザカートは急速に高度を落としていく。ザルザカートはスピードだけで無く、それほど高度も上げ続けられないのだ。だからこそ、この救出劇がソルンには理解出来ない。

 どうにも不思議に思っていると、魔女は詰まらなそうに肩を竦めた。

 

「負けたわね」

「スミマセン……」

「負けたのは私もよ、ちょうど逃げ帰るトコだったの」

「それは……」

 

 やっと間尺に合った。帝国に戻る途中だったからこそ、ソルンを拾うことが出来たのだ。完全なる敗北、なのに魔女は楽しそうに笑っていた。

 

「でもね……」

 

 取り出したのは、小さな輝く立方体。記録媒体の一種だった。

 

「色々なデータが見つかったわ。ねぇ? 知ってる? 星獣って」

「星獣……」

 

 聞いたことがある。魔力を利用して生きる魔獣やヒトと言った膜の内側の生物は、なにも全く新しい生態系と言う訳ではない。

 昔から魔力を糧にする生き物は居るのだ。それどころか、古代人類よりさらに太古からこの星と共にあった。

 超高濃度の魔力を糧にして生きる、超巨大生物。彼らの生息域は当然に魔力が最も濃いところ、地下深く、星の中心に近い場所だ。

 だからこそ、誰もその生態を詳しく知らない。超科学を持った古代人でも及ばぬ未知の領域が星の最深部にあった。

 魔女は輝くキューブを転がしながら、中身について(そら)んじる。

 

「魔力の変質を前にして、星獣の活動が活発になっていたとか。それで星獣の研究を必死にやったらしいのよ。最終的には星獣を操れないかって研究もあったみたい」

「聞いたことが……ありません」

 

 なにせ自然災害と同種の化け物だ。操ることが出来たらソレこそ戦力としては途轍もないが……成功したのならもう少し文献に残るはず。

 

「そうね、無惨に失敗したみたい。でもね、私だったらどうだと思う?」

「ソレは……」

 

 ソルンは息を飲む。魔女の右目が不気味に紅く光っていた。


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