死憶の異世界傾国姫 ~ねぇ、はやく、わたしを、殺して~   作:ぎむねま

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花粉症の薬で常に眠いのです







「おい、この衣装、ただのお前の趣味だろ!」

 

 木村が持ってきた衣装を広げ、俺は唸り声で威嚇する。

 ファッションリーダーたる俺の衣服は木村の担当である。

 と言うより、木村のお人形さんになって好きな衣装を着てやるって感じだな。前世のアニメで鍛えたセンスはこの世界では斬新。奇抜と眉をひそめる向きもあるが、一部からは根強い人気がある。なにより、俺の嗜好とも合うからなんだかんだ楽しみだったりする。

 だけど、こっちの常識にも合わせて貰わなくては駄目なのだ。痴女呼ばわりはマイクロビキニでウンザリなのだよ。

 なのに木村はどこ吹く風だ。

 

「マイクロビキニは聖衣と呼ばれ、プラヴァスで大好評だったと思いますが?」

「その聖衣は、おまえのコスモが高まるだけだろうが!」

 

 歯を剥き出しに文句を言いながらも更衣室に飛び込んで、木村が持ってきた衣装に袖を通してしまう俺。

 べつにエロ衣装だって着るだけならやぶさかではないのだ。

 問題の衣装はミニのプリーツスカートに、ニーハイソックス。絶対領域を楽しみたいと言う鋼の意志を感じるが、実のところコチラは別に問題ない。

 問題なのはレースがタップリ入ったフリフリのブラウスの方。

 

「うわっ、凄く過激じゃないですか?」

 

 着替えを手伝ってくれたネルネが赤面している。それぐらいこのブラウスがエッチなのだ。

 だけどこのブラウス、別にスケスケだとか変な所に穴が空いてるってワケじゃない。

 

「ノースリーブですね」

「のーすりーぶ?」

 

 袖が無い。肩丸出しなのだ。この世界では肩を出すのはかなり過激な衣装である。肩のラインのエロ度たるや、おっぱい並だと言って良い。

 とは言え多少の地域差はあって、プラヴァスでは襟ぐりの空いた服が普通だったりするのだが、そんなプラヴァスでも着崩して肩を見せつけるのは誘っているとみなされる。

 

 つまり、初めから肩を剥き出しでフリフリレースのノースリーブブラウスは、可愛い顔して何時でもウェルカム。小悪魔系と言うより大悪魔系なのだ。

 とは言え、木村には聖衣を纏ったセイントな姿まで見せているのだから、今更に出し惜しみする必要は無い。更衣室から出て堂々と木村の前に舞い戻った。

 

「ど、どうです?」

 

 ちょっと恥じらい、もじもじと。ノースリーブブラウスのお披露目だ。細めのリボンタイがお嬢様感を狙い澄ましている。

 なにせ、俺だってこの世界の貞操感に馴染んで長い。ちょっと恥ずかしくて、抱きかかえる様に肩を隠しての出し惜しみ。

 でもこれが、却ってエロいのではなかろうか?

 と、その仕草に目を細め、木村は満足げに頷いた。

 

「メッチャエロいね。ホント」

「うぅ……」

「腋が」

「腋?」

 

 え? 肩じゃなくて腋?

 

「オイオイ『高橋敬一』よ、こっちの世界に馴染みすぎじゃ無いか? 俺達の世界では肩よりも断然、腋だっただろう?」

「そうだったかなぁ?」

 

 諸説ある。ぶっちゃけ人による。しかし木村は納得しない。

 

「間違い無いって、腋の下なんて四捨五入したら性器みたいなモンでしょ」

「いや、それはかなりマニアックなプレイだと思うが?」

 

 伝説として聞いたことはある。腋でゴシゴシするジャンル。だけど俺のエロライブラリには入ってませんね。結構な特殊性癖ではないですか?

 

「そこまで行かなくても、見るだけで結構エロいハズだっての! 自分の腋を良く見てみろ!」

『なんだよそれ』

 

 言いながらも腕を上げて腋を確認。

 うーん、腋だね。ちなみにムダ毛一本無い。つるつるだ。全然生えてくる様子が見えない。

 

「ネルネさん、腋と言うのは、王国の女性にとってどう言う扱いなのです?」

「ええっ? どうと言われても……強いて言えば、汚いです」

「汚い?」

 

 エロいではなく、汚いとは?

 

「汗をかきますし、大人なら毛も生えて不潔な部分と言う印象です。匂いもありますし」

「なるほど」

 

 一理ある。腋の下は分泌物が多いから、汚いと言うのは素直な感想かも知れない。

 あたりまえだが、肩を出さないのだから腋を晒すのも一般的な事では無い。だけど肩と違ってエッチな場所扱いでは無さそうだ。

 地球で言うなら……うーん。足の裏みたいなモノ? 汚いけれど晒すべきでもないみたいな。まぁ足の裏だって舐めたいって人は大勢居るけどね。

 

「確かに……ユマ姫様の腋でしたら、不潔ではないと感じます」

「ちょっと、揉まないで」

 

 ネルネにムニムニと触られてしまった。なんだか恥ずかしい。ノースリーブだから腋も丸出しなのだ。エロいエロいと言われれば、そんな気もしてきてしまった。

 腋を強調するためにノースリーブ。それは解ったが、結局この服は着れない。

 

「結局、ノースリーブでは肩が破廉恥だと怒られてしまいますよ?」

「そこでコレです」

「コレは?」

 

 木村が取り出したのはケープ? いや短いマントか? 羽織ると肩周りだけが見事に隠れた。

 

「でも、これだと腋だって全然見えませんよね?」

「ちょっと腕を上げて貰って良いですか?」

「なるほど……」

 

 腕を上げると、鏡の中で俺の腋がチラリと見える。そして肩は見えない。コレが言いたいのか。

 

「マニアック過ぎません?」

「解ってませんね」

 

 木村が言うには、肩フェチが多いからこそ、腋が見える事が通常の倍の勢いで刺さるのだと言う。

 

「『高橋敬一』よ、君はスリットの深いチャイナドレスを見たらどう思う?」

「どうって? エロいけど?」

「そうだ、何がエロい?」

「ふともも? 違うな、捲ってみたい」

「いい線行ってるが違う。スリットが深いと、例えばヘソまでスリットが空いていれば、パンツの紐とかが見えるハズ。だけど紐すら見えなかったら?」

「ノーパンですよね?」

「それ! それだよ!」

「嫌だよ俺、ノーパンで人前に出るの」

「違う! ドサクサに何を言ってるんだ! この木村、言いたい事は想像力。ノーパンだと思う、だから深いスリットはエロい」

「頭腐ってんのか?」

「つまり、マントの下、剥き出しの腋が見える。それでマントの下は肩丸出しが容易に想像付いてしまう、だからこそ腋が俺達の感覚以上にエロく感じる、ハズ!」

「なるほどなぁ……」

 

 俺って奴は、エロへの追究心では木村にいつも及ばない。性差があるとは言え、男の時だってエロに対してこれほどに情熱の泉を(たた)えていただろうか?

 下らな過ぎて一周回って感心してしまった。だがしかし! 良く考えると全然凄くないんだが?

 煩悩の泉で溺れている癖に、木村は菩薩みたいな微笑みを湛えている。

 

「つーか、もう真面目にユマ姫の腋がエロい。流行らせたい」

「メチャクチャだろお前」

 

 流行らせてどうしようというのか? それが解らない。

 まぁ、痴女呼ばわりされない程度に過激なファッションだけど、コレは確かに人気が出そうな気がする。

 俺はノースリーブにショートマントのスタイルで、劇場に立つことになったのである。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 数日後、木村の衣装で歌ったり踊ったりを繰り返し、劇場では俺の腋が見える姿絵やポスターが大々的に張り出されていた。

 『たまにチラリと見えるユマ姫の腋に注目』とか観劇ガイドブックに堂々書いてあるのを見て、不敬罪でしょっ引けないかと本気で悩んでしまった。

 

 そうして、王都には腋フェチが大量生産されることになる。

 ……流石に問題だと俺は木村を呼び出した。

 

「それにしたって、『ユマ姫の腋を再現した胸像』ってのは狂気の沙汰では?」

 

 目の前にあるのは、俺が弓を構えたポーズで作られた石膏像。

 顔も付いてるけど、マネキンレベルでロクに造形されていない。木村曰く、顔は失敗するとすぐに不気味の谷に落ちていくとか何とか。

 その点、華奢な肩とストーリーを感じる戦闘ポーズに加え、ホンモノで型を取った腋がウリになってるんだとか。

 ……実際、俺の腋で型を取りやがったよコイツはよー。

 こんなのはあらゆるフェチが蔓延していた前世でも見たことが無いレベル。なんて業が深いアイテムを量産してんだ。

 

「コレがまぁ、売れるんですよ」

 

 木村はホクホク。想像以上の売り上げだとか。

 それもそのはず、この世界、公序良俗に違反する様なエロポスターやエロフィギュアには非常にウルサイ。もし販売しようモノなら品性を疑われてしまうし、俺の名声にも傷が付く。

 前世で良く見たパンチラが拝めるポスターや全身フィギュアなどは論外だ。

 その点、今までエロいと思われていなかった部位なら大丈夫と言う事で、腋の出番と言う訳。

 もちろん絶対領域の信望者も増えてるとかなんとか。

 そう言えば、俺がサーベル刺したポスター(王子に鞭を打たれるの図)とかもエロかった気がするが、アレも鞭打つのはエロじゃ無いし、王子の非道を訴える為だからノーカンとか、そういう理屈らしい。

 つまり、あの時点で王都の民へ向け、性癖発掘作業は始まっていた訳だ。

 

 木村はこの世界をどうしたいのか? それが解らない。

 

「それにしても、この世界のエロコンテンツはレベルが低い。俺が何とかしないと」

 

 嘆かわしいと難しい顔で頷いているが、コイツを何とかするべきじゃないか?

 

「まぁ、良いですけどね」

 

 俺は木村が用意したラーメンを啜りながら応える。この国の性癖がどれだけ歪もうが俺の知った事じゃない。儲かるならソレでいいや。

 美味いモノ食わして貰ってるし、俺の活動はコイツの資金で成り立ってる部分も大きい。

 俺の評判を著しく落とさないなら、どんな商売をしても構わない。

 

 と、お澄まし顔でいたのだが。スープの味に驚いて、ジッとドンブリを見る。

 

 ……このスープ。……豚骨だけじゃない。魚介系のうま味に、キノコか? いや謎の香辛料も利いている。

 

「気がつきましたか? 豚骨と魚介のWスープに、プラヴァスの貴重なスパイスも加えて刺激的な味わいに仕上げています」

「えと、何を目指しているのです?」

 

 思わず真顔で聞いてしまった。コレ、前世の有名店のレベルを超えているだろ!

 

 この世界の食材には地球よりも美味しいモノだって結構ある。

 品種改良された地球の食べ物より美味しいとは……古代人が品種改良したのか、それとも魔力が味わいを深めるのか。

 いや、なにより木村の料理センスがただ事では無い。流石は器用さチートである。

 そう言えば、プラヴァスでは久しぶりに木村が関わってない料理を食べたが、かなりキツかった。

 

 ……今更だけど、俺、完全に餌付けされてるな。

 

「何が狙いです?」

「え?」

「とぼけないで下さい! (わたくし)に恥ずかしい事をさせるつもりでしょう?」

「……恥ずかしい事はプラヴァスで大体こなしたと思いますが?」

「…………」

 

 たし蟹。SMプレイとかヌルヌルプレイとか色々ね。その辺りは思い出したくない。蟹鍋食べたい。

 駄目だな、食べることばかり考えてしまう。

 

「でも、そうですね。願わくば姫の手料理なぞ頂けるのならば、恐悦至極に存じますが?」

「手料理ですか?」

 

 そんな事言われても、俺に家庭的な素養はゼロ。料理なんて教育は受けていない。

 強いて言うなら、鳥の丸焼きを作って、食べたらひっくり返った記憶がある。アレはノーカン。

 あ、一応アレがあったな。

 

「そろそろアイスクリームの季節ですね」

「いえ、そう言うのではなく……」

 

 駄目か……アレって俺は魔法で冷やしてるだけだしな。

 ちゅるるとラーメンを啜りながら考える。

 女の子の手料理。憧れる木村の気持ちも解るが、そう言うのって味じゃなくて気持ちの問題じゃん? 俺の気持ちって実質『高橋敬一』じゃん?

 もっとこう、女の子を生かせる料理ってないか?

 女体盛り……は論外として、女の子のぬくもりを感じて難易度が低いモノと言えば?

 

「おにぎりとか、どうですか?」

「それは手料理、ですか?」

「手でしょう? これ以上なく!」

 

 手を振ってアピールするが、木村の反応は悪い。

 アレなんだよね、木村の事を想ってルンルンと愛情込めて料理ってのがキツイ。その点、おにぎりなら可愛いユマ姫の手汗が染みこんでるから、どこに出しても恥ずかしくないプリンセス品質である。

 

「もし手が嫌と言うなら、腋で握りましょうか?」

 

 冗談めかして言ってみた、たまにはセクハラ返しをしたい。

 

「では、それで」

「え?」

 

 嘘だろお前? 俺に作れというのか? 伝説の『腋おにぎり』を。

 

「戦場で、私の献策が生きた場合には是非お願いします」

「え? 戦場で?」

 

 それなんて公開羞恥プレイ? ってか、クソみたいな事を真顔で言うの止めて欲しい。

 なぁ、嘘だよな? 冗談だよな?

 

「期待していますよ、姫の腋おにぎり」

 

 めっちゃニヤニヤしてる!

 結局、恥ずかしい事させる気満々じゃねーか!!

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「それではおにぎりの試作を行います」

「オニギリって何ですか?」

 

 戸惑いがちに聞いてくるのはカラミティちゃん。彼女を木村から貰ってから、侍女として働いている一方で、高い教育レベルを生かして木村の商会と王宮の折衝とかを担当して貰っている。

 

「オニギリは聞いたことがありますけど……確か、コメと言う作物を握ったモノですよね?」

 

 コレはネルネ。彼女は木村が作ったおにぎりを見ている。

 ついでに言うと、おにぎりを木村の手ごとペロペロ舐めてた俺の痴態も見ている。早く忘れて欲しい。

 

「コメと言うのは冷えると固くなります、熱い内に整形する必要がありますね」

 

 これはシャリアちゃんだ、慣れた手つきでまだ熱々のシャリを握って、小さなおにぎりを作ってしまう。

 

「どうぞ!」

 

 と皿の上のおむすびを勧めてくるが、俺はラーメンを食べたばかり。ぶくぶくプリンセスにはなりたくないので、ここはやんわり断った。

 

「あ、私食べたいです!」

 

 代わりに手を挙げたのはカラミティちゃん。確かに彼女にとってコメは初見の食べ物。と言うか木村がちょっと栽培を始めた程度なので、見たことある人は殆ど居ない。好奇心が刺激されるのは当然か。

 

「ハァハァ、お姉様の手の味」

 

 ……違った。なんだかカラミティちゃんは危ない進化を遂げている。

 シャリアちゃんと何があったのだろうか? 彼女も迷惑そうな顔をしてるし、気にしない方が良さそうだ。

 

「美味しいですね!」

 

 カラミティちゃんは喜んでるけど、それは手汗が美味しかった言う事だろうか? 突っ込まない方が良いだろう。

 取り敢えず、全員がおにぎりと言うモノが何か解った所で次に進もう。

 

「この様に、おにぎりとはコメを手で握って作るモノなのですが……

 

 ……コレを腋で握ってくれと言うのがキィムラ子爵からのリクエストです」

「……は?」

 

 皆の目がテンになった。

 気持ちは解る。痛いほど解る。

 俺だってこんなキチった事など言いたくなかった。言いたくなかったが、なんか最近の木村の商会は利益はエグい額になってるので、木村に拗ねられると困る。

 なんなら腋を推し過ぎて変な流行がおきているから、ひょっとしたら「ユマ姫の腋おにぎりを食べたぞ!」とか言えば、貴族社会でマウント取れるのかも知れない。

 

 ンなワケ無いな、完全に俺への嫌がらせだ。

 そうだとしても、完璧超人プリンセスとしてああまで言われれば手は抜けない。いや、手は抜いて腋で握るのだが。

 ってか、実際に腋で作れるモノなのか?

 

「取り敢えず、試してみましょう」

 

 と、米を腋に押し付けてニギニギと。

 

「熱っ!」

 

 熱い! 痛い! 慌てて米を引っぺがす。くっついたお米粒も必死に除去。

 良く考えたら当たり前。手で触っても熱いお米を腋に押し付け、ニギニギ。そりゃ熱い。

 普通に腋って急所じゃない? 皮膚も薄いし、アチアチの予熱がダイレクトダメージ。

 

 そうこうしている内にお米は冷えてきたが、これ以上待つと今度は固まってしまう。

 左腋はまだ痛いから、次は綺麗な右腋でニギニギ。熱ッ! まだ熱いッ!

 そんな感じでワチャワチャしてる俺の痴態を、唇を噛みしめ、顔をしかめて見つめて来るのがカラミティちゃんだった。

 

「頭オカシイ! 汚い! 気持ち悪い!」

 

 ビンビンに尖った言葉の暴力。火の玉ストレートが顔面にストライク。

 そう言えば、木村は彼女のことを「言いにくいことをズバッと言ってくれて、角が立たない貴重な人材」とか言っていた。

 

 組織も大きくなればそういう人間も必要なのは解る。

 解るは解るが、ズバッと一刀両断にされた方の事も考えて欲しい。俺だってこんな事やりたくねぇよ……

 半べそで、腋で米を固めていく。

 

「……できました」

 

 トンッっと皿に置いたのは不格好なおにぎり風のナニか。

 

「こんなの誰が食べるんです? 勿体ない!」

 

 カラミティちゃんには心底気持ち悪いモノを見る目で言われてしまった。俺もそう思うだけに何も言い返せない。練習で作っただけだから肝心の木村も居ないし。単純にゴミである。

 

 コレ、自分で食べなきゃダメかな? 匂いを嗅いでみる……なんか甘い匂いがする気がする。コレ俺の体臭なのか? 普通に気持ち悪いな。ドン引きである。

 俺の事食べたいとか、足とか舐めたりするシャリアちゃんでも駄目? 助けを求める様に彼女をチラリと見つめれば、ニッコリと笑顔を向けてきた。

 

「どうぞ、ご自分でお召し上がり下さい」

 

 神は居なかった。米は超貴重品。捨てるのは勿体ない。どうしよう?

 いやいや、シャリアちゃんは俺の足をニコニコで舐めるぐらいなのに、コレを食べられないってのは嘘でしょ? ねぇ!

 

「私は姫様を綺麗にする仕事があるから」

「え? ひゃう!」

 

 腋を! 舐められた! 気持ち悪い!

 

「止め、止めなさい!」

「カラミティさん、アナタもやりなさい」

 

 え? シャリアちゃん? 何言ってるの?

 当然だけど命じられたカラミティちゃんは激しく動揺した。

 

「そ、そんなの、汚いし、出来ません!」

「何言ってるの? アナタは奴隷として売られたのでしょう? 汚れた姫様を綺麗に出来なくて侍女など務まらないわ」

 

 いや? 務まるんだが? ネルネもビックリしてるし、嘘は止めて欲しい。

 カラミティちゃんはいよいよ追い詰められていた。

 

「そんな! 嫌ッ! でも……」

 

 そりゃ他人の腋を舐めるとか、死んでも嫌だよな。それにカラミティちゃんは俺の事嫌いみたいだし……

 何か考えがあって言ってるのだろうと様子を見てたけど、俺としても普通に迷惑なんだが?

 

「あの、カラミティさん? 彼女の言う事は気にしないで……」

「うぅ……な、舐めます!」

 

 い、いや? こちとら舐めて欲しくないんだけど?

 

「仕方無い、これは仕方が無いこと。私は変態じゃない。奴隷だから! 命令だから!」

「…………」

 

 なにコレ? 彼女は俺の左脇をペロペロと。意味が解らない!

 俺が右腋のシャリアちゃんに助けを求めると、彼女は耳元で囁いた。

 

「あんな風に魔法を使ったおかげで、あの子の脳にはユマ様や私の姿が染みついてるみたいなの」

「……それが、ひゃん! なんで腋を舐めさせる事になるのです?」

「ユマ様のことを脳から追い出そうと、過剰に反発してますから。荒療治が必要ですわ」

 

 完全に、俺の荒療治になってるんだが? 両脇からペロペロするのやめて!

 ってか、結構な勢いでカラミティちゃん、ペロペロしていらっしゃる。

 

「嫌い! 汚い! でも、命令だから……可愛い、好き!」

「ふふっ、アレだけ嫌がるのは才能がある証よね、舐めるなら私より姫の方が素敵よ」

 

 クソッ! これ完全に押し付けられた! シャリアちゃんをお姉様と呼んでるカラミティちゃん、密かに好きだったのに!!

 

 もうやだ、わたしおにぎり食べる!!

 あ、変に甘い匂い……モグモグ。

 

 両脇を侍女二人に舐められ、俺は自作の腋オニギリをもっしゃもっしゃ食べるハメに……。

 

「これ、何の儀式なの?」

 

 困惑したネルネは次の日から三日間、休暇をとって実家に帰っていった。


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