死憶の異世界傾国姫 ~ねぇ、はやく、わたしを、殺して~   作:ぎむねま

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★ミニスカナース

「ふわっ!」

 

 夢を見ていた。

 ジュウジュウと音をたてる焼きごてを背中に押し付けられて、痛みにのたうつ。

 そうして焼き上がった背中の肉へ、シャリアちゃんがガブリとかぶりつくのだ。

 酷い夢だ。夢の中で夢だと解っていたけれど、それでも酷い夢だった。

 

「ふえっ?」

 

 背中を噛まれた! まさか、正夢?? 俺はまどろみから一気に覚醒する。シャリアちゃんならあり得ないとは言い切れない。

 

「あら、起きたのね?」

 

 涼しい声。あの、シャリアさん??

 

「どうひて?」

 

 口には猿ぐつわが噛まされていた。上手く喋れない。

 

「どうしてって、傷口が炎症を起こしているから舐めてたのよ」

「んむんぅ~!」

 

 いや、それ、舐めたいだけだろ! ソレどころか甘噛みしてただろ!

 なんにしても、背中はジクジクと痛む。酷い傷だ。

 

「ふぁふぁみを」

「鏡をとって下さる? 背中の傷を見せたいわ」

 

 どうして通じるんだ? シャリアちゃんの声に応じて、嫌そうな顔のシノニムさんが鏡を持って現れた。

 ウキウキのシャリアちゃんも嫌だが、嫌そうな顔で来られるとソレはソレで辛いな。

 

「どうぞ」

 

 二人で合わせ鏡にして、俺の背中を見せてくれる。その生々しい傷跡に俺は顔を顰めた。そして顰めた顔もやつれて目の下には隈と、見るからに憔悴していて、髪の毛は乱れボサボサだ。

 絵に描いた様なボロボロ具合。拷問を受けたお姫様といった風情である。

 

 ……いや、そのまんま拷問を受けたお姫様だわ。

 

 猿ぐつわの上、両手まで縛られて、我ながら不健康なエロさがある。

 発狂しそうな程に痛くて、痒い。でも、このエロさを見せびらかして、悪用してやりたい気持ちがソレに勝った。

 

「はふしてくらはい」

「解りました」

 

 そうして、拘束を外して貰った俺は、出撃して空になった本陣を練り歩く事にした。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 そうして見つけた、見つけてしまった。捕虜になった帝国の騎士達が運び込まれた、傷病捕虜用のテントである。

 銃弾が体内に残ってる騎士も多いらしく、うなされている人間が大勢居た。

 

「マークス隊長!」

「ラグノフか、グハッ」

「喋らないで下さい! 隊長!」

 

 なんか大声でお涙頂戴の茶番を繰り広げているのが聞こえてくる。どうも死にかけている騎士も多そうな様子。

 ふむ、相手は憎っくき帝国兵だ。ぶっ殺してやりたい所だが、俺の魅力で骨抜きにしてやるのも良いだろう。

 俺が手づから看病してやろうじゃないか。魔法で治せば一発だろう。

 それでも手を出してくるなら、堂々とぶっ殺して良いって事になるしな。ストレス解消に丁度良い。

 

 まず向かったのは留守になった木村のテントだ。他より立派な最新式テントである。

 

「何事です?」

 

 中に居た木村の使用人が焦るが無視。フィーゴ少年やカラミティちゃんは王都でお留守番してるから、こんな奴らに止められる俺じゃ無い。

 勝手に上がりこんで木箱を漁る。あんな約束*1したんだから、業の深いエロ衣装の一つや二つ持ってきてるだろう?

 骨抜きにするには今のボロボロのドレス姿じゃちょっとな、可哀想しか感情が湧かないだろ。

 最初は『可愛い女の子』だなって所から始めて、後から背中の酷い傷跡が発覚するのが理想。

 その為の衣装が何か無いか? 肩を最初から曝け出すのは刺激が強すぎて駄目。それでいてエロい奴。

 

「何か無いかなー」

 

 鼻歌交じりに、木村の持ってきたテントを勝手に漁る。おっ、あからさまに隠された木箱。コイツで間違い無い!

 ご開帳! 中身は?

 

「こ、コレは!?」

 

 いつか見た、白のバニーガール衣装! しかも、俺の成長に合わせて微妙に手直しされている!

 お前、散々偉そうな事言っておいて、俺を性的搾取する気満々じゃないかよ、コノッ!

 いやいや、怒ってないよ。ゲスな他人の性癖暴くのって楽しいよな。

 まだある。次!

 

 ナース! しかも、ミニスカ! ニーハイソックス! ナースキャップ付き!!

 

 ほほぅ? コレは新作か? そもそも、この世界にナース服なんて無いハズ。*2

 って言うか、地球でもミニスカに、ニーハイのナースなんてAVにしか居ませんわ。しかも色はピンク。

 これは騎士達を看病するのにピッタリの姿。それに、憔悴し病的な今の俺には絶対によく似合う。

 

 早速、着替える。

 

「何をしてらっしゃ……ぐふぅ」

 

 木村の使用人(男)を眠らせる。乙女の着替えを覗くのは許されない。

 あ、留守に男の寝室で勝手に着替えてるのはもっと駄目かもワカランね。

 

 そうしてドレスを脱ぎ捨てて、ナース服に着替える。

 ふむ、俺は侍女の二人を呼び寄せてクルリと一回転。どうよ?

 

「なんです? その格好は?」

 

 なぜか? シノニムさんがドン引きしている。

 差し出された鏡の中には……なんと! 一匹のメンヘラが居た。

 

 凄いな、メンヘラ臭がトンでも無い。やつれているのと目の隈がよろしくないのかも。

 

 ま、まぁ? 可愛い事は猛烈に可愛いよ? 精一杯の笑顔で微笑めば、無理がみえみえの痛々しい感じ。

 実際に、滅茶苦茶に痛いしな、背中の痛みは継続中。

 でも、幸薄くて守ってあげたい感じはあるはず。俺は意気揚々と木村のテントを出て、真っ直ぐに捕虜のテントに向かったのだが。

 

「何をしでかすつもりです??」

 

 両手を目一杯に広げたシノニムさんに行く手を塞がれた。え? 俺、別に物騒な事をするつもり無いけど?

 

「その衣装はなんです? 呪い殺そうと言うのですか?」

 

 いやいや、コレはナース服。看病のために作られた、伝統的な衣装ですって! 殺すなんてとんでも無い。ただ、ちょっとだけAV仕様。

 

「治療する為の衣装ですよ? それ以上の意味はありません」

「その衣装と、治療の何が関係あるのですか?」

 

 いやはや、全く信じて貰えない。それを言うなら呪うのにも関係無いよ? むしろ下半身は確定で元気になるはず。

 

「私がユマ姫だと解る格好では、捕虜を無駄に刺激するでしょう?」

「そもそも勝手に治療する必要が無いのでは?」

「うぐっ」

 

 ど正論で撃ち抜かれた。コイツは参ったね。どうしよう?

 と、その時だった。

 

「ブルルッ」

「キャッ!」

 

 シノニムさんと俺の間に真っ白の巨体が割り込んだ。

 言葉に詰まる俺を援護してくれたのは、真っ白な白馬だった。シノニムさんは突然の事態に慌てる。暴れ馬は人間なんて難なく踏み潰すのだから当然だ。

 

「何ッ? 衛兵!」

「ああ、帝国の使者が乗ってきた白馬ですね」

 

 一方でシャリアちゃんは冷静な反応を見せた。

 そう、コイツは帝国の使者ミニエールが乗って来た馬。俺がミニエールを銃でぶっ殺してから、暴れ馬として手がつけられなくなっていた……らしい。

 じゃあいっそ、馬もぶっ殺そうぜ! 俺が責任とんなきゃな! って俺が馬房に乗り込んだらまぁ、何というか大人しくて賢い馬なのよ。

 誰だよコイツを暴れ馬って言った奴は。今も俺に鼻先を押し付けて懐いてくる。

 

「どうしたの? ふふっ」

 

 動物と戯れる美少女。絵になるのではないだろうか?

 

「そんな! 危険な暴れ馬だったのに!」

 

 シノニムさんが呆然とへたり込む、シノニムさんが風評被害の大元か。白馬は俺の目の前に張り付いて、空の鞍を見せつけて来た。

 

「乗れと言うのですか? 良いでしょう」

 

 数千人単位が生活する陣内だ、移動するのだって一苦労。調度、足が欲しかった。

 ミニスカナース服で白馬に乗っちゃうのどうだろう? 絵になるを通り越して、ファンタジーが壊れるな。それよりパンツ見えちゃうか? まぁ今、陣内は空っぽだし良いだろう。

 

 で、白馬に跨がると、このクソ馬。勝手に走り出した。

 

「え?」

 

 やっべ、暴走? 落馬したら死ぬじゃん。いや、タダでは死なんぞ! その時はお前も道連れだ!

 俺は手綱を手放し、白馬のたてがみを握り締める。

 

「ブルルルルルゥ」

 

 なんか(いなな)いて、大人しくなった。そうして連れて来られたのは、先程も訪れた捕虜の傷病者テント。

 

「あなたもここに来たかったのですね」

「ブルルッ」

 

 考えて見れば、コイツも、アイツらも、ロアンヌとか言う地方の生まれ。シンパシーでも感じてるのかも知れない。

 そしてシンパシーを感じているのは騎士達も同じだった。

 

「サファイア! 生きていたのか」

 

 サファイア? 誰だよ? バケツを持った騎士が泣き笑いの表情で白馬へと駆け寄った。

 短髪赤毛のモブっぽい騎士である。

 

「アナタは?」

「お前こそ、何者だ! この馬はミニエール様の馬だぞ!」

 

 なるほどね、特徴的な白馬だ。自分の所のお姫様が乗っていた馬だと解った訳だ。

 

「まず、アナタが名乗りなさい、女性から名乗らせるつもりですか?」

「ぐっ、私はラグノフ。ロアンヌ聖騎士の副団長だ」

 

 へぇモブと思いきや副団長とは。そう言えば、さっき茶番が聞こえたな。

 比較的怪我が軽かった副団長自ら、他の団員の世話を焼いていると言う事か、威張り腐った貴族みたいな騎士団よりも、よっぽど骨がある。

 

「今度はお前の番だ、答えろ! どうしてミニエール様の白馬に乗っている」

 

 ほう? 名乗れと言うなら答えて進ぜよう。

 ホントは名乗らずに治療してから、実は……と言う展開を考えていたが、嘘を言ったらイメージは最悪だ。

 

「私は……ああっ」

 

 その時、突然に白馬が駆け出して、テントの中へと押し入った。

 勝手気ままにテントに乗り込む白馬。病院に獣って普通に細菌とか怖いよな。コイツらが死んだって全然困らんから良いのだが。

 

「貴様ッ! どういうつもりだ!」

 

 勿論モブっぽい副団長も凄い勢いで追って来た。

 

「名を名乗れ!」

 

 武器の代わりに、モップを突きつけて誰何してくる。良いだろう!

 

「私はユマ! ユマ・ガーシェント・エンディアン。ユマ姫と呼ばれています」

 

 俺が名乗った途端、空気がザワりと震え、部屋の温度が一気に下がった気がした。

 それもそのはず。テントの中は簡易ベッドでギュウギュウ詰めで、全員が怪我をしたロアンヌの騎士だ。

 俺は彼らの仕える領主の娘、言わばその地方のお姫様を殺した仇である。

 

 ――ブルルルッゥ!

 

 その時、白馬が突然に暴れ出し、俺はベッドの上に投げ出された。

 そのベッドには先客が、死にかけの騎士が一人。

 ロン毛で、端整な顔。如何にも立派な騎士様と言った風情。だけど、銃創が痛々しく、死の淵に立っているのは明らかだった。

 

「フフッ、サファイアよ、死に際に俺に仇を討たせてくれると言うのだな?」

「マークス隊長!」

 

 ラグノフが叫ぶ。 え? 隊長? と思った瞬間。俺はマークス隊長とやらのぶっとい腕に囚われ、首を絞められた。

 

「止めッ、カハッ!」

「ミニエール様のカタキ!」

 

 しかし、止まらない。止まるはずがない。コイツがロアンヌ騎士の隊長ならば、俺は喉から手が出るほどに殺したかった仇なのだから。

 なんだコノ超展開! 意味が解らない。

 クソッ、馬にまんまとハメられた! コイツ大人しいフリをして、俺をコイツに殺させる気で運んで来たのかよ!

 

 視界が酸素不足で、ゆっくりと暗転する。こんな、クソッ!

 こんな死に方???

 

 ……??

 しかし、ふと、マークス隊長の腕の力が緩んだ。

 

「コレは?」

 

 隊長は俺の首に嵌められた首輪を掴む。ああ、ソレ? 俺が嗜虐心を煽るアイテムとして自分から身に付けてるヤツです。

 どう? エロいでしょ?

 

「こんなモノを付けられて居るのか、それに……酷い傷だ」

 

 俺のナース服ははだけてしまい、背中の傷跡が見えたに違いない。

 

「何より、死にかけの俺でも絞め殺せそうなほど、細い首。か弱い力。俺は、何を?」

 

 隊長は、自らの腕を見つめ、ワナワナと震えて自戒する。

 そうね、俺みたいな女の子を絞め殺すのは騎士の規範とはならないだろう。

 隊長は殺意を失ったのか、ガックリと項垂れた。きっと俺が悪魔みたいな女だったら気持ちよく殺せたのだろう。

 でも、俺はどう見ても天使寄りの存在だ。隊長が躊躇するのは当然だろう。

 

「グハッ!」

 

 しかし、俺を殺そうとして躊躇うならば、俺の『偶然』はコイツを蝕む。力を入れて傷口が開いたのか、マークス隊長は血を吐いて顔を蒼く変じさせた。

 

「隊長!」

 

 ラグノフが駆けつけるが、今にも死にそうなのは明らかだ。

 

 しかし、その様子を見つめて、俺はなんだか面白くない気持ちで一杯になる。

 

 ……コイツ、勝手に盛り上がって勝手に死ぬ気か? 許さんぞ!

 俺はベッドの上のマークス隊長に馬乗りにマウントを取る。スリットが深く入ったミニスカのナース服、きっとパンツはモロ見えだろうが気にしている場合では無いハズだ。

 

「アナタ!」

「ッ!?」

「私と一緒に、死んでくれるのではなかったのですか?」

 

 間近に顔を突き合わせて、迫る。

 生かすも、殺すも、俺の自由だ! 違うか?

 

「あっ、ぐっ!」

 

 すると、隊長は死神に魅入られたみたいな顔で、おののいた。

 畳みかける!!

 

「アナタの命は私のモノ」

「やめろ! 隊長から離れろ!」

 

 慌てて肩を掴むラグノフ。振り向いた俺は、血走った目で睨んだ。

 

「止めたいなら殺せば良い! この細い首、軽く握れば砕けます!」

「何を言っている!?」

 

 動揺するラグノフを無視して、俺は隊長へ向き直る。

 

「アナタは、私を殺してくれますか?」

「ぐあっ……」

 

 蒼い顔の隊長は答えない。

 キザで整った顔が苦痛に歪むのを見るのは案外に楽しいが、仇を憎む目から、俺に心酔する目に変わるのを眺めるのは、もっと気持ちが良いだろう。

 助けてやろうじゃないか。

 

「『我、望む、この手に引き寄せられる、肉に埋まりし鉄塊よ』」

 

 セレナにも使った、でも助けられなかった、銃弾を取り除く魔法。俺に敵意を持っていた騎士だと言うのに、そこそこの抵抗で魔法は成功した。

 

 コイツ、俺に惚れたか?

 「この美少女にならば、殺されるのも悪くない」

 もしも、そう思わせる事に成功したならば、魔法は通り放題だ。

 

「ぐぅっ! ガァッ!」

 

 しかし、体に埋まった銃弾を取り出したのだ。当然に痛い。ロアンヌ騎士隊長は痛みに暴れて、俺のマウントが外れそうになる。

 俺はそれを太ももでガッチリと挟んで、目の前に手をかざし、抜き取った銃弾をパラパラと零して見せつける。

 

「アナタを蝕んでいた銃弾は抜き取りました。コレから治療に入ります」

「嘘だっ!」

 

 ラグノフが驚愕の声をあげる、

 この世界、外科手術など発展していない。ましてや戦場。肉にめり込んだ銃弾など取り出す術も無く、患部が腐るに任せるままだろう。それを俺はアッサリと取り除いた。

 

「『我、望む、汝に眠る命の輝きと生の息吹よ、大いなる流れとなりて傷付く体を癒し給え』」

 

 俺は、回復魔法を唱えた。

 斯くして、ロアンヌの騎士団長。マークスは一命を取り留める事になる。

 

「ブルルゥゥ」

 

 その様子を後ろからジッと見ていたのが白馬だった。

 

 コイツは、俺を殺そうとしたのか。それとも、マークスを助けさせたかったのか?

 

 獣の考えはサッパリ解らない。

*1
脇おにぎり

*2
実は四章、思惑を探ってで登場済み


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