死憶の異世界傾国姫 ~ねぇ、はやく、わたしを、殺して~   作:ぎむねま

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★フラグ回収

 なんか、木村率いる王国軍が、尻尾を巻いて逃げ帰ってきたらしい。

 

 まぁそうだよな、俺が居なくちゃ苦戦するのも止むなしだ。

 話によれば、木村ご自慢の、魔獣の外皮を貼り付けた装甲車が、大砲を貰ってひっくり返ったらしいのだ。

 

 大砲。

 

 そりゃ、銃があるんだから大砲だってあるよな。コレばっかりは木村の考えが甘かったと言うべきだろう。

 俺の出番も近いハズ。

 そうなれば、俺と共に敵に突っ込む戦力が必要不可欠だ!

 そんな思いで、今日も今日とて捕虜になった騎士達の元へと足繁く通う。

 

「ぶるるぅ」

 

 そして、俺の後ろを白馬がゆっくりとついてくる。

 周りの兵士達は、白馬とお姫様の絵本みたいな組み合わせに、ウットリと目を細めるのだが、俺としてはコイツに殺されかけただけに複雑だ。

 コイツの暴走で、俺を恨むロアンヌ騎士の元に放り込まれたからな。

 でも、流石にそんなに賢い馬とか居ないよな? 俺はジッと白馬に向き直る。

 

「ぶるぅ?」

 

 小首を傾げたカワイイ姿には邪気を感じない。

 そうだよな、偶然だよな。コイツにとって馴染みのロアンヌ騎士に俺が会いに行く時、たまたま付いて来ているだけだ。

 

 ……俺を監視してるワケじゃないよな?

 

 動物は人間の本質を見極めると言う。では、今の俺はどうだ?

 お馴染みとなったピンクのナース服に、今日は白いガーターベルトとストッキング。

 ドコからどう見ても、天使と言うほか無いだろう。

 

 満足した俺は、野戦病院と化したテントの中へと乗り込んだ。

 

「お、おおっ! ユマ姫、今日も愛らしい」

 

 声を上げて歓迎してくれたのは、ロアンヌ騎士の隊長である、えーと? なんだっけ? 『参照権』だ! そう、マークス!

 

「マークス様、怪我の方は宜しいのですか?」

「ああ、もうすっかり大丈夫だ! グッ!」

「無理しないで、まだ治りきっては居ないのですから」

「ぐ、その様だ。我ながら情けない」

 

 そりゃ、治しきってないからね。回復魔法を使った俺が一番良く知っている。

 一気に治したのでは有り難みがない。ゆっくりじっくり、治しながらコイツらを籠絡してやろうってのが俺の計画だ。

 あとちょっとで、俺の号令ひとつで帝国兵と戦い抜く、立派な戦力になるだろう。

 しかし、もう一押し欲しいな。もっと同情を集め、強制的に俺の味方をしたくなるようなファクターが要る!

 そう思った時、病院テントの幕を開け、コチラを窺う人物と目が合った。

 

 木村だった。

 

 俺は内心でニヤリと笑うと、外面だけは可愛らしく微笑んで、小首を傾げて尋ねてみせる。

 

「どうしたのですか? キィムラ子爵さま」

 

 そう言うと、木村は苦虫を噛み潰した様な顔をした。

 そりゃあね、秘蔵のナース服を勝手に着て、野戦病院で俺が看病してるのだからドデカい感情に支配されるのも無理はない。

 しかし、こんな衣装を戦場に持ち込む方にも責任があるだろうが!

 

 頭にはナースキャップ。控え目なボディにはミニスカナース服である。日本男児なら性欲を持て余して当然だ。

 しかも、このナース服。性欲と言うか、性癖が山盛りなのである。

 ただでさえ危険な程に短いナース服なのに、前合わせがスリットみたいに太ももを露わにしている。薄いピンクのコスプレみたいなナース服。

 軽く足を上げ、スリットから覗く生足を見せつけちゃったりなんかして。

 

 すると、すっかり魂が抜けた様子で、木村はなんとか声を絞り出した。

 

「その格好は?」

「あの……ドレスがボロボロになってしまい、勝手にお借りしました」

 

 モジモジと恥ずかしそうに述懐する。はにかみながら答える、あざとい姿。

 勿論大嘘だ! スリットからガーターベルトをチラリチラリ。悩殺という言葉は俺の為にあると言って良いだろう。

 今度こそ木村の顔が絶望に歪む。俺は内心、愉しくなってきたのだが、そこに別の声が割り込んだ。

 

「あの、そのお方は?」

 

 マークス隊長だ。疎外感を感じたのか割り込んで来た。

 よしよし、しっかりと嫉妬しているな。俺はその事実にほくそ笑む。

 しかし……参ったぞ。

 

 実はここの所、俺は騎士達にある事ない事を吹き込んでしまったのだ。

 やれ、意地悪な商人に性的な欲求をされてるとか、総司令官には煙たがられてるとか、いじわるな女王には何度も鞭を打たれているとか。

 

 ……アレ? 事実じゃないか?

 とにかく、同情を買おうとして、周囲が悪人ばかりで苛められていると言ってしまったのだ。だから、木村にフレンドリーに話し掛けられると困る。

 木村がこれ以上口を開く前に、俺が気の利いた説明をしてしまおう。

 

「この人はその、えっと……」

 

 しかし、言葉が出てこない! 土台無理があるのだ。オマエの事、エロい悪徳商人だって言ってるから話を合わせろ、なんて伝えるのは。

 

 しかし、しかし、木村はやってのけた。

 

「なぁーにを勝手な事をしてるんですかなぁ?」

 

 嫌らしく顔を歪めて近づくや、俯く俺の顎を持ち上げる。今まで一度もされた事のない嫌らしい動作。

 マジか! コイツ! スゲェ!

 俺も咄嗟に演技を合わせる。嫌らしく歪む木村の目線と、恐怖に揺れる俺の瞳が重なった。

 

「あ、あの……」

「勝手に治療なぞするんじゃない! どうせ治すなら、味方を治せば良いモノを!」

「きゃっ!」

 

 殴ったね? 親父にも殴られた事ないのに! しかし、恐る恐る殴るのは減点だよ木村君。俺は怖くないよ? スマイルスマイル!

 しかし、そこは俺の演技力でカバー。

 すこし大げさに吹っ飛んで、地面に倒れ伏す。だけど健気に立ち直ると、目に涙を浮かべて訴えた。

 

「で、でも! この人達は私が殺してしまった人の身内だから」

「だからなんだ! 使者に女なぞ寄越しおって。おまけにお前のようなガキに殺されるとは、どれほど貧弱なのだ。あんなのが騎士を名乗るとは、帝国はよほど人材不足らしい!」

 

 なるほど、嫌な商人だ。木村は俺の意図を完全に汲んでいる。

 

「なんだと!」

 

 しかし、それをこの場で言うのは、明らかに火に油。マークス以下、騎士達が青筋を浮かべ、空になった腰をまさぐる。

 剣が有ったら確実に抜いていた。間違い無く臨戦態勢だ。俺は何も、お互いに喧嘩して欲しいワケじゃない。

 

「ち、違うの! 魔法が暴走して、それをミニエールさんが……」

 

 吹き込んでいた雑な設定を披露する。俺の魔力が暴走してミニエールさんを殺してしまった。アレは不慮の事故だってヤツ。

 余りにも超展開、超設定。流石の木村も一瞬情けない顔を見せるも、何とか踏み止まってくれた。

 

「フン! なんにせよお陰で戦果は散々だ。コレでは一銭も儲からん」

 

 金にしか興味が無い商人を演じている。木村のヤツもなんだか愉しくなったに違いない、俺の首についたままの首輪を握り、強引に外へ引き摺るじゃないか。

 

「来い! コイツらじゃなく、味方の兵士を治療するんだ! 途中で眠るんじゃないぞ、また鞭をくれてやるからな」

「そんな!」

「よせ! 止めるんだ! グッ!」

 

 手を伸ばす俺とマークス隊長。俺は良い感じに囚われのお姫様気分が味わえている。

 木村は木村で、悪人らしく、更に顔を醜悪に歪めていた。

 

「あなた達はゆっくり休んで下さい。身代金をタップリせしめなくてはなりませんのでな」

「クソッ! 外道が!」

 

 金にしか興味がない商人らしく、騎士達を挑発する木村。

 いやー驚きのアドリブ力だわ。俺が感心していると、テントの外に出るなり、今までより数段マジな態度で首輪をキツく締められた。

 ぐべべ、喉から変な声が漏れる。しかし、コチラを見る木村の目線はマジのガチ。

 

「なんのつもりなワケ?」

「ゲホッ! いや、だってゼクトールさん達、俺の親衛隊なのに、俺に指揮権が無いじゃん?」

 

 どうも、親衛隊ってのは俺の安全を第一に、俺の暴走を止める隊らしいのだ。木村が肩を竦める。

 

「そりゃーね」

「だから、『ユマ姫と一緒にぶっ込み隊』の編成が急務だと思ってさ」

「解散して、どうぞ」

「酷い!」

 

 涙目である。折角、長時間掛けて仕込んでいるのに!

 

「アイツらは騎士なんだから、身代金を巻き上げたら、解放だから!」

「ちぇっ!」

 

 俺がふて腐れると、木村は痛い所を突いてきた。

 

「あの様子、どんなことを吹き込んだらああなるの?」

「あーソレね、嘘はついてないよ」

「ソレが既に嘘だろ?」

「果たしてどうかな?」

 

 自信満々に、俺は彼らへ吹き込んだ内容を披露する。

 

 ・大森林でお姫様として暮らしていた所、帝国の襲撃で国を追われた。

 ・王国に庇護を求めるもスフィールでは奴隷にされそうになった。

 ・王都では継承争いに巻き込まれた。

 ・今も多くの貴族に命を狙われて、味方が少ない。

 ・しかし、民衆の支持は厚い。

 

 完全に事実。木村はぐぬぬと唸った。更に更に!

 

 ・エルフが魔獣を操ると言うのは誤解。

 ・むしろ魔獣を操るのはクロミーネの魔術。

 ・帝国の皇帝は魔女に操られていて、エルフや王国に戦争を挑んだ。

 ・魔女は古代文明を復活させて、世界を支配しようとしている。

 

 当たらずも遠からずだろう? え? 他に? 別に何も?

 ぐべぇ! 首締めるな! 解った! 言うよ

 

 ・ミニエールのカツラも魔女クロミーネの仕込み。

 ・カツラだけでなく、ミニエールは魔力に反応し大爆発を起こすペンダントまで持たされていた。

 ・カツラに激昂した俺の魔力に反応して、ミニエールの生命力はドンドン火薬に変わっていく。

 ・このままでは大爆発となる間際、ミニエールは自決することで爆発を防いだ。

 

 以上、説明すると木村が叫んだ。

 

「嘘ばっかりじゃねーか!」

 

 ……はい、大嘘です。!

 

 でもさ、コレでミニエールさんは立派な死になるし、俺だって悪気のないミスをしただけになるじゃない? 誰も損をしていない。

 

「嘘ってのはスパイスみたいに、望むモノを少しだけ混ぜるのが肝心。お前が言ってた事だよ?」

「混ぜたのはスパイスじゃなくて猛毒だよね? 奴らを殺す気か?」

「殺す気だけど?」

 

 悪気も無く言い切ってみせると、木村は頭を抱えてしまう。

 

「アイツらは身代金をふんだくる為に必要だから! 殺さないで!」

「いやいや、返品するからこそ、魔女への不信感を植え付けて、評判を落とすのが重要っしょ?」

「その場合、俺は幼気なお姫様を利用する悪徳商人の評判が根付くんだけど?」

「それは勝手にやったんじゃん!」

 

 俺はすまし顔で答える。木村の苦情は受け付けない!

 それに、俺が一方的にどうこう言われる筋合いはないはずだ。ニヤリと笑って問い詰めた。

 

「それよりもさー、砦に攻め込んだらボコボコにされたらしいじゃん? このユマ姫様に全て任せてみない? 丁度、良い感じに弾よけの騎士が揃ってるし」

 

 だけど、木村は強がって見せる。

 

「いらねーって、秘策があるから」

「ほんとー? 俺の弓で大砲、壊した方が早くない?」

「不要です、とっておきがありますから」

「ふぅーん。じゃあ明日は俺も装甲車に乗って良い?」

 

 良いワケねーだろ! と顔に書いてあるが、俺から目を離したくないと、結局同行を許可してくれた。

 

 見せて貰おうか! 君の新兵器の性能とやらを。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 本日は。晴天なり。

 

 俺は装甲車の助手席から、砦の様子を遠くに眺める。久しぶりの戦場、それも車の中だから、あたかもピクニック気分である。

 アレが? ほぉーう? 渡された望遠鏡でみてみると、砦には確かに大砲が一つ、いや二つ有る。

 後ろでは、オーズド伯が木村へ作戦を尋ねている。総司令にも秘密なのかよ。

 

「キィムラ子爵が言っていた秘策とは、彼女の事ですかな?」

 

 オーズド伯が顎で俺を差す。……どうも、良く思われてないな。可愛い女の子じゃんね?

 サービスで助手席から振り向き、ニコニコと笑顔を見せるも、二人揃って微妙な顔をされてしまった。木村が嫌そうに声を絞り出す。

 

「いえ、彼女が戦場を見届けたいと言うので連れてきました」

「なるほど、ですが戦場でパニックを起こされては困りますが?」

 

 え? 俺の事、何だと思ってるの?

 

「あの、決して足手まといにはなりません。正直に言うと戦争は怖いです、だけど、だからこそ私が見届けないといけないんです」

 

 ぐっと、両手を構えてファイティングポーズで意思表示。

 内心じゃ怖くて堪らず、蒼い顔でガタガタと震えながらも、気丈に振る舞う少女。

 我ながら名演だ。

 

 どうよ? 感動したか? 木村と二人、恐る恐るオーズド伯の様子を見る。

 

 ……なんか、思い切り腰が引けていた。

 

 早い話がドン引きしていた。

 

 ぜ、全然効いていない! コレはショックだ。

 本心から顔が蒼くなる。ココまでオーズド伯に効果が無いとは……どうして?

 

 取り繕う為にも、小首を傾げて可愛さアピール。

 

 あ、マズった! 切り替えが早過ぎた! 余計にオーズド伯はドン引きしている。

 ……そう言えば、オーズド伯はシノニムさんから今までのアレコレを逐一報告されてるんだよな。

 それに、戦争で俺が戦う所も生で見ている。

 

 そりゃあかんわ。失敗だ、失敗!

 衣装がちょっと控え目なのも駄目だな、戦場だからってわきまえ過ぎた。

 地味な紺のワンピースドレス。個人的には好きなのだが、オーズド伯には刺さらなかったか!

 

 ドン引きのオーズド伯に、木村が必死にフォローしている。

 

「あの、今日は絶対に手を出さないと、約束して貰っているので」

「うむ……そ、そうか」

 

 いや、そのフォローは困る! 俺の出番が無いでは無いか!

 

「怖いですが、今日も敵にやられる様ならば、私だって戦いますよ!」

「…………頼みましたぞ、キィムラ殿」

「ええ! 任せて下さい」

 

 二人して、ガン無視であった。こちとら、お姫様だぞ♪

 ただ、無言で装甲車が走っていく。作戦決行地点まではすぐソコだった。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 装甲車を走らせ大砲に近づくと、いよいよ砦が慌ただしくなってきた。

 望遠鏡で見つめる先、大砲の近くには、特徴的な制服の兵士が居た。

 

 アレは、帝国情報部! アイツらまぁーだ居たのか。

 

 遺跡で俺を火だるまにした連中のお仲間である。

 えと、俺、殺っていい? 権利あるよね? そう目で訴えたのだが、木村は無視してトランクから細長い包みを取り出した。

 

「では、始めます!」

「それは?」

 

 尋ねると、俺の目の前で木村は包みを引っぺがす。

 

「これは…………ライフルです」

「んなっ!」

 

 戦国時代レベルの世界でライフルとな?

 ニヤニヤとする木村が言うには、一丁だけ作ったボルトアクションライフルらしい。

 原始的な構造ながら信頼性が高く、現代モノFPSとかでも普通に出てくるヤツだ! 余りにもチート。

 性能は普通に大きく劣るらしいが、他の銃とは別次元の精密射撃が可能らしい。

 

 しかし、そんなんで大砲に勝てるのか?

 木村が言うには大砲を撃てるのは僅かな人間しか居ないと言うのだ。

 

 確かに、大砲の訓練など、めったやたらに出来るハズが無い。テムザンが動かせる戦力となると余計にだ。

 大砲は引き金を引いてホイッっと撃てるワケじゃない。

 タダの鉄の玉を打ち出すのだから、でかい装甲車を撃つにでも、200メートルぐらいは引きつけて撃ってくると言う。前回も200メートル地点でひっくり返されたとか。

 

 だからこそ、ココ大体300メートル地点に陣取ると言う。

 300メートルともなると、人間なんて点みたいにしか見えない距離だった。

 肝心の砦だって望遠鏡ナシではちっちゃい石みたいな大きさ。

 東京タワーの天辺に居る人間を見上げるみたいなもんだもんな。

 

 本当に当てられるのか? 固唾を飲んで見守る中、木村はハシゴで装甲車の上に登った。

 うーん、流石に狙撃は邪魔出来ない。ゲーマーとしては当然の事。

 

 と、その時、ピリリと首筋に痛み。そして、砦から白煙が上がる。

 

 来る! 俺の『偶然』は確実に俺を狙う!

 懐から銃を引き抜き、トリガーを引くのと、大砲の音が遅れて届くのとは、ほぼ同時!

 

 ――ドン!   ドォオン!

 

 発砲音から僅かに遅れ、鉄球が地面を跳ねる音が間近で響いた。

 鉄球は装甲車2メートル横に着弾。

 やっべぇぇぇ! 確実に、俺の銃弾で弾かなければ、直撃していた。

 

 オイ! 300メートルは安全圏じゃなかったのかよ! 木村ァ!

 いや、今のは俺の『偶然』が悪いか?

 

 望遠鏡で見れば、さっきの帝国情報部のヤツが撃ったみたい。

 

 奴はまだ諦めず、兵士に指示を飛ばして次弾を装填させていた。木村サン? 早く撃ち殺して下さいよ!

 

 俺は必死に祈った。そして、渇いた音が鳴る。

 

 ――パァン!

 

 頭上からの発砲音! しかし、当たってない!! 情報部のヤツは無事! 外した!

 木村サン? さっきの大口はなんだい?

 しかし、ライフルなら装弾は早いはず。

 と、望遠鏡を見つめると……あ、情報部のヤツが引っ込んでしまう。

 

 あの? 木村サン? コレ、作戦失敗ですよね?

 オーズド伯と、運転手のエルフ、そして俺、車内に残された三人に微妙な空気が漂う。

 

 ガッカリだよ。ハァと息を吐く。すると……再び首筋に痛み!

 え? 砦を見つめると、もう一個の大砲に何やら動きが!。

 

 ……そうか! 木村が言うとおり、アイツしか大砲が撃てないんだ! だったらどうするか? 二門の大砲で交互に撃つ!

 

 俺はもう一門の大砲をスコープで観察。居た!

 やっぱりそうだ、二門の大砲を二人で撃つんじゃない! アイツが一人で廻し撃ちする為の、二門の大砲だ!

 

 え? マジ? さっきみたいな大道芸。二回は絶対に出来ないぞ?

 俺は目を瞑り、必死に祈る! 木村! 当ててくれ! 暗闇の中、俺の運命光が一気に減じる。

 

 ――パァン!

 

 渇いた発砲音。木村だ! そして、俺の運命光が急速に膨らんだ!

 

 勝った! 殺りやがった! 慌てて望遠挙を覗くと、砦は大騒ぎ。誰も大砲を撃とうとはしていない!

 そこに木村が叫んだ。

 

「やりました! 進んで下さい!」

「了解です!」

 

 すぐさま装甲車は砦まで突っ込んだ。ガタつくが、それでも馬車よりはずっと速い。

 装甲車に身を隠し、ゼクトールさん以下、親衛隊もついてきている。

 

 そこで、ドゥンと大砲が撃たれる音。しかし見当違いな方角に放たれる。やはり、他のヤツはド下手らしい。全く当たる気がしない。

 砦からは散発的に銃声が響くが、装甲車に弾かれている。

 

 ソコから先は早かった、砦に近づくや、木村が木製の大扉目掛けて火薬を投げつけた。

 バンッっと派手な音を立て大扉が崩れると、ゼクトールさんたち騎士が乗り込んでいく。

 混乱に乗じて、他の騎士も次々と砦に雪崩れ込んだ。基本的に小さな砦だ、これだけで落としたも同然だろう。

 戦場の雰囲気に血が騒いだのか、装甲車を飛び出して愛馬に跨がったオーズド伯がニヤリと笑った。

 

「やりましたな、私も中を見てきます」

 

 テンション高めのオーズド伯へ木村が釘を刺している。

 

「ええ、しかし油断なさらぬ様。勝ってるようでも開戦前に戻しただけです」

「コレで手打ちにはしたくないと?」

「総司令であるオーズド伯の判断には従いますが……毎年、新兵器の実験に付き合う道理は無いでしょう?」

「ふむ……」

 

 オーズド伯め、悩む事ないだろう! いや、マジで! 時間が経つほどに相手は強力になり、俺は死ぬ可能性が高いのだ。

 木村の説得を必死に見守る。俺が余計な事を言うと余計にこじれるに違いないからだ。

 

「テムザンは帝国を代表する将軍……ですが私は彼らが最高戦力だと思っていません」

「どう言う事ですかな?」

「もっと厄介な連中が、牙を研いでいる段階に思えてならないのです」

「馬鹿な、敵兵は万の単位で動員されている。テムザン将軍以外にコレほどの兵力は集められんよ」

 

 オーズド伯は笑って否定する。確かに諜報活動で得た情報では、テムザン将軍以上の戦力は無いのだろうが、それは今までの常識だ。

 本当に怖いのは魔女、それに古代兵器。木村はそれを強調する。

 

「恐らく、在庫処分をしたテムザン将軍ですら、在庫処分される側なのです。決して油断なさらぬ様」

「ご忠告痛み入るが、とにかく敵の様子を見て決める」

 

 オーズド伯は愛馬に乗って、占領中の砦へと飛び込んでいく。うーん解って貰えたのかな?

 とにかく、今回は勝ったと言う事で良いだろう。気が抜けてしまった。

 

「ふわぁぁ」

 

 大きくあくびをした所を、木村に見られた!

 見るんじゃない! 乙女だぞ!


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