死憶の異世界傾国姫 ~ねぇ、はやく、わたしを、殺して~ 作:ぎむねま
かなり悩んだのもあります。
今回、木村視点となります。
ユマ姫視点に書き直そうとしたのですが、兵士の心情とか
ユマ姫視点だと書きにくいのもあるし……どうせ次回はユマ姫視点で書けないので
前回までのあらすじ、エロゲーを参考にするユマ姫で戦場が危ない。
「コッチも悪徳商人らしく、姫の体を弄んでも良いんだけど?」
苛立ってそう言えば、ユマ姫は妖艶に笑った。
「意気地無く、あの日一緒に死んでくれなかったアナタが、私にソレを言うのですか?」
なんなんだよマジでさー。コレで本人は知識チートのつもりなんだから端的に言って地獄だろ。
童貞どころか、全てを無差別に殺す致死チート。それを言うと、本人は白けた顔をして口を尖らせた。何故だか拗ねているらしい。
俺はビキビキと痙攣する額の血管を自覚した。
「さっきの、親衛隊五十人で夜も昼も無く鞭を打てってさ、挑発するにしても、マジでやられたらどうすんの?」
あり得ない、とは言い切れないからね? 鞭を打たれるユマ姫を思い出し、皆が茹だるほどに興奮していた。恐れ多い、しかし、だからこそ、灼ける程に惹かれていた。
それでも彼らがユマ姫を鞭打つ事が出来なかったのは、恐らくユマ姫を案じてではない。
もしも守るべきユマ姫を傷つけてしまえば、騎士としての彼らの根っこが崩れてしまうからだ。
規律や倫理を捨ててしまえば、騎士など野盗と変わらない。ただの一瞬で、世界の全てが反転してしまう。それをハッキリと自覚したに違いないのだ。
それほどにユマ姫の狂気は破滅を予感させ、それでも危うい程の美しさが欲望を刺激する。
そんな均衡が崩れたら、何が起こるか解らない。
だと言うのに、ユマ姫は挑発するように目を細めた。
「心配してくれるのですか?」
「ココまで来て、味方に殺される気ですか? 今までの備え全てを無駄にして、一銭の得にもならない」
あくまでお姫様として振る舞うなら、俺もお抱え商人に徹しよう。
そんな気持ちをあざ笑う様に、ユマ姫は笑顔だ。
「敵に殺されてやるよりは、味方に殺されてあげた方がずっと良いでしょう?」
「なんでそうなるの?」
一瞬でお抱え商人の仮面は破壊された。意味が解らない。
頭を抱える俺だが、一方でユマ姫も困惑していた。キョトンとした『高橋敬一』の顔で俺に尋ねる。
『ん~? でもさ、正直さ、俺みたいな可愛い女の子を苛めてみたくならない?』
『ならんけど?』
『えぇ~?』
『いや、俺以外は解らんけどね』
……言い返しつつも、100%否定し難い部分はあった。言い淀む俺にユマ姫は口の端を吊り上げる。
『ほんとかー? 皆、俺が鞭で打たれる様を、固唾を飲んで見てたじゃないか』
『そりゃ……』
お前があんまり色っぽく鳴くからじゃない? とは言い辛い。口ごもる内に話は続いた。
『俺、ちょっと安心したんだよね。女の子が痛い目にあって喜ぶのって俺だけなのかなって不安がさ』
『いや? それはどうなの?』
『まぁ、ンな訳ないんだけどさ、いや皆もやっぱり好きなんだなって』
ウンウンと頷きながらチラリとコチラを見てくるが、あいにく俺にそんな趣味は無い……ハズ。
なのにコイツは狂気が宿る瞳でジッと見て来る。
『夜な夜な鞭を打たれたトコが痛んでさ、のたうち回る自分を鏡で見たら、思いの外エロいじゃん?』
『確かに、ベッドで悲鳴をあげてるのはエロかったかも』
『だろ? 男ってのは嫌がる女の子を暴力で組みしだいて、泣かせたい生き物なんだよ」
『流石に特殊な性癖じゃね?』
『違うね、戦争なんて何時だってそんなモノだろ?』
『…………』
……なるほどな、それがコイツの狙いか。良く見ればユマ姫の額には珠の汗が浮かんでいる。
きっと鞭の傷が痛むのだ。それでも戦場から引っ込もうとしない理由は何か?
『まさか、敵を釣り出そうっての?』
『まーな、エルフのお姫様が敵陣で待ってるんだ。誰だって制圧して陵辱したいと思うだろうが』
……コイツマジでエロゲー脳じゃん。
『敵の士気が上がるだけじゃねーか!』
『でもさ、このままじゃ橋を挟んで
『まー確かにしんどい』
痛い所を突かれた。当初は装甲車を盾に橋を渡るつもりだったが、大砲でひっくり返されればどん詰まって良い的だ。
『そう言う意味じゃ、結果的には俺が使者を殺したのも悪くなかったかもな。少なくとも引き込んだ敵は倒すことが出来たじゃん?』
『調子に乗りすぎだろ!』
『そうは言っても、俺には時間が無いからさ、早く決めたい』
『無理じゃね?』
この世界、大国と言えるのは王国と帝国だけだ。
エルフの国が緩衝体となっていたのを差し引いても、二つの大国が長年共存している理由は幾つかある。
第一にフィーナス川。コイツに遮られて補給がままならない。
第二に魔獣の脅威。冬が近づけば
……いや、エサだった。
『今は無理じゃないだろ?』
『……そうだな』
認めざるを得ない。
『更に言うと、帝国はゼスリード平原に農地を作ってるぜ?』
『どこでそれを?』
『空から見えた』
……そうかよ。その情報は司令部も掴んでいる。堂々とやってるのだから当然だ。
帝国はコチラに深く切り込む準備が出来ている。
だからこそ、捕虜交換から停戦など不可能と俺も思っていたのだ。ユマ姫は美しい顔に似合わない獰猛な笑みを浮かべる。
『逆に考えようぜ? ゼスリード平原さえ落とせば、食料の心配なく帝都まで攻められるだろ?』
『どうやって無傷で手に入れるんだよ? ゲイル大橋の前で裸踊りでもしてみせるってのか?』
『馬鹿かよ。お前、裸踊りするお姫様に萌えるワケ?』
『萌えるとか萌えないって以前の問題じゃね?』
『じゃあ、いっそ、お前が敵の前で俺に鞭を打ってみるか?』
ユマ姫が獰猛に笑って挑発するが……何だか話がしつこい。
『え? そんなに鞭で打たれたいの? マゾなの?』
『…………』
ユマ姫は黙って下を向く。え? マジでマゾなの? 鞭で打たれるのが癖になった感じ?
『いや、違うんだ。ただただ、痒いんだよ』
ユマ姫は辛そうにそう言った。
「あー」
そう言えば、傷跡が炎症を起こして痒くなるらしいね。
ユマ姫は居住まいを正して、お姫様らしくスカートの裾を握る。
「痒すぎて強く引っ掻いたり、熱湯を掛けると気持ちが良いのです、いっそアナタに鞭で叩かれた方がスッキリするのではないかと思うほどに」
漂う甘い体臭とユマ姫を鞭打つ大義名分に、クラリと脳が蕩ける感覚。しかし、コレに飲まれてはいけない。
「でしたら、患部を見せて貰っても良いですか?」
「わかりました」
ユマ姫は惜しげもなく背中を向けて、髪を纏めて前にもってくる。
白いうなじがそそるが、煩悩を振り払い上着をめくる。
「どうですか?」
肩を抱える様に前を隠して、恥ずかしそうに聞いてくる。
……そう言うの止めて欲しい、エロイから。
しかし、傷跡は結構グロかった。かなりケロイド化している。これでは痒いワケだ。
「これは、治るのですか?」
「一生治らなかったとして、私の一生があとどのぐらいあるのかも解りません」
「そう言われると……」
「なんなら、今すぐ回復魔法を試しても良いですか? 私なら魔法が使えますよ?」
「うーん、止めておきましょう」
回復魔法で治して貰って傷跡はメイクで誤魔化す手もあるが、それはユマ姫を戦場に野放しにするのも同義だ。ユマ姫が元気になったらグライダーで空から帝国陣地を狙いかねない。
せっかく勝手に使者を殺した責任で、傷を治さないと約束させたのだ。モノにした千載一遇のチャンス。台無しにする手は無い。
炎症を止める薬を塗っておく程度にした方が良いだろう。
俺は持ち歩いてる常備薬をタップリ掬って、小さなユマ姫の背中にそっと塗りつけた。
「あんっ!」
「…………」
変な声を出すの止めて欲しいのだが、ユマ姫は体をよじって懇願してきた。
「そのまま掻いてくれませんか? あまりに辛くて」
「わかりました」
で、仕方無く、優しく掻いてあげるのだが。
「んっ! アッ!」
『やたらと悩ましい声出すの止めろ!!』
堪らず日本語で叫んでしまった。コイツ、嫌がらせか?
『いや、ホントに声出るから、異常に気持ちが良い。痒みが凄い』
『掻くの止めて良い?』
「そんな、体が切ないのですお願いします」
「ええ?」
マジなトーンでお姫様スタイルも厭わず、本気で懇願されてしまった。
で、ちょっと強めに掻き掻きするのだが。
「んっ! ああっ! もっと激しく!」
「…………」
「あっ! ああっ! ソコッもっと!」
「ギブアーップ! シャリアちゃん! 助けて!」
「姫様、私が代わります」
「お、お願い」
やだ、この娘ホントに居た! ずっと影から観察してたに違いない。凄く自然にヌルリと現れた。
そんなシャリアちゃんがすれ違いざま、俺の耳元で囁いた。
「いくじなし」
クソッ! お前もか! 苛められてるの俺じゃねーか!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それから数日、案の定だが膠着状態が続いてしまう。
橋を渡ろうとすれば銃の良い的。橋以外からノロノロと
これでは埒が明かない。
銃が出る前、弓矢の時代からもそんな傾向はあったようで、それを打開してマトモに平原で戦う為に生み出された作法があった。
「一騎打ちをしようなどと、奴らはふざけてるのか!」
帝国からの矢文に、オーズド伯は激昂する。
それもその筈、去年の戦争で名乗り出たコチラの騎士を、一方的に撃ち殺したのが帝国だった。現場で目の当たりにしたオーズド伯が怒るのは当然。
しかし、このまま膠着が続くなら農地が近い彼らの方が有利になる。
俺はオーズド伯をジッと見つめる。
「乗ってみても良いのでは無いですか?」
「なぜだ? 優秀な兵士を失うだけだぞ? 今回も銃で殺されてみろ。今だって飛び出そうとする兵士を宥めるのに苦労しているのだ!」
しかし、去年は魔女に近しい人物が指揮していたと思われる軍隊だった。開戦の使者もまともに出さず、異様な兵器の博覧会の様な戦場だったと言う。
今回、テムザン将軍は少なくとも形式や作法は守る人物だ。
一騎打ち。やるとしたら誰が出るべきか?
こう言う時こそ田中の出番なのだが、アイツは魔獣退治にかかり切りだ。
今回、エルフから多くの協力を得られているのも、アイツの頑張りが大きい。アイツはエルフの英雄扱いを受けている。それに多くの戦士を失ったエルフは、慢性的に戦力が不足している。余裕があれば駆けつけると言っていたが期待は出来ない。
だが、田中に頼らずともコチラにだって腕自慢は少なくない。なにより、親衛隊は防弾マントを着ているのだ。
「どうやら、私の出番が回ってきたようですな」
「ゼクトールさん!」
一騎打ちと聞いて司令部に入ってきたのは、ユマ姫親衛隊、隊長であるゼクトールさん。元々は第二王子の近衛兵長だっただけに、王国随一の槍の使い手である。
「僕にもやらせて下さい!」
「マーロゥ君!」
エルフの戦士である彼は、王国の秘宝である双聖剣ファルファリッサの使い手だ。エルフは魔力が薄い戦場では長時間戦えないと言うが、こう言った一騎打ちならこれ以上頼もしい戦力は無い。
俺はオーズド伯に向き直る。
「彼らが出る分には構わないでしょう? オーズド伯の兵は傷つきません」
「そういうわけにもいかんだろう、ネルダリアにも優れた騎士は大勢居る。帝国は三人を一人ずつ出す形式がご指名だ、ウチからも一人出そう」
そうして、橋での一騎打ちが決定したのだった。