死憶の異世界傾国姫 ~ねぇ、はやく、わたしを、殺して~   作:ぎむねま

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★絶望の夜明け

 そこは幸せな場所だった。温かく、優しい光に満ちていた。それに何より、セレナが居た。

 

「セレナ、そんなに走らないで」

 

 俺は、いつもの様に走るセレナを追いかけた。

 俺は病弱だから、妹の後ろを歩く。コレもいつもの事。距離を離されそうになるけれど、呼び止めればセレナは絶対に待ってくれる。

 だけど、今日はいつもと違った。

 

「ダメだよおねーちゃん、コッチに来ないで!」

「なんで? セレナどうして?」

 

 セレナに拒絶された。それが、とても、とても、悲しかった。

 

「えへへ、あのね、お姉ちゃんにはやって欲しい事があるんだ……」

「なに? 私、セレナに何をしてあげれば良いの?」

「それはね――」

 

 その時、世界が暗転する。

 

 打って変わって、目の前には赤い世界が広がっていた。

 それに熱い。汗ばむほどに。ここはドコ? 私は廃村に入り込んで……それから……

 

 ぼんやりとした思考は焦げ臭い匂いに中断される。

 燃えてる! 熱い! 火だ! 暖炉の火が燃え移っている!

 そう言えば暖炉の火は付けたまま、辺りに散らばる木くずに張り込む隙間風。そしてボロボロのカーテン。

 火事が起こる条件は揃い過ぎていた。

 

 でも、それで良い。セレナと二人で行けるなら、それで。

 

 冷たくなったセレナの手を握ると、俺はそっと目を瞑った。疲れ切った俺の体は、まだまだ睡眠を求めていたから。

 

 ああ、これで、寝られる。ゆっくりと……

 

 だけど、俺の体は突然抱え上げられた。あっという間に部屋の出口まで運び出される。

 

「セ、セレナ? セレナ―」

「駄目じゃ! 行ってはならん」

 

 部屋で寝たままのセレナへと俺は必死で手を伸ばす。だけど、担がれた俺は、そのまま部屋の外へと連れ出される。

 なんで? 誰? 私は! セレナと!

 

「離して! セレナが、セレナが」

「無駄じゃ、もう死んでおる」

「そんな、そんな……」

 

 そんな事は! 誰より知ってる! だけど、だけど……私は!

 俺を抱きかかえるのは誰? なんで今更! セレナが死んだ後で!!

 

「ハァハァ」

 

 俺を担ぐ誰かが頼り無い足取りで階段を駆け下り、ドアを蹴破ると家の外に、一転、冬の寒々しい風が頬を撫でた。

 

「なんで……」

 

 まだ、中に……セレナが居るのに!

 

「どうして! どうして!」

 

 目の前には轟々と燃えさかる家、夜空には煌々と輝く大きな満月。炎の明かりもあって、辺りは夜だと言うのに不自然なまでに明るかった。

 地面に降ろされた俺は、現実感の伴わない光景を受け止められない。

 

「セレナぁ……セレナーーーーー」

 

 手の平に残るセレナの秘宝を抱きしめ。俺はただ、泣きじゃくる事しか出来なかった。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「何があったんじゃ?」

 

 尋ねるのは俺を部屋から助け出した爺さんだった。

 名はファーモス。廃村となった村の外れで炭焼きをしていた所、火の明かりに仰天して目が覚めたらしい。

 

 ……いっそ、あのまま見殺しにしてくれれば。

 

 そんな思いが止められない。

 

 あの後、俺はまた、いつもの様に、アッサリと無様に気絶してしまった。

 それで、朝、家があった場所に来てみれば、焼け落ちた跡の黒い炭しか残っていなかった。

 これじゃあ、セレナの遺骨すら見つけられない!

 

「なんで、なんで!」

 

 どうして、俺はこうなんだろう? なんで、何一つ出来ないのだろう?

 死のう。そう思った。だけど、今の俺はナイフの一本も持っていない。

 

「どうじゃ? 一緒に来るか?」

 

 話し掛けてくる爺さんの腰には不格好な鉈があった。

 ……これなら? ダメだ、こんなモノじゃ死ねないよ。

 

「なぁ、来ないか? ココに居ても危ないぞ」

 

 エルフの国が滅びたと言うのに、何も知らない呑気な爺さんが憎かった。

 だけど何より、何も出来ないで家族を、セレナを巻き込んでしまった自分が憎かった。

 

「……行きます」

「そうか! じゃあリアカーの後ろに乗ると良い、ワシはピラークの準備をしてくるからのぉ」

 

 人里に行こう。それで、国が滅んだ事を伝えよう。

 この老人みたいに、呑気な寝ぼけた奴らを怖がらせてやろう。

 死ぬのはそれからだって十分だ。俺はその時そう思っていた。

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