死憶の異世界傾国姫 ~ねぇ、はやく、わたしを、殺して~   作:ぎむねま

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おっぱいチェーン

 季節は秋に差し掛かり、帝都周辺の穀倉地帯も黄金色に色付いていた。

 

 隕石で内部からグチャグチャになった俺の体は、もうすっかり回復した。

 外から見て解る変化こそないが、体を動かしても、軋んだり、痛んだりする所がない。

 羽こそ生えて来なかったが、あんなもん生やそうと思って生やしたワケじゃなし。むしろ人間に近づいたと喜ぶべきだ。

 

 ……ひょっとして、人間を食べまくった所為で人間に近づいてる?

 だとすれば皮肉なもんだ。

 

 さて、そうと決まれば、後は帝都を落とすだけ。

 内部から蜂起を促し、正門から堂々と乗り込んでやる。

 

 それには馬が必要だ。総大将がテクテク歩いてご入城では締まらない。

 だが、ここで大問題が発生した。馬なんてなんでも良いと放置していたのが良くなかった。

 

 俺を乗せてくれる馬がないのである。

 

 俺が近づくだけで、怯えまくって逃げようとするし、むりやり背中に乗ろうものなら制御不能だ。老成した馬ですら暴れ馬に早変わり。怯えて動かなくなる馬まで居る。軍のベテラン馬丁はしきりに首を傾げていた。

 方々から手当たり次第、色んな馬を連れて来て貰ったのだが、どれもダメ。

 

 ミニエールから奪った、あの白馬のサファイアがどれだけ貴重だったのか思い知った格好だ。あいつが普通に乗せてくれるから、大丈夫かなと油断していた。

 あんな名馬を殺してしまうとは。意識が無かったとは言え、本当に不味い事をした。

 ……まぁ美味しかったんだが。

 

 で、とうとうコッチから乗り込んだ。やって来たのはロアンヌ地方。

 

 ロアンヌは帝国で名の知れた馬の一大産地。あのサファイアもココの生まれだ。

 思い出すのはマークスやタリオン伯。死んでしまった彼らだが、思えば馬には一家言ある連中だった。

 ここなら流石に見つかるだろう。

 

 ……で、牧場を案内して貰ったのだが。

 

「コイツは妙だ、どれも近づきやしない」

 

 案内に雇った地元の馬丁がぼやく。俺が牧場に現れるや、馬たちが一目散に逃げるのだ。

 想像してみて欲しい、のどかな牧場をミニスカのお姫様がてくてく歩く、すると、馬達は同じ分だけ距離をとり、絶対に近づこうとしない。そんな光景を。

 それはもう、端から見たら、とても愉快な光景だろう。

 

 だが、当の俺は愉快じゃない。ここまで嫌われると、流石の俺も傷付いた。

 なにせ今日の俺は馬に乗る気満々のコーディネートで来てしまっている。例のお気に入りのレザーコルセットに、デニムスカート、拍車付きのブーツに、カウボーイハットまで被ってるんだぞ?

 コレだけ揃えて「馬に乗れませんでした」って恥ずかし過ぎる。

 

 それに、動物に手を伸ばして逃げられるのは精神的に辛い。逆アニマルセラピーか? 自分を否定された気がする。

 俺はコレから皆の期待を一身に、天使ユマやら、聖女ウルフィアとして、帝都に乗り込まねばならんのにイメージが悪いにも程がある。

 

 「私よー」って城門を潜ったら、サーッっと人が引いていったらどうしよう?

 カワイイ女の子である俺が現れるや、悪魔みたいなブリキの怪物や、ホラー映画の解体屋(ブッチャー)までが一目散に逃げていく。まるであべこべの光景を想像してしまった。

 俺が変な妄想にため息をついている間も、馬丁さんのぼやきは止まらない。

 

「いやぁーこれはオカシイ、どれも大人しい馬なんですがね」

 

 そう言いながら、チラチラと俺を見てくる。何なんだよもう。

 俺は、うんざりとため息をつく。

 

 あれだな、「俺でも乗れる馬を探してくれ」とオーダーしたのがマズかった。馬丁は女の子の俺に、乗りやすい初心者用の馬を宛てがおうとしている。

 だけど馬から見ると、俺は可愛い女の子ではなく、怪物だったと言うワケだ。

 

 解ったよ、認めよう。俺は怪物ですよ。認める。認めます! 私は化け物です!

 もうこうなったら、逆転の発想だ。化け物には化け物をぶつけんだよ!

 

「違います」

「へ?」

「私が乗れる馬は、私にしか乗れない馬です」

「何言って、やがるんで?」

 

 敬語も忘れてポカンとしている。

 言い方を変えよう。俺が欲しいのは、恐れを知らない暴れ馬だ。

 

「人を殺した事がある馬は居ますか?」

「はぁ?」

「わたしはー、そう言うアブナイ馬もぉ、一目見てみたくってぇ♪」

「……はぁ、さいですか。構いませんが人手が要ります。弾んで下さいよ?」

 

 ぶりっ子して言えば、お嬢様のわがままにうんざりしながらも見せてくれる事になった。

 悪くない。俺は、俺が選んだこの失礼な馬丁に、全幅の信頼を寄せている。

 

 だって、コイツは俺をジロジロと見ないのだ。一方で馬の体は涎が出るほど凝視して憚らない。

 『ホンモノ』ってヤツだ、この手の男は信用出来る。流石は馬の名産地。

 

 そうして待っていると、大の男が四人掛かりで一頭の馬を引っ張ってきた。

 

 他より二回りは大きい馬体に、額には一筋白い流星が流れる、見事な黒毛だった。

 図抜けた巨体もそうだが、黒々とする毛艶が何よりすごい。漆みたいに筋肉の盛り上がりが輝いて、周囲から浮かび上がって見える。

 なんだよ、スゲェのが居るじゃないか。

 

「これが?」

「へぇ、満足ですかい?」

 

 良く見りゃ馬丁も何だか自慢気だ。嫌々連れてくるみたいな素振りは、お駄賃をふんだくるため。本心ではコイツを見せつけたかったに違いない。

 ロアンヌ(いち)の名馬ってワケか。

 

 ……いや。ただの名馬ってワケじゃ無さそうだ。

 

「おい、頼むから大人しくしてくれ」

 

 大人四人でも抑えが効かず、持て余している。馬は目が血走って、今にも暴れ出しそうだ。マジで人間殺してそうな迫力がある。

 

「どんな由来なのです?」

「由来もなにも、コイツは、ここの王様だ。気にくわねぇモンはスグに蹴り殺しちまう」

 

 オイオイオイ、この言い方。一人や二人じゃなさそうだ。

 

「人を殺す馬を放置している? 殺すべきでは?」

「ダメダメ、そりゃあコイツは人を乗せるような馬じゃねぇ。だけど子供までそうとは限らねぇだろ? 見ての通り、コイツの馬体はピカイチだ。俺の夢はな、コイツの子供に乗って、野っ原駆け回る事ですわ」

 

 早口でまくし立てる。よほど好きなのだろう。

 

「ふーん、名前は?」

 

 俺は気のない会話を続けながら、ゆっくりと黒毛に近づいた。するとどうだ? ビクリと体を震わせて、硬直するじゃないか。

 ……なんだ、コイツも臆病者か? ガッカリだ。

 

「名前? え、あ? グラフェンですが?」

「そう」

 

 いよいよ手を伸ばす距離まで近づくと、黒毛のグラフェンは目の色を変えて逃げ出そうとケツをまくった。

 ……いや。

 

「危ねぇ!」

 

 馬丁が叫ぶ。そう、グラフェンは俺から逃げようとしたのではない、殺そうとしているのだ。

 前足に体重を預け、高々とケツを持ち上げる。そうして盛り上がった筋肉の躍動は、後ろ足に込められた力の程を教えてくれた。

 

 少女の頭など軽く吹き飛んでしまうに違いない。いや、鎧を纏った騎士とて同じ事。兜の中身ごとぶちまけるだろう。

 

 でも、俺は違う。

 

「な、なんだぁ?」

 

 振り払われて、地面に転がった馬丁が呆然と呟く。

 俺が、蹄を、ガッチリと掴んで止めていたからだ。

 

「良い子ね」

 

 俺は上機嫌で、笑った。

 逃げられるより、蹴られる方がずっとマシだ。コレぐらい、骨のある奴を待っていた。

 グイッと引っ張って、引き寄せる。そのまま鞍も置かない背中に飛び乗った。

 

「やめるんだ、死ぬぞ! そいつは乗った奴を残らず殺してる」

 

 そうかそうか、じゃあ俺が、最初の一人だ。

 

 ――ヒヒィィィーン!

 

 嘶き、暴れる。棹立ちになって、俺を振り落とそうともがき始めた。

 だけど、俺は足で馬体を挟んで、指先でたてがみを掴む。ただそれだけで、馬上でピクリとも動かない。

 後は楽しいロデオの時間だ。どったんばったん暴れ回る。

 

「なんとか、降りろ! 体力がある内に! 降りた途端に踏み潰されるぞ」

 

 馬丁が叫ぶが、降りる気は無い。先に体力が尽きるのは馬の方だ。

 なにより、既にコイツはパニックを起こしている。今降りるのは却って危ないだろう。

 むしろ、パニックで勝手に怪我をされる方が面倒だ。俺だって馬を治した事はない。

 

 じゃあ、どう止めるか? 自慢じゃないが、前世から俺は動物をなだめた事など一度も無い。動物に嫌われる体質だ。

 うーん、もうダメかもわからん。俺だって馬が自爆するのまでは止められない。これ以上は時間のムダになりそうだった。

 どったんばったん揺られながら、時刻は既にお昼過ぎ。きゅうと俺の可愛いお腹が悲鳴をあげた。

 

 ……腹減ったな。なにせ目の前には躍動する馬肉がある。

 馬肉だっけ? いや、馬肉だろ。もう、馬肉にしか見えん。

 

 食べちゃダメかな? まだお会計してないのにお菓子とか食べちゃう感じ。わんぱくで憧れる。

 ちょっと可愛く聞いてみよう。いきなり囓ったら怒られそうだ。

 

「食べちゃうぞ♪」

 

 効果は劇的だった。

 暴れていた黒毛、グラフェンはピタリと大人しくなり、ガタガタと震えながらぺたんと座り込むではないか。

 

 ……え? どうした? 俺そんなに怖い?

 いやいや、安心して。エルフのお姫様だよ?

 

「…………」

 

 メッチャビビってらっしゃる。ピクリとも動かない。漆の黒毛に、ダラダラと流れる冷や汗が光った。

 脅し過ぎてしまったか、もう全く動かない。コレは失敗した。折角の有望株だったのに、コレでは台無しだ。

 

「こりゃ、どうしたでぇ?」

 

 ぺたりと座り込んだグラフェンに、馬丁が慌てて駆け寄った。

 

「驚いた、こんなの今まで、一度だって……」

 

 言いながら視線を上に走らせると、馬上から見下ろす俺と目があった。

 

「ひぇ!」

 

 するとどうした事だろう。

 案内してきた女の子が、実は恐ろしい怪物だったとようやく気が付いたみたいな顔をして、ひっくり返って腰を抜かすじゃないか。

 

 ……やめてくれよ、そう言うベタベタなリアクション。傷付くわ。

 

「ふぅ」

 

 ため息をひとつ、グラフェンから飛び降りて、冷や汗が浮かぶ馬体を優しく撫でてやる。

 

「…………」

 

 それでも震えが止まらない。

 参ったな、コイツがダメならどれも駄目な気がする。仕方無い、全く締まらんが、徒歩での入城しかなさそうだ。

 

 いや、しかしエッチな格好で徒歩って……周りが騎馬なのに俺だけ歩いていたらどう見える? 捕まったお姫様がコレから乱暴されます、みたいな絵にならない?

 

 立派な馬に跨がり、派手な衣装を身に纏って、見る者を圧倒する示威行進か、名馬に乗る騎士に囲まれて、破廉恥な衣装で城に連れ込まれるお姫様。

 ニュアンスが大分変わってくるんだけど……

 

 困ってしまって、震えるグラフェンの目を覗くと、恐怖に揺れる瞳と目があった。

 

 ――かわいいな。

 

 さっきまで自信満々だった馬が、涙目で馬首を下げて恭順を示しているのは、何と言うか、とても可愛い感じがした。

 自然と俺は、グラフェンの額に流れる一等星に口付けた。

 

 するとどうだ。

 

 ――ヒィィィン

 

 興奮した様子で鼻息を荒くしたグラフェンは、すっくと立ち上がった。

 ついでに五本目の足も立ち上がった。

 

 後ろ足の間から、人間の腕より太い、肉の棒がそそり立っている。

 

 あら、ご立派。

 

 血走った目で俺を見つめると、ペロリと顔を舐めて来るじゃないか。

 

 ――コイツ! 発情しとる!

 

 そして、発情する余り、俺への恐怖を忘れているッ!!

 ヨシ! つまり俺の存在は、怖いより可愛いって事だな! 取り敢えず女の子の自信は取り戻せた。オマエ見どころあるぞ!

 勢いのあまり、俺は裸馬のままのグラフェンに飛び乗った。大丈夫、乗れる! このまま有無を言わさない!

 ニッコリと馬丁に微笑む。

 

「乗せてくれるようです」

「え、ええっ?」

 

 恐慌に陥った馬丁さんに、請求は王国軍に回すように伝え、俺はそのままグラフェンを走らせた。

 

「ま、待ってくだせぇ」

 

 馬丁を置き去りに、みるみる景色が後ろに流れていく。圧倒的な脚だ。

 牧場を抜け、畑に飛び込む。黄金に色づいた小麦の間を風の様に通り抜け、蹄の音が心地良いこと!

 

 まるで飛ぶように速い! いや、流石に飛んだ方が速いな。実際にグライダーで飛んで来たのだから、そこは厳しめに行く。でも速い!

 

 そうしてロアンヌから帝都まで、僅か数日で駆け抜けた。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

『と言うワケで、馬は調達したから、いよいよ衣装の方だな、出してくれ早く!』

「何ですか、あの世紀末覇王が乗ってそうな馬は? 凄い請求が来そうなんですが?」

 

 知った事か! あ、鞍はともかく手綱はないとカッコつかないかな。木村サン頼みます。

 

「まぁ、良いでしょう。衣装ですね? 完成しましたよとっておきが」

「お? おおっ?」

 

 コレは! 純白の……

 

『ウェディングドレス?』

「ええ、綺麗でしょう?」

 

 それもハートカットドレスと言うタイプらしい。

 胸のところがハート型で谷間を見せつける。そして肩とか脇が丸出しの、いわゆる普通のウェディングドレスである。豪華なドレスと言えば、確かにコイツだ。

 

 いや、しかし、コレ、どうなんだ?

 

『確かに豪華だけど、うーん、あんだけ引っ張った割には地味じゃない?』

『いやいや、バニー衣装の着過ぎで脳みそまでピンクでしょ、アナタ』

 

 酷い言われ用だ。どう言う事?

 

『俺たちにとってはどう見てもウエディングドレスだけど、この世界の人にしてみれば、酷いドスケベ衣装だよコレ』

 

 言われてみれば、そうである。この世界でエロスの象徴と言えば肩。その肩をむき出しにして、逆に出しても問題の無い手足は、これでもかと長いロングスカートに、ロンググローブで隠している。

 言うなれば、エッチな局部だけをピンポイントで曝け出した、変態衣装なのである。

 

 所変われば品変わると言うが、ここまで印象が異なるドレスもそうは無いだろう。

 

「でも、少しインパクトが少なくは無いですか?」

「いやいやいや」

「誰かさんが、バニースーツや、私が鞭を打たれる絵をばら撒いたおかげで……」

「…………」

 

 目を逸らすな! こっちを見ろ!

 それに、馬に散々に逃げられた俺は、何と言うか、嫌われる事が怖くなっていた。

 

「もっと、こう、布の面積を減らして……ここと、ココを」

「いやいや、ミニ四駆じゃないんですから、軽率な肉抜きはやめて下さい」

 

 ミニ四駆言うなし。

 俺が指示したのは、真っ正面の布だけを僅かに残して、脇と背中の布地を大きくカットしろ言うモノだ。脇とか背中とか素肌を見せつける感じ。

 だけど、木村には否定されてしまう。

 

 ……まぁ、そうだよな。出来たドレスをそう簡単にいじれるハズが無い。でもなー、思い出すのは木村の同人誌だ、アレを見てしまうと、これじゃインパクトがない。計画を成功させるために、エロスと美しさの暴力で圧倒したいのだが。

 

「もう少し、有無を言わさない凶悪な感じに……」

「今からコレを改造するのは……」

「……そうですか」

 

 まぁ、考えようによっては肩だけ露出してる方がエロいっちゃエロいからな。諦めよう。

 そう思っていると、木村が変なモノを取り出した。

 

「それに、脇や背中を出すデザインのドレスが着たいなら、私が個人的に着て貰おうと用意したドレスが既にありますから」

「…………」

「…………」

 

 数秒、見つめ合う。

 

「え?」

 

 いやいや、意味ワカランが?

 

 木村がニコニコと嘘くさい程の笑顔で取り出したドレスは、上半身はシルクのビスチェ。それを大胆に、ミニ四駆みたいに肉抜きして、脇と背中をスカスカにした感じ。

 下半身のスカートは変わらずロングスカートではあるものの、凄まじいスリットが入っている。あと、ちょっと透けてる気がする。

 

 え? ナニコレ? 俺のオーダー通りのドレスが、ズバリ出て来たんですけど?

 ここまで同じだと、コイツと同じエロセンスだってのが恥ずかしいまである。

 

 「そう言うと思って」みたいに取り出されても反応に困る。オーダー通りだから文句も言えないし。

 コイツは俺にコレを着せて、ナニするつもりだったんですかね……

 

 ってか、エルフから魔導ミシンを買ってから、とんでもないスピードで凝った服を作って来るよね君。主に私用で。

 

 ……まぁ、良いか。

 

「では、コレで」

「えぇっ! 流石にコレを人目に晒すのは……」

 

 お前に晒す方がよっぽど危険だろうが!

 まぁ、試しにちょっと着てみようぜ。

 

「良いですけど、アクセサリーはさっきのウェディングドレスにあわせたので似合うかどうか……」

「ともかく、試してみましょう」

 

 アクセサリーに関しては、ドレス以上に高額だったので既に話は聞いている。

 細い金のネックレスを何重にもかけて、滝みたいに肩から流すデザインらしい。

 この世界ではエロスの象徴たる肩や首周りを、キラキラと派手に彩ろうってアイデアだ。

 ジャラジャラと金のネックレスと取り出す木村は、俺の眼前に自慢げに広げる。

 

「いやー急遽組み替えたので大変でしたよ。コレが完成品です」

「コレが……」

 

 ……え?

 

「…………」

「…………」

 

 なんだ、この? なんだ?

 

「なにこれ……」

 

 俺が呆然と呟くと、木村はウンウンと頷く。確信犯*1だろう。

 木村が取り出したネックレスは……これネックレスか? 金色の蜘蛛の巣と形容するのがピッタリだった。付け方が全く解らない。

 どうするのかと木村をみると、キリッとした顔で宣言する。

 

「では、お手伝いしましょう」

 

 ……君、随分自然に人の服、脱がすのね。

 まぁ構わんが。

 

 

 金色の鎖が、するすると俺の素肌に纏わり付いていく。

 

 

 で、だ。

 

「何です、コレ?」

「動かないで下さい、いま固定します」

 

 ギュッギュッとお腹を金の鎖で縛り、肉をお胸に寄せてあげて、サイズアップを図っている。気分はまるでボンレスハムだ。

 エロエロに肉抜きしたせいでコルセットがつけられないドレスだから、これは仕方無いのか?

 それにしても、痛いし、苦しい。

 

「コレで、最後」

「んっ!」

 

 変な声をあげてしまう、ひたすら苦しい。

 トドメとばかりに縛られた首筋は、呼吸も苦しく、血の巡りが悪い程に圧迫されている。

 鏡を見ると、それこそ金色の蜘蛛の巣に囚われた少女が身をよじってる。何だコレ?

 この時点で、文句の一つも言ってやりたいが、取り敢えず前貼りみたいなエロいドレスを着てから考えよう。

 ……本当に貼り付ける様に着るしかないのな。

 

 それにしても、金の鎖が締め付けて、着替えるためにちょっと動くのも辛い。ガーターストッキングにハイヒール。ロンググローブも嵌めて、コレでようやくフル装備となった時には息が上がっていた。

 

 疲れに肩を落とそうにも、金色の鎖にギリギリと締め上げられて、自然と胸を反らせた姿勢になる。

 すると華奢な体に肋骨が浮かび、体の中心から伸びた金の鎖が、肋骨の間に沿うように締め付けてくるからたまらない。

 大きく息を吸い込むと容赦なく締め付けて、痛みに肌が紅潮する。噴き出した汗が流れ、金の鎖をつぅーと伝うと、くすぐったさに身悶えする。

 すると、また、金の鎖が体を締め付けるのだ。

 

 反らせた胸は、寄せて上げた効果か、自分でも驚く程に大きく見えた。

 その上でキラキラと踊る金の鎖は、締め付けはしない。ただゆったりとおっぱいの柔らかさと曲線を強調しながら谷間へと流れ落ち、ドレスの少ない布地の中へと消えていく。

 だけど、身をよじったり、前屈みになると、その金の鎖も牙を剥く。圧迫された肉が金の檻から逃げ出そうとはみ出して、肉の柔らかさをコレでもかと強調するからだ。

 浮かんだ珠の汗までが柔らかさを競うように、胸の上でふわふわと揺れていた。

 

 肩はもう、酷い。

 容赦は要らぬとばかりに締め付けて、その柔らかさと、滑らかさを強調しながら、金の輝きで彩っている。

 肩を彩る金の鎖に付けられたブローチは右はピンク、左は銀に輝く宝石が踊り、俺の瞳の色に併せたモノに間違いないだろう。

 コレも酷い。

 この世界の基準で言えば、局部を縛り、宝石で彩ってるようなものだ。

 

 首筋は、痛々しい。

 それまでの人形じみた美を裏切り。あくまで生きた人間だぞと、声高に主張している。

 か細い首は容赦なく締め付けられて、呼吸も苦しいのが一目で解る。肌はすこし赤黒く染まり、透き通る肌に浮かび上がった青白い血管はどこか苦しげだ。

 ふと首を傾げた時に覗く鎖の下の素肌なぞ、締め付けに赤く染まっている。普通の少女が身に付ければ、酷い跡が残ってしまうに違いない。

 痛々しさが可哀想な反面、嗜虐心を煽り、見る者を狂わせる。

 

 色々なエロ衣装を着てきた俺ですら、気恥ずかしさと、息苦しさに身をよじる。

 するとまた、容赦なく体を締め付けるのだ。

 

 胴も、胸も、肩も、首も、苦しくて。そしてエロい。

 

 やり場がなくなった目で更に上を見ると、鏡の向こうで可哀想な程に顔を赤くして、切なげに息を吐く少女と目があった。

 

 

 ……俺だ。

 

 何だコレ? ドエロい。

 

 どうなのかと鏡越しに木村を見ると、俺の後ろで真っ白に燃え尽きていた。

 

「あの?」

『尊死』

 

 尊死じゃねぇよ、死ぬなら苦しんで死ね。俺ばかり苦しませるな。

 

「ちょっと、苦しいのですが? 特に首筋が」

「緩めましょうか?」

 

 ……いや、どうしよう? この痛々しい感じ。コレはコレで最高にエロい。

 この可哀想と同情を誘う痛々しさこそが、俺を『偶然』から守ってくれる気がしないでもない。

 

「一応、ちょっと力を入れると全体が弾け飛ぶので、締まって死ぬ事はないはずです」

 

 なら、大丈夫か。これなら期待を裏切らない、ほっと一安心。

 

「とにかく、コレなら皆を黙らせる効果はありそうですね」

「永遠に黙る事になりそうな気がしますが??」

 

 流石に言い過ぎだろ。そんなに物騒な見た目ではない。

 

「いえ、裸ですら見慣れて、耐性がある私が死に掛けてるので、本当に危ないですよ」

「用意しておいて、良く言いますね。この鎖、まるで緊縛ではないですか」

 

 聞いていた話と、全く違う。

 

「……初めは肩と胸の曲線を強調するように、金の鎖を流すアクセサリーだったのですが、自在金腕(ルー・デルオン)に縛られたユマ姫があんまり可愛かったので」

「……やっぱり緊縛ではないですか」

 

 コイツもヤバい趣味をもってるな。ヨルミ女王に続いてSM趣味の人間しか居らんのか?

 それに、よくよく考えるとおかしい。

 

「肋骨に沿うような鎖は元のウェディングドレスでは見えないでしょう?」

 

 元々、このエロいドレスを着せるつもりだった疑惑がある。

 

「それは、ドレスの下は秘かに金の鎖で緊縛されてるのって、想像するだけでドエロいかと」

「やっぱり緊縛じゃないですか!」

 

 いい加減にしろ! お姫様を羞恥緊縛プレイに巻き込むな!

 

「それに、スリットが入ってるこのドレスはともかく、ウェディングドレスでは馬に乗れないでしょう?」

「いえ、それは普通に、装甲車から手を振るのだとばかり」

「…………」

 

 なるほどね、王都に帰った時もそうだったのにすっかり忘れていた。

 

 まぁ、良いだろう。馬も手に入ったし、衣装も準備が出来た。

 後は蜂起を待って、正門から入って堂々とメインストリートを練り歩くだけだ。

 

 木村と田中はどうするんだ? そう言えば最近は田中を見ていないが。

 

「それなんですが……」

 

 なんと、田中も木村も帝都攻略には参加しないと言うのだ。

 

「この衣装で行進するところを、見たくないのですか?」

「うぐっ、見たい、見たいですが、一方で見たく無いモノもあるのです」

 

 ……そうか、コイツは俺が無差別に、無抵抗な人間を殺す所を見たくないのだ。田中も虐殺するなら協力しないと言ってたっけ。

 

「だから、私達の事は気にせず、やりたいようにやって下さい。ただし、死んでも助ける事は出来ません」

「……良いでしょう」

 

 元より、帝都を包囲した段階で勝ちは確定している。

 あとはどう占領するかだけの問題だ。二人が必要なピンチもないだろう。あったとして、それで死んだら自業自得だ。

 

「でしたら、あなた達はどうするのです?」

「実は、アイツに探させていた研究所が見つかったのです」

「研究所? それは魔女の?」

「ええ、そこにまだ魔女が居るという噂もあります」

 

 ……へぇ?

 

「興味がありますか? 蜂起を遅らせて、まずは魔女を討っても良いですが」

「いえ、もう興味がありません」

 

 アイツは、死んだ。目の前で、アイツの野望を打ち破ってやったのだ。

 

 実は生きていた、そんな展開があったとして、今の俺の敵では無い。邪魔をするなら殺すが、わざわざ会いに行く必要を感じなかった。

 

「あなた達こそ、敵地に乗り込んで死んでも私は助けに行けませんよ?」

「良く言いますね」

 

 いや、俺が助けたパターンも結構あるじゃんね。

 なんにせよ。

 

「全てが終わるのですね」

 

 近づいた終局に、俺は思いを馳せる。

 既に夜の帳は落ちて、夜空には大きな月が輝いていた。

*1
おっぱい教信徒の犯行の意

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