死憶の異世界傾国姫 ~ねぇ、はやく、わたしを、殺して~   作:ぎむねま

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紛争の始まりEx

 銀の穂先がズラリと並び、夏の陽光をギラギラと反射する。

 長大な槍、抱え並ぶは鎧姿の男達。その数は千にも届かんばかりの大軍で、この時代の戦車とも言える重装騎兵まで百も控えている。

 

 彼らこそ、王国南東部、テンタクール領のデルタ騎士団。そのほぼ全軍だった。

 

「ルメルド伯、まさかこれほどの多勢を出して頂けるとは、感謝の至り」

 

 頭を下げたのはオーズド伯。

 それもそのはず、ここはゼスリード平原。オーズドが治めるスフィールの領内だ。急な要請、それも遠く離れたテンタクール領がほぼ全軍を出してくれるとは、望外の事。

 

「無論だ。国の大事ぞ! 惰弱なお主らに任せては置けぬ」

「これは手厳しい。若輩の身、今回は勉強させて頂く所存でございます」

 

 へりくだりながらも、オーズド伯はルメルド伯の焦りを手に取るように把握していた。

 

 ルメルド伯はカディナール王子派の重鎮だった。つまり次代国王の腹心と見られていた人物。

 それが人間を剥製にする王子の凶行で、あっという間に立場を悪くした。今回の帝国の侵略は、その挽回に絶好の機会だったまで。

 とは言え、帝国の戦略が見えぬ以上は他領の軍勢をひと当てし、まずは様子を見たいオーズド伯。利害が一致している以上、頭を下げる程度は何でもない。

 

 と、ココまでは()()()と全く同じ。

 違うのは、ココからだ。

 

「しかし、何のつもりじゃ! あのチンドン屋は! 戦争を何だと思っている、下がらせろ!」

「いえ、アレは支援者であるキィムラ商会たっての要望でして……」

 

 二人が苦々しく見つめる先には、極彩色で彩られた高い櫓がそびえている。

 

 ――キュラキュラキュラ

 

 しかも、動く! キャタピラっぽい構造で! 馬鹿げた玩具。地球で近いモノとしてはお祭りの山車だろうか? とにかく戦争に似合わぬ派手な存在。

 その山車の上層、ミニ天守閣と言った風情の場所に控えるのはユマ姫であった。それも木村謹製、コスプレっぽいド派手な衣装を着させられて、それでも陽気に笑っている。

 

「ふわー良い眺め!」

「せせせ、戦場ですよ! 高いし、怖いですよぉ」

 

 そして、ネルネは被害者だった。一人じゃ心細いとユマ姫に無理矢理連れて来られた格好。

 もちろんココに居るのは彼女達二人だけではない、天守閣の上、二畳程度のスペースにもう一人、木村が控えている。

 

「まぁまぁ、前線には出ませんから、この高い櫓から戦場を睥睨(へいげい)するユマ姫に、皆の士気も上がるでしょう」

「え? 私そんなに人気があるんですか?」

「…………まぁ、そうですね」

「なんですか、その間は!」

 

 正直、ソレほどの人気は無かった。むしろ、呪いの姫君として恐れられている。

 だからこそ、恐怖の姫が上から睨め付ける事で、味方には決して逃げるなと脅し、敵は大いに竦み上がる。そんな効果を見込んでいた。

 

 そして、いよいよ戦争が始まった。

 

「やぁやぁ、遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ。我こそは――」

 ――パァァァン!

 

 ルメルド伯お気に入りの騎士は、たった一発の銃弾に倒れ伏す。

 

「卑怯なり! 武人として恥を知れ!」

 

 顔を赤くして叫ぶルメルド伯。ここも同じ。

 しかし、今回はコレを待っていた者が居た。

 

「さぁ、狙っていきますよ、ハイお願いします」

「は、ハイ!」

 

 もちろん、木村だ。

 櫓の上のユマ姫に魔法の杖っぽいモノを持たせ、戦場を指し示して貰う。

 

「おおっ!」

「呪いの姫がお怒りだ!」

 

 感嘆と恐れが混じった兵士の声。

 

 ユマ姫が杖を突き付けたのは、非情にも騎士の名乗りを狙撃した敵兵だ。

 そのタイミングを逃さず、ユマ姫の隣、櫓の上で銃を構えるのは木村。

 

 ――パァァァン!

 

 大きな炸裂音。堪らずユマ姫は抗議の声を上げるが、木村も耳をやられて聞こえていない。コレはソレほどの火薬をぶち込んで作った特別製の狙撃銃。

 

「なにぃっ!」

「敵兵の頭が吹き飛んだぞ!」

「あれは、名乗りの途中で騎士を撃った卑怯者ではないか?」

「なんとなんと! では、アレこそが! ユマ姫の呪い!」

 

 やいのやいのと騒ぐ兵士達。見上げて驚く顔色に、次第に畏怖の念が混ざっていく。

 

「なんか……トンでもない誤解が広がってるんですけど……」

 

 見下ろすユマ姫の顔色にも、負けじと畏怖が念が混ざっていく。

 

「さぁ、バンバン行きましょう」

 

 木村は鳥の糞から大量の火薬を作った。だから銃の改良も早く進み、あの時より一年早く、狙撃銃を作り上げていた。

 もちろん、一丁一丁が木村の手作り。とても量産出来ないが、こんなモノは一丁だけで戦争を変えかねない。

 

 タダでさえ、登場したばかりの銃。木村の作った狙撃銃は、その常識を更に越える超射程。300mを超すロングショットを実現していた。

 

 だから、誰もソレを新しい銃の一撃とは思えない。

 

「呪いだ! ユマ姫の呪い!」

「ダメだ、睨まれたら殺される!」

 

 人間は理屈が解らないモノを恐れる。その意味で、新しい銃で相手を狙撃するよりも、ユマ姫の呪いとした方が効果があると木村は踏んだ。その目論見が当たった形。

 

「次は右の兵士に」

「は、はい!」

 

 木村に言われるままにユマ姫が杖を突き付け、すると敵兵が死ぬ。

 

「また、呪いだ!」

「くそっやってられるか!」

 

 こうなればふざけた極彩色の櫓さえ、呪いの術具に見えてくる。

 混乱を鎮める立場の将校達すら、ユマ姫に睨まれるのを恐れ物陰に隠れたりと、完全に浮き足立っている。その中には木村の狙撃銃さえ届かぬ後方で、指揮を執るべき敵の大将さえ含まれた。

 コレでは戦意など上がるはずがない。

 

「ふむ、これは想像以上に上手く行っています」

「そ、そのようですね……」

 

 櫓の上、木村はほくそ笑んでいた。一方、ユマ姫は胸をなで下ろす。これならあまり危険はない。

 無邪気に振る舞って居たモノの、戦場に連れ出されると聞いて、本音ではユマ姫は気が気でなかったのだ。必死で抵抗したものの、プリンの前にあっさりと陥落。

 せめてもの抵抗が、侍女のネルネを道連れにする事だった。

 

「人が! 人からグチャってしたのが溢れて、オエッ」

 

 そのネルネはもう、たまったモノでは無い。

 ユマ姫はなんだかんだ、人が死ぬところをかなり見ている。一方でネルネは戦場は初めて。それも目が良いものだから、人間が死ぬところをハッキリと見てしまう。

 

「汚い、吐かないで下さいよ!」

「でも、人間がグチャってなるのううぅ、怖いですよぉ」

「そんなの戦場ですから当たり前ですよ!」

「あの、私は侍女なんですけど……」

「ほらほら、得意の射撃を見せて下さい」

 

 ユマ姫はそう言って、護身用にと持たされた火縄銃をネルネに突き付ける。

 

「そんな、無理ぃ」

「無理もヘチマも、戦場に立った以上。もう戦うしか無いんですよ!」

「わたし、無理矢理立たされたんですけど??」

「大丈夫ですよ、何事も経験ですから」

 

 偉そうに言いながら、本当に敵が迫れば、真っ先に逃げ出すのがユマ姫だ。

 いや、ソレを微笑ましく見ている木村にしたって、敵が攻勢に出る気配ならば二人を連れて逃げるつもりでいる。

 今回は、呪いの恐怖を敵兵に植え付ければ十分なのだ。だから、二人のやり取りを面白そうに見つめるだけ。

 

「ほら、早く撃って!」

「ええぇ……あの、本当に?」

「早くしないと! コチラから撃てると言う事は、相手から撃たれる危険もあるんですよ!」

「ううぅ」

 

 実際は、殆ど危険は無い。そもそも、普通の銃で届く距離じゃ無い。だから、彼女達が押し付け合ってる火縄銃で、人殺しになってしまう心配なんてまるで無いのだ。

 

「ね、狙います」

 

 だから、ネルネが櫓から身を乗り出して曲射で相手を狙おうとするのに、木村は秘かに驚いた。なるほど、抜群の射撃センスがある。この距離は曲射じゃないと絶対に届かないとネルネは直感的に悟ったのだ。

 しかし、だ、そもそも火縄銃の丸い弾丸。曲射で当たるようなモノでは無い。

 微笑ましく木村が見つめる先、結局、ネルネは引き金を引かなかった。

 

「やっぱり無理ですよ。人殺しになんて、なりたくありません」

「えぇ~いくじなしー」

「そんな事言うなら、ユマ様が撃って下さいよ」

 

 ネルネは火縄銃をぐぐいとユマ姫に突き返す。

 

「私が撃っても当たりませんから! ここは射撃が得意なネルネの仕事ですよ」

 

 ユマ姫はユマ姫で、必死に火縄銃を押しつける。

 と、二人の微笑ましい押し付け合い、木村が笑顔で見ていられたのはココまでだった。

 ネルネが疑問の声を上げたのだ。

 

「あの、キィムラさん。左右から敵兵、来てません?」

「何? マジか!」

 

 木村が仰天してスコープを覗くと、たしかに両翼から敵が迫っていた、それも鉄砲隊だけで500人ずつ、完全に挟まれている。

 

「なんか左右の軍を併せると、コチラと同じぐらいの数になりません?」

「ねぇ、キィムラさん、ホントに大丈夫なんです?」

「ダメっす!」

「ええっ?」

 

 コレほどの銃を配備しているとは……木村には予想出来なかった。

 事前に把握していた鉄砲隊は対岸の百人。だからこそ勝機があったのだ。

 もはや数の優位すらなく、射程兵器を持つ相手に囲まれれば勝ち目は薄い。

 いや、もっとおかしいのが、敵が既に渡河している事だ。

 

「ヤベェ! 何でだよ!」

 

 木村はパニックに陥った。

 

 水量の多い夏のこの時期、ゲイル大橋以外から渡河するのは一仕事。無理をして一列に並んで河を渡る兵士など良い的だ。

 まして渡河で濡れてしまえば帝国自慢の火薬が使えなくなる。革の袋で防水するにも限度があり、湿気ってしまえば不発が増える。

 あまりにもリスクが高いので、木村は可能性を捨てていた。橋を挟んでの小競り合いに終始すると見ていたからこそ、ユマ姫を連れて来た。

 この想定外の裏にはあの時同様、帝国に寝返ったエルフの植物学者、ドネルホーンの技術がある。

 成長の早い竹や蔓を使った自然の橋を一晩で完成させる、木村の常識を打ち破る奇策だった。

 

「逃げましょう! 早く!」

「え? ええ?」

 

 こうなれば逃げの一手。慌てて櫓を降りるや、部下に命じる。

 

「櫓を倒せ! 防壁にするんだ!」

「はい!」

 

 コレも初めから想定した使い方。

 木村は百丁の銃を持参し、オーズドの配下に持たせている。いざと言う時は櫓を壁に立ち回れば、数の不利すら覆せる作戦であった。

 

 ……ただそれも、左右から挟まれれば効果は薄い。

 

「すいません、姫は馬に乗って逃げて下さい。お願いします、オーズド伯!」

「承知した」

 

 いざと言う時は駿馬に姫を乗せて戦場を離脱する準備も整えていた。

 何時だって最悪への備えは欠かしていない。だが……

 

「いかん!」

 

 その馬が真っ先に敵の銃弾に倒れた。しかも、それで終わらない。

 

 ――ドゴォォォン!

 

 間近で上がった轟音は、敵の野戦砲が櫓に着弾した音だった。

 

「あんなモノまであるのか!」

 

 木村は歯噛みする。コチラが浮き足立った瞬間に、ゲイル大橋を堂々と渡ってきたのは木村にとっては見慣れた、この世界では初めて目にする兵器の数々。

 野戦砲に迫撃砲、ガトリングライフルまである。

 

 ――ヒヒィィィーン

 

 こうなれば、もう馬は使い物にならない。棹立ちになって暴れ回るばかり。火薬の爆音に驚かないよう訓練をするには、とても時間が足りなかったのだ。

 そして、敵はコチラを誰一人逃がす気が無いらしい。左右の鉄砲隊はじわりとコチラを包囲している。

 

「これ、ヤバイんじゃないですか?」

「あうあうあう」

 

 少女二人は完全にパニック。櫓の傍で右往左往を繰り返すばかり。

 

「こ、こうなったらもう、本当にネルネに撃って貰わないと!」

「え? え、え?」

 

 今一度、ユマ姫はネルネに銃を押し付ける。

 

「わ、私が銃を?」

「だって、撃たないとみんな殺されちゃいますよ」

 

 ……もはや笑っていられない。誰もユマ姫を止めたりしない。

 もちろん、木村だってネルネに声を掛ける余裕も無く、濡れた藁を積み重ね、僅かでも陣地を厚くしようと手を尽くしている最中。

 戦場の誰にも、少女二人に構っている余裕が無くなっていた。

 

 死地に立たされ、少女は選択を迫られる。

 

「私が、う、撃たないとダメ?」

「大丈夫! 頑張って!」

「うう!」

 

 ネルネは銃を構えた。手はガクガクと震え、指先に力が入らない。足元はグラグラ揺れて、気を抜くと立っていられない。

 全身の血が沸騰し、でも手足だけが凍ったみたいに動かない。

 

「ハァハァハァ」

 

 初めて味わう、殺人の予感。いや、確信。

 引き金を引けば、人が死ぬ。照準の向こうには大声で叫ぶ敵兵の表情までハッキリ見えた。

 それでも、少女は殺人への覚悟を決めようと、ゆっくりと引き金を引き絞る。

 

「だ、駄目。わたし撃てません」

 

 が、ネルネは引き金を引けない。

 何故か?

 本来、引き金を引くのは刃物で斬りつけるよりもずっと心理的ハードルは低い。

 

 なれど、ネルネの絶対に当たる確信が、どうしても決意を鈍らせる。こんな精神状態で撃てば、急所を外すことが逆に難しい。

 

「えぇ! 撃って下さいよぉ」

 

 そんな事を知らないユマ姫は気楽なモノだ。

 

「じゃ、じゃあユマ様が撃って!」

「え、ええぇ……」

 

 そうしてユマ姫が銃を構えても、致命的にセンスがない。それはもう、誰でも当たる距離でも当たらない。精々が威嚇程度、戦況は悪くなるばかり。

 

 いよいよマズイ。抵抗の無駄を悟った木村は、ユマ姫に提案する。

 

「散開して逃げましょう」

「えぇ? いっそ捕虜になった方がマシじゃないです?」

「この陣形、敵は捕虜を取る気がありません。このまま押しつぶすつもりです」

「うそぉ!」

 

 ソレは、ユマ姫が聞いてきた戦争の流儀とは全く違う。貴族なら普通は捕虜にとり身代金をせびるモノ。

 しかし、魔女の軍隊は真実、全員をココで殺す気でいた。

 だからこそ、名乗りの途中で狙撃する挑発。だからこそ、試作段階の高火力兵器の数々。

 なにしろ呪われた姫君など危ないだけだ。情報を持っていないのは魔女の洗脳で既に割れている、抱える意味が何も無い。

 

「ううぅ」

 

 イチかバチかの決断を迫られたユマ姫は……しかし、恐怖に竦んで決断出来ない。

 少女らしい戸惑い、だが戦場で迷う事は許されないのだ。

 こう言う時は、一刻一秒が致命傷になる。

 

 ――パァン!

 

 一発の銃声、ソレがやけに耳に残って、銃弾がスローモーションみたいに、ユマ姫の頭部に命中するところまで、その時、木村は確かに見た。

 

「え?」

 

 木村の目の前で、ドサリとユマ姫が倒れる。

 突然の出来事を飲み込めず、とりとめもない思考が高速で渦巻く。

 

 ――敵が近い! まさか、こんなにあっさりと? 何の罪も無い少女が死ぬのか? 知らずに陣地に入り込まれていた! 俺が無理言ってユマ姫を連れて来なければ! あまりにも突然! 見張りは何をしていた!

 

 ――いや、ヤバい、そんな事を考えている場合じゃない。そんな場合じゃない。動け! 敵が来てる! 逃げろ!

 しかし、突然の事態に木村だって動けない。それほどの衝撃。

 

「そうだ!」

 

 錯乱した木村の思考は、ユマ姫の死体をこのままにしておけぬと、手を引いて起き上がらせる。数ある中で最も無駄な選択をしてしまう。

 

「ああ、ビックリしました」

「…………」

「逃げると言われても、わたしそんなの決められませんよ」

「…………」

「なんで、ベタベタ触るんですか?」

 

 生きている? ユマ姫には銃痕どころか出血すら見られない。

 

 見間違い、だったようだ。木村はそう結論付けた。そもそも、銃弾は小さい球体だ。混乱のさなか、ハッキリ見えるなんてあり得ない。

 

「ふぅ……私としたことが、ユマ姫が急に倒れるので混乱しました」

「キィムラさんが脅かすからでしょう!」

「いや、しかし……このままでは」

 ――ポツリ。

 

 再び決断を迫ろうとした矢先、冷たい液体が頬を濡らした。

 今度こそ血? いや、水。

 

「雨です」

 

 ユマ姫に言われて気が付いた。コレは、雨だ。しかもあっという間に勢いを増し、気が付けば強烈なスコール。

 目の前が見えない程の大雨が降り始め、そして閃光。雷鳴が轟き、一気に戦場の景色が変わってしまった。

 これなら、火薬はもう使えない。

 

「我に続けぇぇぇ!」

 

 好機とみたのか、はたまた緊張に耐えられなくなったのか、飛び出したのはルメルド伯、ここぞと重騎士が後に続く。

 木村は、今まで重騎士がこんなにも頼もしく思えた事は無い。

 

「やった!」

 

 ()()()とは違った。ルメルド伯の虎の子、デルタ騎士団は無謀な突撃しておらず、温存されていた。

 それは他ならぬユマ姫が敵の機先を削いだのと、味方のデルタ騎士団すらユマ姫の呪いを恐れて手控えしたからに違いなかった。

 ココに来てソレが生きた。火薬が使えなくなった鉄砲隊は、もはやただの農民に過ぎない、何人居ようが重騎士の突進を止められない。蹂躙が止まらない。

 

「うーん、銃剣って馬鹿にしてたけどマジで検討しないとな」

 

 一気に形勢が変わった戦場をぼんやりと見つめながら、木村は生産性を犠牲にしてでも、銃剣を取り付ける事を誓った。

 木村は、これまで銃剣を否定していた。銃の先っぽにオマケみたいに剣をつけてどうするのかと思っていた。

 稚拙な製鉄技術でペラペラの銃剣を振り回しても壊れるだけ。銃が使えない状況なら、とっとと捨てて腰の剣を抜けば良いと思っていた。

 

 しかし、刻々と変わる戦場、強力な銃を即座に捨てるなんて、農兵に出来るハズが無かった。今も目の前で農兵達は使えない銃を手に撫で斬りにされている。

 

 まぁ、そんな先の事を考えてしまうのは木村なりの現実逃避だ、まずは目の前の事態を冷静に判断しないと。

 

「まぁ、アレだな、こりゃ痛み分けだ」

 

 季節外れの雨は、運が良かっただけ。今は敵を蹂躙しているが、一転攻勢には既にコチラの被害は大き過ぎた。無理に敵陣を攻めれば無傷で温存された敵の騎士団が出てくるに違いない。

 

「しかし、兵器開発じゃアッチが上か……」

 

 コレは木村にとってショックだった。まさか器用さや兵器の知識で黒峰さんに負けているかと悩んだが、それはあり得ない。

 だとしたら、黒峰のバックに工業製品に強い人間が居るのだ。渡河の方法も含め、自分の知識が通用しない相手。

 

「古代人、マジで厄介だな」

 

 何としてでも突破口を見つけたい、木村はそう思った。


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