死憶の異世界傾国姫 ~ねぇ、はやく、わたしを、殺して~   作:ぎむねま

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僕悪いウーパールーパーじゃないよ?

 俺は迷っていた。

 

 勿論、俺の正体を田中に話すかどうかだ。

 

 まず信じてくれるかだが、そこは問題無いだろう。田中自身が特殊な境遇だ、今更俺がエルフの少女になったと言っても信じてくれるに違いない。

 なんせ、前世から「昨日さー高橋がウーパールーパーになってる夢見たんだよねー」とか言ってたからな! エルフのお姫様なんて原型を保ってる方だろう。

 

 ってか思い出したら腹立ってきたな。この苛立ちを参照権でプレイバック……

 

「昨日、高橋がウーパールーパーになってる夢見てさ」

「んっ! 開幕意味不明!」

「でさでさ、必死に俺だよ俺! 高橋だよ! って訴えてくるのよ!」

「いや、ウーパールーパーが俺の声で喋る訳? 怖くない?」

「勿論喋れないよ? ウーパールーパーだし」

「いやいやいや、それ俺じゃないでしょ! もはやただのウーパールーパーでしょ!」

「それが解るんだなー、ぱっと見でもう高橋だって気が付いちゃう」

「訴訟モノなんだが?」

「で、集合写真の高橋のとこ指差して、俺! 俺だよ! ってやるんだけど、『そいつねー高橋って言うんだけどスッゲー馬鹿な奴なんだよねー』って言うと滅茶苦茶暴れまわるのね」

「いや? そこは助けよッ!? 友達がウーパールーパーになっちゃってるんだよ?」

「おっもしれーんだよなぁ」

「ウパー(憤怒の鳴き声)」

 

 参照権の最高に無駄な使い方出たな。当時の怒りがグッツグツに煮えて来た。

 もうコレわざわざ正体を明かさないで良いんじゃないかな? 考えてみると俺にメリット無いんだよな。

 

 田中は俺の『偶然』に巻き込まれて死んだ訳だが、転移させた神は俺の『偶然』についても説明したに違いない。

 いや、神はアイオーンと名乗った爺ちゃんだけじゃない、話しぶりから考えるに地球の神は別だったはずだ。アイツは魂も含めて生粋の地球人。アイツを転移させたのは地球の神に違いない。

 

 だとしても俺の『偶然』に関しては説明したハズだ……その時、俺と田中でお互いの立場が逆として、一緒に居ると隕石が降って来る様な奴と、俺は一緒に旅をしてやれるだろうか?

 

 ……正直俺には自信が無い。

 

 もう俺はこの世界に大切な物が有る、いや……有った。

 田中とセレナ、どっちか取らなきゃ行けない状況なら、悪いけどセレナを取るだろう。

 田中は親友だが、セレナは俺の妹で命の恩人でヒーローでヒロインだ。

 

 ……死んじまったけどな。

 

 俺は何としてもセレナの、そして家族の仇を取りたい。帝国を地図から消してやりたい。

 だとしたらスフィールまで田中に護衛して貰うのは必要な事だ。信頼できる味方は一人でも欲しい。

 黙っているのは田中への裏切りだろう。……俺は田中と木村の仇討ちのつもりで転生したって言うのに、馬鹿みたいだよな。

 でもよ、やっぱり今の俺はエルフのお姫様でさ、前世のアレコレよりも今生の家族だ。

 

 ……みんなみんな死んじまったけどな。

 

 何より田中と仲良くお喋りしてさ、昔の事を思い出して、馬鹿話に花を咲かせてさ、それで俺の復讐心が薄れてしまうのが何より怖い。

 そして、田中にさ「復讐なんて下らないぜ」って言われてしまったら? 正直俺だって意味が無い事ぐらい気付いてる。

 例え帝国の人間を一匹残らず根絶やしにしたって、セレナも母様も兄様も父様も帰っては来ない。

 でも、笑いながら兄様に剣を刺した奴らの顔が、セレナを撃った人間の喜ぶ声が頭から離れない。

 

 俺だって帝国兵を殺したさ、殺せたさ。

 でもそれじゃ全然気が済まない。あいつらは俺達の、エルフの国を襲って何がしたかったんだ? あんな兵器まで持ち出して何がしたかったんだ?

 魔力が濃くて、魔獣が蔓延る土地に価値が有るとは思えない。

 ただエルフが憎いとか恐いとか、その程度の理由なんじゃ無いか? だったら俺だって殺したいだけで殺して良いだろ?

 

 馬鹿な事だと知ってるさ、知ってるからさ。だから田中に「お前の復讐、俺も協力するぜ」とも言って欲しくは無いんだよ。

 それにさ、今更だけど前世の友達の前で「エルフのお姫様」を演じるのは恥ずかしいだろ?

 あいつと馬鹿話に花を咲かせたその口で「お願いです! ワタクシの国を! 家族を! 民を救って下さい!」って涙ながらにお願い出来るだろうか?

 

 ……正直俺には自信が無い。

 

 だから俺は打ち明けるのは何時でも出来るとその考えを頭の隅に追いやった。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 あれから俺たちは村長室でスフィール行きの条件を詰めた。やっぱり田中は俺の護衛を引き受けてくれるらしい。

 だから今日は二人で村長のお家にお泊りだ。サンドラさん宅に田中と泊まる訳には行かないし当然と言えるだろう。

 サンドラさんは田中に念入りに「ユマ様の事頼むからな!」と念押しして帰って行った。

 身振り手振りを交えて俺がどんなに可哀想か唾を飛ばして話してくれたし、田中はそれを嫌がらずに聞いていた。

 ありがたくて涙が出る。同時に俺が汚い人間だって自覚させられる。

 でも良い、どうせ綺麗には終われない。

 

 村長の家は流石にサンドラさんの家よりなんぼか小奇麗で、暖炉やらランプやら、それなりの品質でしっかり整っていた。

 その暖炉は、もう春先でよっぽど冷え込まない限り使わないと言っていたが、今は火が灯っている。

 パチパチと火がはぜる音が若干のトラウマだが……仕方が無い。

 炎の明かりに照らされた田中がガラにも無く真剣な顔を見せる。

 

「じゃあ、スフィール行きで良いんだな?」

「はい、覚悟はしています」

 

 俺たちは差し向かいで話し合っていた。

 村長は居ない。敢えて聞かない大人の処世術と言えるだろう。

 

 打ち明けるには絶好の機会だが、俺は前世の事は打ち明けないと決めた。そして話は徐々にお互いの戦力の話になる。

 

「巨大な妖獣を倒せるのはビジャの中でも一流の証となります。偉業を成し遂げたタナカと言う戦士の名は、森に住む者(ビジャ)の国でも知られていました」

 

 大嘘だ、田中など聞いたことが無いしエルフが人間の戦士の話なんてするハズが無い。だが名前を呼んでしまった以上仕方が無い。

 ただ巨大な妖獣を倒せるのはエルフの中でも凄い事ってのは本当だ。武勇伝の一つや二つ語って貰おう。

 

「ああ、マンティコアな。強かったぜー! 引き付けてからボウガンで羽に穴を開けてよ。落ちた所を剣でズッパシ斬る予定が、ボウガンが弾かれやがる。あんな薄い皮膜でよ、とんでもない強度を持っていやがるんだ」

「魔獣とはそう言うものです、見かけを裏切る強度を持つ事も珍しくありません。特に妖獣は決まった形を持たないだけに、どんな特徴があっても不思議じゃありません。」

 

 ってか、マンティコア居るんだな! 妖獣ってのは早い話、キメラだ。魔力による遺伝子異常で混ざった結果、たまたまマンティコアっぽい生物になっても不思議じゃ無い。

 それにしても行きずりの村でマンティコア退治とかファンタジーの王道感凄いね! 羨ましくて憤死しそう。

 

「そんで、空から急降下して襲ってくる奴に、さしもの俺もお手上げよ、なんでか解るか?」

 

 いや、田中さんそんな事言われても、今の俺はそんな面白い事言えんよ?

 

「やはり剣では上空の相手に分が悪いのは当たり前では?」

 

 当たり前なんよ、むしろどうやったかが知りたいのよ、引っ張らないで欲しいね。

 

「確かにそうだが、相手だって火を吹く訳じゃないんだ、爪や牙で襲い掛かって来る所を迎撃出来るって思ってたんだよな、でもよ、そうじゃ無かった」

「……何故です?」

 

 なんか下らない話な気がしてきたが付き合いで聞いてやる事に。

 

「あらゆる剣術はよ、上から攻撃される事を想定していないんだよ、だから上から襲ってくる奴を斬る技も無い」

 

 ……ふーん、対空無いんだ。

 いや、ゲーム脳に過ぎるか。そう考えれば無いのは当然って気もするが、でも実はしっかり探せば有るんじゃない? 言い切って良いの? ってか、そんでどうしたのよ? 引っ張りすぎじゃね?

 

「ではどうしたのです?」

「そこで牙空殺よ!」

「……ガクウサツ?」

 

 ガクウサツって何よ? いや、まさかな。

 

「知る訳ねーか、こうやって伏せた状態で草むらに隠れてな、爪で襲い掛かって来た所をこうよ!」

 

 そう言うと田中は、ガッと上空を突き刺す様なポーズで――ってお前それ格ゲーの技じゃねーかよ!

 いやー見飽きたポーズだねー、俺が飛び込む度にそれで落とされたもんだわ――ってたわけっ!

 

「……そんな……剣術が有るのですね……」

「実はな、その時咄嗟に閃いたんだよ。正真正銘、俺だけの剣術さ」

 

 いやー正真正銘お前のじゃねーだろ! コレ俺の正体に気が付いて、突っ込み待ちなのかな? だとしたら負けそうだわ。下タメ上Aで誰でも出せるわボケェって突っ込みそうになったぞ。

 

「オリジナルの技とは……タナカ流でも作るつもりですか?」

 

 正直、田中の剣道の腕を買って護衛になって貰ったつもりがさ、これ駄目駄目なんじゃね? 流石に通用しないっしょ? 剣からビームとか試してる馬鹿なら、護衛変わって貰って良いか?

 

「田中流か……それも良いかもな。俺の技はそれだけじゃないぜ? 羽を貫かれてバランスを崩して落ちて来た所を更にこうよ!」

 

 そう言って、田中は剣を掬い上げる様なポーズを――ハイハイ、弧月昇、弧月昇。それも見飽きたねー、小足小足強弧月昇100回喰らったねー

 

「……随分派手な技の様ですが、人間相手にはどうなのです? 敵は魔獣では無く帝国兵なのです。そんな大振りの技が通用するとも思えませんが?」

 

 頼む田中よ、初心に、剣道に戻ってくれ。もう言わないから! 剣道部なら弧月昇ぐらい出せるよな? とか無茶振りは言わないから!

 

「そっちはもっと間違いねーぜ。俺だけが使える俺だけの『剣道』が有るからよ」

「ケンドー……」

「少なくても、人間相手の一対一なら絶対に誰にも負けねーよ。俺の『剣道』は」

 

 いや其れもお前のじゃなくない? 俺の俺の詐欺辞めない? でも安心したのも事実。

 

「では今度は私の番ですね、森に住む者(ビジャ)の魔法の力についてご説明しましょう」

「……へぇ、さっきも見せて貰ったが、森に住む者(ビジャ)の秘伝だったりしねーのか?」

「しませんね、そもそも人間では扱えないと思います」

 

 多分教えても無駄だから隠す理由が無いと思うんだ。魔力値が人間じゃ足りないからね。サンドラのおいちゃんなんて魔力値10無かった、下手をすれば点火の魔道具すら使えないかも知れない。

 

「風の魔法で、このぐらいの木を切断する事が出来ます」

 

 俺は両手で大きな円を作る、直径三十センチぐらいの木を想定している。道中試したがこれぐらいなら切断可能だ。

 アニメや漫画を見ていると、木なんて剣で簡単に切れる様に錯覚するかもしれないが、実際ノコギリなり斧で切ってみれば、普通の剣の一閃で一刀両断なぞ夢のまた夢だと解る。

 三十センチの木を斧で切り倒すまで、人間なら一撃で死ぬ様な一撃が何発も必要だ。

 

 そう考えると俺の魔術は結構凄いよ? この威力のまま人間に当たれば人間なんて真っ二つなんじゃないかな?

 

「しかし、人間にはあまり有効とは思えません、何故だか解りますか?」

 

 お返しに今度は俺が質問する番だ、解るかな?

 

「……いや、解らないな、話を聞くに威力が足りない様には思えないし。隙が大きいとか出るまでに時間が掛かるとかか?」

「確かに呪文を唱える必要は有りますがそれ程長い物ではありません。隙も無いと言って良いでしょう」

「そう聞くと強力な様に思うがな」

 

 残念ながら、基本的にそれ程強い物じゃない、これは実演するしか無いだろう。

 

「そうですね、お見せした方が早いと思います、いえ、身構えないで下さい、昼間にもお見せした明かりの魔法です。『我、望む、この手より放たれたる光珠達よ』」

 

 俺の発した呪文と共に輝く光球が一斉に現れては、俺の制御に従ってゆっくりと田中の元へ降り注ぐ。

 

「ッ! オ、オイ!」

「慌てる必要はありません、痛くも熱くも無いですから」

 

 ゆっくりと降り注ぐ光球が田中を取り囲み、その体に付着する。暖炉の明かりのみの部屋で田中の姿だけが輝いて浮かび上がる。

 

「!? なんだ?」

 

 田中は蛍の群れの中に立ち入った様な気持ちで居たに違いない、しかしその光は田中に触れるや否や、雪の様に解けて消えて行ってしまう。

 

「これは?」

 

 田中が疑問に思うのも無理はない、昼間に村長室で見せた時、光球は長い間消えずに部屋を照らし続けた。それが田中に触れると瞬く間に消えて行くのだ。

 

「これが魔法の弱点、パーソナルスペースでの減衰です」

 

 そう、魔法には弱点が有る。それが生命体の支配領域に入った時への減衰だ。

 

「例えば魔法で水を沸かすのは簡単です、しかし相手の体の水分を沸騰させて、相手を茹でる様な攻撃は不可能です」

「なるほど抵抗(レジスト)出来ちまうんだな」

 

 田中もなんだかんだゲーム脳、解りが良くて助かる。

 

「先ほどの木を切断出来ると言う話ですが、生きた生木ではなく折れた枝の話なのです。木も生きていますから魔法で切断しようとしても、減衰されてしまいます」

 

 村までの道中で見つけた倒木を薪にでも出来ないかと魔法で切断したのだが、その威力に驚いた次第である。

 

「じゃあ、さっき言っていた風の魔法も、人間に当てた所で威力は無い……か」

「そうですね、流石に首にでも当たれば致命傷にもなるでしょうが、ナイフで切り付けた方がよっぽど早いでしょう」

「なるほどな」

 

 セレナの様に圧倒的な魔力値が有れば、人間以上に抵抗力が有るとされている魔獣ですら直接的な魔法で即死級のダメージを与える事が出来ていた。しかし、アレはあくまで例外だろう。

 普通の魔力値では不可視の刃である事を利用しての牽制や、土や木を操作しての足止めに使うのが精々だ。

 

 王蜘蛛蛇(バウギュリヴァル)なんぞはその減衰領域が広い、かつ強力でその牽制すらも出来ないエルフの天敵だったハズなのだが……セレナは本当に規格外だった……

 

「ですから、攻撃以外の場面で役立つことの方が多いと思います。明かりもそうですが、空気や土から水を集めたり、地形を変えたり、怪我の治療も可能です」

 

 剣でも出来る事は剣でやった方が良い、魔法の良さはその汎用性に有る。

 

「治療? 回復魔法って奴があるのか?」

 

 田中も大概ゲーム脳だが、大事な事だから確認しておくのが良いだろう。

 

「はい、回復力を高める事で傷口を塞いだり、綺麗な傷口でしたら切断部位を結合する事すら出来ると言われています。試したことは有りませんが」

「それはスゲェな、……でもよ、それは自分で自分に掛けるのか? 減衰ってのが有るなら俺が怪我した時には回復出来ないって事だよな?」

「コツは有りますが、相手の魔法を心から受け入れる事で、減衰無く治療を受ける事が出来る筈です。怪我をした際、貴方が私を信じる事が出来れば治療をするのは問題ありません」

 

 相手の魔法を受け入れるって事は、相手の魔法で自分の体を好き勝手される覚悟を決めるって事だ。やろうと思えばそれこそ体の水分を沸騰させる事も可能なのだから。

 口先だけじゃなく、本心から相手を受け止める覚悟が無ければ効果は発揮しない。

 

「なら問題ねぇな、信用してるぜ、いや信用じゃないな。お嬢ちゃんみたいな可愛い女の子に傷付けられるなら構わねぇって感じかな」

 

 そう言って田中はニヤリと笑って見せるが、発言はまんま変態だ。しかしそれぐらいの気持ちの方が回復魔法の効きが良いのは事実。

 

「大怪我してのたうち回って居る時に、その余裕が有ればいいのですが」

 

 俺はそのリクエスト? にお応えして、サディスティックな冷笑で答える。

 

「じゃあ、戦闘は基本的に俺の仕事って事で良いかね?」

「ええ、弓が有れば多少は戦えると思うのですが……」

「……弓? ああ、エルフと言えば弓か」

 

 またエルフとか言ってるが敢えて無視する。

 

「……ええ、矢を魔法で加速するのです、その場合、相手のパーソナルスペースでもその勢いは減衰されませんから」

「なるほどね、魔法を物理攻撃に変えちまえば良い訳か」

「そうですね、理解が早くて助かります」

 

 ま、元日本人としては理解しやすい所だよな。

 

「じゃあ、明日、村長にでも村に弓が無いか聞いてみるか」

「そうですね、小さなショートボウが有れば良いのですが」

 

 ただ、この村にまともな弓が有るかどうかだよな。

 馬車の荷物の中に弓が有れば良かったんだが、ガラクタみたいな魔道具ばかりだったのには閉口した。あいつら魔獣と戦わずに、無機物相手に凄い威力だと喜んでたんでは無いだろうか?

 

「じゃあ取りあえず、スフィールまでよろしく頼むぜ、嬢ちゃん」

 

 そう言って、右手で左腕の肘を、左手で右腕の肘を掴み、この世界の挨拶をする。目上の人にする挨拶なので、嬢ちゃんと言う呼び方に反して、一応雇い主? として立ててはくれる様だ。

 

「こちらこそ宜しくお願い致します」

 

 俺も右手で胸を抑える、動作で答えると、お互いの目が合った。

 

「その、一つ良いでしょうか?」

「なんだい?」

 

 突っ込み待ちだろうか? でも聞かないのも不自然だろう。

 

「その……顔に付けている、そのアクセサリーは魔道具なのですか? 見た事が無いデザインですが」

「ああ、コレな、『眼鏡』って言うんだけどよ、見るか?」

 

 そう言って眼鏡を外すと、こちらに差し出してきた。

 

「メガネ……」

 

 そのままの名前で、見た目は黒縁眼鏡だが……受け取ってみるとずっしりと重い。鉄を曲げて不格好に眼鏡の形にしただけのシロモノだ。

 勿論レンズなんざ嵌まっていない。レンズって言うのは現代でも技術の塊だ、この世界では簡単に作れるモノじゃ無い。

 試しに掛けてみたが、特に何の効果も無さそうだ。

 その時、こちらをニヤニヤ見つめる田中と目が合った。

 

「さしもの森に住む者《ビジャ》のお姫様も眼鏡は似合わないな」

「これは何かの役に立つのですか? 重くて視野も狭くなり不快なのですが」

 

 これ何なんだ? 意味が解らない。しかも鉄で出来てるからかなり重い。

 

「ホントは今の俺には必要無いんだけどよ、コイツが無いと俺が探してる奴が俺に気が付かないかと思ってな」

 

 ……そうか、お前、俺を探すためか。そんでもう目は悪く無いんだな。

 

「探し人ですか……」

「ああ、木村と……、高橋って言うんだけどな。生きてるか死んでいるのか、この世界に居るかどうかすら解らないんだ」

「……………」

 

 木村も居るのか? 居るのかも知れないのか? そりゃそうか……

 と、するとセレナを撃った火縄銃は木村の作か? いや、そう決めつけるのは早計か、普通に帝国の秘密兵器として作られていたのかも知れない。

 

「木村はともかくよ? 高橋なんて人間かどうかすら解らないんだから参るぜ」

 

 ん? なんだって?

 

「……よく意味が……解りませんが?」

「どんな姿をしていても、どんな事をしていても、そう言うモンかもなって思っちまう位、良くわかんねー奴なんだよ」

「……それでは、まるでおとぎ話の魔物の様では無いですか」

「違いねぇや、似たようなモンだな。今、この屋敷に居たっておかしく無いんだぜ?」

 

 ……コイツやっぱり気が付いてるのか? そんな駆け引きするなんて、らしく無い気がするが……

 

「この家に、やたら俺に吠えて来る犬が居たろ?」

 

 ああ、あの間抜けっぽい犬な。

 

「やたら俺に吠えるしよ、今考えると高橋と顔つきも似てるんだ、試しに話しかけてみようかと思ってる」

 

「ウパー(憤怒の鳴き声)」

 

「?……どうした?」

「いえ……なんでもありません」

 

 滅茶苦茶暴れまわりそうになった、俺はコイツと旅をして突っ込みを入れずに済むだろうか?

 ……正直俺には自信が無い。


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