死憶の異世界傾国姫 ~ねぇ、はやく、わたしを、殺して~   作:ぎむねま

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★成人の儀へと

「納得いきません!」

 

 俺は大声で村長に食ってかかる。昨日披露したお涙頂戴の逃亡劇は大成功だったハズ。なんとしてでも帝国を打倒するのだ、と一体感が生まれたと思ったのに、一眠りしたら全く状況が変わってしまっていた。

 

「私がまだ成人していないとはどういう事です? こうして王家の秘宝さえ下賜されています」

「しかし、お披露目の式は挙げておらん、公的には成人していないのと一緒じゃ!」

「全てを忘れて、我々と暮らしてはくれませんか?」

「姫様には平和に生きて貰いてぇ」

 

 エルフ達は口々に言うが一体どうしたと言うのか? 今更に俺を王族だと認められないと言い出したのだ。

 俺はセレナと成人の儀を果たした。だから立派に王族なのだが、お披露目がまだだったのは事実。

 成人していな俺が、一人で勝手に王都に行って同盟を持ちかけるなど許されないと、そう言うのだ。

 だったらコッチにも考えがある。

 

「だったら今からこの村で成人の儀をすれば良いのですね?」

「え? いや、それは」

 

 俺がそう言えば、村人は急に黙った。それだけで成人の儀などただの言い訳だと解る。

 なにせ王蜘蛛蛇(バウギュリヴァル)なんて現れたのは全くのイレギュラー。普通はビー玉みたいのを取ってくるだけのお使いなので、今の魔力があれば全く問題にならない。

 

「良いだろう、やらせてみれば良い」

 

 だが、そこにヨボヨボなジジイが現れる。

 

「長老、何を言っているのです?」

「今、あの洞窟には大岩蟷螂(ザルディネフェロ)が巣くっておる。今年、成人出来た者は居らんありさまじゃ、出来るものならやって欲しいものじゃな」

「長老! それでは本末転倒では無いですか! 我々は姫に幸せに、安全に過ごして欲しいと言うのに、そのために姫を危険な目に合わせるなど」

 

 なるほどね、大きなお世話。村人も、そして誰よりジジイが俺を舐めている。

 大岩蟷螂(ザルディネフェロ)だ? そんなのちょっと大きいカマキリだ。そんなのが数匹で俺がビビるとでも?

 ジジイは馬鹿にした様に俺を見やる。

 

「多少魔力がある程度で、自分が強くなったつもりのはねっ返りにはお灸が必要なんじゃよ、いま口先で言いくるめた所で、自分の力で王都を奪還する等言い出しかねん」

「いや、しかし!」

「村長! 良いのですか?」

「……うーむ」

 

 長老と言われるジジイの言葉は重いのか、洞窟でカマキリを殺せば許されそうで、むしろありがたい。

 しっかし、どうして急にこんな話になったのだろう? ひょっとしてコイツの入れ知恵か? 気が付けば、いつも隣に陣取る巨漢の黒ずくめ。

 

「言っとくが俺は護衛だ、危ない所に行くと言うならついて行かざるを得ないんだが?」

 

 ドンと胸を叩きながら存在をアピールする田中がウザい。ただただウザい。

 

「勿論じゃ、お前さんは姫様が危ない目にあった時、助けてやって欲しい」

「それじゃあ試練にならないんだろ?」

「そりゃそうじゃよ、お前さんの手を借りた時点で儀式は失敗。それでええじゃろ? お主はスフィールへの護衛代をそのまま受け取り、村へはワシらから依頼のキャンセルと護衛代を満額返す。貧しい村じゃがお主の護衛代程度は捻出できる」

「まぁ俺はそれでも良いけどよ、姫様が普通にその成人の儀とやらをやり切ったらどうなる? 俺は余計な仕事が増えるだけなんだが?」

「そうじゃな、護衛代がワシらが払う分と合わせて倍に増えるとすれば、文句は無いじゃろ?」

「長老!?」

 

 田中は魔獣退治で名の売れた冒険者。こんな寒村でポンと払える金額じゃないだろうに、現に村人は寝耳に水と慌て始める。

 

「それでは姫様の安全どころか、この無能に金を渡すだけでは無いですか」

「安心せい、今あの洞窟には大岩蟷螂(ザルディネフェロ)が少なくても十は巣くっておる」

「じ、十も!」

「姫様の儀式成功はありえん、あの男、仕事への責任感は本物と見た。姫様の安全も問題ないじゃろう」

「いや、しかし」

「上手い事大岩蟷螂(ザルディネフェロ)をあの男が減らしてくれたらしめたもの、無能なぞいっそ死んでくれても構わんからの」

 

 コソコソと話してくれるが、集音魔法で丸聞こえだ。

 どういう理屈か田中も聞こえているようで、鼻を鳴らして村長に食ってかかった。

 

「オイ、あの爺さんはああ言ってるが、村長もそれで良いんだな?」

「ハァ……まぁ、良いだろう。護衛代は何とか準備する」

 

 苦しげな顔を見せる村長は俺の実力を正しく把握している様だ。サンドラのおいちゃんに掛けた回復魔法のレベルを聞けば憶測するのは難しくない。

 みんなが気が付いて前言撤回する前に、とっとと話をまとめてしまおう。

 

「決まりですね。我々、森に住む者(ビジャ)には時間が無いのです、すぐにでも出発します!」

 

 これで終わりとばかり、パンッと手を打つと何も知らない可哀想な子を見る目をされてしまった。

 何も知らないのはどっちかな? どいつもコイツも微妙な顔しやがって!

 

「姫様、その森に住む者(ビジャ)と言うのはどうも……」

 

 

 ……ん?

 え? ダメ? 微妙な顔されたのって俺のネーミングセンスが問題だった? 昨日、どさくさに紛れてドヤ顔で披露したのだが……

 

 呆然とする俺のそばに、若いエルフが駆けつけ耳打ちする。

 

「あの……姫様、ビジャと言うのは人間が我々を森に棲む者(ザバ)と言うのにひっかけて、差別を揶揄する言葉なので……その」

 

 ファ? そうなの? 日本人が日本人を中世ジャップ土人って言う感じ?

 そ、そりゃー受け入れられない、かな? ダメ?

 

 ううぅ、早速お姫様ならではの非常識な所が出てしまった。幾ら本を読んでも細かいスラングとかのニュアンスは伝わらない。

 こうなったら逆ギレだ! 対案! 俺は対案を要求する!

 

「じゃ、じゃあどんな名前が良いと言うのです! 我々は同盟を持ちかける側なのですよ? 相手を無能などと言っていては話が纏まりません!」

「ですが、我々こそが人間ですし……」

「相手も人間です! そうやって見下していられる状況では無いのです! 森に棲む者(ザバ)と魔獣と同列に扱われている現状を、変えねばならないのです!」

「いやしかし、意味が違ってしまいますし違和感があります、いっそ新しい名前の方が良いのでは?」

「そこまでですか……」

 

 ハイ、ダメ! 押し切れませんでしたとさ。ぐぅー悔しい悔しい。何もかも上手く行かないよー

 悔しがる俺を余所に脳天気な男の声が掛かる。

 

「……エルフってのはどうかな?」

 

 田中だ! とんでもない事言い始めた! それファンタジー用語だからね?

 

「エル……ふ?」

 

 周りのエルフはポカンとしている。そりゃそうだろう、意味不明だ。コイツ馬鹿なの?

 

「俺の生まれ故郷では、森に住む妖精の様に、魔法に優れた種族の伝説があってな、森に棲む者(ザバ)の話を聞いた時からおっかないってよりも会ってみたいって思いが有ったんだ」

 

 いや、適当言ってくれるねー。死んで欲しい。

 

「そんな伝説が?」

「聞いたことが有りませんな」

「遥か遠くの国なのでは? 背も顔立ちもこの辺りの者とは思えませんし」

「失礼ながらどこの出身ですか?」

 

 で、田舎者だから回りのハーフエルフ達も余裕で騙されるって言う……

 

「遥か遠くの国なので、ご存じ無いと思いますがね。遥か遠くの小さい島国で、日本と言う所ですよ」

 

 遠いにも程があるだろうが! 突っ込みたい気持ちを抑えつけるため、俺はグッと奥歯を噛みしめる。口を開くことが出来なくなってしまった。

 

「島! 人が住む島が有ったのか」

「それでは我らが知らないのも無理はない」

「遠地であるが故、我らの話が良いように伝わったのかもしれんな」

 

 ああああー皆スッカリ信じてるじゃないか! 頭が痛い。ここはとにかく話を変えなければ、本当にエルフって呼称になってしまう。

 

「取りあえず、その話は良いでしょう!? 私は成人の儀に向かいます。弓ぐらいは用意してくれるのでしょうね?」

「普通は親が送る物なのじゃがな、まぁ好きな物を持っていくがよい」

 

 そうして弓選びが始まった。だが、どれもコレもクソみたいな品質である。って言うか、なんの補助も細工も無い、複数の部材を使用した波打つ形状の合成弓(コンポジット・ボウ)ならば、非力な俺でもそれなりの威力が出るのに……

 そんな中、俺が引ける弓と言えばひとつしか無かった。

 

「これで良いでしょう」

 

 俺が子供用のオモチャの弓を掲げると、皆の視線が生暖かいモノに変わった。

 弓の善し悪しも解らない素人だと思われた様だった。

 皆の目線が訴えかける様に田中を見るモノだから、どうにも危なっかしく思われているらしい。

 やっぱりダメとか言われても困る。とっとと出発するが吉。

 

「ではすぐに出ましょう、タナカもいいですね?」

 

 俺がそう言うと、案の定クレームの嵐だ。

 

「今からですか? 無謀です! 山道を六キロは歩くんですよ?」

「初めて行くんなら往復で五時間は見た方がええ」

「もう午後です、帰るころには真っ暗になりますよ」

 

「問題有りません、すぐに帰ります」

 

 だが、ココは強行する。俺には時間が無いからだ。

 イキナリ動くからこそ帝国の裏をかける部分がある。俺がスフィールに行くと、近場の帝国軍だけが知り、上の確認を取らず、早く手を出さなくてはと焦るぐらいのタイミングが丁度良いのだから。

 しかし周りからはため息と、嘲笑の様な物まで混じり出す。俺の事を世間知らずのお姫様だと思っているに違いない。

 

「では行って参ります」

 

 俺は自信満々。手を大きく振り上げて村を出発する。

 お供として田中は付いてくるようだが……コイツも俺の事を侮っているのか不安げな目を向けてくる。

 なるほどね、付いてくるのは勝手だよ? だけど付いてこれるかな?




キロとか単位は主人公が脳内で地球の単位に翻訳しています。

現地の単位は別にあるモノと思って下さい。
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