死憶の異世界傾国姫 ~ねぇ、はやく、わたしを、殺して~ 作:ぎむねま
三人称の場面でエルフって言ってるのはオカシイだろうってツッコミが!
三人称の部分も参照権を通して主人公が見た光景って事にして、甘えていた部分だったりします。
もっと何とか出来そうなので、花粉症の調子が良い時にでも改稿しようかなと。
→案外難しい……何とかなりそうなら……
あーイライラする。何故俺が今更、ただの害虫駆除をしなければならないのか?
「本来の成人の儀は、聖地と言われる
都の子供が行う成人の儀と、ここの子供が行う成人の儀は雲泥の差だ。あれはちょっとした旅行と言える距離、対してココの成人の儀はどうだ?
「それが村の近くの洞窟に行くなんて、大したことでは無いでしょうに、魔物の巣? 早く駆除するのが大人の役目でしょう! 自慢げに語っていましたが恥ずかしいと思うべきです」
「あいつらには戦う力はまるで無さそうに見えたな、
「大したものではありませんよ、そんな事より『エルフ』と言うのは何です? 人が住む島など聞いたことも有りませんよ? 適当な事を言ったのでしょう!」
苛立ちが止まらない。なんでエルフって名前を布教しようとしているのか? 実はコイツ俺の正体に気が付いているのか?
っと苛立ちながらも、俺は慣れた足取りで荒れた山道を快調に進む。シルフ少年の記憶がフル回転である。ただし、悲しいかな、チンタラ歩いていては俺の体力が保ちそうに無い。
「では、そろそろ行きます、準備は良いですか?」
そろそろ村から離れたし、全力疾走で良いだろう?
「ンだよ? 準備って」
「走る準備です、覚悟は良いですか?」
最後通告だ! 良いんだね? 本気で走っても? ダメって言っても魔法を使うけどな!
「『我、望む、足運ぶ先に風の祝福を』」
俺はそう言うと、――跳んだ。いや走っているのだが、バッタの様に跳ねるその一歩は途方も無く長い。人間じゃ追いつけるハズが無い。
「魔法かよ! クソッ」
慌てる田中の声を背に受けて、俺は気持ちよくて仕方が無かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふぅ、着きましたか」
やっぱり近いな。早々に村で成人の儀に使っているのだろう洞窟まで辿り着いた。六キロなんて、魔法を使えば数分の距離である。
田中はまだ遙か後方の山道を歩いているに違いないだろう。そう思った俺の背中に聞き慣れた男の声が掛けられる。
「おいおい、そんなにかっ飛ばされたらイザって時に守り切れねーぞ」
「なっ! 付いて来れたのですか?」
なんでよ? 山道をこの速度って尋常じゃ無いぞ?
「ああ、何とかな、急に走るからビックリしたぜ」
「い、息も上がっていないでは無いですか」
どんだけー! どんだけチートな体力持ってるんだコイツはよー!
「ガキが走ったぐらいで追いつけない様じゃ護衛失格よ、こちとら仕事が無い時だってキッチリ走り込んでる、そういうトレーニングがいざって時の持久力に繋がっている訳よ」
「それにしたって……」
俺は思わず田中の体を見る。筋肉がはち切れんばかりで、恐ろしく強そうだ。身長もそうだが日本人離れした体格は、明らかにチート感がする。
ぐぬぬ、でも戦力が多いに越したことは無いな。とっとと洞窟に入って、お使いを終わらせよう。
「良いでしょう、期待通りの力は有るようですね」
「おい、洞窟には入る前に暗闇に目を慣らしてだな……」
「不要です、『我、望む、我が身に光の輝きを』」
ふふーん、この辺りは流石に魔法のが便利だな。わざわざ松明やカンテラを持ち運ぶ必要が無い。
ん? 目を慣らせって言ったか? アイツはその程度で洞窟に入れるって事?
どんだけチートなんだよ、クソー。苛立ちながら、俺は洞窟に足を踏み入れた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――シュッ、ズバァァン!
洞窟に、魔法の矢の小気味良い炸裂音が木霊する。
「オイオイオイ」
田中の呆れ声が気持ちいい!
魔法で加速した矢を放ち、俺が
無理も無い。
「この威力なら人間の首なんざまとめて吹っ飛ばせるな」
しげしげと魔獣の死体を検分した田中の言葉がコレ。実際にライフル弾ぐらいの威力があるからね。田中の剣がどれほどのチートか知らないが、魔法の方が強いに決まっている。俺はドヤ顔で田中を挑発する。
「何なら試してみますか?」
魔法で体を光らせながらのセリフである。流石の田中もビビったのか、腰が引けている。
「お手柔らかに願いたいね、何にしてもこれじゃどっちが護衛かわからねーな」
「魔法も無限に使える訳ではありませんし、なによりソノアール村には弓が有りませんでしたからね」
引ける弓があれば、本来なら人間の護衛など必要無いぐらい。いや、敵には魔力を奪う霧があるのだから人間の護衛は必須なんだけどさ。
「へぇ、そんだけの魔法が使えてもやっぱ弓は必要か」
「……それに姫を名乗って護衛も無しでは、説得力が有りませんから」
戦力的に十分でも、ハッタリが効かないのは困る。
「それじゃあ人間よりエルフの護衛の方が説得力があるんじゃねぇか? 少なくともここで一人は連れて行くべきだな」
「それはそうなのですが、我々にとって森の外は魔力が足りないのです、ハーフだったら問題無いのかも知れませんが」
「オイオイ姫様は大丈夫なのかよ?」
「私もハーフですし、問題無いでしょう、健康値も高いですから」
「健康値?」
あ、外の人間は健康値も知らないのか? 俺は例の頭の王冠みたいな秘宝を差し出した。
「測りますか? どうぞ」
「??」
意味が解らないと言う顔の田中に使い方を説明する。
「ここを持って下さい、数字が出る筈ですが」
「へぇどれどれ?」
面白そうに覗き込む田中。俺もコイツの数値には興味があるぞ?
健康値:90
魔力値:90
は?
「え? 何ですか? この数字は」
「高いのか?」
「……最早健康値は異常と言える値です」
「……へぇ?」
この健康値は人間じゃないだろ! 魔獣かな?
田中はニヤニヤしてるけど、健康値なんて低いと死にそうな目に合うくせに、高くてもそんなに良いこと無いぞ?
「ニヤニヤしていますね、健康値など病気や怪我の治りが良い程度の数字です、一定以上有ってもそれほど意味は有りませんよ? 繊細さと無縁な健康馬鹿と言う事です」
「丈夫さってのは冒険者の資質で一番大事な要素だからな、得意にもなるさ」
「そんな物ですか……」
くっそーそうだよな、旅をするには健康値が大いに越したことは無い。
魔力値だって人間の平均を考えれば健康値よりもある意味図抜けている。村で測った人間の平均は20未満が殆どだった。
悔しそうな俺を見て、フォローのつもりなのか田中が魔力値を聞いてくる。
「でもよ、エルフ、いや
「そうですね、ですが実用に足る魔法を使用できる、200の大台を超える者はそう多くはありません、200を超えて初めて戦士への試験に挑める訳です」
「ちなみに姫様は?」
「400前後と言った所でしょうか」
「ヒュー」
褒められて気持ちよくなってしまったのも悔しい。わざとらしい口笛に一気に現実に引き戻された。
と、そこに
「ああ、また居ました『我、望む、放たれたる矢に風の祝福を』」
――ズパシュッ!!
ゴロンと
「そんな短い詠唱で凄い威力だな、一体何発撃てる?」
「矢尻が壊れてしまいますからね、矢があと十本しかありません」
「つまり、十は撃てると?」
「それどころか、矢さえあれば二十でも三十でも」
「マジかよスゲェじゃねぇか」
ふふん! 得意になって矢を撃つ素振りをしてみれば……右手に刺すような痛み。
「……いえ、やはり十発ぐらいですね」
「は?」
「手が痛いです」
腫れてしまった。どうしてくれる! 俺は手の平を見せつける。
「手袋つけてるじゃねーか」
「
「回復魔法は?」
「アレはアレで集中力も魔力値も、健康値まで削られるのです、出先ではあまり使いたくはありません」
「へぇ? サンドラとかいうおっさんには使っていたが?」
「知らないのかもしれませんが、ちょっとした矢傷でも感染症などを引き起こす事もありますし、腕に違和感が残る事も少なくありませんから」
「お優しいこった」
「私もあの方に優しくされましたから」
しょうが無いじゃん。俺は世界の全てを恨む勢いだけど、優しくされた人には多少なりとも恩返しはするよ?
と、いよいよ洞窟の最奥。祭壇みたいな所に辿り付いたんだけど……
「オイオイ何匹居るんだよ」
田中が呆れるのも解る。幾ら何でも数が多すぎ!
祭壇の間は広くくり抜かれた空間で、前世の教室二部屋分ぐらいのサイズが有った。そこに犬ぐらいの大きさの
「大体ですが二十は居ますか」
「矢は十本と言ったな、どうする?」
どうするもこうするも無い。こんな数はやりようが無いじゃんよ。卵も一杯あるから放っておくと大変な事になるのは目に見えてるが、魔獣の駆除は村人にお任せだ。俺は儀式を終わらせれば良い。
「飛びます!」
「は?」
「飛んであのガラス玉を掴んで脱出、後は走って村まで逃げます」
幼虫は無視、成虫も二匹居るが卵を守っているのであって、儀式のガラス玉をくすねて脱出するぐらいはワケ無い。
俺がそう言うと、田中はハッキリと顔を顰めた。
「いや、あの群れはどうする? 村までたった数キロの距離だぞ」
「成人の儀はガラス玉を持って帰れば成功です、魔獣駆除ではありません」
「そりゃそうだが、卵まであるじゃねぇか」
「関係ありません」
アイツらには邪魔される一方で、優しくされた訳でも無いからね。村からこれだけ近い場所に魔獣が巣くっていると知りながら放置したアイツらが悪いだろうが!
「いいですね? タナカはそこで見ていて下さい。私が戻ったら走って洞窟を抜けます『我、望む、この手より放たれたる光の奔流よ』」
まずは光の魔法を天井に放ち部屋を照らす。光の魔法は込めた魔力が尽きるまで勝手に光り続けるので便利なのだ。
カマキリ達が強烈な明かりに動揺した瞬間に、お次は風の魔法を詠唱する。
「『我、望む、疾く我が身を風に運ばん、指差す先に風の奔流を』」
コレはセレナが使った空を飛ぶ魔法。だが、俺の魔力じゃ空どころか、部屋の中を横切るので精一杯。
「マジで飛ぶのかよ」
それでも、ただの人間である田中には驚きかな? 人間は魔法なんて見たことも無いのが普通だろうから、こんな高度な魔法は聞いたことも無いだろう。
ウジャウジャと床に蔓延る幼虫を無視して、あっと言う間に祭壇の中、鎮座する箱に手を掛けた。
なかなか悪くない展開。しかしココで俺の『偶然』が牙を剥いたのだ。
箱に触れた途端、俺は強烈な頭痛に見舞われ、瞬間、意識を失った。