死憶の異世界傾国姫 ~ねぇ、はやく、わたしを、殺して~ 作:ぎむねま
「クソッやっぱり斬れねぇか!」
正直、田中先生のチート剣術でアッサリ倒せる。そんな展開を期待していなかったと言えば嘘になる。
しかし現実は非情である、さしものチート剣術も
そう考えると弓の先生、セーラさんだっけ? 仏頂面の。結構凄かったんじゃ無いだろうか? 先生の弓はズパズパ刺さっていた。いかんせんあの巨体相手に矢の一、二本じゃ役不足だったが。
で、田中が
そう、俺がひき回しの役って事だ、約束された結末と言える。
田中の奴は、自分が襲われると思っていた節が有った。普通に考えたら少女と大男、危険度が高く、食いでが有る方が襲われるのが道理。
しかし、そうは問屋が卸さないのが俺の『偶然』だ。
――クソがっ!チクショウ、死ねよカス。
畜生の分際でチクショウって叫ばせんなよ畜生!
心の中で愚痴を言っても、現実では息つく余裕もありゃしない。
「『我、望む、足運ぶ先に風の祝福を』」
何度目かになる呪文の唱え直し、移動の魔法も唱え直さないで居ると、徐々に効果が薄くなる。しかし疲れから呼吸が乱れるとその詠唱が苦しい、下手すると先程の様に制御に失敗しかねない。
ブォォォォォォ!
ドォォォン!
俺がその枝の上から脱出するのと、その枝を持つ幹に
結構な大樹であった為に折れこそしなかったが、酷く傾いては揺れている。枝と言う枝が葉と言う葉が、バサバサと擦れ合ってけたたましい音を上げる。
飛び移るのがちょっとでも遅かったら、哀れにも転落、即座に餌になるだろう。
こんな死と隣り合わせのアクロバティックをもう何度も繰り返している。
実の所、最初は田中が襲われる展開も有ったのだ。
その時、十分に距離を取って矢を射っていればこんな事にはならなかっただろう。しかしこの作戦、基本的に濃い森の中でしか成り立たない。
そうで無ければ、
となれば、植生の濃い方濃い方へと逃げる事になる。すると弓矢の射線が通らないのだ。
もし矢が無限に、いや二十も有ったらもっと安全圏で撃っただろうが、残り八と言う数を考えるとどうしても急所を狙いたい。
出した結論は、欲と安全を天秤にかけて、近くに寄って樹上からのスナイプ。
結果は三発が良い所に命中、しかし
樹上の俺を落とすべく木への突進、最初に食らった時に木から落ちなかったのは僥倖だったが、代わりに四本目の矢をドロップ。
残る矢は四本、しかし撃つ機会は訪れそうにない。
「固ってぇ! どうなっていやがる!」
田中が斬りかかっても全くこっちからターゲットが外れない。ひたすら俺が追い回される展開が続いている。
樹上を八艘飛びで逃げ回るアクロバティックは無駄に体力を消費する。かと言って今更、降りるタイミングも掴めない。下手に降りた瞬間にプチッと踏みつぶされるのがオチだ。
「ハァ……ハァ……あの! 役立たずが!」
人知らず愚痴る俺の口調にも、お姫様らしい余裕はない。
田中の奴、偉そうに言った割に使えない事この上ない!
ま、
それに全く救われて居ないかと言えば嘘になるだろう。さらに言うと田中の剣、どういう訳か時折、刺さってはいるのだ。鉄より固いと言われる
しかし、それでも致命傷には至らない。人間でいえばケツに彫刻刀が刺さったぐらいのインパクトしか与えられていないのだろう。
……いや、それ十分に痛いだろ。こっち来るなよホントに。
ひたすらに続く追いかけっこにも終わりが来る、それは俺の体力が尽きる前に訪れた。
「あっ!」
何度も行い、最早ルーチンワークになりかけていたが、それがいけなかった。ジャンプが早過ぎた。そして
「クッソッ」
お姫さまらしくない悪態が漏れるのも仕方がない。先回りされて俺が着地せんとした木に
足を踏み外した俺はこのままじゃ
最早制御も何もあったもんじゃない、全開の魔力をその一蹴りに込めた! 決して体に良い物では無いが背に腹は代えられない。
「クッ」
しかし問題は俺が跳んだ先に岩山が有った事。上手く制御し、着地しなければ、大怪我は免れない。
が、その前に現れた意外な伏兵が俺の頭を悩ませた。
いや、俺の頭を打ち付けた!
――ゴォン
「イギッ!」
鈍い音と不格好な悲鳴。頭にぶち当たったのはただの木の枝。
着地点の不安から下ばかり見ていおかげで、宙に伸びた枝が目に入らなかった。
「うぅぅぅ」
朦朧とする意識、しかし今、魔法の制御を手放せば、したたかに地面に打ち付けられ複雑骨折コースに違いない。朧げな意識の中、何とか着陸予定の岩山を前にして、緊急着陸を果たす。
「クゥゥゥ」
頭が痛い、一刻も早く離脱すべきだが動けない。意識も朦朧として俺は蹲ってしまう。
――ブォォォォ
唸り声を上げ、
このままじゃ踏みつぶされてミンチになるか、噛み砕かれてミンチになるかの二つに一つ、しかし俺の体は動いてくれないっ!
ほんの数秒の出来事だったが、血も凍る様な絶望を味わうのには十分な時間だった。俺は最期を予感して体を丸めてしまう。
ひょいっと
そんな音が出そうな位、俺の体は軽々と持ち上げられた。
田中だ。
田中が
「舌噛むなよ、ちょいと手荒に扱うからな」
そう言って田中が駆け出すその刹那、猛烈な勢いで
バグン
その
もし田中が走り出すのが0.5秒遅かったら? 田中は俺の首無し死体を運搬する事になっただろう、それ程にギリギリのタイミング。
「うひゃぁ」
変な声が出るのも仕方のないだろう? それでも弓を手放さなかった俺を褒めて欲しい。
「う、ぐ、がぁ」
そして揺れる! 田中の肩の乗り心地は最悪だ。足を抱えられ肩に担がれて振動はモロに腹を圧迫する。
「クッソ、どこまでも追って来やがる」
田中はぼやきながらも、むき出しの木の根を、大岩を、ちょっとした崖すらも軽やかに飛び越え踏破していく。
魔法は使っていない、純粋に肉体の力だけで、俺を担ぎながら、段差だらけの森を風の様に駆けて行く。
しかし、それでも、それでも
なんせ田中の肩に担がれて、俺の頭は背中側、背後から迫りくる
どうすんだよコレ……。