死憶の異世界傾国姫 ~ねぇ、はやく、わたしを、殺して~   作:ぎむねま

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★執務室での攻防

 本日は快晴なり、今日もスフィール城の庭は美しく、色とりどりの小鳥たちが囀っている。

 いよいよ俺達は、このスフィールを治めるグプロス卿と対面する。

 

「こちらでお待ち下さい」

 

 またまた執事の爺ちゃんから案内された豪華な部屋。

 だけど、今日は田中と二人きりだ。

 

「なぁ? グプロス卿がその場で襲ってくる可能性があると思うか?」

「それは流石に無いでしょう、酒場でも我々が城に向かうと喧伝しましたし」

 

 コイツは何を言ってるんだ? 俺等を拉致すれば、客人として招いて投獄したのがバレバレだ。あまりに外聞が悪いだろう。

 

森に棲む者(ザバ)を退治した言わんばかりに堂々と宣言するかも知れないぜ?」

「この国は南方の独立都市、プラヴァスとも取引があるでしょう? 異民族をその様に扱うのは無策と言えるのでは?」

「かも知れねーが、油断はするなよ」

 

 田中はそう言って油断無く目を配るが、コイツの実力があればその辺の衛兵の十人や二十人、相手にすることも余裕なんじゃないか?

 取り囲まれたらマズいだろうが、建物の中でならその心配は無いハズだ。

 そう水を向ければ、素人が! とばかりに舌打ちをされた。

 

「良いか? 何も俺はこの世界で最強の人間って訳じゃない」

「そうなのですか?」

 

 それは驚きだ、てっきりチートを貰ってブイブイ言わせてるモノかと思っていた。

 

「ああ、特にスフィールが誇る破戒騎士団って奴らはヤベーって評判だ。奴ら日常的に魔獣を狩りまくってるし、五倍の規模を誇る騎士団相手に完勝してみせたって話もある」

「それは……驚きました、てっきりグプロス卿は軍事に興味が無い方かと」

 

 俺は驚きに目を見張る。だって、城をこんな風に改造してしまうヤツが、そんな精強な騎士団を持っているとは思わないだろう。

 

「それが、チゲーんだよ。グプロス卿と言うより今の騎士団長ローグがイカレてるんだ」

「イカレてる?」

「ああ、騎士団とは名ばかり、貴族の坊ちゃんのエクササイズに成り果てていたスフィールの騎士団に現れた異端児。噂によればな、弱いヤツは騎士団に不要と決闘を繰り返し、他の団員を追い出して今の地位に就いたと聞くぜ?」

「……余りに荒唐無稽な話に聞こえます。騎士爵持ちの人間をそう簡単に追い出せるのですか?」

 

 俺は人差し指を顎に添え、可愛く小首を傾げてみせる。

 渾身の可愛いポーズだと言うのに、あろう事か田中はソレを無視!

 

「そこに絡むのがグプロスよ。ヤツは金食い虫の騎士団を縮小したかった。ローグのバックに付いたのさ」

「じゃあ騎士団は人員が減って弱体化するばかりでは……」

「そうだな、実際に以前は騎士が百、一人の騎士に従者が十人は付くから千人規模の大騎士団だったんだが、今はたったの二十人」

「にじゅう? 全く戦力にならないではないですか!」

 

 やっぱりグプロスって馬鹿だろ? そんな数では戦争にならない。

 

「だけどよ、千人分の給料はその二十人で山分けだって言うぜ?」

「は?」

 

 それじゃ、グプロス卿の人件費削減目標は達成されないでは無いか。

 

「それでも、人間が減れば固定費が浮く、無駄な設備が不要になる」

「それで、グプロス卿は納得しているのですか?」

「もちろんだ、二十って数は傭兵団に近い。才能のある戦士が全員に目を配れる最大人数。魔獣を狩るのに一番効率が良い人数でもあるわけだ。他の騎士団も魔獣を狩るが、奴らの戦果は他を圧倒している」

「つまり、スフィールの騎士団は軍事行動よりも魔獣退治が専門だと?」

「そうだな、でも別に人間相手が弱い訳じゃ無いぜ? むしろ強い。なんせ莫大なサラリー目当てに志願するヤツは後を絶たない」

「志願……ですか?」

「そうだ、他の騎士団と違い、ローグ隊長に実力が認められたら入団可能だ、血筋なんて関係無い。騎士団ってよりも最強の傭兵団って思った方が近いぜ」

「厄介ですね……」

 

 そんな奴らに狭い城の中、絡まれたら終わりだ。

 

「俺だって、刀があれば負けるつもりはさらさらねぇんだけどよ……」

 

 そういって不安げにさする田中の腰の剣は刀ではない。それどころか研ぎに出していて普段の剣ですらない。

 良く考えれば、田中が不安に思うのも当然だ。

 ま、まぁ? 流石に襲っては来ないだろう。 きっと、多分。いちいちそんな可能性を考慮していてはコレから何も出来なくなってしまう。

 しかし不穏な名前は気になる。

 

「それでは最後に、破戒騎士団と言う名前はなんです?」

「俗称さ、正式名称なんて誰も知らねーよ。金遣いが荒いからな、街ではやりたい放題って訳だ」

「…………」

 

 本当にメチャクチャな奴らじゃ無いか。大丈夫なのか? この都市。

 

「お待たせしました、グプロス卿の執務室へとご案内します」

 

 そこに執事の爺ちゃんが現れて。チラリと不安を抱いたままに俺達はグプロス卿の元へと向かった。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「剣を預けなければならないのですか?」

「ええ、話し合いの場ですから」

 

 執事にやんわりと促され、仕方無く田中は腰の剣を預ける。

 

「そらよ!」

「大丈夫なのですか?」

「あっても無くても大差ねぇよ、破戒騎士団が出てくるかどうかだな」

 

 ……田中にそれだけ言わせる騎士団ってどんだけヤバいんだ?

 嫌な予感に身を焼かれながらも、 執事のノックと共に俺達はグプロスが待つ部屋へと通された。

 

「グプロス様、お客人のユマ姫がお越しです」

「入れ! いや、よく来てくれた」

 

 グプロスの声は多少上ずっていた。巨漢の田中に圧倒されたのだろう。

 一方俺は田中の影に隠れてしずしずと入場。

 横からぴょこんと飛び出すと同時、振り向きながら優雅にお辞儀をひとつ。

 

「お会いできて光栄です、私はエルフの姫、ユマ・ガーシェント・エンディアン、以後お見知りおきを」

 

 どうだ! フリフリ衣装を活かす渾身の挨拶は! 今日は手持ちで一番派手な白地に紫の刺繍が入ったドレスに、秘宝であるティアラも完全装備。

 

「……………………」

 

 ポカーン! って顔するの止めて! 俺が空気読めない娘みたいじゃん!

 え? 作法とか失敗した?

 

「ゴホン! グプロス様、ご返事を!」

 

 執事の爺が咳払いを聞いて、グプロス卿がやっとこの再起動。

 

「……あ、ああ」

 

 まるで上の空。このでっぷりとした中年男がグプロス卿だろうが、いきなりマヌケ面を拝んでしまった。

 コレは……俺の可愛さに圧倒されたとか?

 現にグプロス卿が俺を見る目は血走って見える。どうもストライクゾーンに入ったようだ。

 

「わざわざ遠くから良くお越し頂きました、私はグプロス・ソンテールこの城の主にして、この一帯を治めさせて頂いております」

 

 慇懃に挨拶をする中も、チラリと俺を窺う目には覚えがある。酒場でも俺に入れ込みすぎるオッサンはこんな感じだ。余りにも美しいと、拝んでくる奴まで居るからな。

 俺も自分の見た目は可愛いと思うし、前世の俺だったら同じ様なリアクションをするだろうから気持ちは痛いほど解ってしまう。

 引き攣った笑いを浮かべる俺に、グプロス卿は畳みかける。

 

「さて早速ですが、私の様な一介の領主の城に、ザバの姫君がお越しになるとは。訳を伺ってもよろしいでしょうか?」

 

 今更取り繕った様に、でかい腹を撫でながらソファーに体を沈めて余裕ぶって見せてくるが無駄だ。コイツは俺から目が離せない。

 だが、気に入り過ぎて監禁されたら事だ。こうなってしまうと地位も名声も投げ打って、打算抜きの暴挙に出かねない。

 

 どうする? いや! 今更引けるか! 俺は強気に押す!

 

「その前に、我々はザバなどと言うモンスターではありません」

「ほう、では何と呼べば?」

「エルフ、今後は我らの事をそう呼んでいただけると」

 

 俺の言葉にもグプロス卿は驚いた様子が無い。既に調べは付いてると言う事か。

 

「ではエルフの姫君よ、あなた方は一体我ら人間に何を求めるか?」

「我らが求めるのは同盟、共に帝国と戦うための同盟関係です」

「ふむ」

 

 考え込んだグプロス卿に、俺は国で起こった悲劇について滔々と語ってみせる。帝国の非道をたっぷりとだ。

 俺の魅力に参ったあまり、味方をしてくれると良いのだが……

 

「なるほど、噂で帝国がザバの王国に攻め入ったと言う話は聞いていましたが、その様な事になっているとは」

 

 驚いて見せるが、グプロス卿の仕草がいちいち嘘くさい。

 これは、駄目か?

 

「ええ、エルフの技術を手に入れた帝国の次の目標はこのビルダール王国になるでしょう、その際真っ先に新兵器の餌食になるのはこのスフィールに違い有りません」

「ふむ、しかしザバ、いえエルフの国を落としたとあれば数年は地盤を固めるのに時間が掛かるのでは?」

「いえ、恐らく帝国はエルフの国を治める事に失敗します」

「ほぅ」

 

 やっと興味を引かれたのか、身を乗り出してくる。やはり実務的な未来の話になるとこのタイプは食いつきが良い。

 

「そもそも帝国に大森林を統治するつもりがあるかどうか……魔獣蔓延る魔境。魔力も濃く人間が住める土地とは思えません」

「では帝国は何の為にエルフの王国に攻め込んだとお考えで?」

 

 いや、そんな事俺が聞きたいよ。

 

「それこそ帝国にお尋ね下さい、我々の知り得る所では無いのです」

「なるほど、機会が有れば聞いてみたいものですな」

「彼らがもし、金銀財宝と言ったお宝に期待して攻め込んだとするならば、それ程の価値がある物は見つけられなかったでしょう。更に言えば我らは大森林でしか生きられないのですから、奴隷としても価値が無い」

「どういう事です?」

 

 グプロス卿は不思議そうに首を捻る。

 森に棲む者(ザバ)が見世物として捕まることはあるようで、生態ぐらいは知っているかと思ったが知らない様だ。

 俺はエルフが住む土地には魔力が必要で、逆に大森林は人間が生きるには魔力が濃すぎる事を説明した。

 すると、当然グプロス卿は俺の事を心配する。

 

「だとしたら姫は相当無理をしてこのスフィールに滞在して居られる?」

「いえ、私は人間とエルフのハーフなのです、人間の領域でも問題なく活動できます」

「まさか、エルフの王妃が人間なのですか?」

「いいえ、私は流れの女性冒険者との間に出来た妾腹の娘です。ですがエルフの全権を委託されてここにいます、そこは安心して下さい」

 

 全権とか嘘だけどな! いや、俺が最後の王族なので王族の意向としては全権だし!

 

「しかし同盟と言っても、同じ場所に生きられぬなら、戦場を共にすることすら出来ないでは無いですか」

「ですが、技術的な協力関係を築く事は可能。帝国がエルフから手に入れた魔道具で王国領を蹂躙する事を防ぐ事は可能でしょう」

「おとぎ話の様な一面を火の海にする様な魔法があると言うのですか」

 

 うーん、探り合いになってしまうな。ドコまで話して良いのだろうか?

 あまり派手な攻撃魔法は健康値で消えてしまう。だがソレを言うと魔道具屋のオッサンが言うにはグプロス卿は興味を失ってしまうだろう。

 かといって、嘘はつけない。さりとて魔法を駆使した戦争など、想像で語るしか無い部分が多過ぎる。

 多少は盛っていくしか無い。

 

「使い方次第でしょうが、その様な攻撃以上に恐ろしい物が幾らでも有ると言う事を、身をもって知る事になるでしょう」

「例えば?」

「一晩で城壁が出来上がり、高速で破城槌や投石器が移動しこちらの拠点を砕いて来る。そんな戦術すら取れる、それだけの技術があるのです」

 

 俺がそう言うと、キラリとグプロスの目が光る。

 

「ですが、それ程の力が有っても帝国に負けた、なぜです?」

 

 なるほど、良いツッコミだ。言いたくないが言うしか無い。

 

「霧です」

「霧?」

「魔力を無効化する兵器が帝国にはあるのです、その霧の元では魔道具も魔法も使えません」

「だとすれば、エルフの助力が有っても帝国に勝つことは難しいのでは?」

「霧の中では帝国自身も魔道具を使えないと思われます、魔力無しの土俵に引きずり込んで初めて五分の戦いに持ち込める。そう言う勝負になるかと思われます」

「しかし、それでは同盟と言いながら魔道具の提供だけで戦うのは我々ではないですか!」

「勿論、我々も帝国と戦います、我々には魔道具だけでなくエルフのみが使える魔法の力もありますから」

 

 俺がそう言うと、待ってましたとグプロス卿が膝を打った。

 

「それですよ、世に聞こえた森に棲む者(ザバ)の魔法と言われる技、それがどこまでが本当で、どこからがお伽噺なのか、それすら我々には解らない」

「グプロス様は、魔法の力がご覧になりたいと?」

 

 俺はソファーに座ったまま、微動だにせずジッとグプロス卿の目を見つめる。

 見たいのか? 見せてやるよ! 派手でハッタリだけドーンと効くヤツを!

 俺の目力に圧倒されたのか、グプロス卿がグッと息を飲むのが解った。

 

「それは勿論、見せて頂けると言うなら願っても無い。狭い庭ですが少々派手な事をしても問題にはなりません、オイ! 客人を「良いのですか?」」

 

 俺は卿の言葉を遮り、ローテーブルに手を付き、勢いよく身を乗り出す。

 

「この部屋の外で良いのですか? せっかく用意した方々が無駄になるのでは?」

「何を言っているのですか?」

「壁の裏に四人、机の下に一人。ひょっとして屋根裏にも居るのですか?」

「ッ!!」

 

 …そう、グプロス卿はこの部屋のそこかしこに、()()()()()()()

 集音の魔法を使えばそんな事はバレバレ。どういう訳か隠し兵に田中も気が付いて居るようで、目線でソレは察せられる。

 

 まさかバレていたとは夢にも思っていなかった。そんな目で俺を見るグプロス卿の顔色は青い。

 

「いやはや、何の事ですかな?」

 

 そりゃー認めないだろう。客の帯剣を認めず、自分だけは隠し兵とはね。

 

「あら、私の勘違いでしょうか?」

「旅でお疲れなのでは無いですか? 良かったら今晩泊まって行って頂けると、エルフの姫を泊めたとなれば、スフィール城にも箔が付きます」

 

 誰が泊まるかボケ! 苛立ちを押し隠し、オレは怯えた様子で辺りを見回す。

 

「そうですか? しかしこのお城、どうにも薄暗くて。お化けが出そうではありませんか、私怖くて怖くて」

「薄暗い……でしょうか?」

 

 グプロス卿が首を傾げるのも当然、スフィール城は至る所に明かりの魔道具が置かれ、まばゆいばかりの明るさだ。

 意味が全く解らないのだろう? キョトンとした顔だが、一方で俺は凶暴に笑った。コレから起こる事を考えると楽しくて堪らない。

 

 ……コレから暗くなるんだよ!

 

 ――パァン

 

 乾いた音だ、それと同時に全ての魔道具の光が消えた。

 

「何ッ!?」

「薄暗いと思いませんか?」

 

 急に暗くなった部屋、何食わぬお澄まし顔で言ってみせる。

 俺がやったのは魔力そのものを飛ばし、魔道具をオーバーヒートさせただけ。

 丁度、質の悪い魔導ランプに純度の高い魔石を入れた時と同じ事をしたのだ。

 

「えっ……ええ、しょ、少々暗いかも知れませんな」

 

 卿は必死に冷静を装っている。暗がりに乗じて隠れた兵を動かそうとしているのだろうが、ココはハッタリで押し通す!

 おまえら等ごとき、魔法でいつでも殺せるのだぞと言う体で行く。俺は派手な照明魔法を準備する。

 

「でしょう? お節介かも知れませんが少々明るくさせて頂きますね『我、望む、この手より放たれたる光の奔流よ』」

 

 ――ガアァン

 

 俺が魔法を唱え終わると同時、金属が激しく叩かれる音。心底驚いたが、ギリギリの所で悲鳴を飲み込む。

 そして薄暗くなった執務室に明かりが戻った。

 いや、戻ったどころでは無い。まるで中天に輝く真夏の太陽。俺は照明の魔法にありったけの魔力を込めたのだ。

 

 そこに照らし出されたのは、俺へと斬りかかる黒ずくめの暗殺者。そしてそれを紙一重、小手の硬い部分で受け止める田中の姿だった。

 

 ……危なかった。無闇に刺激してしまえばこうなるのも当然か。俺の頬をツゥーッと一筋の汗が伝う。

 

 それだけじゃない、壁の奥から出るわ出るわ、五人ぐらいの真っ黒な男達。

 メッチャビビる! だけど、全部読み切っていたとばかり、余裕の表情で俺は微笑む!

 

「良かったですわ、明るくなって。薄暗い物ですからこんなに先客がいらしていたと言うのに私ったら気が付かず、長話をしてしまって」

「…………」

 

 呆然と俺を見つめるグプロス卿は、魂までも俺に釘付けだ。

 

「余り長らく卿を独占しては申し訳ないですわね、グプロス様、私達は王都を目指して旅をしているのです。エルフとビルダール王国の同盟、賛成して頂けるならすぐにでも馬車を用意して頂けますか?」

「……いや、それは」

 

 言い淀むグプロスに、俺はニィッと笑いかけ威圧する。

 

「何か問題が?」

「数日、数日待って欲しい。国の存亡に関わる事、即答は出来ない」

「……そうですか、ですが我々もその数日を争う身です、こうしている間にも大勢のエルフが帝国の凶刃の犠牲になっているに違いないのですから」

「いや、しかし」

 

 脂汗に塗れた顔を必死に拭きながら、考えを巡らせているようだ。考える時間ぐらいはやろうじゃないか。

 破戒騎士団だかなんだか知らないが、拍子抜け。このレベルなら全く問題ないぞ? どんどん送ってこい。

 

「では我々は東通りの宿スーニカに数日は泊まっています、その間に心が決まったのならご連絡下さい、これ以上長居するのは申し訳ないですわ」

 

 俺はそう言って飛び出して来た黒ずくめの男達を睥睨する。

 更に、挑発するように田中が俺をたしなめる。

 

「そうですな、我々と違いこの方々は帯剣を許されてここに居るのですから、余程高い身分の方々とお見受けする。姫様と言えど失礼は行けません」

「あら! 本当にそうですわね、その様な高貴なお方をお待たせしては行けませんわね、それではグプロス卿、御機嫌よう」

 

 言うだけ言って、俺達はさっさと部屋を後にする。ここまでやられたらマナー違反もクソも無いハズだ。

 

 ズカズカと通路を歩き、ひったくる様に剣を取り返すと、田中と二人庭に出る。

 

「どうでした?」

「雑魚ばかりだったな、破戒騎士団は居なかった」

「……そうですか」

 

 あの黒い男達がそうだったら良かったが、やはり騎士団はもっと強いらしい。

 

「でもよ、話によると魔獣を狩るために出払ってるって言うから当面は気にしないで良いんじゃ無いか? 罠かと思ったがそうじゃなさそうだ」

「そうなのです? でも……」

 

 俺の『偶然』がそんな甘いことをするだろうか? 俺にはソレが信じられなかった。


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