〜中央暦1639年10月18日〜
ロデニウス大陸南西部 近海
穏やかな波と暖かく気持ちのいい風が吹く海域で、ロウリア王国海上警備軍第1海上警備艦隊と、先日異動が完了した大日本帝国海軍第8艦隊による合同演習が行われていた。
本来予定されていたより多くの艦艇が大日本帝国側より格安で提供されたことにより、ロウリア王国の海上戦力は瞬く間に回復へと向かっていったことが、今回の合同演習のきっかけの1つとも言えた。
本来であればクワ・トイネ公国とクイラ王国も参加する予定だったのだが、両国の都合により不参加となっている。
大日本帝国国防海軍第8艦隊
金剛型戦闘巡洋艦:〈
雲龍型航空母艦:〈
村雨型ミサイル巡洋艦:〈
磯風型ミサイル駆逐艦:〈
ロウリア王国海上警備軍第1警備艦隊
カルロス級飛竜搭載母艦:〈カルロス〉※旗艦
カーマ級装甲艦:〈パンドール〉〈ホワート〉
ブアラ級軽装甲艦:〈ラーク〉〈メビウス〉
ラー級駆逐艦:〈ロバリオ〉〈ロングレー〉〈ロンデン〉〈ロイ〉
大日本帝国国防海軍第8艦隊司令の水野屋は、〈滅龍〉の艦長に話しかけた。
「カルロス級飛竜搭載母艦、通称竜母か……最初に聞いたときは驚いたものだ」
「同感です。ですが、一概に不要とも言えないものですね」
そもそもロデニウス大陸各国で建造されている空母は第二次世界大戦までに大日本帝国海軍が保有してきた正規空母の資料を下に建造されている。空母とは航空機を運用することを想定した軍艦であって、ワイバーンの運用を想定していない。ワイバーンは生物であることに変わりはなく、下手に扱おうものなら体調不良で飛べなくなることもあるそうだ。
幸いというべきか、ロウリア王国はかつてパーパルディア皇国からの支援を受けており、その中には竜母に関する情報も含まれていた。
その情報と正規空母の資料を照らし合わせて建造されたのが、カルロス級竜母である。
制空権が確保されている状況で木造船相手であれば、爆弾を数発しか搭載できない艦上爆撃機よりも、何度も火炎弾を発射できるワイバーンの方が効率がいいのだ。
とはいえ、艦上爆撃機が不要かと聞かれれば、そうではない。
いずれは世界各国も木造船ではなく、鋼鉄製の軍艦を扱うようになるだろう。そのときに備え、早い段階で艦上爆撃機の配備は必須であった。無論、艦上攻撃機もである。
今後の課題は、空母と竜母をどう使い分けるかとなるだろう。そう考えていた、その時だった。
「水上レーダーに感あり! 方位230! 数およそ23! 速力16ntにて接近中!!」
「全艦第1種警戒体制!! 航空隊は発艦準備!! ロウリア艦隊にも伝えろ!!」
レーダー員の報告を受け、水野屋はすぐさま艦隊に指示を飛ばした。
現在日ロ両艦隊がいる海域はロウリア王国の領海内であり、現在航行規制が掛かっている海域でもあった。
「ロウリア艦隊旗艦〈カルロス〉よりワイバーン3騎、発艦します!」
水野屋の視線の先、〈カルロス〉からワイバーンが3騎上がっていくのが見えた。
ワイバーン3騎は上空で編隊を組むと、所属不明艦隊のいるであろう方向へ向け飛んでいった。
〜中央暦1639年10月18日〜
ロデニウス大陸南西部 近海 旗艦〈カルロス〉飛竜隊所属第3飛竜小隊
〈カルロス〉飛竜隊所属の第3飛竜小隊ワイバーン3騎は、大日本帝国第8艦隊から送られてきた方角を警戒しながら飛んでいた。
「小隊長! 敵はなんだと思われますか!?」
新米竜騎士の質問に、小隊長のムーラは少し考えてから答えた。
「まだ敵だと決まったわけじゃないぞ。それより! お前たちは逸れないよう、しっかり俺について来い! わかったか!!」
「「了解!!」」
新米竜騎士たちの返事を聞いて、ムーラは再び考え始めた。
(しかし、一体どこの国だ?文明圏外国家なら通達してあるから近寄らないだろうし……まさか、パーパルディア皇国が!?)
ムーラが最悪を想定して顔を青ざめたとき、新米竜騎士の1人が声を上げた。
「小隊長! 前! 前!!」
「っ!?」
我に返ったムーラが前を注視すると、こちらに向かう3つの黒点が確認できた。
相手の姿が確認できる距離まで来ると、新米竜騎士だけでなくムーラも驚愕に目を見開いた。
「戦闘機だと!? しかも、我が国で運用予定の艦上戦闘機に似ている!!」
接近してきた物体は、大日本帝国からの技術支援を受け製造している次期主力艦上戦闘機に酷似していた。
所属不明機はムーラたちの近くまで来ると、速度を落として飛行する。
「し、小隊長!」
「狼狽えるな! どうやら敵対の意思は無さそうだ!」
ムーラはいきなり戦闘に突入することはなさそうだと胸を撫で下ろした。もしも戦闘となった場合、時速500㎞を超えた飛行機械相手に、ワイバーンでは対処できないのは目に見えている。
その後も所属不明機はこちらを攻撃するような素振りを見せず、それどころかこちらを誘導するかのような飛び方をしていた。そして……。
「小隊長! 前方に艦影! 数は23! 戦艦空母含む大艦隊です!!」
新米竜騎士が指差す方角を見ると、そこには戦艦や空母を含んだ大艦隊が、ロデニウス方面へ向け進んでいた。特に中央の戦艦はロデニウス大陸国家で建造されている戦艦よりも巨大に見える。
すると、周りの戦闘機が一隻の戦艦へと向かい、その戦艦を中心に飛び始めた。
「戦艦か……よし。俺はあの戦艦に降りる。お前たちは上空で待機しろ!」
「了解!」
新米たちを上空に残し、ムーラは単身中央の戦艦へと向かう。ロウリア王国竜騎士団の中でも数少ない垂直離着陸(艦)が行えるムーラは、難なく戦艦の後部甲板へと降り立った。
そこへ、武装した軍人に護衛された一団が近づいてきた。
「初めまして。私はロウリア王国海上警備軍所属の竜騎士ムーラと申します。当海域は我が国の領海です。貴方達の目的をお聞きしたい」
「私はグラ・バルカス帝国極東派遣団代表のシエリアと申します。こちらは副官のダラスです。我々の目的は、この先にあるとされる大日本帝国へと向かうことであり、意図せずとはいえ貴国の領海を侵犯したことは謝罪します」
聞き覚えのない国名に首を傾げるムーラだが、すぐに自分の職務を遂行すべく動き出す。
この事は至急大日本帝国政府へと伝達され、グラ・バルカス帝国極東派遣団は大日本帝国国防海軍の監視を受けながら、大日本帝国本土へと向かうのだった。
〜中央暦1639年10月20日〜
大日本帝国南東部 旧太平洋海域
帝王グラルークスの特命を授かったグラ・バルカス帝国極東派遣団を乗せた護衛艦隊は、大日本帝国とロウリア王国の艦艇に続いて航行していた。
途中、第8艦隊はロウリア王国内に建てられた朝日基地へと帰ってしまったので、今目の前にいるのは横須賀基地を母港とするミサイル駆逐艦〈晴風〉と〈
護衛艦隊の旗艦である〈グレード・アトラスター〉の艦橋で、艦長のラクスタルと数人の参謀・幹部、そしてシエリアとダラスが、目の前に映る艦隊について考察していた。
「海軍の専門家として、両国の艦艇を見た感想は?」
シエリアがラクスタル達に尋ねると、若手幹部が答えた。
「まずロウリア王国の艦艇ですが……竜母はともかく、その他3種類の軍艦は我が国と同程度の性能があると推定されます。もし戦うのであれば、航空隊による飽和攻撃が妥当かと思われます」
「そうか、では大日本帝国の軍艦はどうだ?」
「はい。戦艦こそ保有しているようですが、主砲が30㎝クラスと、オリオン級でも対処可能です。また、巡洋艦は砲を1門しか搭載しておらず、その意図が読めません。ですが、空母に関しては脅威です。このグレード・アトラスターと同等の船体を有していますから、その搭載量は我が国の正規空母並と予測されます。相手するのなら、圧倒的航空戦力護衛の下に戦艦を軸とした艦隊決戦が有効かと」
若手幹部の言葉に、熟練参謀が首を横に振った。
「そうとも言い切れません。大日本帝国の艦艇には見たことのない装備が複数見受けられます。彼らはおそらく、砲以外にもなにか強力な兵器を保有しているのかもしれません」
「まさかそんな……」
若手幹部が否定的な言葉を呟く中、シエリアは先日のことを思い返していた。
本国を出発する前日、彼女は外務省事務次官であるバルゲールに呼び出されていた。
彼曰く、大日本帝国は祖国を凌駕する力を持ち、彼の国との国交開設は祖国のためであり、敵対は祖国の終焉を意味するという。しかもそれは皇族であり、預言の力を持つルナアーク皇女殿下のお言葉であると。
(果たして、本当に我が国を凌駕するほどの力があるのか……?)
軍事にあまり詳しくないシエリアだが、大日本帝国の艦艇には違和感を覚えていた。
戦艦はともかく、巡洋艦の主砲が130㎜クラスと小口径であり、たった1門しか搭載していない。これでは命中率はあまり期待できないのではないだろうか。
そんな彼女の思考は、見張員の報告により止まることとなった。
「ぜ、前方に陸地を発見! 恐らく、大日本帝国の本土であると思われます!」
報告を受け、隣に立つ艦長のラクスタルは双眼鏡を覗き込み、そしてその動きを止めた。
「艦長……?」
「……」
シエリアが声をかけるも、ラクスタルは微動だにせず、ただ双眼鏡を覗き込んでいた。
そんなラクスタルを不審に思ったシエリアだったが、陸地へ近づいていくにつれて、彼が微動だにしなくなった意味を理解した。
自国の帝都以上に栄えた町並み、100m以上もの高層建築物群、そしてなにより、軍港と思われる区域に停泊する艦艇群が、シエリアたちを待ち受けていた。
大日本帝国国防海軍は有する横須賀基地。そこにはグラ・バルカス帝国極東派遣団を誘導してきた巡洋艦(〈晴風〉と〈雪風〉)と同クラスの巡洋艦が多数停泊しており、中には先日見た物よりも巨大な超大型空母も停泊していた。そんな中、一際目立つ戦艦の姿があった。
その戦艦の名は、〈
大日本帝国国防の要であり、最新の技術を多く搭載した彼女は、他にはない圧倒的な破壊力を有している戦艦である。
「……我々は、一体何処に来てしまったのだろうか……」
シエリアの問いに、誰も答えることができなかった。