〜中央暦1639年11月5日〜
アルタラス王国 王都ル・ブリアス
フィルアデス大陸南方に位置する島国、アルタラス王国。第三文明圏外側に位置するため文明圏外国家に分類されているが、国内に世界有数の魔石鉱山を有する豊かな国で、人口およそ1,500万人を抱える等、通常の文明国並みの国力と文明水準を持つ、文明圏外国家の中では最強クラスの大国である。
そんなアルタラス王国の王城アテノール城の一室にて、国王であるターラ14世が苦渋に満ちた表情をしていた。
「これは……正気か?」
そう呟いた彼の持つ外交文書には、普通では考えられないようなことが書かれていた。
パーパルディア皇国から毎年送られてくる要請文であるが、『要請』とは名ばかりの命令文書であるのが現実だ。
ターラ14世は再び外交文書に目を通す。
・アルタラス王国は魔石鉱山シルウトラスをパーパルディア皇国に献上すること。
・アルタラス王国王女ルミエスを奴隷としてパーパルディア皇国へ差し出すこと。
以上の2点を2週間以内に実行することを要請する。出来れば武力を使用したくないものだな。
この要請文に、ターラ14世は頭を抱えた。
魔石鉱山シルウトラスはアルタラス王国最大の魔石鉱山であり、王国経済を支える大鉱山である。これを失えば王国経済は大打撃を受け、国力の低下は免れない。
更に王女ルミエスの奴隷化。これに関してはパーパルディア皇国に全く利益が無いものであり、明らかにアルタラス王国を怒らせるためだけにあるようなものだ。どう考えても戦争に持ち込もうとしているようにしか思えない。
パーパルディア皇国の先代皇帝が崩御した後、現皇帝のルディアスは国土の拡大、国力増強を掲げて各国に献上を迫っているのは知っていた。だが、毎回指定されるのは無難な場所であったり、双方に利益がある場合が多い。
また、皇帝ルディアス本人もかなりの手腕の持ち主であり、このような下劣な要求をしてくるようには到底思えなかったが、このような要請文が届いている以上、その認識を改める必要があった。
今まで屈辱的とも言えるパーパルディア皇国からの要請の数々を受けてきたが、今回の内容はアルタラス王国に全くの利益が存在しない。全く意味がわからない。
ターラ14世は外務大臣を連れてパーパルディア皇国第3外務局アルタラス支部へと出向き、事の真相を確かめる事にした。
パーパルディア皇国第3外務局アルタラス支部に到着すると直ぐに大使の下まで案内された。
「待っていたぞ、アルタラス国王!」
パーパルディア皇国第3外務局アルタラス支部大使カストが椅子に座り、足を組んだ状態でターラ14世を呼びつける。
(なんと無礼な……)
ターラ14世は憤りを抑えながら話し始める。
「あの文書の真意を伺いに参りました」
「その内容のとおりだが? それともあれか? 皇帝陛下の意思に逆らうとでも?」
カストは何を当たり前のことをと言うかのように手を広げ挑発する。
「逆らうなど、とんでもない。では、我が娘のルミエスの事ですが、何故このようなことを?」
「あぁ、あれか。王女ルミエスは中々の上玉なのだろう?俺が味見をするためだ」
「「……は?」」
一瞬意味を理解できなかったターラ14世と外務大臣を見て、カストは酷く厭らしい表情で答えた。
「俺が味を見てやろうというのだ。まぁ飽きたら淫所にでも売り払うがな」
カストの発言に、ターラ14世から表情が消えた。
「……それも、ルディアス陛下の御意思なのですか?」
「あぁ!! なんだ!? その反抗的な態度は! 皇国の大使である俺の意思は即ち! ルディアス陛下の御意思だろうが!! 蛮族風情が! 誰に向かって口を利いていると思っているのだ!!」
ターラ14世は無言でカストに背を向ける。
「おい! 話は終わってないぞ! 無視するな!」
カストから発せられる罵声を一切無視して、ターラ14世は大使室を後にした。
「あの馬鹿を皇国へ突き返せ! わしの直筆はいらん、外務省から国交を断絶すると伝えよ! 我が国での皇国の資産も凍結しろ!」
怒りの収まらないターラ14世は、文官、武官を全員集め、吠えるように次々と指示を飛ばす。
既に要請文と大使の態度を伝え聞いていた政務官たちも、国王と同じように激怒していた。王室の忠義に厚い彼らは、たとえ列強相手でも断固として戦い抜く覚悟を決めていた。
さらに、この要請文の内容が国民にも公表されたことで、国民感情が反皇国派へと急激に傾いていった。
「外務大臣、急ぎ大日本帝国の外交官を呼んでくれ。必ず彼の国の力が必要となる」
「かしこまりました」
〜中央歴1639年11月11日〜
大日本帝国 東京都 首相官邸
アルタラス王国外務省からの要請に対し、緊急会議が開かれていた。
「パーパルディア皇国はこの地域を支配する列強と呼ばれる国家です。現状は外交官を派遣している状態であり、下手に応じて即開戦なんてなれば国民からの突き上げも懸念されます」
「だが同盟国を見捨てるなんてなったら、それこそ国民が現政権から離れていくぞ」
「総理、ここは同盟国への技術提供を強め、各国の軍事力の引き上げを行っては如何でしょうか」
「駄目だ。それだけじゃあの国の数に押されかねんぞ」
「各国の現状は、良くても重巡が完成した程度であり、戦艦や空母の就役にはまだ時間が掛かるぞ」
「ではどうする? このままだとアルタラス王国が陥落する恐れがあるぞ」
「ではいっそ、合同演習を名目に艦隊を派遣。アルタラス島近海を警戒させ、アルタラス王国に対する武力行使が確認でき次第、安保条約に基づく行動に移させると言うのはどうでしょうか」
「なるほど、悪くはないな」
「だが、それで国民が納得するかどうか……」
会議が始まってから、既に一時間が経過した。各々の意見がぶつかり合い、そして遂に、今村は決断を下した。
「アルタラス王国の要請を受理、海軍のみ派遣を決定します。ですが、パーパルディア皇国に派遣している外交官はそのまま交渉を継続させてください。念の為、外交官の護衛に、特戦群の派遣を行います」
「特戦群をですか!?」
特戦群……正式には特殊作戦群と呼ばれる彼らは、大日本帝国軍の誇る特殊部隊であり、任務成功率は驚異の100%を誇る、国内最強の部隊である。
「彼らなら、例え少数でも外交官を護衛できます」
「そうですな……パーパルディア皇国に派遣した外交団に連絡しておこう」
こうして、大日本帝国はアルタラス王国海軍との合同演習を名目に佐世保基地に配備されている第4艦隊を派遣することを決定した。
それから一週間後、第4艦隊はアルタラス王国へ向け出航した。それと同時に、アルタラス王国王女ルミエスが武装商船タルコス号に乗船し、大日本帝国を目指して出航したのだった。