〜中央暦1639年11月30日〜
パーパルディア皇国 皇都エストシラント 皇宮パラディス城 大会議室
「それではこれより、御前会議を始めたいと思います」
重苦しい空気に包まれた中、御前会議が開かれた。
まず始めに口を開いたのは、皇国軍最高司令長官であるアルデだった。
「えぇ……今回のアルタラス王国侵攻に関しましてですが……派遣した皇軍第5艦隊は戦列艦181隻を喪失。ワイバーンロード隊全騎喪失といった被害を受け、撤退いたしました」
アルデが報告を終えた瞬間、皇族であるレミールが怒鳴り声を上げた。
「ふざけるな! 列強たるパーパルディア皇国の、それも皇軍主力が、何故アルタラス王国如きに敗れるのだ!?」
「お、恐れながら……今回の敗北に関しまして、生還した揚陸艦隊、及び竜母艦隊の生存者から、重大な情報を得られました」
「一体何だというのだ!?」
レミールの怒声に萎縮しながらも、アルデは生存者から聞き出した重大な内容を告げた。
「敵は……機械動力式の軍艦を、実戦に投入したそうなのです」
瞬間、大会議室内を静寂が包み込み、暫くして怒声が巻き起こる。
彼らの脳裏には、自国よりも格上である列強であり、唯一の科学文明国の名が浮かび上がった。
「馬鹿な! 何故そんなものが第三文明圏の、それも文明圏外国家であるアルタラス王国が保有しているのだ!?」
「まさか、アルタラス王国はそれ程までに、ムーと接近しているというのか!」
様々な憶測と動揺が広がる。
列強第2位の国力を持つ大国、ムー。
永世中立を謳う彼の国が、何故今になってこのような行動を起こしてきたのか。
会議に参加するメンバーの殆どがその意図を図りかねていると、これまで静かに聞いていたルディアスが手を上げ、大会議室内に静寂が戻る。
「よろしい。アルデよ、アルタラス王国は本当に、機械動力式の軍艦を使用したのだな?」
「はっ! 生還した全員が幻覚魔法に掛けられたとは考え難く、ほぼ間違いはないかと」
「で、あるか……すれば、此度の戦闘は、ムーがアルタラス王国を使った代理戦争、と考えるのが妥当であろうな」
代理戦争……その言葉に、大会議室内に緊張が走る。
列強第2位のムーが支援したアルタラス王国と、列強第3位のパーパルディア皇国の代理戦争となれば、その影響力は計り知れない。
「……レミールよ。ムーの大使を呼び出し、事の真相を確かめよ。これ以上我が国を舐めたようだ態度を取るようであれば、今後の関係についても考えねばならん」
「はっ! 承知しました」
「うむ、次にアルデよ。此度の責任は追求せぬ。しかし、これ以上我が国の威厳を貶める事は許さぬ」
「はっ! 現在、第4、第6、第7艦隊を招集しており、3個艦隊を持って、アルタラス王国を完膚なきまでに叩きます」
アルデの発言に頷くルディアスだったが、ふと何かを思い出すと、その発言に待ったをかけた。
「いや、第7艦隊はアルタラス王国ではなく、別の場所に向かわせよ」
「はっ! 別の場所……と申されますと?」
アルデが不思議そうに聞き返すと、ルディアスは可笑しそうに笑みを浮かべ、告げた。
「我が国のワイバーンロードを落とし、調子に乗っている国が、東にあったな」
その言葉で、アルデはルディアスが何処を指しているのかを理解する。
そして、その意図も想像できたアルデは、頭を下げて了承したことを伝える。
「お任せください。皇軍の威信にかけて、奴らを叩きのめしてご覧に入れます」
「うむ、期待しておるぞ」
その後も会議は進んでいく。
〜中央暦1639年11月30日〜
パーパルディア皇国 皇都エストシラント 第1外務局
「やれやれ、こんな時間に呼び出されるとは、一体何事だろうか」
何時も通りに仕事をこなし、そろそろ帰宅しようとした所で第1外務局から呼び出しを受け、ムー大使のムーゲ他職員は、何事かと訝しんでいた。
そして、第1外務局の職員に案内されて入った部屋の中にいた人物を見て驚く。
「これはこれは、レミール様ではありませんか」
「久しいな、ムーゲ殿。まぁ、座られよ」
レミールに促され、ムーゲが席に着く。
ムーゲが座ったのを確認して、皇国側の進行係が会議の開始を宣言する。
「さて、ムーゲ殿。まずは突然の召集に協力いただき、感謝する」
「いえ、お気になさらず」
始まりは比較的平和に進められていく。
それから暫くして、レミールが本題へと内容を傾ける。
「先日、我がパーパルディア皇国は、アルタラス王国との紛争状態に突入いたしました」
「紛争、ですか……なる程、観戦武官に関する打ち合わせ、ということでしょうか」
ムーゲが自身の推測を口にする。
その発言に、レミールの表情が曇る。
「上辺は良いのです。既に、調べはついています。本当のことを話して貰えませぬか?」
「はぁ……?」
一体何の事だろうか、とムーゲは間の抜けた声を出した。
特に何かを隠しているわけでもなく、レミールの意図が読み取れない。
そんなムーゲの態度に、レミールの苛立ちが強まる。
「アルタラス王国は、機械動力式の軍艦を使用したと、報告が上がっています。そして、機械動力式の軍艦を建造出来るのは貴国のみ……何故だ。何故、アルタラス王国に兵器を輸出した! 何故我々の邪魔をするのだ!!」
ムーゲは今にも襲いかかってきそうなレミールの表情に萎縮すると同時に、パーパルディア皇国の斜め上の推論に戸惑う。
「お、お待ちください! 我が国が軍艦を輸出したという事実はありません! 何かの間違いでは?」
「生存者全員が! 敵は機械動力式の軍艦を使用したと報告しているのだ! ムー以外に、誰がこんな真似を出来るというのだ!!」
「それは……はっ!」
ここでムーゲは先日、本国から送られてきた通信の内容を思い出す。
その内容は、新たに国交を結ぶ事となった転移国家、大日本帝国とグラ・バルカス帝国に関するものであった。
両国はムーを凌駕する程の科学技術を有しており、今後の交流でムーの国力が大きく向上するとまで言われ、更には祖国からの定期便で送られてきた物の中に、大日本帝国製の腕時計等も含まれていた事から、ムーゲは祖国の通信が真実であると結論付けていた。
そして、その大日本帝国が存在するのが、第三文明圏ロデニウス大陸北方であることも思い出した。
「レミール様は、大日本帝国という国をご存知ですか?」
「大日本帝国? 聞いたことのない国だな。お前達はどうだ」
レミールが皇国側の職員に尋ねるが、職員達もレミール同様に首を傾げ、そんな国は知らないと答える。
「そうか。架空の国をでっち上げてまで、我々の邪魔をしようというのだな」
「大日本帝国は存在します。ロデニウス大陸の東に位置する国で、彼らは……」
「もう良い! そなたの話は聞くに耐えん!」
説明を遮り、レミールは席を立つ。
そして、動揺するムーゲを睨みつけながら、レミールは告げる。
「素直に関与を認め、謝罪でもすれば許してやったものを……今日はここまでだ。今後の貴国への対応は、追って通達する!」
呆気に取られるムーゲ達にそう言い放ち、レミールは大会議室を後にする。
この会議を切っ掛けに、ムーとパーパルディア皇国は急激に関係を悪化させていく。
〜中央暦1639年11月30日〜
パーパルディア皇国 皇都エストシラント 皇都パラディス城 王の間
「そうか。ムーは関与を否定したか」
レミールからの報告を受け、ルディアスは険しい表情を浮かべた。
同じ列強同士、良くはないが悪くもない程度には友好的に接してきたつもりであったが、それは間違いであったかと考える。
「ところで、ムー大使の言っていた、大日本帝国なる国の存在は確認できたのか?」
「現在調査中でありますが、おそらく見つからないでしょう」
「で、あるか……」
暫くの沈黙の後、ルディアスは意を決したように口を開く。
「ムーとの関係を改める。ムーに出向いている臣民を本国に帰国させよ。国内のムーの資産を凍結し、此度の邪魔をした事に対する、正式な謝罪と賠償を請求するのだ」
「はっ! 承知しました!」
命令を各所に伝えるべくレミールが退室するのを見届け、残されたルディアスは一人呟いた。
「列強同士の紛争……いや、戦争か……世界が大きく変わるな」