〜中央暦1640年1月28日〜
フェン王国 ゴトク平野 大日本帝国陸軍第12旅団第1戦闘団
ニシノミヤコから首都アマノキまでの間に、ゴトク平野と呼ばれる平野がある。
地質の問題から大地は荒れ果て、草原の荒野となっている。
大日本帝国陸軍第12旅団第1戦闘団は、パーパルディア皇国皇軍陸戦隊と対峙していた。
96式戦車10両を中心とし、1個特科中隊、2個普通科中隊、対戦車ヘリ3機が、作戦の開始を今か今かと待っている。
「後方の特科中隊、展開完了!」
「対戦車ヘリ小隊、離陸を開始しました!」
各部隊から送られてくる報告を整理しながら、第1戦闘団を指揮する天野は腕時計を確認する。
予定通りであれば、海軍第4戦隊と敵艦隊が交戦状態に入った頃だろう。
「まもなく我が方の偽装陣地に、敵軍が到達します!」
天野は一度深呼吸をし、命令を出す。
「作戦を開始する! 特科中隊、射撃を開始せよ!」
「特科中隊、射撃開始! 繰り返す、射撃開始!」
〜中央暦1640年1月28日〜
フェン王国 ゴトク平野 パーパルディア皇国皇軍陸戦隊
大日本帝国陸軍第12旅団第1戦闘団が行動を開始した頃、パーパルディア皇国皇軍陸戦隊は味方の戦列艦が砲撃位置に着くのを待っていた。
眼前に展開されている敵陣地を、ベルトランは艦砲射撃の後に襲撃することを決めたのである。
ベルトランは陸戦策士であるヨウシに尋ねる。
「艦砲射撃の準備は出来たのか?」
「はい。陸戦支援艦隊全艦、準備完了とのことです」
ヨウシの答えを聞いて、ベルトランは頷く。
陸戦支援の魔導戦列艦40隻……航空支援のワイバーンロード12騎……陸戦の要であるリントヴルム30頭……開発に成功した最新鋭の牽引式魔導砲……そして、厳しい訓練と実戦を乗り越えてきた精強な皇軍陸戦隊約3,000人。
これ程の戦力があれば、例え相手がムー……いや、神聖ミリシアル帝国であっても、負ける気はしなかった。
「……ん? 何の音だ?」
ベルトランが足を止める。
瞬間、彼の目の前が大きく爆発し、土煙が巻き上がった。
「うわぁぁッ!!?」
突然の爆発に吹き飛ばされるベルトランだったが、爆発点がそこそこ離れていた為に軽症で済んでいた。
しかし、爆発点の近くにいた兵士達は軒並み消滅し、消滅を免れた兵士達も手足が千切れ飛び、地獄絵図が広がっていた。
現実離れした光景を前に、ベルトランの理解が追いつけない。
「ぐっ………い、一体何が……ッ!!?」
原因を確認しようとした時、再び大地が爆発する。
それも1回に留まらず、何度も爆発してはその場にあった土と、不運にもその場にいた兵士達を吹き飛ばしていく。
「し、将軍……」
「ッ! ヨウシかッ! お前も無事で……ッ!!」
声をかけられ、副官の無事を喜ぼうとしたベルトランだったが、片腕の無くなったヨウシの姿を見て言葉を失う。
「将軍、これは敵の攻撃です……ッ! 直ぐに迎撃準備を!」
「あ、あぁ! その通りだ……誰か! 直掩のワイバーンロード隊と陸戦支援艦隊に魔信を送れ!」
ヨウシの言葉で我に返ったベルトランが指示を飛ばす。
敵の奇襲で陸戦隊に大きな被害が出ているが、それでもまだ精強なワイバーンロードと魔導戦列艦が残っている。
そう考えたベルトランであったが、突如として派手な炸裂音が幾つも鳴り響く。
「なっ!!?」
ベルトランが音のした方……上空を見ると、これから敵の正体を掴みに行こうとしていたワイバーンロード12騎が、バラバラの肉片となって雨のように落ちていく所であった。
更に……。
「将軍! 艦隊がッ!!」
「ッ!!!」
今度は陸戦支援の為に接近していた魔導戦列艦から、火の手が上がった。
最新の対魔弾鉄鋼装甲が施された魔導戦列艦が、いとも簡単に沈められていく。
「〜ッ!!? 将軍! 何かが10体、こちらに向かってきます!!」
「……今度は何だ」
既に精神が疲弊して叫ぶ気力すら残っていないベルトランが、銃兵隊で一番目の良い兵士の指差す方へと視線を向ける。
地平線の先、土埃を上げて筒の付いた異物が10体、陸戦隊に近付くのが見えた。
次の瞬間、10体いる異物の筒が魔導砲のような煙を吐き出した。
大日本帝国陸軍の有する96式戦車の120㎜滑空砲から発射された徹甲榴弾が、全弾それぞれの狙った魔導戦列艦に命中し、装甲を喰い破って撃沈させる。
陸戦支援艦隊もやられてばかりではいられず、各自の判断で艦砲射撃を開始するも、射程圏外にいる96式戦車に届くことはなく、大地を耕すに終わる。
後方の射撃陣地からも96式自走175㎜榴弾砲の砲撃が行われ、僅か数分の内に陸戦支援艦隊は全滅した。
更に、陸戦隊の後方に回り込んだ10式対戦車攻撃ヘリ3機が攻撃に加わり、陸戦隊を中央へと押し込んでいく。
リントヴルム隊、魔導砲部隊が全滅した上に大多数の皇軍兵士を喪失し、頼みのワイバーンロード隊と陸戦支援艦隊は全滅。
これにより、ベルトランの戦意は完全に砕かれる事となった。
「降伏だ……降伏の合図を出せ!」
兵士が隊旗を反対に付け替えて、左旋回に振り始めた。
これは第三文明圏での、降伏を示す合図であった。
……だが、彼等は不幸であった。
第三文明圏での降伏の合図を大規模魔法発動の準備と解釈した天野の指示で、一斉に攻撃が再開されたのだ。
120㎜榴弾が、175㎜榴弾が、対戦車ロケット弾 が、残り少ない陸戦隊へと降り注ぐ。
「そ、そんな……降伏したのに!! くそッ! 蛮族共がぁぁぁッ!!!」
怨嗟の叫びを上げるベルトランも、96式戦車の放った120㎜榴弾の直撃を受け、四肢を引き裂かれて絶命した。
パーパルディア皇国皇軍陸戦隊は、フェン王国ゴトク平野にて、大日本帝国陸軍第12旅団第1戦闘団との戦闘に敗れ、全滅した。
〜中央暦1640年1月28日〜
フェン王国 ニシノミヤコ 大日本帝国陸軍第12旅団第2戦闘団
第1戦闘団がパーパルディア皇国皇軍陸戦隊を殲滅したのと同時刻、大日本帝国陸軍第12旅団第2戦闘団がニシノミヤコへと突入していた。
フェン王国近衛武士団100名を同行させた混成部隊が、ニシノミヤコ守備隊に襲いかかる。
「こちら、ニシノミヤコ守備隊! 陸戦隊、応答せよ!」
ニシノミヤコ守備隊の皇軍兵士が魔信に呼びかけるが、反応がない。
そうしている間にも、第2戦闘団所属の普通科隊員が守備隊の拠点にする施設を制圧していく。
『こちら02、西門クリア!』
『こちら05、監視塔の制圧、完了しました! これより、03の支援に回ります!』
無線で流れる報告を聞きながら、第1小隊(01)はとある建物の前へとやって来た。
第1小隊10名に加え、近衛武士3名の混成部隊は、建物の裏手に回り込むと互いを見合って頷く。
「情報では、ここに囚われた民間人が居るらしい。早急に敵を始末し、救出するぞ」
「了ッ」
「よし、行くぞッ」
小隊長の野方の号令と同時に、全員が即座に動き出した。
バリケードで塞がれた扉を蹴り開け、近衛武士を先頭に突入していく。
1階の制圧を完了し、2階へと続く階段を登ったところで、敵のマスケット銃による射撃に見舞われた。
「ぐわッ!」
「頭を下げろ! 負傷者を下へ!」
右腕を撃たれた近衛武士を下げていく中、野方はそっと頭を上げる。
薄暗くてよく見えないが、敵は弾込め作業に入っているようで、敵の焦る声が聞こえてくる。
「隊長、人質の姿は確認できません。おそらく、人質は奥の部屋かと」
「そうか……よし、フラッシュだ。全員目と耳を塞げ……ッ!」
そう言って野方は閃光手榴弾のピンを抜き、敵陣目掛けて投げ入れた。
「ば、爆弾だ!」
転がってきたそれを見た皇軍兵士が叫び、距離を取ろうとするが、それよりも先に閃光手榴弾が炸裂する。
薄暗さに目を慣らしていた皇軍兵士達は、一度に視力と聴力を奪われたことで混乱し、隊列が乱れてしまう。
「今だ、総員吶喊ッ!!」
「了解!! かかれぇぇぇ!!!」
その隙きを逃さずに野方が吶喊を命じると、第1小隊は待ってましたと言わんばかりの雄叫びを上げ、2階へと駆け上がっていく。
小隊員が銃先に装着した銃剣で皇軍兵士を突き刺し、近衛武士が素早い剣捌きで首を斬り落とす。
皇軍兵士は装填作業中であったこともあり反応が遅れてしまい、僅か数分で第1小隊によって制圧された。
「隊長! おそらくこの扉の先に民間人が!」
「よし、本部に応援を要請しろ。川崎とキシカさんは付いてきてくれ。他は周囲の警戒を怠るな」
「「了解ッ!」」
女性の小隊員と近衛武士を連れ、野方は囚われた民間人の居る部屋へと入っていく。
そして、部屋の中の惨状に目を疑った。
「こ、こいつは……」
「酷い……」
「これが本当に、人間のすることなのか?」
部屋の中には十数名もの女性の遺体が、折り重なるように一箇所に積み上げれていた。
衣類を剥かれ、事後処理も行われていないであろう被害者達の惨状に、川崎が思わず口元を抑え膝を折る。
「うぐっ……ッ」
「……キシカさん、すまないが川崎を外に連れて行ってあげてくれ。ここは私一人で十分だ」
「は、はい……」
キシカに支えられて部屋を出ていく川崎を見送ると、野方は近くの壁に拳を叩きつけた。
叩きつけた拳から血が流れ落ちるのも気にせずに唇を噛み締め、憎悪に満ちた眼を皇軍兵士の亡骸に向ける。
「パーパルディア……この報い、必ず受けてもらうぞ……ッ!!」
野方は被害者達の遺体に手を合わせ、部下に指示を出そうと振り返る。
その時だった。
「…………」
「ッ!?」
微かに聞こえてきた声とも言えぬうめき声に、野方は即座に振り返る。
視線の先には被害者達の遺体……その中の一人が、僅かに身を震わせたのだ。
「ッ! おい! 聞こえるか!?」
慌てて駆け寄った野方は、慎重に女性の身体を抱き起こす。
女性はうっすらと目を開けるも、すぐにまた目を閉じてしまう。
「お、おい! しっかりしろ! もう大丈夫だ! もう……大丈夫だから……」
気付けば野方は、涙を流しながら女性の身体を抱きしめていた。
生存者がいた……この絶望的な状況下の中、それは野方のみならず多くの将兵に希望を与えることになる。
数時間後、ニシノミヤコ守備隊が全滅したことで、ニシノミヤコ攻防戦は大日本帝国・フェン王国連合軍の勝利に終わった。
そして、野方ら第1小隊の保護した女性、セシリア・ローランドや他7名もの被害者達は、精密検査の為に大日本帝国本土の病院へと搬送されるのだった。
戦争はまだ、始まったばかりである。