〜中央暦1640年1月28日〜
アルタラス王国沖合 大日本帝国海軍第4艦隊
フェン王国沖合で海戦が始まった頃、アルタラス王国北方海域でもまた、海戦が始まろうとしていた。
本国から派遣された補給艦隊によって補給を完了させた第4艦隊は、行動を開始する。
「〈白龍〉航空隊は直ちに発艦ッ! 敵竜母艦隊を攻撃せよッ!!」
高嶋は命令を飛ばしながら、パーパルディア艦隊のいる方角を睨みつける。
既に戦争状態へと突入した敵国艦隊相手に容赦はせず、先制攻撃として航空隊による敵航空戦力の撃滅を行おうとしていた。
〈白龍〉に搭載された99式艦上戦闘攻撃機〈陣風〉15機が、艦隊の上空で編隊を組んでパーパルディア艦隊へと向かって行く。
「司令。どうやらあちらも、攻撃隊を送り出すようです」
荻原の視線の先、大日本帝国から見れば旧式だが、この世界の基準で見れば列強に数えられてもおかしくない艦艇群の姿があった。
そして、その中の空母1隻から、レシプロ式の航空機が次々に発艦していく。
「あれって、確か正規の艦隊じゃないわよね」
「はい。うちとの技術交流で来ていた、グラ・バルカス帝国の実験艦隊です」
「はぁ……あの国もよくやるわ」
そんな話をしながら、高嶋達はグラ・バルカス艦隊を眺めている。
〘グラ・バルカス帝国海軍東遣実験艦隊〙
ヘルクレス級戦艦:〈ヘルクレス〉※旗艦
ペガスス級航空母艦:〈サダルバリ〉
タウルス級重巡洋艦:〈エレクトラ〉
レオ級巡洋艦:4隻
エクレウス級駆逐艦:8隻
「お手並み拝見、といきましょうか」
最後にそう呟き、高嶋は艦隊指示に戻っていく。
〜中央暦1640年1月28日〜
アルタラス王国北方海域 パーパルディア皇国海軍第5艦隊
喪失した艦艇の補充を終えた第5艦隊と、第6艦隊の連合艦隊は、アルタラス王国を目指して進軍していた。
艦隊司令長官のノドルスは、隊列を組んで進む艦隊を見て、不安げな表情を浮かべる。
「果たして、2個艦隊で勝てるだろうか」
ノドルスの呟きに、副官が答える。
「ご安心ください。今回の戦力は、先の事変とは比べ物になりません。例え、ムーの機械動力船が相手であったとしても、この数をもってすれば、鎧袖一触であります!」
「だと良いのだがな……ッ!?」
副官の言葉に懐疑的なノドルスであったが、突如として鳴り響く警報に意識を切り替える。
「何事だ!!」
「ぜ、前方より槍状の何かが突っ込んできます!」
見張り員の指差す方へ視線を向けると、確かに槍状の物体が、信じられない速度でこちらに向かっていた。
ノドルスは直ぐに指示を飛ばす。
「直掩のワイバーンロードに迎撃させろ!! 竜母艦隊は直ちに全ワイバーンロードを発艦! 急げッ!!」
命令を受けて、直掩に上がっていたワイバーンロード100騎が迎撃に向かう。
しかし、ワイバーンロードが導力火炎弾の発射体制に入る前に、槍状の物体は直掩をすり抜けていってしまった。
『な、なんて速さだッ!!』
『こちら直掩隊! 迎撃間に合わず、突破されたッ!!』
「何たることだッ!!」
パーパルディア皇国のワイバーンロードが追いつけずに突破された事実に、ノドルスは近くの壁を殴りつけた。
槍状の物体は真っ直ぐ竜母艦隊へと向かい、衝突する。
「竜母〈アガノス〉轟沈! あぁ……〈マストロイア〉が沈みます!」
続けざまに竜母撃沈の報告が上がり、ノドルスら艦隊司令部に大きな衝撃を与えた。
「まさか……竜母のみを狙って攻撃しているのか!?」
「そんなッ!? あり得ない! 蛮族如きが、そのような超技術を持つなど……あッ!!」
司令部が混乱している間に、最後の竜母が沈んでいく。
これで、パーパルディア艦隊の航空戦力は直掩の100騎のみとなってしまった。
「ノドルス司令! 残存するワイバーンロード全騎を、攻撃の来た方へ差し向けましょう! そちらに必ず、敵がいる筈です!」
「う、うむ……確かにその通りだ。直掩隊に通達「敵騎来襲ーッ!!」ッ!?」
ワイバーンロードを差し向けようとした時、見張り員が空を指差しながら叫んだ。
ノドルス達も空を見上げると、そこには70機近い飛行機械が、こちらに迫っているのが見える。
その内、18機の飛行機械が直掩のワイバーンロードに向かっていく。
『な、何だコイツらは!?』
『速い!! ワイバーンロードが追いつけないぞ!』
『た、助けてくれぇぇぇーッ!!!』
これまで文明圏外国家相手にその実力を見せつけていたワイバーンロードが、僅か18機の飛行機械を前に、劣勢となっていく。
信じられない光景にノドルスは唖然とするが、まだ敵が残っている事を思い出す。
残りの50機近い飛行機械が、艦隊に向かって降下してくる。
「た、対空戦闘! 急げーッ!!!」
すぐさま艦隊に対空射撃を行わせようと叫ぶが、艦隊の動きは遅い。
そもそも、パーパルディア皇国の艦艇には、マトモな対空兵器が搭載されていない。
これは、ワイバーンロードが上空を守る限り、艦隊の脅威にならないだろうという、パーパルディア皇国海軍の慢心であった。
水兵がマスケット銃を引っ張り出して射撃を行うも、高速で動き回る飛行機械相手は掠りすらしない。
やがて、1機の飛行機械の下に取り付けられた爆弾が、魔導戦列艦に向かって投下される。
爆撃を受けた魔導戦列艦は、対魔弾鉄鋼式装甲を食い破られ、艦内から爆発の炎を上げ、沈んでいく。
「戦列艦〈コンナ〉〈ハンズジャー〉轟沈!! せ、戦列艦〈ソンナン〉〈インキッチ〉も轟沈!!」
次々に撃沈報告がされる中、まるで戦いにすらなっていない現状に、ノドルスは酷い目眩を感じる。
これは現実なのか……本当に、敵はムーなのか……そればかりが脳裏を過る。
「敵飛行機械、引いていきます!」
ようやく攻撃が終わり、敵飛行機械が撤退していく。
だが、こちらの被害は甚大であった。
竜母艦隊全滅……竜騎士団全滅……戦列艦隊4分の1が轟沈……。
艦隊に、これ以上の継戦能力は無かった。
「撤退だ! 全艦撤退せよ!! 急げ!!」
「司令! 前方に敵艦隊ですッ!!」
命令を伝えて直ぐに、見張り員から最悪の報告が入る。
水平線上には、黒煙を上げならがこちらへ向かってくる艦隊が見えた。
機械動力船相手では、風神の涙でしか満足な速度を得られないパーパルディア艦隊は逃げられない。
ノドルスは決意する。
「戦列艦隊は敵艦隊に向かって前進ッ!! 揚陸艦隊の撤退を支援する!!」
ノドルスは戦列艦隊を犠牲にして、揚陸艦隊を逃がすことを決断した。
可能であれば、敵に一矢報いる事も視野に入れ、指示を出す。
「風神の涙、最大出力!! 敵艦隊に突撃せよ!!」
風神の涙で起こされる風を帆いっぱいに受け、パーパルディア艦隊戦列艦隊は突撃を開始する。
〜中央暦1640年1月28日〜
アルタラス王国北方海域 グラ・バルカス帝国海軍実験艦隊 旗艦〈ヘルクレス〉
「この程度の敵に、帝国の臣民が……」
戦艦〈ヘルクレス〉に乗艦する艦隊司令のノレスは、眼前に展開するパーパルディア艦隊の戦列艦を見て、小さく呟いた。
彼は本国の懲罰艦隊が到着するまでの間、大日本帝国と共同でパーパルディア艦隊を撃退せよと命じられていた。
既にパーパルディア皇国がどのような蛮行を行ったかは知らされており、艦隊の士気は高い。
正規の艦隊ではないが、大日本帝国から供与された新装備の存在が、彼等を後押しする。
「断じて許さん……ッ対艦戦闘! 主砲、撃ち方始めぇ!!」
〈ヘルクレス〉の41㎝砲4基8門が、パーパルディア艦隊に向けて火を吹く。
8発の41㎝砲弾はパーパルディア艦隊上空に達すると爆発し、無数の子弾となって降り注いた。
瞬く間に数十隻の戦列艦が爆発し、深海へと沈んでいく。
「なる程、対空砲弾の応用か……大日本帝国も、中々面白いことを考えたものだ」
大日本帝国製対地広域砲弾。
装甲目標にこそ効果は薄いが、非装甲目標に対しては絶大な効果を発揮するこの砲弾は、装甲化されているとはいえ、戦列艦を粉砕するには十分な威力を持っていた。
〈ヘルクレス〉に続き、大日本帝国海軍の航空戦艦〈扶桑〉も砲撃を開始する。
戦艦とはいえ、たった2隻の艦艇による砲撃で、パーパルディア艦隊は3分の1を喪失した。
「敵艦隊、撤退の動きを見せています!」
「駆逐艦隊は敵艦隊の退路を塞げ! 1隻たりとも逃すな!!」
ノレスは敵艦隊の殲滅を指示する。
それは大日本帝国側も同じなのか、〈扶桑〉の後部飛行甲板から複数のヘリコプターが発艦し、後方の敵艦隊へと回り込んでは搭載されている機関砲やロケット弾を用いて、殲滅戦へと移行している。
「勝ったな……巡洋艦隊は漂流者の救助に当たれ。冷えていることだろう、温かいスープも振る舞うように」
「宜しいのですか?」
「あぁ。我々は奴等とは違って、文明的だからな」
その後、パーパルディア皇国海軍第5、第6艦隊は日グ連合艦隊と交戦し、撤退に成功した僅かな揚陸艦を除き、全滅した。
後に、アルタラス島沖海戦と呼ばれたこの海戦は、初の転移国家同士の合同作戦として、歴史に刻まれることとなった。