〜中央暦1639年4月25日〜
ロデニウス大陸近海 日鍬連合艦隊
ロウリア王国艦隊約4,400隻の出港の報告を受け、これを撃退すべく、大日本帝国海軍第31任務艦隊は、クワ・トイネ公国海軍第と艦隊と共に航行していた。
大日本帝国国防海軍第31任務艦隊
伊勢型航空戦艦:〈
雲龍型航空母艦:〈
村雨型ミサイル巡洋艦:〈
磯風型ミサイル駆逐艦:〈
クワ・トイネ公国海軍第4艦隊
カーマ級装甲艦:〈カーマ〉※旗艦
ブアラ級軽装甲艦:〈アラタ〉〈クワタ〉
ラー級駆逐艦:〈ラー〉〈ユショウ〉〈ネヨズマー〉〈プケッチャ〉
以上両艦隊合わせた戦闘艦15隻、その他補助艦艇数隻の艦隊は、約16ktの速度でロウリア王国艦隊のいる海域へと向かっていた。
「岬艦長、旗艦〈伊勢〉より入電。本艦は先行して敵艦隊に降伏勧告を行い、可能であればそのまま引き換えさせよ。不可能であれば威嚇射撃を行い、それでも尚進行を続けるのであれば、主力到着まで敵を可能な限り押し留めよ……とのことです」
女性士官の報告を受け、艦長の
「了解! 機関出力上げ! これより、本艦は先行し敵艦隊と接触する!」
明乃の号令を受け、〈晴風〉は速力44ktまで上昇し、艦隊から離れていく。その様子を確認すると、明乃は〈晴風〉に乗艦するゲストへと向き直った。
「大丈夫ですか? ブルーアイさん」
「は、はい。なんとか……」
クワ・トイネ公国海軍から観戦武官として派遣されたブルーアイ。本来であれば前衛に出ることはない〈雲龍〉か、或いは重装甲、長射程を持つ〈伊勢〉のどちらかに乗艦する予定だったのだが、本人たっての希望により、先行する〈晴風〉に乗艦することとなったのだ。
もっとも、これはブルーアイの本心ではなく、クワ・トイネ公国政府からの要請で敵に近づく〈晴風〉に乗艦したに過ぎないのだが。
「ははっ……しかし速いですねぇ」
「はい! 本艦を含め、磯風型は新型のガスタービンエンジンを採用しており、前級の秋月型を凌駕する最高速54ktを記録しています! 勿論、性能面でも秋月型を大きく上回っており、この世界の艦艇では何百何千、或いは何万と来ようと負けません!」
自慢げに胸を張る明乃だが、ブルーアイは今の説明で放心状態となっていた。
(さ、最高速54kt!? そんなのパーパルディア……いや、ムーやミリシアルでも不可能だぞ!? 大日本帝国の軍艦は化け物揃いなのか!?)
ブルーアイの考えは、あながち間違ってはいなかった。
旧世界の大戦時から現役で運用されるも、依然として諸外国への影響力が高い伊勢型航空戦艦。
原子力航空母艦程ではないが、決して少なくない数の艦載機を搭載でき、主に対潜能力に特化した雲龍型航空母艦。
優秀な対地攻撃能力を備え、安定した艦隊防空能力を持つ村雨型ミサイル巡洋艦。
従来の艦艇を越えた54ktの速力を誇り、最新鋭の天照武器システムを搭載した磯風型ミサイル駆逐艦。
その他にも原子力空母や伊勢型を越えた戦艦など、多数の艦艇が存在するが……それを知らないブルーアイはまだ幸せなのだろう。
〜中央暦1639年4月25日〜
ロデニウス大陸近海 ロウリア王国東方征伐艦隊
「いい景色だ。美しい」
美しい大海原を進む、4,400隻もの大艦隊。
その大艦隊を指揮する男、海将シャークンはその光景を眺め、呟いた。
約6年もの準備期間、列強の支援を受けてようやく完成した大艦隊。
従来の軍船を始め、魔導砲を搭載した戦列艦と呼ばれる軍船、ワイバーンの運用を目的とした竜母と呼ばれる軍船が、この艦隊には含まれている。
とはいえ、未だ従来の軍船が主力であり、戦列艦や竜母の数は少ない。
だが、文明圏外国家相手なら過剰すぎる戦力である。
「クワ・トイネ公国とクイラ王国に、この艦隊は止められまい」
シャークンの心中にある、確かな自信。彼は東の海を見据え……そして、何かを発見した。
ワイバーンではないその物体は、羽ばたくことなく此方に近付いてきた。その速度はワイバーンでは考えられない程に速い。
『こちらは大日本帝国海軍です! あなた達はクワ・トイネ公国の領海へと侵入しています! 速やかに転進し、自国に引き返しなさい! 繰り返します!…』
その物体から女の声が響き渡る。女の声は自らを大日本帝国と名乗った。
大日本帝国……数ヶ月前に接触してきた新興国家。
外務局の話では、ワイバーンの生息しない未開の蛮族であり、例え此度の戦争に参戦してきたところで、脅威にならないというのが軍部の見解だった。
ここでシャークンは先日、ローラ第1王女と面会した時のことを思いだした。
曰く、彼の国は中央世界を越えた技術力、経済力、軍事力を有していると。
曰く、彼の国と戦争になれば、我が国に勝ち目はないと。
曰く、彼の国に降伏する際は、白旗を掲げよと。
何故これ程の情報を持っていたのかはわからないが、上空を飛ぶ無機質な物体を見る限り、本当にそうなのではと錯覚しそうになる。
すると、付近を航行していた数隻の戦列艦から幾つもの砲弾が打ち上げられた。しかし砲弾が物体に届くことはなく、重力にしたがって落下し、その下にいた軍船に直撃して大きな穴を空け、運の悪い軍船はその穴から浸水してそのまま沈んでいくのもあった。
「な、何をやっているのだ!」
目の前で起きた惨劇に頭を抱えていると、物体は東の方向へと飛び去っていった。
あれはいったい何だったのか…その答えが出る前に、新たな情報が入った。
「シャークン海将! 前方に小さい島が見えます!」
「島だと? この辺りに島はない筈……」
見張りの示す方向へ視線を向けると、確かに島らしきものが……いや、あれは船だ!
『最後の警告です! 速やかに引き返して!』
先程と同じ女の声が、その船から聞こえてきた。まさか先の物体はこの船から飛んできたのだろうか。
その時、敵船のもっとも近くにいた1隻の40門級戦列艦が取り舵をとり……砲撃を開始した。
片面20門から発射された20発の砲弾は、警告の為に近付いてきた〈晴風〉付近に着弾した。
この時、水柱によって見えなかったが、その内の1発が〈晴風〉の側面に命中していた。しかし、それによるダメージは装甲が微妙にへこむ程度でしかなかった。
「だ、誰が攻撃命令を出した! 砲撃止め! 砲撃止め!!」
シャークンは必死に砲撃を止めさせるよう叫ぶが、既に〈晴風〉艦内では砲撃に対する答えが出ていた。
「敵の攻撃を受けた! 敵に撤退の意思なしと見ゆ! これより攻撃を開始する! 主砲発射用意!」
明乃の指示を受け、〈晴風〉の前部甲板に設置された65口径12.7㎝単装砲が動きだし、敵艦へと向けられた。
「目標を捕捉! 照準よし!」
「主砲、攻撃始め!」
明乃の号令に合わせ、主砲から砲弾が発射された。
放たれた砲弾は寸分違わず目標の戦列艦へと向かっていき、そして直撃。
ロウリア王国の使う球形砲弾とは異なり、大日本帝国の砲弾はしっかり爆発する。結果、直撃した戦列艦……皮肉にも一番最初に攻撃を仕掛けた40門級戦列艦……は大きな爆発と共に、僅かな時間で海底へと沈んでいった。
「敵艦爆沈!」
「攻撃一時中断! 敵艦隊の動きを見る!」
いっそこれで怖じ気づいて引き返してくれたら……そんな淡い希望を持った明乃だが、現実は非情であった。
「敵艦隊、依然として此方に接近中!」
「……わかった……スゥ……攻撃再開!!」
再度攻撃の号令が下り、砲撃を開始する。
〈晴風〉の主砲が砲撃を行う度に、戦列艦又は軍船が大爆発し、中には火薬庫に砲弾が命中し、木っ端微塵に吹き飛んでいく。
「敵艦隊後方より、航空目標接近! その数100!」
「大陸方面からも敵航空目標接近! 数は250! 増援のワイバーンと思われます!」
「対空戦闘! VLS解放! 優先攻撃目標、敵艦隊上空のワイバーン! 6式対空誘導弾、攻撃始め!!」
〈晴風〉の前後甲板に設置されたVLSから、同時に8発の6式艦対空誘導弾(史実のSM-6に相当)が発射される。
発射されたミサイルは敵艦隊上空を通過、こちらに接近するワイバーンに向け飛翔し、命中する。
「敵ワイバーン8機撃墜!」
「攻撃の手を緩めないで! 主砲、短SAM攻撃用意!」
音速を越えたミサイルを迎撃するために開発された6式艦対空誘導弾の前に、時速230㎞前後のワイバーンはいい的でしかない。
「後方よりミサイル接近! これは……友軍の6式です!」
〈晴風〉の上空を味方の6式対空誘導弾が通過し、敵ワイバーンへ向け飛翔していく。
「敵艦隊方面から来た敵ワイバーンの全滅を確認! 敵ワイバーン残り200!」
「主砲、短SAM、攻撃始め!」
今度は主砲が、短SAMが攻撃を開始した。
VLSから05式短距離誘導弾が発射され、マッハ4.5の速さでワイバーンに突き刺さる。
主砲からは毎分25発の速さで砲弾が撃ち出され、1騎1騎確実にワイバーンを撃ち落としていく。
そして、最後のワイバーンが落とされた。
「敵ワイバーン全機撃墜!」
「対空戦闘用具納め! 続いて、対水上戦闘用意!」
喜ぶ暇もなく、次の行動に移る。その状況を眺めるしかできないブルーアイは、その光景に圧倒されていた。
350騎ものワイバーンを一方的に蹴散らし、敵の軍艦の射程外から決して外れることのない、正確無比なアウトレンジ砲撃。
(これが、彼らの戦争……)
自身の常識が、音をたてて崩れ落ちていくのを、ブルーアイは確信した。すると、遠くから大きな爆発音が聞こえてきた。その音は先程から聞こえている〈晴風〉の発砲音よりも大きい。
「旗艦〈伊勢〉が砲撃を開始しました」
「やっぱ戦艦はひと味違うね~」
艦橋の外を見ている明乃の視線を追いかけると、その先にはこの艦隊の旗艦であり、戦後となった今でも幾度の改修を受け現役で活躍する戦艦、〈伊勢〉の姿があった。
(戦艦、か……)
その後、合流した日鍬連合艦隊による一方的な攻撃を受け、ロウリア王国東方征伐艦隊は降伏。4,400隻もの大艦隊は約200隻を残し壊滅。
海将シャークンの乗船していた戦列艦は、〈晴風〉の砲撃を受け沈没、シャークンは〈カーマ〉によって救助された。
後に、『ロデニウス沖海戦』と呼ばれる海戦が幕を閉じた。