〜中央暦1639年7月26日〜
クワ・トイネ公国 城塞都市エジェイ 西部方面師団及び西部方面騎士団
過日、ロウリア王国と緊張がまだ高まりつつあった頃。クワ・トイネ公国はロウリア王国との全面衝突に備え、国境から首都までの侵攻ルートを食い止めるべく、要所として城塞都市エジェイを設置した。
城塞都市エジェイはクワ・トイネ公国の絶対防衛圏とされており、クワ・トイネ公国陸軍の主力である西部方面師団が置かれ、その戦力は公国軍全体の5分の3にもなる戦力であり、この場所の重要性も理解できるだろう。
そんな西部方面師団も、大日本帝国との交流により、近代化が進められていた。
新たに配備されるようになった三七式自動小銃や三五式軽機関銃と呼ばれる銃火器を装備した銃装歩兵隊が設立され、来年には既存の歩兵は全て銃装歩兵となる予定だ。
その他にも、大日本帝国から輸入した三八式機動75㎜野砲を装備した機動砲兵団や、五七式戦車を装備した戦車部隊が設立され、城塞都市エジェイの戦力は以前とは比べ物にならないほど高くなっていた。
現在の城塞都市エジェイの戦力は以下の通りである。
対地支援用ワイバーン50騎、騎兵1,800、銃装騎兵1,200、弓兵5,500、銃装歩兵3,000、歩兵18,000、機動砲兵団600、戦車部隊200、高射部隊200。
これに西部方面騎士団3,500が加わり、合計33,500人ものクワ・トイネ公国陸軍人が、ここ城塞都市エジェイに集結した。
城塞都市エジェイの作戦司令本部では、西部方面師団の将軍ノウと、西部方面騎士団団長のモイジ以下主要幹部が集まり、会議を開いていた。
「……以上が、我々の把握している全てです」
モイジが己の知る全てを話し終えると、ノウは小さく唸った。
「敵の数は数万を越え、我が方は日本軍を含め1万と約3,000……少し前であれば、負け戦にしかならなかっただろうな」
ノウの呟きに、モイジ達は同意するように頷いた。特にモイジ達西部方面騎士団は、日本軍がいなければ皆殺しにされていたかもしれないのだ。
「敵の動きは?」
「はっ!敵はここより5㎞程離れた地点に陣地を構築しており、数日前より頻繁に敵の偵察騎が確認されております。恐らくは……」
「衝突するのも時間の問題か……」
モイジの呟きに、司令部内が一瞬静まり返るも、すぐにその静寂をノウが振り払った。
「案ずるな、我々には新兵器が……心強い味方がおるのだぞ」
ノウの言葉を聞いたモイジを含めた幹部達は、確かにその通りだと納得する。
その時、司令部にエルフの男性が入室してきた。
「失礼します。日本軍の大内田将軍がお見えになりました」
「おぉ、そうか。通してくれ」
エルフの男性が部屋を出てしばらくすると、扉が開かれ1人の男が入室してきた。
「大日本帝国陸軍第7師団、師団長の大内田です」
緑の斑模様の服を着た男……大内田陸将を初めて見た幹部が戸惑う中、モイジとノウは大内田へと歩み寄っていく。
「大内田殿! 此度の増援、誠に感謝いたします」
「頭をあげてください、ノウ将軍。友人の危機に駆けつけるのは当然です」
「おぉ! 我らを友と呼んでくださるか!」
目に涙を浮かべるノウに代わり、モイジが大内田に尋ねる。
「本日はどのようなご用件でしょうか」
「実は先程、我が軍の偵察機が敵の出陣を確認しましたので、その報告と相談に参りました」
「なんと! もう出てきたのか!?」
ロウリア王国の早い動きにクワ・トイネ側の幹部たちはざわつき出した。時間の問題かと構えていたが、まさかその時がこんなすぐに打って出るとは思っていなかったのだ。
「して、大内田殿はどのようにお考えですかな?」
「我々は野戦特科の長距離砲撃を持って敵の大部分を殲滅し、生き残りは機甲科、機動科、普通科による追撃戦を行ます。そして、その勢いに乗じてギムの町を奪還します」
大内田の作戦内容を聞い幹部の1人が手を挙げた。
「我々は何をすればよろしいのでしょうか?」
幹部の質問に、大内田は少しだけ考える素振りを見せてから答えた。
「……これはまだ貴国政府に通達されていないのですが……貴軍には部隊を編成していただき、ギムの町奪還後に我が軍と共同でロウリア王国の首都への侵攻を要請する予定です」
「ろ、ロウリア王国……それも首都への侵攻!?」
これにはさすがにノウもモイジも開いた口が塞がらなかった。ロウリア王国への逆侵攻など、考えたこともなかったのだ。
「う、うまくいくのですか?」
「はい。我々はそれを実現させるに十分な戦力を保有しています。勿論、あなた方もそれを実行するだけの戦力は、既に保有していますよ」
「わ、我々も……」
その後、大内田より詳しい作戦内容を説明された彼らは、すぐに準備を始めるのだった。
その時がくる前に……。
〜中央暦1639年7月26日〜
クワ・トイネ公国 在鍬日本軍エジェイ駐屯地
「これ……持ってきてたんだ……」
ある隊員が呟く。
彼の視線の先には、本土防衛用に製造され、本土から出ることは無いと思われていた兵器か鎮座していた。
『15式自走155㎜電磁投射砲』。
横須賀統合軍事工場が開発したこの自走砲は、最大射程160㎞もの長射程を誇り、一発の威力は通常の175㎜榴弾約80発分にも昇るという。
反面、補給や整備性、運用面の観点から、この自走砲の生産数は25門までとされ、本土防衛用として国内でのみの運用が行われる筈だった。
しかし、今回の敵は総合的に見ても負ける筈がなく、帝国政府はこの戦場で15式自走砲の試験運用を決定したのだ。
15式自走砲5門の他、96式自走175㎜榴弾砲15門は砲門を西に向け、既に射撃準備を完了していた。
駐屯地の正門付近では、戦車大隊所属の96式戦車がエンジンを吹かして、出撃の時を今か今かと待ち望んでいた。
そして、戦車の隣に立つ大きな影。これこそ、国防陸軍に新設された兵科、機動科の保有する人型汎用兵器『13式機動甲冑』通称〈
本来車両では通れない悪路や山岳等での運用を主としており、今回のように未知の環境での運用が行われている。
その〈黒鉄〉も現在、すでに殆どの機体が稼働を完了させており、いつでも出撃できるよう武器の最終点検を行っていた。
そんな中、1台の戦車に向かう1人の女性の姿があった。その女性は戦車の側まで来ると、車上で最終点検を行っていた女性に話しかけた。
「準備の方は大丈夫か、みほ」
「あっ、お姉ちゃん」
みほと呼ばれた女性は、戦車から飛び降り姉の下へと駆け寄った。その表情はどこか嬉しそうでもある。
「もう出撃準備は完了したよ。後は命令を待つだけ……どうかしたの?」
「そうか……いや、一応最後にみほの顔を見ておこうかと思ってな」
その後も姉妹の仲睦まじい会話が行われた、そして……。
「西住隊長、間もなく作戦開始時間になります」
「もうそんな時間か……みほ、くれぐれむも無茶はしないようにな」
「大丈夫だよ。私達が無茶する前に、特科の人達が殆ど終わらせてくれると思うから」
2人は最後に軽く抱き合い、姉の方……西住まほは部下を連れて本部のある建物へと向かっていった。
それからすぐのことだった。
『全門砲撃開始!! 繰り返す、砲撃開始!!』
〜中央暦1639年7月26日〜
クワ・トイネ公国 城塞都市エジェイ近郊 ロウリア王国軍東方征伐軍東部諸侯団
ロウリア王国東部諸侯団クワ・トイネ先遣隊約2万の兵は、特に敵勢力と遭遇することなく城塞都市エジェイの西側約5㎞の位置まで進軍していた。ギムの町ではいい思いが出来なかった兵士達は、エジェイでこそはと疲れを乗り越え、城壁の見える距離まで近づいていた……その時。
シュイーン……。
突然興奮していた頭が冴える。波のない湖に一滴の水滴が落ち、波紋がすぅっと広がっていくかのような不思議な感覚が、東部諸侯団を指揮するジューンフィルアの脳に痺れをもたらした。
(これは……死の予感!!)
ジューンフィルアが進軍を停止させようとした次の瞬間、隊列の中央が爆発し、土煙が上がる。その威力は凄まじく、爆裂魔法の使い手が100人いたとしても、決してこれ程の威力は出せないであろう。
しかも、その爆発は1度だけではなく、その後も立て続けに何度も……何度も爆発が起こり、その場の土とそこにいた兵士達を吹き飛ばしていく。
「な、何が……何が起きている!!?」
現実離れしたその光景を前にジューンフィルアは叫ぶも、答える者は誰もいない。その間にも爆発は続く。
今まで共に戦ってきた戦友、歴戦の猛者、優秀な将軍、家族ぐるみの付き合いのあった上級騎士、共に強くなるために汗を流した仲間達……。
すべてが……虚しくなるほど、あっさりと死んでいく。いつの間にか爆発は止んでいたが、ジューンフィルアはそれに気付くことなく、その場に膝をついて呆然としていた。
暫くすると、東から低い唸りを上げて、角ばった体に角を生やしたものや、人とは思えないほどに大きな鋼鉄の巨人がこちらにやって来るのが見えた。
「あんなもの……勝てるわけ無いではないか……」
ふとジューンフィルアは周囲を見渡す。目に見える範囲に動く影は殆どなく、傷付いた兵士の呻き声が微かに聞こえる程度だった。
「……これまでか……降伏しよう」
その後、ジューンフィルア以下120名の兵士が降伏を申し出ると、大日本帝国はそれを受諾。これで、エジェイ攻防戦は幕を閉じるのだった。
〜中央暦1639年7月26日〜
クワ・トイネ公国 ギムの町 ロウリア王国軍東方征伐軍本隊
丁度その頃、ギムの町に駐屯していた東方征伐軍本隊は、エジェイ駐屯地から飛び立った87式戦略爆撃機の編隊による広域爆撃を受けていた。
冷戦時代に開発されたこの爆撃機は、約10tもの爆弾を搭載でき、場合によっては12発の対艦ミサイルを搭載して対艦攻撃を行うことができる爆撃機である。
冷戦の集結と軍縮に伴い、稼働機数こそ減っているものの、現代でも少なくない数が運用されている。
そんな87式戦略爆撃機の編隊12機は、合計約120tもの無誘導爆弾を投下し、無慈悲に東方征伐軍本隊を吹き飛ばし、ギムの町の建築物を粉砕していく。
超高高度で侵入してきた爆撃機を止める術を持たない東方征伐軍本隊は、瞬く間にその数を減らしていった。
「こんなものは戦争なんかではない……只の虐殺ではないか……」
将軍パンドールは絶望の表情を浮かべ、空を我が物顔で飛び回る爆撃機を眺めていた。だが死神は彼だけを見逃すようなことはなかった。
ゆっくりと自分の人生の終わりを告げる片道切符が、あの世が近づく。
そして次の瞬間には灼熱の業火が彼を襲う。
それは一瞬の出来事だった。
将軍パンドールは光と共にこの世を去った。
将軍パンドールは戦死、ロウリア王国東方征伐軍本隊は壊滅し、生存者は偵察任務に付いていたため爆撃を免れた竜騎士ムーラ他数名の竜騎士のみであったという。