次回から少し間を挟んで第二部へ逝きたいと思います。
〜中央暦1639年8月1日〜
クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ 政治部会
この日、軍務卿からの要請を受けたカナタは首相権限を使い、政治部会役員を集め緊急会議を開こうとしていた。議題はもちろん、対ロウリア王国戦についてである。
「大日本帝国の活躍により、エジェイは守られ、ギムの町は奪還されました。また、現在に至るまで我が国民の被害はゼロとのことです」
軍務卿が報告を終えると、会場がざわざわと騒がしくなる。ここにいる一部を除いた全員が、流石にあり得ないのではと疑心暗鬼になっているのだ。
「今から配る資料に目を通してほしい」
カナタがそう告げると、職員が議員達のもとに資料を配布していく。その資料の表紙を見た議員達の反応は様々で、大まかにいえば難しい顔をする者や興奮気味にページを捲っていく者に分けられる。
『ロウリア王国首都攻略作戦案』
その資料の表紙にはそう書かれていた。
カナタが説明を続ける。
「大日本帝国は我が国と共同でロウリア王国の王都ジン・ハークを制圧、ロウリア国王を捕らえてこの戦争を終わらせるつもりのようだ。現在城塞都市エジェイでは、ノウ将軍指揮の下、侵攻部隊が編成されている」
カナタの説明に、会場は再びざわつき始める。
「ふむ……我々にも華を持たせてくれると言うのだな」
「我が方の軍が活躍できるのか……」
「別に良いのではないか?我らからすれば得しかないのだし」
その後、政治部会は満場一致で日本の提案を受諾、城塞都市エジェイに駐屯する西部方面師団に対して侵攻部隊の出撃を指示した。
それと同時に、残された兵士達は大日本帝国陸軍第7師団隷下の施設科大隊と共に、ギムの町の復興作業が命じられ、ギムの町はそれなりに短い期間で復興を果たしたのだとか…。
〜中央暦1639年8月20日早朝〜
ロウリア王国 王都ジン・ハーク 大日本帝国陸軍第7師団及び西部方面師団
陸軍第7師団並びに西部方面師団は、特科連隊を除き、ロウリア王国北側城壁から約4㎞離れた位置に展開していた。
「陽動作戦で敵から見える位置まで近づかなきゃいけないとはいえ、距離4㎞は流石にストレス溜まるなぁ……」
96式戦車の車上から城壁を眺める女性……西住みほが、苦笑しながら呟く。
「地球での感覚からすれば、近すぎて緊張が絶えませんね」
「そうですね……おっ? 西住隊長、作戦指揮班から通信入ってます」
「こっちに繋げて」
そう言うとみほは首回りに装着された機械を操作し、チャンネルを繋げた。
「CP、こちら1号車、送れ」
『1号車、こちらCP、1号車は前方の城壁へと接近し、敵の攻撃を誘発せよ、送れ』
CPからの指示に、みほ達の動きが止まる。
「あー……CP、その命令に間違いはないか、送れ」
『こちらCP、今の命令に間違いはない、送れ』
どうやら聞き間違いとかではないようだ。今の通信を傍受していた班員達が顔を強張らせている。
「……1号車了解、これより前進する。送れ」
『こちらCP、前進を許可する……一部野党を
「CP、こちら1号車、問題ありません。通信終わり」
通信を切ると、通信担当の班員が呟いた。
「やれやれ、野党さんもまた面倒なことを……」
「こら! そういうこと言わないの!」
みほが軽く注意する。これだけ軽口が言えるのなら、士気に問題はないだろう。
「それじゃ、そろそろ行きますか」
「そうだね、それじゃあ……パンツァーフォー!!」
お決まりの号令と共に、96式戦車が前進を開始する。車上から壁上を見上げると、ロウリア兵が慌ただしく動き回っているのが見えた。
「向こうは相当慌ててるみたいだねー」
「ねー……じゃないですよ西住隊長! 早く車内に入ってください!!」
「えー……まだいいじゃん」
「よくありません!! 西住隊長に何かあったら、自分等死にますよ!! わりと冗談抜きで!!」
班員達の頭の中に、鬼の形相で迫る西住まほの姿が浮かび上がる。それだけは勘弁願いたいと。
その後、近くにいた隊員がなんとかみほを車内に戻した……次の瞬間、戦車の付近に大型の矢が突き刺さった。
どうやら壁上に設置された大型弩弓バリスタから発射されたようだが、大型の矢は戦車を掠めることなく地面へと突き刺さっていく。
「当たらないね……」
「本来なら嬉しいはずなんですけどねぇ」
操縦手が苦笑しながら呟く。確かに本来なら幸運なのだろうが、今回の目的を考えると不運である。
そんな時、戦車の車上から『カンッ』と軽い音が響いた。どうやら敵は普通の弓に切り替えたらしく、先程よりも数が多い。
「攻撃を受けた! これより一時後退する! 全速後退!!」
みほが叫ぶと、戦車は一瞬その場に止まり、急速に後方へと下がっていく。
「CP、こちら1号車! 敵の攻撃を受けた! 損害不明! 送れ!」
『こちらCP、これより特科が射撃を開始する。至急退避されたし。おくれ』
「1号車了解! 通信終わり!」
通信を切ると、いつの間にか音がしなくなった車上のハッチを開けて車上へと乗り出した。既に敵の射程距離からかなり離れたようだ。
暫くすると、特科の96式自走砲が放った175㎜榴弾が命中し、強固な城壁が音をたてて崩れていく。
その後もしばらく砲撃は続き、大きな瓦礫は細かく砕かれ、戦車でも通れるような道が出来上がった。
「作戦指揮班から通信! これより機甲科と機動科、並びに西部方面師団が第1城壁内部へと侵入する! 1号車は部隊と合流し、第1城壁内部へと侵入せよ……とのことです!」
「了解! さぁ、もう一回行くよ!」
「しかし、これ……絶対特科の連中張り切りすぎたでしょ……」
一人の隊員が、粉々に砕け落ちた城壁を見て、呟く。
「……そんなこと言わないの……」
車内がなんとも言えない空気に支配され、1号車は後方から来た味方戦車と共に再び前進を開始した。
丁度その頃、第1空挺団精鋭中隊を乗せた3式輸送ヘリと、その護衛の10式対戦車攻撃ヘリが、ハーク城上空に侵入していた。
あらかじめ作戦で定められていた場所まで移動し、ヘリから空挺隊員が速やかに降下する。
「ハーク城に侵入した。これより目標の確保に向かう」
中隊長の中野が無線で作戦指揮班に連絡する。その後部下を引き連れ、王がいると思われるエリアへ向け前進を開始するのだった。
〜中央暦1639年8月20日〜
ロウリア王国 王都ジン・ハーク ハーク城 王の控え室
ハーク・ロウリア34世は絶望していた。
屈辱的な条件を飲んだ末に受けた列強の支援。旧式とはいえ戦列艦も何十隻と手に入れ、ワイバーンもかなりの数を揃えた。50万もの陸上戦力を揃えるのも苦労した。
だが、それらはすべて、大日本帝国というデタラメな強さを持つ国の参戦により、壊滅的被害を受けた。
4,400隻の艦隊は先の海戦で殆どが沈められ、残りも港で日本の巨大軍船に全て沈められた。なんとか揃えたワイバーン部隊も全滅した。
あの時、大日本帝国の使者を丁重に扱っていれば……もっとあの国を調べておけば……そんな思いが駆け巡る……だが、もう遅い。
敵はもうそこまで来ている……もう、どうしようもない。
その時、部屋の扉がゆっくりと開かれた。
遂に来たかと扉の方へ視線を向けると、そこにいたのは敵の姿ではなく、無き妻が残した一人娘……ローラの姿があった。
その後ろには、護衛の兵士達の姿が見える。
「ろ、ローラ! 無事だったのか!」
ロウリア王は娘の無事を喜ぶが、ローラの表情は険しい。
何があったのかと尋ねようとロウリア王が立ち上がると、ローラの後ろにいた兵士達が剣を抜き、ロウリア王へとその剣先を向けた。
「何をする! 無礼であるぞ!」
「父上……ここであなたを拘束します」
「なっ!?」
ロウリア王はローラの言葉に言葉を失う。大事に育ててきた筈の愛娘……それが自らを拘束すると宣言したのだ。
「な…なぜ……」
「父上、もうここまでです。あなたは大日本帝国の強さを見誤った。それが軍の壊滅、大多数の兵士達の死という結果に繋がりました。これ以上の犠牲が出ないうちに、私は彼の国に降伏することを決めました」
「……そうか……そうか………」
それだけ呟くと、ロウリア王はそれ以降なにも話すことはなく、ローラが連れてきた兵士達に拘束された。
その後ローラはすぐさま王都で戦闘を行っている全部隊に戦闘の停止と武装解除を指示。王城内でもローラの息のかかった兵士達によって近衛隊の武装解除が行われる中、突入した第1空挺団精鋭中隊はというと…。
「こちらになります」
「あ、はい。どうも…」
彼らはメイドの案内を受け、王の間へと向かっていた。
「中隊長、当初の予定が大分……いや、もう殆ど意味を成していないのですが…」
「う、うーん。なんと言えばいいのやら……」
事情を知らない彼らは、当初王城内での激戦を想定した作戦を綿密にたて、いざというときの脱出プランまでもを計画していたのだが、突入と同時に目の前にいたメイドに止められ、突破しようとしたところメイドの後ろで武装解除されていく近衛の姿が目に留まり、その後メイドの説明を受けながら王城内部を進んでいた。
「こちらが王の間となります」
たどり着いたのは大きな扉の前。どうやらこの先に国王がいるのだろう。端に立っていた兵士によって扉が開かれ中野達が中に入ると、1人の女性が彼らを出迎えた。
「はじめまして、異界の勇者達よ。私はロウリア王国第1王女、ローラ・ハウリアと申します」
「御初に御目にかかります、王女殿下。私は大日本帝国陸軍第1空挺団中隊長の中野と申します」
お互いの簡単な自己紹介を終え本題へと移る。
「殿下、我々はこの戦争を終わらせる為に、ロウリア王の身柄を確保するつもりで、この場に参りました」
「事情は分かっています。父上は、この先の王の控え室にて拘束しています」
ローラの言葉を聞き、中野は数名の部下に指示をだし、王の控え室へと向かわせた。ロウリア王の身柄を確保できれば、この戦争は速やかに終わる。
「御協力感謝します、殿下。これでこの戦争は直に終結するでしょう」
「いえ……父上を止められなかった、私にも責任はあります」
そう言うとローラはその場に跪き、ドレスが汚れるのも気にせず深々と頭を下げた。
「お願いします! 私はどうなろうと構いません。どうか……どうかっ! 国民に対する御慈悲を……っ!」
ローラの突然の行動に中野達は度肝を抜かれ、周りにいた兵士達やここまで案内してきたメイドが慌ててローラを止めようとする。しかし、それでもローラは頭を上げることなく、さらに続ける。
「私にできることなら何でもします! 首を寄越せと言うのでしたら差し上げます! 性奴隷になれと言うのでしたらこの身尽きるまで御奉仕します! ですのでどうか……ッ!……どうか国民だけは!!!」
「姫様ぁぁあ!!?」
「ち、ちょっと待ってください! どうか落ち着いて!!」
その後、とんでもない事を口走りながら暴走するローラを止めようと、中野達とロウリア兵達(+メイド)が協力して説得するという事態に陥ったが、ロウリア王の身柄が確保されたため本来の目的は達成。これにて、数ヵ月に及ぶロデニウス大戦が幕を閉じたのであった。
第1空挺団、まさかの戦闘ならず!
………何でこうなったんだろう。