閑話─もう1つの大帝国─
〜中央暦1639年○月□日〜
グラ・バルカス帝国 通称『第八帝国』 情報局
並べられた電気式受信機に、電子音が連続して鳴り響く。現代の者がその音を聴けば、信号形式は違えど、モールス信号と間違う事だろう。
「閣下、ロデニウス大陸の情報について、現地から報告が届きました」
きらびやかではあるが、スッキリとした黒い制服の男が報告を始める。
「概要は?」
「はっ! ロウリア王国のクワ・トイネ公国並びにクイラ王国への侵攻は、大日本帝国の介入により失敗した模様。王は失脚、齢16歳の王女が女王として君臨し、今後は大日本帝国の傀儡国となると思われます」
「……そうか」
いつもは概要を聞くだけで納得し、仕事は部下に任せ、責任は自分が取る閣下と呼ばれた将軍が深く息をはいた。
「
「そうだな……まぁ、あの御方が予言において、間違えることはあり得ん話だ」
将軍は手元に置かれた紙に何かを書き込むと、それを封筒に入れて男に手渡した。
「いつも通りこれを帝王府に届けてくれ。頼んだぞ」
「はっ! 了解しました」
男は封筒を受けとると、敬礼をして部屋を退出する。それを見届けた将軍は深く椅子に座り直し、冷たくなったコーヒーを口に含んだ。
「やれやれ……次の休みはいつ取れるだろうな」
〜中央暦1639年○月□日〜
グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ 皇城
「この世界は我々に何を求める?」
帝王グラルークスは、まるで自問自答するように呟いた。
国ごと異世界に転移するなどという、バカげたことが現実となった。
前世界『ユクド』と呼ばれた星で、最大の勢力を誇ったグラ・バルカス帝国。
前世界では始世の国、エーシル神を祀りし『ケイン神王国』と世界を二分し、戦争を行っていた。
資源力、生産力、そして軍事力。そのどれを比べても、グラ・バルカス帝国が勝利することは、誰の目にも明らかだった。
だが、その背景には少々特殊な事情が存在していた。
それは、グラ・バルカス帝国の皇女が代々受け継いできた異能の力、『預言』と呼ばれる力によるものであった。
『予言』の力を持つ皇女の助言を受け、グラ・バルカス帝国はケイン神王国との戦争を有利に進めてきたのだ。
グラルークスには1人の娘がいた。
第2皇女ルナアーク、グラルークスの娘にして、預言の力を引き継いだ少女である。
そんなルナアークはある日、突然こんなことを言い出した。
「帝国は他の惑星に転移します……直ぐに植民地軍を本土に戻すべきです」
グラルークス初め、娘の言葉を疑った。そんなことがあり得るのかと。
しかし、娘はこんな見え透いた嘘を言う子ではないことを理解しており、グラルークスは半信半疑のまま植民地軍を随時撤収させるよう指示した。
当然と言うべきか、議会からは反対の意見が多数寄せられたが、帝王の権限でそれらすべてを無視してきた。
議会の反乱も近いだろうと思われていたその日の深夜、グラ・バルカス帝国全域をまるで昼間のような明るさが包み込んだ。
突然のことに理解できなかったグラルークスであったが、娘の言葉を思いだしすぐさま軍部に周辺海域の調査を命じた。すると……。
・隣国の離島が消失している。
・海流の流れが変化しており、捕れる魚の種類が変わっている。
等、普通ではあり得ないことが幾つも報告として上がってきたのだ。
その後は議会を緊急召集し、臨時の会議を行ったりとバタバタしたが、結果としては娘の言う通り、帝国は他の惑星へと転移してしまったのだ。
決して少なくない数の植民地軍がユグドに取り残されてしまったが、何もしなかったらもっと多くの植民地軍が取り残されていた可能性がある。それが避けられたのは大きかった。
その時、自室の扉がノックされる音が聞こえてきた。
「お父様……私です」
「ルナアークか……入りなさい」
扉が開かれると、ルナアークが入室してきた。
まだ14歳と幼いが頭脳明晰であり、帝国軍特務参謀として活躍している秀才である。
「して、何ようか」
「……新たな預言を得ました」
ルナアークの言葉にグラルークスは硬直する。この世界でも預言の力は現役であり、先日のパカンダの時も預言があったお陰で、皇族の中では特別親しいハイラスの特別顧問としての参加を取り止めさせることができたのだ。
ルナアークは話しを続ける。
「第三文明圏に現れた転移国家……極東の島国……その名を、大日本帝国。彼の国は我が国を凌駕する超大国である……敵対することなく、友好的に接触せよ……とのことです」
「ふむ……」
極東の島国……否、超大国。それも前世界において世界最強と言わしめた我が国を凌駕するほどの国と言われ、グラルークスの興味を引いた。
「よくぞ伝えてくれた。ルナアークの予言には、何時も助けられる」
「ありがとうございます。ですが、実はその預言に関しまして、一つ気掛かりなことが」
娘の言葉に、不思議そうな表情を浮かべながら、グラルークスが尋ねる。
「なにかね」
「はい。私は預言を得た際に、美しい金色の髪色を持つ少女と対面することが殆だったのですが……今回私が出会ったのは、異国風の顔立ちをした、黒髪の少女でした」
「ふむ……」
グラルークスは顎を撫でながら、一人考える。
金髪の少女の話は、歴代皇女の証言とも一致しているため、そこまで悩む話ではない。
しかし、今回現れたのが異国風の黒髪少女と言うのが気になってしまう。
(もしかしたら、転移したことで、預言の力にも影響が出ているのやもしれん)
そう仮説を立てたグラルークスであったが、今考えても仕方がないとして、その話を後回しにする。
そして、グラルークスが室内に設置された鈴をならすと、スーツを纏った初老の男が入室してきた。
「お呼びでしょうか」
「あぁ。直ちに極東に現れた国……大日本帝国に使節団を送り、接触せよ。預言の通りか、その力を確かめさせるのだ。場合によっては、大日本帝国との同盟も視野に入れてよい」
初老の男は驚いたような表情を見せたが、すぐにこの事を伝えるべく動き始めた。
数日後、グラ・バルカス帝国使節団は、ある程度の海上戦力を護衛につけて、大日本帝国に向けて出発した。