〜中央暦1639年8月30日〜
大日本帝国 帝都東京都 防衛省
「しかし、政府は随分と思い切った決断をしたものだな」
防衛省勤務の職員が、プリントされた書類に目を通しながら呟いた。
・既存艦隊の再編成
既存の艦隊編成では費用面等多くの問題でこの世界の紛争/戦争への対処が難しく、艦隊の再編成は急務である。
・補給艦等の補助艦艇の増量
ロデニウス大戦時の輸送力の低さを問題とされ、補助艦艇の増量。
・陸軍の増員
新世界では覇権国家の存在が多く確認され、海外派遣の可能性が高まることから、現在の9個師団6個旅団体制から、12個師団10個旅団体制へと増量。
・新型機動甲冑の開発
新世界では今後、超大型魔獣との戦闘が予想され、全長15〜20mクラスの機動甲冑を要する。
・核兵器の再配備
自国と同程度の技術力を持った敵対国が現れたときの抑止力として、核兵器制限条約にて失った核兵器の再配備を行う。
この他にも多くの項目が存在し、そのどれもがすぐには難しいような内容であった。
「これらすべて終えるのに、どれだけ時間がかかることやら……」
職員は1人、深く溜め息をついた。
〜中央暦1639年9月1日〜
大日本帝国 帝都東京都 首相官邸
ロデニウス大戦が終結してから暫くしたある日、大日本帝国政府はこの世界の世界情勢についてを確認していた。
「国連や赤十字のような国際組織が存在せず、国際法に類似したものは列強間でのみしか適応されていないとは……」
手に持った資料を読みながら、今村は目元を押さえて深く溜め息をついた。他の閣僚も似たようなもので、全員が溜め息をついていた。情報源は主にロデニウス大陸に出稼ぎで来ていた商人達であったが、似たような報告が相次いだため、その情報が正確であると仮定して話を進めていた。
「これは可及的速やかに、国際協力組織を立ち上げる必要があるかと思われます」
「しかし、我が国が転移してから、まだ1年も経過していません。先のロデニウス大戦も、諸外国から見れば文明圏外国家同士の小競り合い程度にしか思われていないようです」
50万人以上の死傷者を出した大戦が、たかが文明圏外国家というだけで、単なる小競り合いとしか見られていないというこの世界の常識に、今村内閣の閣僚全員が再度深い溜め息をついた。
その後も会議は続いたが、現状ではどうにもならないとの結論を出し、次の議題へと移っていった。
「現在海軍では、既存艦隊の大規模な再編成を行っており、有事に備えて2個臨時戦隊を編成しておりますが、暫くは海上防衛力の低下は避けられません」
「陸軍でも現在、人員の増員に伴った駐屯地の新設や装備の増量、新隊員の教育等を行っておりますが、それらすべてを終えるには少なくとも後3年は必要です」
「同じく空軍では、対地上攻撃用の新型攻撃機を開発中です。ですが、予算の関係上、〈隼〉から〈疾風〉への更新が進んでおりません」
陸海空軍各幕僚の報告を受け、今村は難しい表情を浮かべた。
「陸軍で時間が必要なことはあらかじめ想定されていたことなので問題はありません。空軍に関しましても、この世界では旧式化し始めた〈隼〉でも十分通用するので暫くは大丈夫でしょう。ですが……やはり海軍は難しいですね」
大日本帝国は海に囲まれた海洋国家である。その為、貿易の殆どが海運であり、いざというときに国防海軍が動けないのは痛手でしかなかった。
「戦隊の編成は?」
「はい、戦隊は金剛型戦闘巡洋艦1隻又は雲龍型航空母艦1隻、村雨型巡洋艦1隻、磯風型駆逐艦4隻の計6隻で編成されております」
「それは……厳しいですな」
2個戦隊合わせて12隻、それだけでは、大日本帝国の広大な領海全てを護ることは不可能である。
一応、動かそうと思えば他の艦艇を動かすことは可能ではあるのだが、やはりそれでは効率が悪すぎる。
「もう少し増やせませんか?」
「不可能です。既に殆どの艦が移動を開始しており、今からではなんとも……暫くは海保や空軍の哨戒機が頼りになります」
「負担が大きすぎます。海保だって、少なくない数の巡視船が、ロデニウス大陸本面に派遣されているのですよ」
その後、会議は深夜まで続くのであった。
閑話は短くなってしまいますが、ご了承ください。