IS~Remember VERDICT DAY~ 作:ハンバーグ大好き
完璧な流れなので初投稿です。
『戦いこそが、人間の可能性なのかもしれん』
人類に可能性を感じた愚者が居た。戦いこそが人間の可能性なのだと信じ、あえて立ちふさがる事でその可能性を切り開こうとしたモノが居た。
『嘗て、世界を破滅させた力! その一つが、この機体。人は人によって滅びる、それが必然だ』
人類に可能性など無いと断じ、その全てを断罪し滅ぼそうとするモノが居た。人の中の可能性など妄言に過ぎず、人は人によって滅びるのだと、絶望したモノが居た。
『だがもし、君が例外だというのなら。ならば、生き延びるがいい、君にはその権利と義務がある』
所詮、お前も同じ道を辿るのだと嘲笑い、人の体も心も機械に閉じ込めて尚、それでも僅かに生じた可能性を、死ぬまで足搔いて証明してみるがいいと、消えゆく前に言い捨てた。
『戦いの中にしか私の存在する場はない、好きに生き、理不尽に死ぬ、それが私だ』
機械化され、閉じ込められた人格は誰の物なのだろうか。それでも、封じた機械に生まれた感情は、皮肉にも戦いを欲する『欲望』だった。
『もう良い、言葉など意味を為さない。見せてみろ、貴様の力を』
何者かの記憶は目の前に立ちふさがった最高の敵に歓喜し、そして戦いを求め、挑み、砕け散った。戦いの中で生き、戦いの中で死ぬ。それこそが本望だというのならば、それはもう機械と言えないはずだ。機械に心はない、感情を持たない、喜びを覚えない、求める事などない。その時点で、ソレは確かにヒトだったのだろう。人であるが故に、ヒトであることから逃れられなかったのだ。
消え逝く刹那、ソレが望んだのはやはり戦い。だが、ほんの微かに、戦いに繋がる可能性を求めながら、徐々に途切れていくシグナルと共に、旧時代の遺物は緑の光を伴って消えていった。その後どうなったのか、世界は知る事はない。はずだった。
「J、具合は」
「順調だ。敵の傭兵は釣れた」
通信機から聞こえる声に、熱を持たない氷の如く冷たい声が返された。長い、光の当たり方で僅かに青や緑や紫に艶めく濡れ羽色の髪を揺らし、相手を待つ。『少女』には似つかわしくもない大きな対物ライフルを構え、建物の影から出た相手の頭を弾き飛ばす。
赤黒い絵の具をぶちまけた様に、コンクリートのキャンバスに散らばる色を見て、口元が僅かに吊り上がった。その時、背後から慌ただしく何かが階段を上ってくる音を捉え、ライフルを捨てて、グルカナイフを二本、両手に握り、来る敵を迎え討った。
「J、ご苦労さ……うわぁ」
戦闘を終え、撤収命令が出た為、Jと呼ばれた少女を迎えに来た男はその姿を見て思わず顔を顰めた。デザートカラーの戦闘服は、染め直したのかと言わんばかりに赤黒い糊の様なモノが一面にこびり付き、まだ粘度のある液体が両手に握るナイフと服から滴り落ちていた。服だけではない、腕や頬にも飛び散ったであろうソレがこびり付いているのに、表情を変えない目の前の少女を殺戮マシーンだと見間違えても仕方ないだろう。
「戦闘終了か」
「そうだ。撤退するぞ」
「了解」
迎えに来たハンヴィーに乗り込む前に、水筒の口を開けて頭から水を被る。ある程度の汚れは落ち、そのまま車へと乗りこんだ。ドライバーは一度、煙草に火をつけて吐き出した後にアクセルを踏み、乱暴な運転で進みだす。
「次の戦闘はいつだ」
「慌てなくてもまた仕事は来るさ。本当に戦いが好きだねぇ、Jは」
「そうすることでしか私は生きられない、戦いの無い平和な世の中になったのなら私が戦いを起こしてみせよう」
「怖い怖い」
砂塵を巻き上げながら、ハンヴィーは拠点であるキャンプへと到着した。色んな人間が集まり、簡素な小屋は酒場と化している。いつものようにそこへ入れば、同類である傭兵達が彼女へと声を掛けた。
「おう、ジュリア。今日は化粧してねぇのか?」
「私は一度もそんな下らないモノをしたことはない」
「ちげぇよ、血だよ血。前は口紅で遊んだガキみてぇにびったびたに頬に塗りたくったまま帰ってきたじゃねぇか」
「したくてしたわけではない」
「だろうな。普通は目の前でショットガンぶちかましたらそりゃ汚くもなるわ」
ハッキリ言って、まともな人間がいるわけがないこの場所で、コードネームJ、本名はジュリア・オブライエンはみなに受け入れられていた。悲しい話だが、こういった場所に少女が居れば、火照った男の体を冷ます為の道具として、娼婦として扱われるか、もしくは寝込みを襲われ処女を散らしているかのどちらかだろう。
だが、此処に存在する者たちは彼女にそんな感情は抱きはしない。なぜなら彼女は機械も同然、体だけを見て馬鹿をした者は、翌日、睡眠用コテージの目の前に無造作に投げ捨てられ、大きく風穴があいた腹を鳥に啄まれる醜態を晒すことになるからだ。
女だと見くびった物は、翌日には意見をすっかり変えて認めていた。それほどまでに彼女は戦闘に於いて天才であり、人として壊れていたのだ。
「にしても、男性操縦者なんて、変な話だよな。すげぇにはすげぇが、騒いだ所で男が女がなんて変わりゃしねぇってのによ」
一人がテレビを見ながら呟いた。そこの画面に映っているのは世界初の男性操縦者として発見された織斑一夏の姿。心底どうでもいいと言わんばかりに、生ぬるいビールを一気に飲みこむ。
「Jの行く学園に入学する見たいだねぇ、どう思う?」
一方で離れた位置にいた二人、ジュリアのマネージャーとして国から派遣されたスーツ姿のアイザックは、水滴が滴るコロナビールの飲み口をジュリアに差し出した。指でコイントスをするように、人差し指に添えた親指を跳ね上げれば王冠が上に跳ね上がる。
「下らん。兵器を扱う場所に、馴れ合いなど不要」
彼女の目の前にあったのはハチミツ入りのミルク。落ちてきた王冠を握りつぶし、それを飲み込みながら、誰も食べようとしない、在庫がたっぷりと残る最低な味のレーションを無表情で食べ進めるジュリア。
彼女は中東のIS産業に於ける若いホープとして名を轟かせており、生身での戦闘もさることながら、ISの操縦技術も高い。まるで死神の様な黒い機体を操る姿から、黒い鳥、死神という異名すら与えられている。石油によって潤沢な資金がある中東だが、彼女が求める機体スペックを提供出来なかった。しかし起動実験中にIS自身が彼女の願いを叶える様にファーストシフトを発生し、そのデータを利用して武装を開発し、軍需産業にも力を発揮していた。
現在は傭兵として中東に巣食うテロリストを殲滅しているが、彼女にはその役割を暫く与える代わりに、IS学園へ通う義務を与えられていた。それは、彼女の操縦技術を各国にアピールすると同時に、世界の産業に機械技術の高さを披露する宣伝の役割がある。当初は下らないと断った話だが、こうして適度に刺激のある戦場を用意されているのだ。報酬分は働くというのが傭兵であり、生温い日常ではなく戦いを求める彼女の理想だ。尤も本来、命の危険がある筈の戦場を学園に通う報酬と考えているのは、彼女か、もしくは頭のぶっ飛んだターミネーターぐらいだろう。
「とはいえ、国からは彼の監視命令も出されているんだろう? そこの所はどうするんだい?」
「どうもしない。近くで見張る、受けた仕事は熟すだけだ」
残ったミルクを飲み干し、立ち上がる。アイザックがテーブルに目を向ければそこにはジュリアが完食したレーションの皿がある。彼女が食べているのは、アメリカが開発したMREという、マズイという評判のレーションをぶっちぎりで追い抜いた、アスピナという軍事企業が開発した、誰が食べても吐き戻すマズイ軍用レーションとしてランクインしたモノだ。昨今のMREは一応は食べられるレベルだが、こればかりは餓死した方が苦しみがないと言われるほどの評判である。
栄養価に関しては高く、栄養補給としては申し分ないが、だったら全部サプリメントにしろという苦情が出る代物。このキャンプでもこれを真顔で、表情を崩さず食べているのはジュリアのみで、そもそもこれを口にしているのも彼女のみだ。
そんな時、外が少し騒がしくなる。なんだなんだと野次馬根性にあふれる傭兵達が外に出れば、そこには新たに到着した数名の傭兵。一人は少し離れた所に寝ており、数人がジュリアへと声を荒げて詰め寄っている。そこから察するに、一同はこれから起きる事を期待して、ニヤニヤと表情を変えてその様子を見守る。
「テメェ、いきなり殴り飛ばすとは何事だ」
「触るな、どけという言葉をこちらは発した。しつこく胸に触れて鷲掴みにしたのはそこな男だ」
誰かが口笛を吹いた。今年で十六になるジュリアの体つきは、アスリート体系であるにも関わらず、かといって貧相なボディスタイルをしているわけではない。溢れもしないが、収まる訳でもないほどよく成長した胸部、しなやかに伸びる足。艶やかな腰まで伸びる黒髪、服で隠れている部分は白く、陽に晒されている部分はほんのりと焼けて健康的に見える。黒曜石の様な丸い瞳はしかし鋭く、一見すれば美女と言えるのは間違いなかった。
だからと言って、その外見に秘めているのはただただ只管に敵を殺すために突き詰めた暴力性。それを知っているからこそ、誰もが彼女に気安く触れないのだ。確かに一度胸を揉んだり尻を鷲掴みにした程度では彼女は何も言わない、だがその時に必ず忠告されるのだ、気安く触れれば腕を落とす、と。
それが比喩ではないのは、彼女に言い寄って死体になった男が証明済みである。
「娼婦が触られたくねぇなんて言ってどうすんだよ! 聞いた事あるか!」
だが一方で、それを知らない流れの傭兵からすれば、彼女は娼婦にしか見えない。今は汚れた軍服ではなく黒のタンクトップとアーミーパンツ、服装が乏しいのでそれを着ているだけと勘違いしてしまうのも仕方ないとはいえる。
「私は娼婦ではなく傭兵だ。誤解が解けたなら私は行く」
「だから待てって……」
彼女に伸ばし、肩に触れた瞬間、掴んだ指がすべて圧し折られた。紙粘土を捩じる様に、すんなりと曲がったソレを掴んだまま、男の腰にさしてあるハンドガンを抜いて、躊躇なく腹部へと引き金を二発、首に二発と徹底的に撃つ。
「お、お前、味方に何やってんだぁ!!!」
連れ添いの男もあまりの光景に頭がパンクしたが、知り合いが殺されたという事が先に頭にきて、ハンドガンを抜いた。抜いてしまったが故に、まずは男がハンドガンを握り、構えようとした右手を撃ち抜き、頭部へと二発。
最後に、倒れている男へも引き金を引き、ハンドガンを投げ捨てて仮設コテージへと下がっていくのを見て、男たちは懐から紙幣を取り出した。
「あーあ、全滅か。一人残るのに賭けたんだけどな」
「ばぁーか、あのジュリアがそんな温い事する訳ねーだろって。毎度あり」
「クソ、飲み直しだわ」
まるでコイントスを見ていたかのような気軽さで男たちは中へと戻っていく。後に残されたのはアイザックのみで、大きくため息を吐きながら、待機しているハンヴィーへと乗り込んだ。
「アイザックさん、やっぱりあいつヤバイですって。悪い事言わないから、別の人用意した方がいいんじゃないですか?」
運転手の男は呟いた。だが、一方のアイザックは無表情だった。懐から煙草を取り出し、火をつけて煙を吐き出す。
「あの、アイザックさん?」
「どうでもいい、さっさと車を出しなよ」
「は、はい!」
急に人が変わった様に、温度を感じさせない冷たい声色だった。まるで機械を相手にするかのような感覚に捕らわれた運転手は慌てて車を出す。
「人は変わらない、実に下らないね」
「ん? な、何か?」
「何でもないよ」
煙草をまるで手向けの花束の如く投げれば、そこには血を流して息絶えた男と、線香の様に煙が燻る捨てられた煙草が残る静かな空間のみ。だがやがて、風が吹けば、その煙草は転がって消えていった。
ギャグ時空ならこの後煙草が燃え広がってジュリアがゲイヴンに追っかけまわされてカラオケビックボックスで黄金の時代を築く。
ところでこの場合ってオリ主タグ入れた方がいいんですかね。