戦姫創造シンフォギア   作:セトリ

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決意のアウェイクニング

ライブ場跡地、ノイズ大災害の遺した爪痕が未だ癒えない場所。

誰にも近寄れない立入禁止区域として、国が指定した場所。

 

ここに封じ込められしは惨劇。

二度とそうなるまいと防人の誓いを立てたあの日。

大事な翼を喪った、片翼の鳥となったかの日。

 

私達が背負うべき12874人の魂がここには浮かんでいる。

 

何故救わなかった。

何故救えた筈の命を捨てたのか。

限りない命が灰として散った。

数多の人間の人生が狂わされた。

 

雑音を切り払っても、切り払っても止めどなく溢れる後悔。

 

「懺悔とは......私らしくない...........」

 

厳重に変装をしてまでここに来た理由は、分かっていた。

あいつの、ビルドの顔を見てしまったからだ。

 

奴は、英雄の皮を被った悪魔。シンフォギアと異なる、異端技術を用いてノイズを打ち払う狂った英雄だ。

 

奴が居れば、ノイズを殲滅せしめる事は容易い。

なのに、あのライブのみに力を振るったのだ?

 

その力があれば、これまでのノイズ災害時でも対処出来たのでは無いのか?

2年前に現れたきり二度と姿を見せなかった、力を持つ臆病者に語る術は無い。たとえ現れたとしても、私はーーーー

 

「......奴を、ビルドを殺してみせよう」

 

そうだろう? 奏。

仇を取ると決めたならば、この身修羅に堕ちようとも構わない。

 

「じゃあ行くね」

 

怨嗟渦巻くこの地での誓いは忘れる事はない。

未来永劫、防人の劔が折れぬ限り。

 

 

 

 

「......お前、ふうめいよくだな」

 

 

全てを黒で統一し、赤十字を描いた仮面を被っている謎の人物が出口に立ち塞がっていた。

声も変声機を使っているのか、不自然に低く掠れている。

 

風鳴翼(かざなりつばさ)は思考を戦闘中レベルまで鋭敏化する。

 

 

「......貴様は?」

 

 

この人物にわざわざシンフォギアを纏うなどと風鳴翼は思わない。

敵に対して情報を渡す道理など無い。ましてや、名前を盛大に間違える間抜けには特に渡すまいと、風鳴翼は考えを走らせる。

 

 

「......ん? あっ、お前、風鳴翼(かざなり つばさ)だな! シンフォニアを纏う者ってのは!」

 

 

唐突に何かに気付いたのか、早口で名前を訂正する謎の仮面。

台本の台詞を言い間違え、慌てて訂正する。その佇まいは大根役者だ。

 

シンフォニアとは、何とも奇跡的な読み間違えをしている。その様子に訝しむ風鳴翼だった。

 

 

「......私はシンフォニアなんてものを纏いはしない上、風鳴 翼という名でも無い」

 

 

そこで一つ、ブラフをかけることにした風鳴翼。

こんな簡単な引っ掛けにかかる馬鹿はーーーー

 

 

「えっ? ......えっ」

 

 

ここに居た。

 

 

変装用に被っている帽子とマスク、体型を隠す為の紺色のダウンジャケットが風鳴翼というアイデンティティを隠し、黒尽くめの人にバレていないことが功を奏している。

 

 

「......変わった人。名前しか分かっていない人物を呼び間違えた挙句に、とんでもない空想の話をしているなんて、痛いですよ」

 

 

シンフォニア、恐らくはシンフォギアと言い間違えた。

だとすれば、国家機密がどこからか漏れているということ。

それに装者である事を極秘にされている風鳴翼を狙っているとすれば、何処の組織、もしくは国が狙っているのか。

 

風鳴翼は相手の動向を気にしながら、懐に仕込んである投げナイフを手に移動させ機を伺う。

 

 

「もう一度言うけどよぉ......本当に、違うのか?」

 

「......ええ」

 

 

丁度、日が暮れる頃合い。

出入り口を茜色の陽光が差し込む。仮面の男の影は、風鳴翼の足元へ映していく。

 

 

「やっぱり......怪しーーーー」

 

「ごめんなさいね、こうするしかないから」

 

 

トン、と地面にカッターナイフが落ちた。その先には、仮面の男の影。

突如として現れた凶器に、男は反応できなかった。

 

日本の防人たる風鳴家に伝わる忍術。その一つである【影縫い】を風鳴翼は行使した。発動条件は相手の影に、何かを縫い付ける事。

そうすれば自分自身である影が動けないと錯覚させ、身体を金縛りにする妙技。

 

 

「ーーーーーーーーーー」

 

 

男の声にならない呻きが聴こえる。

風鳴翼は動けない彼の身体を探ることにした。彼の着ている服はマットブラックのパーカー付き男性用のジャケット、同じく黒色のジーンズパンツ。

 

 

「悪いけど、探らせてもらうわね」

 

 

ジャケットには口が広いポケットが付いている。

その中を弄ろうと風鳴翼は手を突っ込んだ。指先に硬い物がコツンと接触する。その物体を掴み取り、ポケットの中から取り出す。

 

 

「これは......!?」

 

 

風鳴翼はそれに眼を奪われる。

色が金という細部の違いはあるが、この物体の形状を彼女が忘れることは無かった。このボトルのような物体は、奴が使っていた。

 

 

「何故、これを持っている。貴様、ビルドと関係があるなッ!」

 

 

彼女が男の胸倉を乱暴に掴み、彼は再び呻いた。

それを風鳴翼は気にすることは無かった。

 

当然、あのビルドと呼ばれる者の手掛かりとなりえる人物。ここで逃してしまっては、二度と捕まえられない。二年という月日を経て尚も足取りが掴めなかった者の尻尾だ、掴まなければと風鳴翼は焦っていた。

 

だからこそ、彼女は聞き逃してしまった。

男の呻きの、単語を。

 

 

「..........来い..................ドラ、ゴン!」

 

 

機械的でどこか生物的な音が荒地に轟く。

小さい何かがこちらに突進してくる。

背後からの気配を感じとった風鳴 翼は胸倉を掴む手を離して、想定外の攻撃から回避する。

 

 

「ちっ.........」

 

 

数歩、彼女は引き下がり、突進した謎の物体を注視する。

箱型の胴体に、長い首と尻尾が備えられた、小さな翼で飛ぶ機械だった。

 

 

「ナイス、ドラゴン」

 

 

ドラゴンと呼ばれた物体は、咥えていた金色の小さいボトルを男に投げ渡し、男はそれを受け取る。

男の影に短刀と呼ばれるものは刺さってはいなかった。

 

その事実に風鳴翼は奥歯を噛み締める。

男は群青色のボトルをジャケットのポケットから、金色のボトルと入れ替えるように取り出した。

 

 

「......ビルドを知っているんだな。だったら、これも知ってるだろ?」

 

 

男はジャケットのチャックを下ろし、開く。

露わになった白無地に『最強、無敵』と黒字で銘打たれたシャツの腹部には、見慣れた物が装着されていた。

赤色のレバーに、複雑な歯車が特徴的な装置。ビルドが変身するための重要な役割を果たしている動力炉。

まざまざと見せつけられ、風鳴翼の逆鱗は撫でられる。

 

 

「改めて聞こう......貴様は、一体何者!」

「俺は、仮面ライダーだ!」

 

 

男はドラゴンの機械を無造作に掴み取り、箱型の胴体へ群青色のボトルを差し込み、首と尾を折り畳んで腰の装置に空いてる部分へ装填する。

 

【クローズドラゴン!】

 

歯車に光が灯り、採掘機の音にテクノポップ調の曲が重なった短いループメロディーが鳴る。

赤いレバーを乱暴な手つきで回し、鎧を形成する透明な枠組みが組み立てられていき、内容不明の液体が流し込まれていく。

ビルドと違うのは、分離した歯車のマークが無いのと鎧の色が紺であることだった。

 

 

【Are you ready?】

「.........変身!」

 

 

ビルドと同じ言葉を吐きながら仮面の前に両手を握り脇を締める男。

同時に鎧が一点に集中して噛み合い、ファイアーエフェクトが描かれた翼が覆い被さる。

 

 

【Wake up burning! get cross-z dragon! yeah!】

 

 

蒼炎がクローズドラゴンと呼ばれたビルドに纏わりつく。

ドラゴン、龍とも呼ばれる名称を使っていることから、名付けるならビルド ドラゴンフォームだろうか。

 

 

「俺は仮面ライダービルドだ! かかって来い!」

 

 

風鳴翼は衣服に隠していた円柱のペンダントをビルドに掲げる。

夕闇の朱に染まり、鈍い光沢を放つ。

 

 

「............その名を語ったからには殺される覚悟があろうなッ!」

 

 

彼女は一つの詩を紡いだ。

この地への鎮魂歌でもなく、友へ捧げる友愛の歌でもない。

ただ殺すという意味を込めて、胸の内を語り継ぐ。

 

 

【Imyuteus amenohabakiri tron】

 

ーーーー羽撃きは鋭く、風切る如く。

 

ペンダントが不自然に煌めき、風鳴翼という存在を楽譜のフィールドで全部包み込む。

 

何処となく、曲が、風鳴翼の胸に秘めた歌が聴こえてくる。

 

フィールドが弾け飛び、現れ出でるは歌を纏いし戦士。

否、殺しまいと虎視眈々と敵を捉えし蒼き羅刹が其処に居た。

 

 

「......()くぞッ!」

 

 

絶刀・天羽々斬。

不倒不滅の劔を以て、命を懸け、魑魅魍魎共を殲滅せしと覚悟を記す。

碧き龍を討伐せし力は此処にありと、刀を振り下ろす。

 

シンフォギアとライダーシステム。

護る為の力は今この時、使命を忘れてぶつかり合う。

 

 

 

 

とある地中の奥深く。

そこには人類をノイズから守る為の特務機関がある。

その名を特異災害対策機動部二課。

 

 

「仮面ライダー......ビルドだとッ!?」

 

 

その司令室にて、仮想投影モニターに映し出された映像に総司令官、風鳴弦十朗はつい語気を強めてしまった。

 

 

「......映像は翼さんの視覚補助モニターユニットからです。突然シンフォギアシステムが起動したと思ったら......」

 

 

オペレーターの一人が現状の報告を。

もう一方のモニターをモニタリングしていた女性オペレーターから、慌ただしく声を張り上げる。

 

 

「翼さん、聞こえますか? ......駄目ですね、依然応答がありません。風鳴司令、如何されますか? このままだと、ノイズの対応が!」

 

 

もう一つの仮想モニターに映し出される、町中の防犯カメラからの映像と町の構造を精密に描いた平面図。

 

映像には二十は下らないノイズの大群。

図には数を数えるのも億劫な程のノイズを示す赤い点が。

コンソールの金属フレームに二振りの拳が同時に振り降ろされる。

 

 

「たまさか面倒事を手繰り寄せるとは、運が無いな」

 

 

風鳴弦十郎は、この状況の不味さを以前から危惧していた。

ノイズが発生した際、現在一人しか居ないシンフォギア装者が何らかの理由で動けなくなり、対処出来なくなった場合。

 

彼らが出来る事は避難を指示することしか出来ない。

 

ノイズは人に触れることで炭と化す攻撃を持ちながら、こちらの火器を位相がズレることで無効化させる無敵といえる防御を持っている。

対抗するには対ノイズ用に設計された兵器シンフォギアとビルドと呼ばれる正体不明の鎧のみ。

 

 

「争っている場合じゃないんだ! 二人共! くそッ、今すぐにでも通信が直ればッ!」

 

 

オペレーターの一人が吠え立つ。

風鳴弦十郎はモニターから目を背け、出口のエレベーターへ視線を移す。

 

 

「あらぁ? 駄目よ、弦十郎ちゃん。余所見しちゃぁ?」

 

 

蜂蜜のように粘性の高い猫撫で声が風鳴弦十郎の鼓膜を小さく揺らす。

 

 

「......了子君。分かっている、総司令たる己が現場に赴く事は更なる混乱を引き起こしてしまう。そんな事は分かっているんだ」

 

 

了子と呼ばれた白衣の女性は、風鳴弦十郎の耳元から顔を離し蠱惑的な表情を浮かべながら、アンダーフレーム型の赤い眼鏡の鼻掛けを押し上げる。

 

 

「でも、でもでもッ! 行きたいんでしょ。頭ごなしに感情を押し留めても、カ・ラ・ダ・は正直よぉ〜?」

「......だとして、何か突破口はあるのか?」

 

 

彼女は対ノイズエネルギー、フォニックゲインを発見し櫻井理論を唱えFG式回天特機装束を創り上げた世紀の大天才。何かしらの策があるかと、僅かながらに期待をしてーーーー

 

 

「............ないわね。神に祈るしかないとか、科学者失格だよね〜」

「ならば、出来ることをやるしかないか」

 

 

ーーーー後手を選択する。それが今出来る最善の方法だ。

 

風鳴弦十郎は、手の平を見つめる。

握り込みすぎて爪が皮膚を傷つけ溢れる血。再び固く握りモニターを見つめなおす。

 

 

「総員、通信復旧を最優先とし、映像を記録せよ。友里、藤尭、ノイズ発生区域の生体反応を探し、座標をポイントしてくれ」

 

「分かりました、それくらいお安い御用ですよ」

「......じゃあいっちょやってやりますかッ!」

 

 

個々のコンソールを叩く音が忙しなく連鎖する。

モニターには、剣、ビートクローザーと呼称する武器を呼び出したビルドと鍔迫り合う天羽々斬が映っていた。

 

 

 

 

「はぁっ......はぁっ......」

 

 

何度、死ぬ事を覚悟しただろうか。

 

何度、生きる事を決意しただろうか。

 

回り回っていく循環が、あまり出来が良くない脳みそに襲いかかってくる。

そんなものは、とっくに考えないようにしたって。

自分に言い聞かせる。

 

 

「.........はっ、はっ、はっ」

 

 

動いていいのは自分の手と足だけ。後、背中の子供と。

命がある限りは、生きる。

死んでたまるか。あの人が言ってた言葉は、確か。

 

「生きろ。命ある限り、生きるんだって」

 

そうしたら、胸に歌が浮かんできた。

熱くて、苦しくて、痛みが全身を駆け巡っていく。

中から私というワタシじゃない何かに教えられた、その歌を口ずさむ。

 

 

ーーーBalwisyall nescell gungnir tron

 

 

その後のことは、信じられない事のオンパレードだった。

 

まず私は制服じゃない何か、ううん、シンフォギアっていうものを身に纏っていた。

すかさず迷子の女の子を救うために動いたら、とんでもない速さで貯水タンクにぶつかったり、闇雲に振り回した腕に当たったノイズが炭化したり。

 

その他にも驚きが多すぎて、私の頭はこんがらがっていた。

 

でも、それは物語の始まりに過ぎなかった。

今思えば、この時から仕組まれていたことだったかもしれない。

 

ナイトローグ。

 

彼が私と翼さんに出会ったこの日を忘れることは無い。

 

 

 




レポートNO.1ー1 聖遺物融合症例1号『立花 響』

聖遺物『ガングニール』との融合を果たした人間とも、兵器とも言えない特異な存在である。
2年前、風鳴翼と天羽奏のボーカルユニット『ツヴァイウィング』で起きた史上最悪のノイズ災害事件。
『立花響』はその生き残りであり、最大の被害者である。
ここでは割愛するが、様々な虐め、誹謗中傷、恨み辛みが彼女達、事件の生き残りに矛先が向けられたと言えば想像がつくだろう。

俺が特異災害対策機動部2課にハッキングを仕掛けて、得た情報から推測するにあの時の少女がガングニールの破片を事故とはいえ埋め込まれた。
ガングニールの破片は少女の身体を蝕み、造り替えることで後天的ながらも聖遺物の適合係数を上げていた。
ある一定の閾値を得るまで膨大な時間がかかる。
それまでは俺たちは動けない。そして、彼女を狙っている組織も探し出すことは出来ない。

ライブの裏で行われていた完全聖遺物『ネフシュタンの鎧』の起動実験。
その折に行方が分からなくなった『ネフシュタンの鎧』を、所持している何者かを探さないといけない。
特異災害対策機動部2課に見られたビルドの姿は使えない。
としたら、他の姿を使わなければならない。
この2年間はその為の道具作りに専念した。
スクラッシュドライバー、ビルドドライバー、トランスチームガン、ネビュラスチームガン。

それでも作戦を成功させるには幸運が必要だった。
それを成し得る為の人員も確保はした。

後は、『立花響』がガングニールを覚醒させれば計画は始動する。

レポート作成者 葛城巧

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