戦姫創造シンフォギア   作:セトリ

3 / 10
歯車を動かすブレイズ

繰り返していく。

 

 

「俺が.....また、やった......のか?」

 

 

夕焼けに消滅していく誰かと抱き留める誰か。

気が遠くなりそうな痛みが脳を揺らす。もう一度、この光景を見る訳にはいかないと、俺は誓った筈だ。

 

 

繰り返していく。

 

 

現実は同じ様に。

塵一つも残さない。またそれが彼らの死に様と重なって。

気がついた時には何も残さない。

何も遺せない。名もない兵器として記憶にだけ残る。

 

 

「......ええ、あなたを許しません。決して」

 

 

繰り返していく。

 

 

方程式の答えはいつも残酷に、変わらない結果を齎す。

 

 

 

 

その朝は酷かった。

粘りついた汗を寝巻きの袖で拭い、気怠い身体を起こす。

 

 

「......嫌な夢だ」

 

 

変わり映えのしないマンションの一室。

記憶にあったのは、この部屋を5年程使っているという感覚だけだ。

家電なども最低限揃えられているし、部屋の大きさもそこそこな部類。一人暮らしをするぐらいなら、少し広い程度。

 

一人暮らしをするならば。

 

 

「おっ、起きたか。お前大分と魘されてたけど大丈夫か?」

 

 

自分の声とは違う、いつものように心配をして、気を遣う声がする。

というより、開けっ放しの襖から見える居間でカップ麺にお湯を注ぎながらこっちを見ていた。

 

馬鹿っぽいその顔を見るだけで少し安心する。

世界が変わったとしても、変わらないものがあるのは、ある種の孤独感を薄れさせていく。

 

 

「いや、ちょっと昔を思い出した。......俺たちは兵器じゃないよな」

 

「何言ってんだよ。俺たちは兵器じゃねぇ、愛と平和を守るものだろ? 早く食べないと伸びるぞ」

 

 

二つ目のカップ麺がテーブルに置かれている。

寝床から脱出して、居間のソファに座る。テレビを点けて、適当なニュースを聞き流しながらカップ麺を啜る。

 

 

「......今日は、作戦の日だ」

 

「わかった、じゃあ本当に良いんだな」

 

 

麺を食べ終え、汁を捨てにキッチンへ向かう。

シンクに流して、燃えるゴミ用のゴミ箱に容器を捨てる。

 

 

「俺たちは自らの正義の為に、世界を守る。たとえ世界そのものを敵にしても、愛と平和の為に戦う。それが俺の信じているヒーローだからな」

 

「理解されねぇってのは、やりずれぇ世の中だな、全く」

 

「同感だ」

 

 

 

 

ー千ノ落涙ー

 

地を這う龍を仕留めんとアームドギアを、我が剣を細かなる形へ変え、流るる雨の如く攻撃半径を拡げ、一斉に降らす。

 

「貴様は、防人としてやってはいけないことをしたッ!」

 

意に返すこともなく、猪突猛進の勢いで迫るビルド。

あれだけの大技を喰らいながら傷一つ付かない装甲強度、風を置き去りにする尋常ではない速度を発揮する脚力。

その全てが奴の装備のお陰だとすれば、とんでもない力。

だというのに、

 

 

「力を纏った武士ならば、力を持たぬ者の命を守る義務があるッ! それをこれまで放棄し、2年間雲に隠れたッ!」

 

奴は臆病者だ。

 

「何故今頃になって現れたッ!」

 

奴は奏を殺した。

 

「貴様の力など要らぬ、このシンフォギアだけが有ればいいッ!」

 

 

このノイズを破壊する力だけが、奏の遺志を継ぐ。

ビルドなどという技術はこの世に存在してはならない。

 

「貴様の存在が私の過去を侮辱するッ!」

 

ビルドの剣が我が剣へ打ち据える。

乱雑で軌道が単純な剣筋。技術の介在しない素人の剣捌き。

乱打を全て見切り、受け流す。

剣に篭った剛力は流石だが、勿体無い。

 

「この必殺を以って、引導を渡すッ!」

 

シンフォギアのパワーアシストを最大限に利用し、後方へ跳び上がる。

身体にのし掛かる重力などなく、大気を裂いていく。

次第に勢いが無くなっていき、停滞する。

身体を丸め、右脚を伸ばし左膝を胸に関節の限界まで寄せて棒の如く身体を一直線にする。

狙いは、地上のビルド。

 

ー天ノ逆鱗ー

 

アームドギアを展開、刃の長さ15m超、刃の幅も10m超といった巨大な諸刃の剣を創り出す。その柄に蹴り出すと同時に自身の二つ、剣の六つ、合計八つのスラスターから推進補助のバーナーを吹かし、倍々に威力を重ね切れ味を最大限に高める。

 

衝突までは1秒もかからない。

 

ビルドの防御力は既存の兵器を超えているが、そうだとしてこの必殺を受け切れるものか。

 

 

【スマッシュスラッシュ!】

 

「お前の気持ちはよく分かった。だからな、俺はまだここで終わる訳にはいかねぇんだよ!」

 

 

ビルドの仮面の奥で、叫ぶ漢の声が聞こえる。

気がつくと、スラスターのバナーが消えていた。

自らの手で攻撃をやめた覚えは無い。ならば、ビルドの仕業で間違いない。

 

大剣から強い振動を感じる。

地面を突いた感触だ。

威力が減衰した一瞬を利用して、矛先を逸らし剣の影へ潜りこんだという訳か、ならばこの隙をビルドが見逃す訳がない。

 

 

【Ready Go!!】

 

剣が中腹からひびが入る。

アームドギアの強度を超える破壊力がそこに注ぎ込まれている。

狙いは体勢崩しか。

 

剣が破壊される前に柄を蹴り、空中へ身を放り投げる。

 

【Dragonic finish!】

 

刹那、龍が剣を喰い破った。

膨大なエネルギーが龍を象るなど、常々不思議な事。

常識外の者と戦っているということを再認識する。

 

ならば、非常識には非常識をぶつける迄。

 

崩れ去る大剣の隙間から覗く、双龍の頭。

仕留めんと二振りの小刀を投げつける。

 

一つ目は迎撃がしやすい、目立つ位置に。

二つ目はその影から息の根を止めるように。

 

 

「こんなもので」

 

狙い通り一つ目を弾かれ、二つ目が回避される。

 

【ヒッパレー、ヒッパレー、ヒッパレー!】

 

着地。

そして半ば折れた大剣が落下、砂埃を舞い上げる。

蒼く光り輝く影。視界が無くなった世界で、一番に目立つ存在を凝視する。

手に両手剣を召喚、歌によってフォニックゲインを高め、これから行う攻撃を強化する。

 

高まりきる前に、砂埃が晴れる。

先に動くのはエネルギーを溜め終えたビルドからというのは分かっていた。

 

 

先手は譲ろう。

 

 

「だああぁぁあっ!」

 

天に昇った龍が再びビルドの下に還り、右手に持っている剣へ宿る。

余剰エネルギーが蒼い焔となり、一際神秘を帯びる。

それを解き放たんとビルドは私に向かって走りだす。

 

【メガーーーーー

 

音が掻き消える。

いや、音は不要だと斬り捨て、空いた演算能力を次の一手に注ぎ込む。

 

後手には回らない。その程度の事を、予想出来ない訳がない。

 

地を蹴り出すビルドの脚。

僅かにつんのめり、姿勢がほんの少し乱れる。

 

必殺の剣閃が左上に逸れていく。

 

それこそが私の勝機。

 

足元のスラスターを吹かせ、ビルドの右側面へと加速を得た身体を屈め、大剣をビルドの腹部に全力を込め振り抜く。

 

速く、はやく、ハヤクーーー

 

私の左眼球に蒼い龍が天翔ける(映る)

カウンターの一撃が手許の剣を通じて、重くのし掛かる衝撃。真芯を捉える手応え。獲物を狩るトドメ。この剣こそが

 

ー蒼ノ一閃ー

 

 

ビルドは放物線に沿って飛び、5度地面を跳ね、纏う龍の鎧も霧散し、元の男性の姿へと戻っていく。

 

動く気配も無い事を目視し、男性の方へ歩を進めようとした。

ビルドには2年前の黒い姿や、擬似聖遺物について吐かせなければならない。

場合によって、処罰を下す準備もしないといけない。

真実を追い求める、私の正義感に突き動かされた脚は止まらない。

 

 

《ガングニール......だとッ!?》

 

私の耳に、聞き捨てならない言葉が入る迄は。

 

 

 

 

夜に差し掛かる夕暮れ時。

風の鳴る、何処かで人型の影は佇んでいた。

 

 

《ガングニール.....だとッ!?》

 

「遂に覚醒したか、立花響」

 

 

手にしている通信傍受装置から流れる音声。

確信を得て安堵し、静かに呟く影。

遠くに、黄金の光の柱が聳えている。

 

 

「作戦を開始する」

 

 

通信傍受装置をしまい込み、次いで取り出したのは注射装置にも似た小銃と、蝙蝠が紫色で描かれた小型のボトル状の物体。

小型の物体を影は手首のスナップを利かせて数回振る。

 

カチャ、カチャ、カチャ。

 

物体の内部に透けて見える蓄えられた紫色の固形物が、小気味良い音色を作り出す。

 

物体に取り付けられた、上部の蓋を回して絵柄と同じ向きに揃え、小銃のストック部の代わりに取り付けられているスロットへ物体を装填する。

 

【バット】

 

内蔵された機械音声がそのボトル状の物体の名称を呼ぶ。

恐怖を想起させるバックグラウンド、夜に蠢く怪物とも云うべき旋律(メロディー)が場を支配する。

 

「............」

 

影は静かに言葉を口にした。

それが引き金となり、機械音声がその行為をコールする。

 

 

【ミストマッチ】

 

 

銃口からドス黒い煙が吐き出される。

科学物質を含む有害な煙を模して、影を呑み込む。

 

 

【バット......バ、バット......FIRE!】

 

 

花火が黒煙の中から爆ぜ、散らしていく。

そこに在るのは羽を広げる、夜の蝙蝠の姿だった。

 

 

 

 

「高エネルギー体、ガングニールの装者へ急速に接近中!」

 

「翼さん、連絡がつきました。ガングニールの装者へ移動を開始。速度予測、5分で到着予定」

 

不報が一つ、吉報が一つ、風鳴弦十郎の耳に入る。

オペレーター室は今、目まぐるしい数の情報を処理する事で精一杯だ。

 

 

「おいおい、あの高エネルギー体、もうすぐガングニール装者の所へ着くぞ!」

 

モニターには、もう一つのガングニールがノイズを拙くも倒している姿が映っていた。素人らしく力に身を任せてがむしゃらに戦う少女。

 

そんなヒーロー映画じみた土壇場の応酬劇は、5mはあろうとしているノイズを頭上から急降下し一撃で仕留めた怪人によって幕が閉じられた。

 

 

《あなたは......誰なんですか?》

 

ガングニールの少女は恐る恐る問う。

対して怪人は機械で調った低い声で答える。

 

《ナイトローグ。お前達、シンフォギアを奪う者だ》

 

《何を言って......》

 

 

手に持っている銃を少女の顔に照準を合わせて、威圧し、言葉を遮る。

それは少女を含めた特異災害対策機動部2課を目的とした宣戦布告だった。

 

「いかん! 翼はまだか!?」

 

「後2分です! このままじゃやばいですよ!」

 

ガングニールの少女は初めての戦闘。右も左も分かっていないこの時を狙って、シンフォギアを奪う。

単純かつ効果的な手際の良い作戦に、風鳴弦十郎は奥歯を噛むしかなかった。

 

「これじゃあ八方塞がりじゃないか! どうすれば......ッ!」

 

一人のオペレーターが張り上げた声は不自然に途切れ、コンソールが高速で叩きつけられていく。

 

「どうした?」

 

風鳴弦十郎は、余りにも目立つ行為につい口を出してしまった。

 

「新たな生体反応あり! ガングニールの近くです!」

 

「何っ!?」

 

 

《おっと、それ以上はいけないかな?》

 

怪人の周りに火花が飛び散る。

硝煙が晴れると、ガングニールの少女の側に一人の男が立っていた。

 

「今の映像を元に、人物を照合完了。正面モニターに表示します」

 

紫色の銃を持った狐目の面長な顔つきの男の横に並べられたのは、個人情報。

名前は『葛城 巧』。城南大学に所属していた学生。

風鳴弦十郎は、次の一行に目を疑った。

 

「これはどういう事だッ!?」

 

20X X年 X月X日、ツヴァイウィングのライブにてノイズ事故に巻き込まれ死亡。

 

 

《貴様。邪魔をする気か?》

 

「死んだ者が蘇ったの? そんな事有り得ないわ」

 

《当然だ。幼気なお嬢ちゃん達を見過ごせる訳が無い》

 

「いや、実は生きていて死で隠蔽したとなれば、それも可能だろうけど......かなりの無理筋だ」

 

《ほざけ、変身出来ない貴様に俺やノイズを倒せるものか》

 

「あの場にノイズは大量に居た。天羽奏の絶唱が、全て討ち払った。けど、救えなかった命は決して少なくなかった」

 

《いや、俺は倒さないさ》

 

「その中で馬鹿げた奇跡を起こせる者が居たとしたら。それこそがあの存在だとするならばッ!」

 

 

オペレーター達の口々に紡ぐ推測が、一つの単語を浮かばせる。

ライブ事件にて乱入した命知らずの戦士。

擬似聖遺物【ボトル】の所有者にして、未だ謎多き人物。

 

その謎を解く鍵を持つ葛城 巧の周囲に居たノイズが、生命の匂いを嗅ぎつけて身体を紐状に変形させて突撃する。

 

《俺達が倒すからな》

 

【スマッシュスラッシュ!】

 

何者かによってノイズの紐は断ち切られていく。

けたたましい上空からのネイロ。龍の鼓動を掻き鳴らす戦士の名は。

 

「それが、ビルドかッ!」

 

《成る程仮面ライダーか......久しいな、その姿は》

 

 

蝙蝠が羽ばたく紋様を胸の装甲に刻み、黄色のバイザーが目立つ仮面を被ったナイトローグと呼ばれた怪人は、感慨深そうにビルドを見ている。

 

《よぉ、久しぶりだな。ナイトローグ、いやセント》

 

《その名もまた久しいな。仮面ライダーを受け継ぎし者、バンジョウ リュウガそして葛城 巧よ》

 

これまでの喧嘩腰の言葉の応酬は、ナイトローグの勢力と仮面ライダー、葛城 巧達の勢力が敵対している関係という事を示唆している。それが司令部の認識だった。

その様子を逐一モニタリングし、場に適している情報を収集していた一人のオペレーターが報告をする。

 

「風鳴司令、先程の会話に含まれていた人物名でしたが、戸籍情報を調べたものの『葛城 巧』以外の該当する人物はいませんでした」

 

「偽名......という事か?」

 

「それが、特殊な検索方法で暗部の方を調べてみた結果、面白い情報が出てきまして」

 

 

新たに一人の男性の顔写真がモニターに表示される。

明るい茶髪に三叉に編み込んだ後頭部が特徴的な髪型、太い眉毛にギラギラと闘争本能に従いそうな眼つき。アウトローという言葉が似合う顔だ。

 

「あら、弦十郎ちゃんに似て漢らしい顔付きじゃない。私は好きよ、こういうの」

 

真っ先に食い付いた櫻井了子女史。

「............まぁ、話したいのは顔の好みではありませんが」オペレーターは会話を続ける。

 

「彼は、ある場所でこう呼ばれているんです。1年半前から急に現れた超新星、荒々しい怒涛の攻めを駆使して、相手から勝利を捥ぎ取る。そのバトルスタイルと全勝無敗の記録から、最強無敵の龍『万丈 龍我』と呼ばれているそうです」

 

「名前は確かに一致しているが、言い切るという事は他にも根拠があるのだろう?」

風鳴弦十郎は確信を含んだ相槌を打つ。

 

「『葛城巧』の血縁関係を洗い出していたら、従兄弟と登録されていた『佐藤太郎』という男性の顔写真が髪の色以外一致していた。面白い偶然でしょう?」

 

「出来過ぎているな。綺麗な花の貌に、誘い出されているようだ」

 

「彼らは我々の生体センサーに反応しない速度で移動する技術を持っています。ここは翼さんに情報を伝え、慎重に行くべきだと私は思いますが」

 

「あぁ、俺も同意見だ。ここは、彼女に任せるとしよう。これだけの謎と鍵を揃えてきてくれたら、解くというのが筋だろうよ」

 

モニターには風鳴翼の信号が、工業地帯のすぐ側まで迫っていた。

 

 

 

 

工場地帯。

ノイズが少女達を襲っていたのは、ほんの数分前のこと。

今や場の主役は、二人の怪物と一人の科学者、そして二人の少女だけ。

周囲にはノイズがいるが、動き出す事はない。

動き出せば瞬く間に灰になることを、ノイズは分かっていない。しかし、ノイズは動き出せなかった。理由は単純明快だ。

 

仮面ライダービルドがボトルの力を解放した。ただそれだけの事だ。

半径20m程を断ち切り、安全な空間を展開すると同時にエネルギーの鎖が地面へノイズを地面に縫い付けている。

 

ナイトローグも地面から繋がれた鎖に手を胴体へ巻き付かれている。

 

「ビルド、その子を頼む。できれば安全な所まで」

 

「分かった。巧、例のサンプルだ、採取するの結構大変だったからな。後で何か奢れよ」

 

仮面ライダービルドは葛城巧に一つのボトルを投げ渡す。

それを受け取った葛城巧は興味津々な表情を作り出した。無邪気に口角が釣り上がり、後頭部を銃を持っていない手で頻りに掻く。

 

仮面ライダービルドがわざとらしく大きな咳払いをする。

葛城巧はその手を止めた。

 

「......考えておく」

 

申し訳なさそうに仮面ライダービルドへ目配せをする。

仮面ライダービルドはその目線を察して少女達へ近づく。

 

「いくぞ......えっと、少女Aと少女B」

 

仮面ライダービルドが少女達を両脇に抱え、超人的な跳躍力で工場の建物の上へと避難した。その際、ガングニールの少女が「私、立花響って名前がぁぁぁあァありィィィますぅう〜ってばァぁぁぁあ〜〜ゔぇっ」と絶叫していた。

 

 

「という訳で、話を続けようかナイトローグ?」

 

葛城巧は笑う。

科学者が見せる不気味な笑みでも無く、晴れ晴れとした屈託の無い笑顔がそこにはある。

 

『くくっ、たかがボトルが増えただけで、何が出来る!』

 

ナイトローグは嗤う。

この場に於いて、ただの人間は無価値だと。なのに、未だ戦意を此方に向けるのかと。

 

「出来るものがあるのさ。まぁ臨床実験は試してないけど」

 

葛城巧は透明感のある白に青色の歯車が大きく露出したボトルを、紫色の銃のスロットへ装填する。

 

 

【ギアブレイド!】

 

 

紫色の銃は手拍子に似た蒸気機関の音を発しながら、ボトルの名前を告げる。

 

葛城巧は先程と造形が似通ったボトルを懐から取り出す。仄暗い黒に極彩色の歯車と、細部が異なっている。

装填されているボトルを引き抜き、その新たなボトルを装填する。

 

 

【ギアノイズ!】

 

【ファンキーマッチ!】

 

 

銃から新たなボトルの名前を告げ、更に追加された音声を聞き、葛城巧は嬉々として頭を掻く。

 

「最っっ高だ! カイザーシステムとシンフォギアシステムのマッチングが成立した!」

 

ただの子供の様に喜んだ。

世紀の発見みたいに興奮を隠しきれず、葛城巧は呼吸を浅くしていた。

 

『それで』

 

ナイトローグは平静を保とうとしていた。

蝙蝠の鉄面皮から止め処なく溢れて出ていく罵倒が、彼自身止められそうには無かった。

 

『それで、俺を倒せるとでも思っているのか。たかがデッドコピーにしか過ぎない古ぼけたシステムで、どれほどの改良をしようとも、中身が悪ければ意味がない』

 

つまり、机上の空論。

言うまでも無い絶望を、ナイトローグは押し付ける。

 

葛城巧は未だ手拍子が鳴る銃をナイトローグに向ける。

その眼は、希望に満ち溢れたかの様に輝いている。

 

『くくっ、やってみるがいい』

 

「潤動!」

 

葛城巧は引き金を引いた。

 

【Fever!】

 

銃口から灰のような黒煙が放出される。

葛城巧の体を漆黒で包み込んで、全貌を隠していく。

蒼白の稲光が瞬き、否、一閃が黒煙を一纏めに吹き飛ばす。

 

【Perfect!】

 

そこに立っていたのは、全身を鉄と白と青に染め上げた人ならぬ異形。

両手足首から生える鋭利な刃は、ナイトローグの陰影を映す。

右腰部に備えられたガンホルダーに、紫色の銃を差し込む。

 

「ストレンジブレイザー、バージョンB(ビー)装着完了(コンバート)

 

側頭部に沿う形で後ろに反った翼のような二対の刃。

顔面部分に青と白にキッパリと縦半分に二分した歯車が取り付けられている。目に当たる部分から覗く赤い瞳。鎖を引きちぎる蝙蝠の羽が映り込む。

 

カチリと、肩装甲に嵌め込まれた歯車が動き出す。

上から青白黒に彩られた積層構造の胸部装甲の隙間から、反響して音を奏で始める。

 

「さぁ、実験を始めようか?」

 

 

旋律の名は、絶刀•天羽々斬。

 

 

 

 

 

 




レポートNO.1ー3 《カイザーシステムとシンフォギアシステムの融合》

この世界に来てノイズの存在が判明した時、ずっと考えていた事があった。
もし、ライダーシステムをシンフォギアシステムと融合出来たならと。
その方針の下、フルボトルから抽出した低量の成分で稼働するカイザーシステムを採用して実験と研究を続けていた。

風鳴翼のシンフォギアの破片を充分取り込んだフルボトルを解析した結果、生成出来た擬似フルボトル【ギアブレイド】を、かつて最上魁星が創り上げたカイザーシステムにネビュラスチームガンへ接続して、バイカイザーを強制的にバージョンアップさせた装備。

異物であるシンフォギアシステムのソフトを無理矢理捻じ込む為、起動実験の最中カイザーシステムにバグを起こし使い物にならなかった擬似フルボトル【ギアノイズ】を咄嗟に組み合わせてみた結果、バイカイザーの装備が呼び出される【ファンキーマッチ】が成立した。

その為、【ギアブレイド】に組み込まれたシンフォギアシステムが本来無い機能をバイカイザーに搭載している。
主に追加されたのは調律機能、バリアコーティング機能、アームドギア自動生成機能の三つ。どれも対ノイズ用に必須の機能だ。

しかしながら、この装備の最もポテンシャルを持っているのはシンフォギアシステムへの最適化機能だ。今は天羽々斬の【ギアブレイド】を使うことでVer.Bを使用可能だが、ガングニールの情報が得られれば新たな擬似フルボトルを使用してまた違う姿へ変化出来る。
ある意味ビルドシステムと似ている事がネビュラスチームガンで出来るのは、とても強みになる。

レポート作成者:葛城巧

追記:バイカイザーだと以前の世界融合事件を思い出す為、以後《ストレンジブレイザー》と名付ける事にしよう。

追々記:胸から流れる風鳴翼が歌う曲のインストゥメンタルから別の旋律に変えれるか、試しに電子ダウンロードした曲を入れて再生する実験を行うことにした。

まぁ、見事に失敗で終わったけど。

取り敢えず曲だけ入れておくだけ入れておこう。急に使えるかもしれない。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。