戦姫創造シンフォギア   作:セトリ

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雑音と不協和音、調律し奏でる歯車

私は失意の底に居た。

 

 

 

 

その手に持った花束は誰かのもの。

 

 

 

 

私は墓場に居た。

 

 

 

 

既に居なくなった者。

 

 

 

 

私は泣いていた。

 

 

 

 

たとえ、世界を救ったとしてもこんな結末じゃ。

 

 

 

 

私を土砂降りの雨が慰めている。

 

 

 

 

名もなき墓石に添えられた写真立て。

 

 

 

 

私は写真に写る、たった一人の大親友の名前を呼ぶ。

 

 

 

 

途端、雨が止んだ。

 

 

 

 

それはコンビニで売っているビニール傘。

 

 

 

 

何故ここにあるのかと私が振り向くと、傘を差している誰かと目線が合う。

 

 

 

「よっ」

 

 

 

 

 

 

 とても頭が痛い。

 今になっての事じゃないが、俺はこの現象に悩まされて続けている。目の奥から脳を掻き出されるかのような耐えがたい痛みは、断続して俺を蝕む。心配させないよう万丈には言ってあるが......大体この現象が起きる時は、過去を見た時だ。

 

 時、場所を問わずに突然過去に体験した場面がフラッシュバックした後、頭痛が起きる。

 

 とても厄介だ。

 戦闘中に起こったら取り返しのつかない事になりかねない。

 

 二課には持病の偏頭痛だと言ってはあるものの、この言い訳がいつまで続くか分からない。取り敢えず市販の頭痛薬は飲んだ......が、ズキリと痛みの程度が収まってきている頭を動かして、壁掛け時計を見る。針は夜の9時半。随分と夜更かしをしてしまった。

 

 頭痛のせいで止まっていた作業を終わらせようと、目の前にあるデスクトップPCの画面を眺める。複数のウィンドウが開きっぱなしの画面には、数式がびっしりと書き込んである。

 

キーボードに十の指を滑らせ、数式を更に繋げていく。

 

 最後にEnterキーを押して、PCに繋げていた機械へ内部データをアップデートする。これまでの一ヶ月に得た、戦闘データが書き込まれていく。

 

「これで完成だ」

 

 機械に付いていたケーブルを外して、俺は機械を腰に当てる。

 銀色のアジャストベルトが腰に巻き付き、機械が駆動し始める。

 

「計画がまた一歩進んでいく......待っていてくれ立花響」

 

 机に置いていた二課専用の携帯端末にコールが鳴った。

 それが示すのは一つ、ノイズの発生だ。

 

 

 

数分後。

 

 

 

「葛城巧、到着しました!」

 

 二課本部に着き、オペレーターに挨拶を交わして風鳴司令の元へと向かう。

 

「葛城君か。万丈君、立花君、翼は今現場へ到着してノイズの対処をしている」

 

「巧ちゃん、バイクでかっ飛ばして来たの?」

 

「法律は守りましたよ」

 

 風鳴司令は現場の図面が広がるモニターから目を離して現状を話してくれる。

 現在、俺は後方支援を任されている。変身が5分程しか持たないからだ。

 一方の万丈はクローズで前線の援護をしている。ビルドドライバーには試作のフォニックゲインキャンセラー機能を搭載、想定では1時間まで延長が出来ている。

 

「司令、あの二人は如何ですか?」

 

「一ヶ月経っても、噛み合わんな。万丈君が立花君をフォローしてくれているお陰で何とかなっているが、な」

 

 モニターには敵の攻撃から逃げる立花を、直撃しそうなものだけをビートクローザーで薙ぎ払う万丈。それを意に返さず、ノイズを殲滅していく風鳴。三者三様にバラバラに動いている。チームワークなんて無いに等しく、纏まっていない。

 

「纏まっていない理由は分かりますけどね。それを言ったとして、互いに理解し合う心が無ければ届かないでしょう」

 

 難しい顔をしている風鳴司令は、一つ溜め息を吐く。

 

「うむ、こればっかりは時間が解決するのを待つしかないか」

 

 ノイズの反応が消えたモニターを切り、作戦終了を伝えようと通信端末に手を掛ける。

 

『貴女と私、闘いましょう?』

 

「何をやっているんだ、あいつらは!?」

 

 恐れていた事態だ。

 立花が風鳴に......剣を向けて挑発している。しかも戦う気満々だこれ。

 万丈は止めようとしてるけど、風鳴のあまりの剣幕に圧倒されて止め切れてない。うん。司令も呼びかけて止めようとして拉致が開かない......あっ、通話が切れた。

 

 「あらぁ青春真っ盛りね」と櫻井博士が嬉しそうにしている。出口を確認すると出掛けようとした風鳴司令と目が合い、彼は只一言だけを発した。

 

「司令、どこに行くんですか?」

 

「誰かがあのバカどもを止めなきゃいけんだろうよ」

 

 説得力だけがある一言に、俺含めた周囲が押し黙ったまま見送る。いや、「こっちも青春ね」って櫻井博士......相当信頼しているな、こりゃ。

 

 まぁ、その後は想像通り。風鳴司令が出撃して事態は収束した。その過程で天然人間兵器というものを目にしてしまった訳だが......後に直接見た万丈へ聞いたら、「発勁で掻き消したって、何だよ......只の化け物じゃねぇか」と武者震いをしながら現場の様子を語ってくれた。

 

 様子を聞くに、大分と風鳴は思い詰めているな。立花は自分の意志を見出せないし、こりゃ先に立花へ話を聞いた方が良いか。

 

「サンキューな、万丈」

 

「おう。この後巧はどうするんだ? 俺はシュミレーション室に篭るけど」

 

「響のところへ行ってくる。......万丈、これ持っとけ」

 

 懐の天羽々斬のフルボトルを万丈へ投げ渡す。俺が持っていても、宝の持ち腐れだ。

 

「これ、良いのかよ」

 

「そろそろボトルの変化があっても良い頃だ。その為にもお前に預けた方が都合が良さそうだしな。それに必要なデータは取り終えた」

 

 ズボンのポケットに仕舞った万丈は、もう一つのゼリー飲料を入れるパウチの様な物体を取り出す。『ドラゴンスクラッシュゼリー』と英語で書かれたパッケージ。あれは新型ドライバー用に調整した、スクラッシュゼリーと呼ぶ物。

 

「じゃぁ、もう新型ドライバーは造れたのか?」

 

「まだ実戦に耐えれるかどうか分からない。それに万丈、お前ハザードレベル足りてないだろ」

 

 新型ドライバーには欠点が二つある。

 一つ、フォニックゲインキャンセラー機能が搭載出来ない。そもそもの戦闘データが無いからだ。

 新型ドライバーを扱うにはハザードレベルが4必要になる。本来なら万丈も使える筈なんだが、フォニックゲインによるハザードレベル低下で必要レベルをすぐ下回ってしまう。

 

 ある程度の時間使えれば、フォニックゲインキャンセラー機能を搭載しなくてもスクラッシュゼリーによる感情の高揚作用でハザードレベルは必要レベルを維持できるんだが......感情が爆発すればその分意識が暴走するリスクを背負う。これが二つ目の欠点だ。

 

「巧。俺は、覚悟出来てる」

 

「なら今は、その覚悟を胸に秘めておいてくれ」

 

「分かった」

 

 渋々と納得がいかない顔をしながら、万丈は足早にシュミレーション室の方へ去っていく。俺は見送り、立花響の居そうな場所へ向かう。

 

 

 

 

 目標の立花響は結構直ぐに見つかった。

 休憩室でコーヒーを手に持って、沈んでいる様子だった。近くまで来ても気付かず、心を何処かに置いてきているようだ。

 

「お疲れ様」

 

「うひっ! あ、あはぁ、い、いつの間にそこに居たらっしゃってるのですか?」

 

 一言彼女に挨拶を交わすだけで、目を白黒させてドキマギしている。

 

「ついさっきだよ。そんなに驚かなくても」

 

 その目元は腫れて、眼も血走っている。

 ......まぁ、彼女は優しいからあそこまで言われると凹んでしまうのはわかってはいた。

 

「............見ましたか?」

 

「いや、全く」

 

 乙女の涙なんて見たく無いし、そもそも誰かが泣いているなんてのは見たくないのが本心だけども。

 

「葛城さん、本当にアームドギアって有るんですか?」

 

 突拍子のない質問。

 アームドギアを出せなかった事が彼女に悔しさを与えているといったところか。そもそもアームドギアとはシンフォギアに搭載された、戦う為の補助機能。

 様々な武器を模しているのは戦う為の手段としているからだったか。それを彼女は出せないから、風鳴翼に戦う気が無いのかと言われた訳だけども。

 

「アームドギアか。立花さんは本当にそれが必要だと思っているの?」

 

「え? じゃなきゃ戦えないですよ」

 

 覚悟ってのは心に従って決めなきゃ意味がない。

 立花響の心は意志と本音が乖離してあやふやだ。

 

「建前じゃないの、そんなの。戦う事は絶対誰かを傷つける、相手や自分に関わらずに」

 

 守る為には、自分の身を犠牲に。

 攻撃するならば、相手の身を犠牲に。

 全てを守るなんて事は絶対に出来ない。神でない限り、付き纏う人の性。

 

「だったら、誰も守れない」

 

 その事実を彼女は目を逸らし、否定した。

 自分自身が納得出来る答えを持っていないから。

 

「ノイズを倒せないと人を守れない。なのに、アームドギアが出ない。翼さんにこんな足手纏いは要らない。まともに戦えない。私が......ここに居る意味って無いような気がしてる」

 

 絞り出された力の無い声に乗せられたのは、彼女の止め処ない弱音だった。

 重い一言一句。心が折れかけているのは、一目瞭然。

 

「居場所はあるよ。戦わない勇気って誰もが持っているものじゃない。アームドギアは戦う意志の体現なら、戦わない意志の体現は手を広げることだ。立花さんは手を広げたいのに、手を握り締めるなんて矛盾しているよ」

 

 ちょっと風鳴翼の言葉を借りて考え方のヒントを伝えてみる。

 これからどうすればいいか。そんな些細な事だ。

 

「戦わない勇気......でも、やっぱり戦わないといけない。そんな綺麗事が通用するなんて、世の中は甘くない............」

 

 コーヒーが入った容器を握る彼女の手が当てもなく動いている。

 つい最近まで、ただの一般人だった訳だ。突然戦禍に放り込まれて、心が追いつかないのは分かっている。でも、簡単な事を忘れている。

 

「だったらそんな綺麗事が通用する世の中にする為に、戦えばいいじゃん」

 

 自分らしく振る舞って、自分の歩幅で歩けば良いのだ。

 答えって案外近くにあるもの。俺がラブ&ピースを掲げているのも、結局はこういう事だ。

 

「誰かに言われた事でもなく、自分でやりたい事をやっていけば最終的に上手くいくもんさ」

 

 俺は自分なりに笑顔を彼女へ向ける。

 少し間を置いて、ポツリと彼女は喋る。その眼には覚悟が灯っているように見える。

 

「......私、ずっと今まで人助けをしたいって思ってた。奏さんが助けてくれたから、胸に刻んだ奏さんの遺志を引き継ごうとしていた」

 

 言葉を紡ぐ度に、彼女の暗かった表情が少しずつ和らいでくる。

 

「生きるのを諦めないでって......懸命な姿が今でも思い浮かびます。だからこそ、目の前の人々は助けたいって思ってるんです」

 

 弱々しい声に張りが出て、芯が通った声に変わっていく。

 

「私は......私がやりたい事をやってみますッ! だからこれからも見ていてください、葛城さんッ!」

 

 そうやって目が合った彼女は眩しさを伴い、記憶の中にある人物と重なって見える。大切な人、意志を強く持った覚悟ある人と。

 

「ならば、見てやるとも。立花響、君の行く末をね」

 

 俄然、立花響には期待を込める。

 計画にはやはり君が必要だから。

 

 

 

 

 

 

 沸き立つ破壊衝動。

 俺はそれを解消する為に、戦闘シュミレーション室で鍛錬を行う。

 

 クローズに変身すれば、その度に戦いを拳が求めている。

 ネビュラガスの副作用という事だろうか、そこら辺りの詳しい事は全く分かんないけれど。エボルトがフェーズ4に移行した時に暴走した感覚と似ている。

 

「まぁ、こうストレス発散がてら身体動かすのは気持ちが良いな」

 

 あんま、考え込み過ぎるのも嫌だしな。

 それにしても、さっきの風鳴のおっさんの震脚?だっけか、凄かったな。俺も試してみようかな.....よし、やってみよう!

 

「ふっ、はっ!」

 

 確か呼吸を整えて、吐き出すと同時に強く踏み出す!

 

「ふっ、はぁっ!」

 

 力入れ過ぎて足がイテェ。

 ......あっ、ちょっと地面が割れた。でも、こうじゃないよな。おっさんがやっていたのはこう、地面をガバァって捲り上げるような感じで。

 

「てぇい! やぁっ!」

 

 大地を感じて......全身の筋肉を踏みつける行為に使用する。

 振り上げた右足。その足に体重を掛けるんじゃなくてその足に繋がる脹脛、太腿、股間、丹田、背筋、腹筋を意識。踏みつけるという一点の行為に対して、肺の空気を全て吐き出す。

 

 そして、衝撃を地に伝える事を意識して踏みつける!

 

「破ぁっ!」

 

 グニャリとした不思議な感覚の後に轟く破砕音。

 そして、腰の所まで隆起した地面。震脚、成功したっぽい。足痛くないし。

 

「よしっ、じゃあ次はクローズで...........うん?」

 

 敏感になった感覚が人の気配を察知。シュミレーション室の入口へと顔を向けると、驚いている翼が居た。

 今の時間帯彼女が使う時じゃないのに......そっか、俺と似た理由で来たのかもな。あんなの見せられたら、居ても立ってもいられないもんな。

 

「よっ、翼。あんたも鍛錬しにきたのか?」

 

「貴方には関係ない。けど、似たようなもの」

 

 いつもなら気安く名前で呼ばないで、とか嫌がっているのに今回はそれを無視して部屋の中心にいる俺の反対側まで歩いていく。

 

 

「ビルドとは、私が忌むべき存在だった」

 

 一歩一歩、戦場に向かうかの様に戦意を込めている歩行。

 

「奏を奪った存在を忘れる事は片時も無かった」

 

 凛として、鈴の音色に似た声音は徐々に怒気を孕んでいく。

 

「皆、大切な人を守ろうと散っていった。大切な人を残して、自分だけを犠牲にして」

 

 自分の不甲斐なさを恥じ、無力さを、後悔を、自分に向けた怒りとしている。言葉から滲み出る寂しさは、きっとそうなのだろう。

 

「ビルド。貴方が幻ではないのなら、お手合わせをしていただきたい」

 

 深紅のギアペンダントを掲げて、翼は俺にそう志願した。

 ここで戦えと、でなければ心が死んでしまうと言っている気がした。

 

 なら、断る必要もない。

 

「いいぜ。吹っ切れるなら、身体を動かした方がいいからな」

 

 フォニックゲインを纏うシンフォギアの攻撃に対して、通常のクローズだと装甲が溶けて無力化されてしまう。もしシンフォギアと対峙する時があれば、こっちもフォニックゲインを纏う必要がある......だっけか?

 

 天羽々斬のフルボトルを軽く振り、キャップを開いて変身待機状態のクローズドラゴンに挿入する。腰に既に着けたビルドドライバーへ装填、レバーを回し、ファクトリーを展開する。

 

「......互いに天羽々斬、か。ゆくぞ、ビルド!」

 

【imyuteus amenohabakiri tron】

 

 澄み切った声に反応してギアペンダントが光り、彼女に天羽々斬のシンフォギアが瞬時に纏われていく。その間に、天羽々斬の成分で構成された青い鎧が完成。覚悟はあるか?(Are you ready?)と問う言葉に、俺は気合入れてファイティングポーズを取り、叫ぶ。

 

「変身っ!」

 

 ファクトリーが連動、前後から鎧を挟み込む様に動き、俺と一体化してクローズを創り上げる。今回は天羽々斬を使った為、本来オレンジ色のファイヤーパターンが描かれたドラゴンの翼が真っ白になっている。

 

【Wake up burning GET CROSSーZ Dragon year!】

 

【警告:シンフォギアフルボトルが装填されています。内部にフォニックゲインが浸透している為、フォニックゲインキャンセラー機能が無効化。ハザードレベルが低下し始めています。現在ハザードレベル5.7迄低下、変身可能時間は2分43秒です】

 

 長ったらしいシステムボイスが流れ。そして、聞き飽きた伴奏。彼女は太刀を構え、唄う。

 

(はやて)を射る如き刃 麗しきは千の花 

 宵に煌めいた残月 哀しみよ浄土に還りなさい…永久(とわ)に」

 

 動き始める様子はない。カウンター狙いか、それとも集中が切れる一瞬を狙う為にフォニックゲインを上げているという訳か?

 俺もビートクローザーにドラゴンフルボトルを装填、エンドグリップを3回引っ張り、現在出せる最大火力の必殺技を放とうと構える。

 

 ビートクローザーから流れるアップテンポの待機音声。剣に青い炎が灯り、剣全体を包む。

 

【警告:フォニックゲインの上昇により、変身可能時間が減っています。急速な減少に対応。新規のカウントを表示します】

 

 モニターのカウントダウンが1分を切っている。巧が言ってたな、聖遺物フルボトルは同じ聖遺物が近くにいると互いに増幅していくって。

 

「慟哭に吠え立つ修羅 いっそ徒然と雫を拭って 

 思い出も誇りも 一振りの雷鳴へと」

 

 試してみる価値はある。

 

「去りなさぁぁぁぁいッッ!」

 

 剣が動く。絶叫。軌道を見る限り、シンフォギアが引き上げる脚力に任せて、中段から真っ向に斬りかかるつもりだな。

 

 残り時間30秒足らず。

 

 俺もビートクローザーをその軌道にかち合わせるように振る。

 

 残り時間28秒。

 

 剣と剣がぶつかり合い、鉄塊を素手で殴ったみたいな反動が手に返ってくる。ただひたすらに重い斬撃。いなす事は出来ない。鍔迫り合いに持っていくのが精一杯だ。

 

 残り時間20秒。

 

 膠着して、牽制をする余裕すら無い。

 互いに一歩も引けない。ただ有るのは剣に乗せた想いのみ。

 

 残り時間15秒。

 

 剣から伝う感情は、心の根底にある悲しみの渦。彼女を闘いへ突き動かす覚悟はその中心から覗いている。

 

 残り時間10秒。

 

 一度目の闘いの最後、フォニックゲインがハザードレベルを下げて一時的に足が動かなくなったのを悟られないように気合で動かしていたけど、やっぱり手を抜いてる風に見られていたか。

 そんな事が関係していたとして、なんで死に急いだ顔をしている。

 

 残り時間5秒。

 

 俺がやるべき事が一つ出来た。

 救ってやる。お前の全てを。

 

「うぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 バキン。

 そんな音が聞こえてくる。どちらが折れた何てのは分かるモノか。手に重みが無くなったからと言って、負けたとはいわねぇ。今この時が勝負所じゃないか!

 

ー蒼ノ一閃-

 

「何するものかぁぁぁぁぁ!」

 

【メガスラッシュ!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天井が見えた。

 俺の知らない無機質で覆い尽くされたそれは、視界一杯に広がっていた。

 

 何処までも一面に。

 でも、映っているのはそれだけじゃない。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 

 彼女の顔。

 風鳴翼の、戦士としての覚悟を決めた表情。半分に折れた剣で残心を取り、構えを解きシンフォギアが発光して元の制服姿に戻っていた。

 

「なぁ......ビルドをボッコボッコにしてスッキリしたかよ」

 

 無言で入口に向かっていく彼女。

 死角になって見えない顔にはどういう感情が芽生えているのか。

 怒り、悲しみ、憎しみ。どれか一つだけでも原動力となりえるものが渦巻き、自分では制御出来ないモノとなって知らずに暴走しているなら。

 

「また来いよ。お前に蔓延る幻を掻き消すんなら、何度だって手合わせしてやる」

 

 返事は無く。

 シュミレーション室から出ていく、彼女の背中を見送る。

 右手にある真っ二つに折れたビートクローザーを何気なく見る。これまでの戦いでも折れる事の無かった物。これからの戦いは、一段と厳しくなりそうだ。

 

「ぶっ壊してすまねぇな。戦兎............」

 

 

 




レポートNo.1ー4《創生の使者》

 かつての時代。

 宇宙からの使者がやって来た。

 この地球のどの生物とも似ついていない、我々ともかけ離れた姿をしていた。

 使者はこう言った。

「この星には自然が一杯あった、だというのにこの星にはまだ争いがあるのか?」

 我らはバラルの呪詛により、互いにすれ違い、諍いを起こしていた。

 争い、奪い合い、我々は誰かを犠牲にする日々を送っていた。

 森は焼かれ、川が消え、空は淀んで生きる物は尽く消え去っていた。

 そんな現状に使者は我々にこう言った。

「私が争いを無くし、自然を取り戻そう」

 そうして使者は我々の常識を超える力を振るい、争いを無くし自然を蘇らせた。

 この星は平和となり、蒼い星となった。

 我々は使者に感謝を込め、未来にこの歴史を残す。

 たとえ平和を忘れ争いが起きようとも、使者の名前を忘れなければまた平和が訪れるだろう。

 下記に使者の名前を記す。

 ベルナージュ


原文『皆神山遺跡壁画』

レポート作成者:葛城 巧

 

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