戦姫創造シンフォギア   作:セトリ

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 理解が及ばない事があった。
 其れは、過去に打ちのめされる感覚。

 かつて、味方だった。
 かつて、敵だった。

 あいつは仲間を救おうとしていた。
 あいつは世界を救おうとしていた。

 その手から零れ落ちる命を掴もうとしていた。
 その手から零れ落ちた命に引きづられていた。

 彼は呪われていた。
 彼は英雄であろうとしていた。

 彼が彼である意味を無くしたくないから。
 仮面ライダーという心で在ろうとした。

 彼の苦しみを知る者は、一人だけ。
 誕生日を知っているのは、一人だけ。

 君の役割は誰も知らない愚者だ。
 君の役割は誰もが知る勇者だ。



ブレイクスルー・ポイント・ツヴァイアラウンド(過ぎ去りし残照を追って)

 

 どれ程地下駅を吹っ飛ばされたのか。

 壁や床に激突した回数なんて覚えていない。

 僅かな隙を狙って攻撃を加えても、装甲の硬さに阻まれて通らない。その上で、あっちの攻撃は装甲の硬さをものともせず通る。

 斬撃飛ばしも、ロックフルボトルでの拘束も、剣撃に封印のエネルギーを直接乗せて装甲の弱体化作戦も、全て弾き返される。

 理不尽極まる暴力とはこういう感覚か。

 

『まだ終わっちゃいないよなァ』

 

 今にも力に屈して震え折れそうな脚にまだ力を入れる。

 吸収出来ず、自己再生も追い付かずヒビが入った装甲の下にある、生身の皮膚に食い込む血生臭さが神経を侵していく。

 杖代わりに剣を突き刺し、けれど剣が無かった事に気づかず空を切る。

 崩れたバランスをコンクリートの瓦礫を手繰り寄せて意地でも整える。

 笑う膝を叩いて、絶えない身体の悲鳴を飲み込む。

 

『痩せ我慢をした所で、何も事態は好転しない。そんなの分かっている筈だろ?』

 

 分かっている。

 ああ、嫌という程分かりきってるーーーだから逃げる訳にはいかない。

 

『もっとお前の本気を、心のマグマを見せてみろよォ!』

 

 金色の腕がブレる。よく観察しろ。さっきまでの攻撃を思い出せ。ラッシュから絡め防御姿勢を崩してから、トドメの右ストレートを相手は仕掛けるつもりだ。

 カウンターチャンスはそこしかない。レバーを一回転させて、必殺技のシークエンスを開始、両腕を前に固め防御する。

 

【Ready ーーー

 

 ベルトの電子音が半ば聴こえない程の質量を持って、黄金の拳が腕へ食い込んでくる。

 ショットガンみてえな乱打。一発一発は戦車砲の威力。それを際限なく重ねて、防御を突破するつもりだ。ボトルのエネルギーは後もうちょいで溜まりきる。

 拳に触れた腕部装甲が剥がれ、腕の感覚が麻痺してくる。

 

「負けてたまるかぁ!」

 

 腕、肩、胸、腹、丹田、太腿、脹脛、足。

 襲いかかる威力を順に伝え、地面に浸透させる。

 一発事に舗装された大理石が蜘蛛の巣状にひび割れていく。

 

『良いぜ!良いぜェ!良いゼェッ!なら我慢比べも終わりダァ!!』

 

 ガコン、ガコンと。

 グリスのドライバーの右側に取り付けられた黄色いレンチが下に、連動してスクラッシュゼリーの左右に付いている万力が中央へ向けて圧迫した。

 

【Scrap Blake!】

 

 トドメ。

 スクラッシュドライバーからの、無慈悲な終焉のコール。

 ドライバーへエネルギーを充填するのにそこまでかからない。油断とも呼べない僅かな隙。前に固めたガードの姿勢から、瞬時に腰に当てた右拳を振り抜く。

 

【Dragonic Finish!!】

 

 握った拳の中には、天羽々斬のフルボトル。灼けるように熱いエネルギーは、クローズの鎧を溶解させようと手の内をぐつぐつと煮えたぎらせて黒煙を吐いている。

 

 痛いという感覚を脳に伝えるには、全身の発するアラートが大きすぎた。

 諸刃を思いっきり鷲掴みにして相手の喉元に突き刺す蛮行を許す程に。

 

 フォニックゲインがネビュラガスを駆逐する。

 ネビュラガスを高純度にしたスクラッシュゼリーですら、その法則に抗えないと頭の片隅に置いて。

 

 全力を賭した一撃。

 たった一つのチャンス、顎を打ち抜くつもりの慣れないパンチ。

 ボトルエネルギーを乗せた、蒼龍の炎。牙という剣を突き立てようと右腕を捩じ込む。

 

 ドラゴンブレイズ、ボトルエネルギーで象った龍の幻影の口から振り抜く拳に向けて蒼炎を吐き出す。加速度を増し、元々纏っていた蒼炎を全身に点火させる。

 

 万物を融解させる熱を帯び、必殺は必殺足り得る威力を右拳に宿して、焦げ付く皮膚の嫌な臭いを掻き消して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 グニャリと、柔らかい弾力の手ごたえを感じた。

 

『ネビュラガス製のゼリーッてのはよ。こういう使い方も出来る』

 

 捩じ込んだ筈の拳は顎に到達する前に、頭の穴から流れ出た硬質化しきっていない赤銅色のゼリーの滝に阻まれていた。

 

「クソっ!」

 

 ハマりきった拳を引き抜こうと力を入れる。

 瞬間接着剤で張り付いたみたいに、1ミリもびくともしない。

 

『......これで終わりだ。良かったぜ、お前のその発想』

 

 滝がグリスの足先まで流れ、錆びて濁り切った液体を硬質化する。

 ゼリーを猛烈な勢いで噴射した音を感じた。

 

 強烈な、これ以上にもない浮遊感を伴って、背中から感じる硬いものがぶつかっては消えて、ぶつかっては消えて、明滅を繰り返す。

 やがて縦にブレた景色が地下鉄から星空に変わった。

 

 意識が遠のいていく。

 

 流れる流星群。

 

 暗くなる景色。

 

 最後に今までの比じゃなく灼けて熱く、穴が開きそうな衝撃が腹にーーーー

 

 

◆

 

 

 痛い。

 

 痛い。

 

 痛い。

 

 加わる。暴力。嵐。

 

 黒く、塗り潰す。衝動。抑えきれない。破壊。

 

 歌が聞こえる。

 

 優しい。

 

 悲しい。

 

 彼女の全てを物語る旋律が聞こえる。

 

 誰かの悲鳴。拒絶する。

 

 俺は見ていた。

 

 

◆

 

 

 目を開ける。

 大量の真っ白い鳥の羽が光り輝き、踊り舞う。

 何処からか、音楽が流れ始める。

 

「ここは?」

 

 答えるように青と橙のライトバーが辺り一面を埋め尽くす。

 見上げると透明な十字を繋ぐ柱から光が放たれ満ちていく。

 歓声が巻き起こる。それに乗じてステージ中央にスポットライトが当たり、空に文字がホログラムで映る。

 

 その文字は、葛城が教えてくれたかつての惨劇の舞台。

 

「ツヴァイ、ウィング」

 

 言葉と同時に二人の歌姫が特設ステージ中央へ現れる。

 纏うそれは、白く儚さが形になったような衣(ころも)。

 一人は風鳴翼。

 もう一人はガングニールの前装者、天羽奏。

 二度と組め無い二人が歌い踊り始める。一曲目は逆光のフリューゲル。巧がよく聴いていた曲だ。

 

 夢でも見ている気分だった。実際、何処に居るんだ?

 手持ちにビルドドライバーも、フルボトルも無い。

 幻想、死に際に見せる走馬灯? それかあの世に近い場所なのか?

 

 

 ......考えても心当たりが無い。

 覚えている記憶を辿っても、グリスに負けた事位しか思い至らない。

 

 この景色は何を伝えようとしている?

 もうすぐ曲が終わる。天井も開けて、夕陽が差し込んでくる。

 

 これから起きる事はあまり理解していない。

 巧自身もあまりこの事を語っていなかったから。

 ただ言えるのは、この先は様々な運命を変える出来事。他人口調でしか言えないのがもどかしいぐらい大事な出来事。

 

 歌が終わる。

 両翼を広げた鳥のような決めポーズを崩して、観客へ挨拶をしていた。

 

 一通り終わり次の曲に差し掛かろうとした瞬間、腹の底に響くような重低音を響かせて、地面を破裂させる。多大に秘めた破壊のエネルギーが呻き、舞台を観客ごと豪炎が食い破っていく。そして、ノイズの大群が爆発に乗じて出現する。

 

 ライブ、歌、二人のシンフォギア装者、フォニックゲイン。

 フォニックゲインを高め、一点に集中させて何をしようとしていたのか。

 

 ......風鳴のおっちゃんなら分かるかもな。翼がいる事だし、多分がっつり関わっているんだろう。

 

 ってそんな場合じゃない。ここにはシンフォギア装者だけじゃなく戦兎が来ている筈だ。

 

 大混乱して逃げ惑う観客達。人間を即死させる灰の死神がにじり寄る。

 絶え間ない悲鳴。その中に戦兎らしきベージュとホワイトのロングコートが目に入った。

 

「幻覚か?」

 

 それでも行かなきゃいけない気がする。予感が脚を動かしていく。幸い、人波に邪魔されず動く事が出来た。人間という存在を無視して通り抜けていく幽霊みたいに。

 

 ノイズと融合して崩れていく無機物の舞台。死に間際の断末魔。雪崩れて、潰れて死ぬ誰か。誰もが救われない地獄変。

 

「どこだ」

 

 走る度に命が消える。

 

「どこだ」

 

 どこからか歌が聞こえる。もう時間がない。

 

「どこだっ!」

 

 見つけた。ノイズに追われている。今にも追いつかれてしまう距離だ。それでも向かわずにはいられない。

 

『君は生きるべき人間だ。もう私が居なくても、大丈夫だろう?』

 

 奇跡が起きなければ届かない距離。

 届く筈のない手。伸ばしても擦り抜けていく手。

 ノイズが人を穿つために、体型を捻り鋭利に尖らせて槍と化して飛んでいく。

 矛先はライブ用Tシャツを着た女性。ボブカットのブロンドヘアーとくりっとした灰色の目には怯えが見えていた。

 

『待ってよ......ねぇ待ってよ! まだあなたとやりたい事がいっぱいあるじゃない! ライブを一緒に楽しもうよ......! こんな別れって無いでしょッ!?』

 

 それは死の絶望から来るものではないと、景色が否定している。

 身体に合わないサイズの白衣を着た、淡い青色をしたベリーショートの女性が射線状に立ちふさがっていた。

 

『もっと、キミと、楽しい時間を.......こんなに寂しい気持ちはいつ以来だろうね。でも、これは運命なんだ。君を守るための大切な事なんだ、わかってくれるね』

 

 白衣にノイズの槍が突き刺さる。

 いとも容易く生命を奪っていく兵器は、今この瞬間をもって簡単に彼女の生命を奪っていく。

 

『......なんであなたなの』

 

 ノイズが生命を消した証拠である灰が風に乗って舞う。

 そいつが生きていた骨も、肉も、身につけていたものでさえ全てを塵となって、陰からノイズの槍の2射目が発射される。

 

「何を見せようとしてやがる。この世界は!?」

 

 胸糞が悪い。こんな現実をまざまざと見せつけられ、手の届く範囲でさえ守る事、戦う事の手段が奪われて、ただ傍観するしか無い自分に。

 

 今だって生命が奪われるんだ。さっき見た姿が戦兎じゃなかったとしても、それを、今を傍観するだけの理由にならない。

 

ーーーーー俺は、俺である限り。万丈龍我という男は、こんな事でへこたれてたまるか。

 

 力強く叫ぶ。

 たった四文字しかない、覚悟と誓いの言葉。

 

 灰が流れ込んでくる。

 生命のかけらが、想いが、俺の中に創られていく。

 

 奇跡が創造される。

 

【Are you Ready?】

 

◆

 

 灰に輝く赤と青の軌跡。

 瞬く間にノイズは散り散りと炭素に変換され、兵器の役割を放棄した。

 目の前で移り行く状況に追いつけず、腰が抜けてへたりこんでいる女性を見て赤と青の二色は「......大丈夫か?」と心配する。「ひっ」と彼女は返答した。

続けて手を差し出しても、彼女は震えて動かない。

 

 パニックを起こしている彼女の目には、奇妙な物体がノイズに見えていた。

 戦車と兎に見える二つの複眼には、初めて見るものに対して怯えている姿に見えていた。

 

 赤と青は恐怖を取り除く為に、腰に取り付けられた機械から二つ小さな部品を外す。全貌が赤と青の光に包まれる。

 数瞬の閃光。

 眩い輝きを晴らし赤と青を脱いだそれは、人間の男だった。

 クリームとベージュが不平等に散りばめられたロングコートを羽織った、不敵な笑みを浮かべる成人の男性だった。

 

「あなたの名前は?」

 

 男性は頭を軽く手で掻き答える。

 

「キリュウセント。君たちを救いに来た」

 

 そう名乗った男は何処からか銃を取り出す。

 濃い橙色のガンバレット、ガトリングに似た小型の回転砲身。銃口の上には砲身と同じ色をした鷹が赤い眼を睨ませていた。

 

 ホークガトリンガー。その名前を知るのは、もう彼しか居ない。

 

 ガンバレットを上から下へ勢いよく叩く要領で高速に回していく。

 回転砲身が連動して回り、10刻みで機械音声が読み上げる。

 

【ONE hundred full bullet】

 

 100と名打たれた特殊弾丸は、キリュウセントの手によってノイズに照準、発射が行われた。鳥のように自由自在に飛び、ノイズだけを貫通して炭に戻していく。

 

「早く逃げろ! 奴らが来る前に!」

 

 その声にやっと状況を把握して冷静さを取り戻した彼女が、安全な場所へ逃げていこうとする姿を横目にキリュウはコートから大型の缶を取り出す。炭酸清涼水に似たパッケージには、戦車と兎が向かい合い二つの眼に見えるデザインが施されていた。

 

 数回缶を振り、内容物を撹拌する。

 シュワ、シュワと場に似つかわしくない涼しげな音が周囲に響く。

 

「......多分中心の怪物を生み出している奴が心臓か。一気に叩く!」

 

 缶上部のプルタブを引き出し、内部に隠されていた赤と青のキャップを下部に押し出して露出する。内容物が励起して眼のデザイン部分が発光、炭酸の弾ける音が聞こえる。

 

 そして、腰の機械に空いてる場所二つを埋めるように缶を装填する。

 

【ラビットタンクスパークリング!】

 

 ベルトに内蔵された機械音声が高らかに缶の名前を叫び、変身待機状態に移行する。いつものように機械に取り付けられた赤いレバーを握りしめて回す。

 

 機械から生成された歯車の枠が右斜め半分に分かれてキリュウの前後を挟み込む。歯車の中心には気泡が入った液体が機械から人の型に流し込まれて固定されていた。

 

 前には赤い半身。

 後には青い半身。

 

 それぞれが噛み合う事を前提とした歪な形。

 

【Are You Ready?】

 

 形成が終了した事を告げる機械音声が鳴る。キリュウは握った右手を顔の横に、手刀の形に開いた左手を顔の前に持っていき半身に構える。

 

 戦うと決めた意思を表明する為に取ったポーズ。

 次にキリュウは理想の為に命を賭す覚悟を示す言葉を発した。

 

「変身!」

 

 歯車が動き始める。

 噛み合うのは、彼が兵器へと身体を変える鎧。

 

 赤い眼と青い眼。

 縁取り、隙間から漏れ出る白。

 手足、胴、顔を覆う赤と青と白の装甲。

 その合間を黒が覆い尽くす。

 

【シュワと弾ける! ラビットタンクスパークリング! イェイイェーイ!!】

 

 場違いな明るさの機械音声。

 右斜めに分断された歯車。それを繋ぐように一本の線が繋がり、キリュウが創り上げたシンボルマークになる。

 

 その意味はビルド。

 仮面ライダービルド。

 

 人々の平和を守り、人々の愛を胸に戦う者の紋章を背に、綺麗な歌が聞こえる中心部へと強化された脚力で跳んだ。

 

◆

 

砂嵐の中。

 

痛み。

 

痺れ。

 

黒く、塗り潰される理性。

 

雑音、誰かの歌。

 

◆

 

 目を開ける。

 LEDライトの冷ややかな白い光が視界の大多数を占めていた。

 

 鼻腔に酷く薬の無機質な匂いが通り抜ける。

 規則正しい電子音。左手に繋がれた点滴。右手の包むギプス。口元の医療用酸素マスク。

 

 グリスに負けた。

 この見る限りの身体の惨状は、グリスに負けたから生まれた事だと理解した。同時に誰かに救われてここに居るのだとも理解した。

 

 一体誰かが救ってくれたのかは、考える気にもならなかった。

 浮かされた熱に頭は普段よりも動いていない。

 

 眠い。

 とても眠い。

 

 また目を閉じて、傷ついた身体を癒そう。

 さっきまでの夢の続きを見よう。

 

 きっと今度こそは彼女を救えると信じて。

 

◆

 

 痛い。

 

 痛い。

 

 痛い。

 

 加わる。暴力。嵐。

 

 黒く、塗り潰す。衝動。抑えきれない。破壊。

 

 歌が聞こえる。

 

 優しい。

 

 悲しい。

 

 彼女の全てを物語る旋律が聞こえる。

 

 誰かの悲鳴。拒絶する。

 

 俺はまた、見ていた。

 

◆




 時代をゼロから始めよう。

 時は西暦2000年。
 新世紀に訪れるは、太古から蘇りし大いなる闇。
 地球に繁栄せしめる人間を殺し、世界を支配する為ヤツらは侵略を始めた。
 人智を超えた力を持つヤツらになす術も無く、人間は蹂躙される運命を受け入れる。
 否、たった一つの微かな希望の光が灯っていた。
 それを繰るのは一人の人間の青年。
 その名はゴダイユウスケ。

 またの名をーーーー時空騎士『空我(くうが)』。

 稀代の小説家「山堂(さんどう)賢利(けんり)」
 空前の大ヒットシリーズ第一作、時空騎士空我(くうが)編。
 20年を超えて、カメレオン漫画家「新島(にいじま) 玲(れい)」の手で今蘇る。

ーーーーーコミック版時空騎士『空我(くうが)編』上巻 あらすじより
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