失いたくなかった。どんな形でも、生きていてほしかった。
たとえ、そのために自分が憎まれたとしても―――
この物語は、正史とは違い、少年が少女とともに生きるために別の選択をした物語。
SHUFFLE!15周年記念ということで、何か書きたいと思いましたが、新しく書くにはSHUFFLE!をプレイし直して考えなきゃきつかった……
ということで、昔アルカディアに投降したものを引っ張ってきました。
イフストーリーで15周年を祝えればと思います。
・亡くなったのは土見母と芙蓉夫妻
という設定です。
『ご両親のいないこの世界でも生きていこうとする……そんな理由が必要です』
あの時、お医者さんはお父さんにそういう風にいった。
僕のお母さんはいなくなっちゃったし、おじさんとおばさんもいなくなっちゃった。
みんな悲しんでいる。
僕はもちろん悲しい、けれどそれ以上に楓に生きていて欲しかった。いなくなって欲しくなかった。
だから、僕が治す。絶対に治すんだ。
方法はわかってる、さっきお医者さんがお父さんに言ってた。
楓が生きたいと思うくらいの強い思い……
――楓を、怒らせればいいんだ。
身体が無理矢理生きようとするくらい、怒らせればいいんだ。
取り返しのつかないことになりそうだけど、少し辛いことになるかもしれないけど、それでもう一度楓が笑ってくれるなら……生きていてくれるなら、それだけでいい。
大丈夫、僕は我慢することは得意だから。
僕は決心を固め、楓の病室のドアに手を掛ける。
心臓の音が廊下全体に響いてるかのような気さえする。この扉を開けてしまったら、もう、にげられない。にげるわけにもいかない……
「待て、稟」
――その瞬間、声と同時に僕の肩に置かれた手。僕の背後にはお父さん、土見鉢康がたっていたんだ。
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「で……おめーは楓ちゃんの病室になんの用だ」
「……」
「黙っててもわからねーぞ?」
「……」
「……ハァ、この頑固なところは誰に似たんだか。あいつか? それとも俺の方かな」
「……」
「いい加減なんか喋れよ……稟」
お父さんはあきれた様子で、軽くため息をついた。
それでも、僕は喋らない。絶対に喋らない!
僕がやろうとしてることを喋ったら、お父さんは絶対に僕を止めるから。止められちゃったら……楓を元気にできないから。
「いいか、稟。俺はおめーが何をやろうとしてるのかわからん……けど、それは楓ちゃんの為のことなんだな?」
「うん」
「なら俺は止めねぇよ。……おめーを信じるさ」
「お父さん……ありが」
「ただし! 覚えてるな? 土見家の家訓、“約束は守る”ってことを。おめーはいつだか楓ちゃんと約束したよな? ずっと一緒にいるってよぉ。その約束を守れなくなるようなことはするなよ! もしそんなことをしたら苦しむのは楓ちゃんだからな」
「えっ!?」
お父さんに認めてもらったと勘違いし、お礼を言いかけた僕に、考えもしなかった言葉が突き刺さる。
楓が、苦しむ? 僕の行動で?
「おめーが背負い込むタイプってのは、俺が一番知ってる。なんてったって親父だからな。 ……そんなお前が考えついたアイディアだ。多分、自分だけが我慢すればなんとかなるっていう、おもいっきり独りよがりな方法なんだろうな。ま、俺には想像もつかんがな」
「でも、僕が我慢すれば……」
「たとえそのやり方で楓ちゃんが元気になったとする。いつか本当のことを知った楓ちゃんはどうなる? お前が見てきたあの子は、人を犠牲にした幸せを素直に喜べるような女の子なのか? そうじゃないだろ?」
そんなこと、考えたこともなかった、どうしよう。
お父さんの言う通りだったら、僕がしようとしていることは楓を苦しめることになってしまう。
楓を怒らせれば僕とはずっと一緒にいられない。約束、守れないよ……
「その様子、やっぱり無茶しようとしてたな?」
「お父さん、僕……」
「お前の気持ちを正直に伝えろ。男なら真っ向勝負だ!! ……ずっと一緒にいたいんだろ?」
「うん」
「なら、ひたすら呼びかけて、一生懸命伝えろ。ずっと一緒にいたいって気持ちを思いっきり伝えろ。ていうか伝えまくれ!! 楓ちゃんが退院したら俺たち三人は“家族”になるんだぞ!」
「うん!」
「楓ちゃんを救えるのはお前しかいない。 楓ちゃんにはもう、お前しかいないんだ! 気張れよ、土見稟!!」
「うん!! 行ってくるよ!!」
「おう! 行ってこい!!」
そして僕は再び――楓の病室のドアに手を掛けた。
********
「楓、聞こえる……?」
「……」
楓は相変わらず、まるで人形が横たわっているかのように静かなままだ。きれいな宝石みたいにキラキラ輝いていた瞳は、その色をなくしてしまったかのようで、濁ったガラス玉みたいだった。見ているだけで悲しい気持ちになってくる。
だけど、僕は伝えよう。
精一杯の――僕の思いを。
「おじさんとおばさんがいなくなっちゃって、辛かったよね……悲しかったよね?」
「……」
当たり前といっては悲しくなるけど、予想していた通り楓からの返事はない。
だけど、僕はあきらめない。約束…したのだから!
「僕は、僕だけはずっと楓の傍にいる」
「……」
「約束、しただろ? ……ずっと、一緒にいようってさ」
「……っ」
約束、その言葉にそれまで少しも反応してくれなかった楓が、ほんの少しだけど反応してくれた。
あの夏の夜、花火をしながら交わした――大事な約束。もう少し、もう少しなんだ……
僕は楓の左手を両手で包み込むように握り、必死に呼びかけ続ける。
「約束……したよね? ずっと、ずっと一緒にいようって。これからは僕がずっと傍にいる、楓を守り続けるよ」
「……」
「だから……約束、守ろうよ? 僕に、約束を守らせてよ! お願い……元気になって。僕が楓の“家族”になるから!!」
お願い……帰ってきて……楓。
僕は楓の笑顔が見たいんだ。泣いてる顔は見たくないし、楓がいなくなっちゃうなんて絶対にいやだ。
だから、お願い……元気になって。
「り……ん…くん」
不意に、声が聞こえた。今にも消えそうにかすれた、弱々しい声。
それは確かに目の前の楓の小さな唇から漏れた音。
「か、楓……?」
重なり合った視線。その瞳はもう――ガラス玉じゃない。
「楓っ!!」
―――僕は思いっきり楓に抱きついた。
********
稟の思いは確かに届き、楓は再び暗闇の中から光射す世界に戻ることができた。
その後、楓は稟の隣にいることで笑顔を取り戻し、稟は楓を守り続けるという誓いにも等しい約束を果たすために、自らを楓の兄という立場に置くことにした。
何故兄なのか? それはやはり子供というべきか……
守るべき大切な存在→家族→じゃあ兄妹になる?
という、単純な思いつきで二人は晴れて義兄妹となったのだ。
楓は素直に稟の傍にいられることを喜び、鉢康は「土見を名乗っても籍が芙蓉のままなら、まだ稟の嫁さんにできるなー」と言い、豪快に笑った。
新たに増えた二人の約束、新たに築かれた二人の関係。しかし、すべてがすんなりと進むわけにはいかなかった。 二人の変化に戸惑う、三人目がいたのだから――
そう、2人の幼馴染み、八重桜のことである。
桜は悩んだ。話自体は二人から聞いていたのだが、他人の気持ちの機微に敏感な彼女は、二人の間には自分の入り込めないような空気が出来つつあることを感じ取っていたのだ。
そして、その“二人だけの空気”がどうしようもなく――寂しかった。
これが、彼女が中学生くらいまで成長していたならば、その気持ちを抑え込み、一歩引いた位置から二人を見つめていたかもしれない。けれど、八重桜は少女だった。 その気持ちを――恋と知ったばかりの、少女だったのだ。
ある日の三人での帰り道、桜は潤ませた瞳で上目遣いに稟を見つめて言った。
「稟くん……私のことは、守ってくれないの?」
ありったけの勇気を振り絞った言葉。そして、そんな勇気を無下に扱うことなど、優しさと気遣いを固めてできたような存在である土見稟には、出来る筈もなかったのだ。
結局、桜とも、ずっと一緒にいて守り続けるという約束を交わしてしまうのだった。
繋いだ両手の温もり、右を見ても左を見ても笑顔が溢れている。漠然と、稟は願った。
(ずっと、笑顔でいられますように)
そして、約束という絆で結ばれた三人の時は過ぎる。
********
『『『お義兄さん、妹さんを僕に下さい!!』』』
「誰がお前等なんかにやるかっ!!」
『『『そこをなんとかっ!!』』』
「……だからしつこいって」
時には、楓のあまりの人気に“自称義弟”が多数出現したり……
「土見てめえ! なんで我が校の二大アイドル独占して勉強教わってるんだよ!!」
「お、おいらたちも一緒に勉強したいんだな。土見の腕に当たってる二人のおっぱい……羨ましいんだな」
「それは単純に俺の成績がピンチだから……って、そんなに血走った目で見ないで欲しいんだけど」
受験シーズンには、殺気のこもった視線をこれでもかと浴びせられ……
「に、義兄さん恥ずかしいですぅ~!」
「稟くん、脇に抱えられるのは恥ずかしいよぉ~!」
「我慢してくれ! こうしないと腹を空かせた狼どもから逃げ切れないんだ~!!」
『『『待てぇぇい、土見稟!!』』』
欲望と嫉妬が爆発して暴徒と化した男子軍団から逃げ切るために、楓と桜を両脇に抱えて逃走したりなどと……
稟、楓、桜の三人で寄り添い歩んだ季節は、明るい(?)思い出と共に過ぎていったのだ―――
過ぎ去ったいくつかの季節。それらは稟の糧となり、広がる大地のような雄大な男性へと成長させ、楓と桜はその大地に咲き誇る可憐な花へと成長した。
そして、舞台はまた移り変わる―――
********
海の底に潜っていたかのように沈み込んでいた意識が浮上し、身体が心地よい揺れに包まれていることを感じた。
尚も優しく身体は揺すられ、まどろみの中、ゆっくりと目を開ける。
目の前には見慣れた――けれど、決して見飽きることのない美少女の笑顔があった。
「おはようございます、義兄さん」
「……おはよう、楓」
稟と楓、二人の関係は形を微妙に変えつつも、その根本は全く変わらないままに平穏な日々を送っている。
あの悲しい出来事から立ち直ることで得た、以前よりも強い“絆”と共に。
「今日の朝御飯は、義兄さんの好きななめこ汁ですよ。お義父さんも待っていますから、早く下に降りてきて下さいね♪」
「ああ、わかった。すぐに行くよ」
シスコンな兄、土見稟。兄のシスコンをしのぐブラコンの妹、土見楓。
もっとも、稟の方は初めからシスコンだったというよりは、楓に寄り付く害虫を駆逐しているうちに賜った栄誉ある(?)称号であるが、楓は「ブラコン……ですか? ありがとうございます♪」と、既に褒め言葉と捉えていたりする。
まあ、それはともかくとして、8年前に変わった二人の関係。“最高の幼馴染み”は“最高の兄妹”にその関係を変えて、ごく当たり前の幸せを紡いでいた―――
********
「か~っ! やっぱり楓ちゃんの料理はうめぇなー」
「ありがとうございます、お義父さん」
土見家の大黒柱である鉢康は、うんうんとしきりにうなずきながらしっかり味わって楓の料理を食べている。
そんな朝から騒がしい父親に、稟は苦笑を浮かべながら応えた。
「父さん、朝から随分大袈裟だな。まぁ、確かに楓の料理はいつでも美味いけど」
「しょうがないだろ! 俺は協力会社への出向で暫くいなくなるんだからよ。この料理が食えなくなるのは寂しいんだよ!!」
「ったく、それにしても朝から大袈裟すぎだよ」
呆れたように言う稟に「うるせー、お前はこれからも毎日この料理が食えるからありがたみがわからねーんだ!!」と言い返す鉢康。楓はそんな二人の様子をみながら柔らかく微笑む。
三人が作る空気は確かに家族のそれで……積み重ねた年月は確かな絆となっていた。
ふと、突然思い出したかのように鉢康が口を開いた。
「ところでよぉ……せっかく俺が家を空けるんだから、そろそろステップアップしろよな! この馬鹿息子!!」
「ステップアップ?」
「は、はぅ~……」
意味を測りかねている稟と、一瞬で理解して真っ赤に沸騰した楓。
全く違う二人の反応を見て、かっかっかと豪快に笑いながら鉢康は続ける。
「桜ちゃんもいるから結婚式は神界でやんねぇとな!!移住も考えなきゃならねぇか? まぁそれは置いておいて、おめぇは母さんに似てっからイケメンだし、楓ちゃんと桜ちゃんは文句の付けようのない美人さんだ。こりゃ孫が楽しみだなぁ!!」
「お、親父ぃっ!?」
そこまで聞いたところで漸く意味を理解した稟が、ハッとして楓を見ると……
「わ、私が兄さんのお嫁さん……子どもは3人欲しいな……男の子1人に女の子2人……けど、桜ちゃんの子どものことも考えたらやっぱり2人にしておいた方が……」
「帰ってこい楓ぇ~~!!」
―――ポーッとした顔でトリップしていた、愛すべき義妹がいましたとさ。
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トリップした楓を現実に呼び戻し、かっかっかと笑い続ける鉢康を尻への回し蹴りのおまけ付きで送り出した後、二人はいつも通りの時間に家を出た。
途中で桜も合流し、三人で寄り添うように歩きなから朝の何気ない会話を交わす。
「稟くん、楓ちゃん、昨日麻弓ちゃんが言ってたんだけど、今日、転校生が来るらしいよ」
「へぇ、そうなのか? 俺は初耳だな」
「私も昨日聞きました。丁度、義兄さんが居眠りしている時でしたよ」
転校生、特に稟の好奇心を刺激する話ではない。興味を持つとすればそれは稟ではなく悪友の方だ。
「俺は興味ないけど、女の子だったら樹のヤツが喜ぶだろうな」
「ま、間違いなくそうだね……」
「い、樹くんだったら義兄さんの期待を裏切らなさそうです……」
3人はそれぞれに樹の暴走を頭に浮かべ、苦笑で顔を引きつらせる。
3人は知るよしもない。無関係だと思っていたこの転校生騒動、むしろ中心は自分たちだということを。
これをきっかけに3人の毎日はさらなるドタバタした日々に変わっていくことを。
けれど、これだけは言える。
彼女達の笑顔という花は、彼女達を包む雄大な大地がある限り、華麗に咲き誇るだろう。
これからもずっと……
――続く…?
みなさんこんにちは。
翠玉と申します。
SHUFFLE!15周年記念と聞き、何か書きたかった……
しかし、急には考えられず、過去に書いたものを漁ったがほぼすべて消えてしまっていた。
ということで、アルカディアさんで塩漬けされていた拙作を引っ張り出してきました。
これからもSHUFFLE!に栄光あれ!