否定要素は私の手で作り、形成される。
世界は偽りの平和に満ちている。
誰かを蔑み、誰かを貶め、誰かを踏み躙り、誰かを殺す。
もし、強者が弱者と成り得たらば。もし、弱者が強者と成り得たら。
これ以上を望むものはない。悲しみは消え去るべきだ。
兵器は誰かを守る者に託されるべきなんだ。
力は特別な者にこそ、与えられる。だから、私は世界を破壊する。
形成せよ。我々は守護者たる英雄を喚び起こす。
「起動」
私は青い光を、救いの光と思えた。
俺は現場に急行していた。
東都の真昼間の中全速力でバイクを飛ばす。石動美空のネットワークに怪物の情報が入っていていたからだ。ネビュラガスは反応なし、明らかな異変だった。
「マスターがバイクを貸してくれるなんてな」
「今回だけだ。次はねぇってよ」
追記だが、俺は背中にむさっ苦しい男を連れている。野郎と二人でデートごっこは嫌だが、サイドカーなどは付いていないから仕方ない。せめて美少女だったら役得だったのに。
そんなことを考えていると悲鳴が聴こえ始める。町の人々が襲われている類のものだ。背中の掴む力が強くなったのを感じると同時に、クラッチを切り替えてスロットルを強く回す。
ーーーーーーー
Fー2地区にて、我々が生み出したスマッシュとは違う異形の怪人が突如現れた。ガーディアンも雑魚同然に木っ端微塵に蹂躙されていた。逐一ガーディアンを投入しているものの、兵器じみた分厚い装甲を突破する者は誰一人いなかった。ただし、ガーディアンだけなら。
【フルボトル】
小気味良い蒸気音を鳴らし、トリガーを引く。
【スチームアタック】
怪物に戦車の砲弾の如き蒸気銃弾を至近距離でぶちかます。蒸気で辺り一面が白く染まる。しかし、これだけで怪人をぶちのめすことは出来なかったと頭部センサーが生体反応を示す。
「おいおい、これで10発目だぞ」
不意打ち気味に放った5発の撹乱弾、3発放った誘導弾、威力を最大にした徹甲弾、そして今放った最大最強の銃弾を耐え凌いだ。耐久力ならばこの世界、仮面ライダーでさえも超えるものだ。怪人から放たれる仮面ライダー未満の殴打をいなして背筋に広がる悪寒を振り払う。
「幸い、本気を出していないのが救いか」
怪人は何かを探すように動いている。我々が攻撃を加えた時のみ反撃をしているからだ。確保しようと捕獲弾の攻撃を加えた瞬間、暴れ回り手がつけられない状態になっていた。どうやら、ガーディアンと同じくとあるルーチンで動くロボットだろう。寸分の狂いなく急所へと打ち込む冷徹な攻撃がそう感じさせる。
「ぶっ壊すにはあいつらの力が役に立つかな」
ガーディアンの残骸が山ほど転がっている中、聴覚センサーが聞き慣れたエンジン音を拾いあげる。
ーーーーーー
二人の怪人が戦っている様子を見て、二人の青年は驚いていた。
片や何度も戦闘を繰り広げ尚も実力の底を見せないコブラの装甲を被る怪人、ブラッドスターク。
そのスタークの攻撃をものともしない、全身黒の装甲を纏った女性型の怪人。青く光るバイザーが機械的に蠢く。スタークと変わらない程の体格ながらも、俊敏な動きで攻め立てている。
青年らの面倒を見てくれる人物から貸し受けたバイクから降りる青年達。クリーム色のコートを靡かせ颯爽と地面に着地したのは
遅れて力強く着地する、背に入った龍と違わぬ迫力を出す血気盛んな若者の名は
「あれは? あのスタークが押されている?」
戦闘状況に違和感を抱いた戦兎達。戦いに参加するべく、戦兎は懐から発明品のベルトを取り出すがーーー「戦兎、お前じゃ役不足だ」と万丈に横取りされる。彼の目には既に闘気が溢れていた。
「あのね、この場合力不足じゃないの?」
戦兎はコートの中から現在持ち合わせている残りの持ち物二つ。人々を守る為に費やしてきた技術の結晶、フルボトルを万丈に放り投げる。
「バーカ、お前が出る幕じゃないってことだよ。この程度、俺の力で十分だ」
万丈は不敵な笑みを浮かべ、受け取ったフルボトルの一つを上下に振る。カシャカシャと中身の成分を混ぜ合わせ、蓋のラベルを真正面にセットする。龍の声が辺りに響く。リングのタイトルコールが鳴る時を待ちわびるように、自律型制御装置クローズドラゴンが万丈の前に飛翔する。
「つっしゃ! 行くぜ!」
ベルトを豪快に腰へ当てがい黄色の帯を展開し、準備を完了したボトルをクローズドラゴンに合体させる。【wake up!】正常に起動したクローズドラゴンは装填準備状態へ移行。万丈はそれをキャッチし、ベルトの装填部分へそのまま装着させる。
【クローズドラゴン!】
ベルトが起動準備の音を鳴らす。まさしく新たな戦士を喚び起こす電子的なリズムを掻き鳴らすと共に、万丈のテンションを最高潮へと引き上げていく。これからは彼の存在が世界の中で輝き始める事を止められないように、ベルトに備え付けられた赤色の棒を回す。
ベルトに内蔵された変身機構を司る歯車が駆動し、戦士の舞台を創り始める。万丈の手は止まることを知らず【Are you Ready?】と音声が鳴った時、ようやく手を離した。そして、身体を軽く解し、コンパクトなファイティングポーズを構え、覚悟を纏う一声を吐き出す。
「変身ッ!」
鎧が形成し終わり、万丈の身に蒸着される。世界にひとつだけの拳を武器に、必ず相手をKOする。戦いに於いては流星の如き、更にはその星でさえ噛み砕く蒼き龍の姿を象るその戦士の名はーー
【Wake up burning】
「
ーーーーーー
赤き蛇と黒き鋼は戦いを膠着状態に陥らせていた。赤き蛇が強力な一撃を放とうものなら、黒き鋼は超人的な耐久性能を発揮して耐え凌ぎ、黒き鋼が無慈悲な連撃を繰り出そうものなら、赤き蛇はのらりくらりと躱していく。そのやり取りを幾度も続けていく中、赤き蛇は独り言葉を漏らす。「これじゃあ、埒があかないねェ。そろそろ決定打をっと」
赤蛇の手持ちの武器、スチームトランスガンの一部に備えられたフルボトル装填部に、彼自身を模した紫のフルボトルを装填する。黒き鋼の攻撃を避けた一瞬に練り上げられた必殺のエネルギーは、脚部に溜まっていく。
【スチームブレイク コブラァ】
銃から蒸気を吹き出し、赤き蛇の姿を眩ませる。黒き鋼は蒼く眼光を光らせ、急に戦闘体勢を解く。その間断を狙い、赤き蛇は真正面から蛇の真似をするように地面を這いずり、どす黒く着色されたエネルギーをと共に黒き鋼の正中へ蹴り込む。
僅かに持ち上がった無防備な身体を同様のエネルギーを纏った拳で殴りつける。これで戦いが終わることを告げる。
筈だった。拳を掴む黒き鋼の二の腕が継戦を唱えるまでは。
「こりゃあおじさん参っちゃうねぇ。結構本気だったんだよ」
乱暴な膂力で拳を引き抜き、咄嗟にしゃがむ。好機と見た黒き鋼は追撃をしようとその浅葱色の蛇の象徴を殴り抜こうと拳を引き絞る。「なーんてな」。黒き鋼は拳を引き絞るまでしかできなかった。
赤き蛇の身体が死角となり本命が見えていなかった。彼のいつもの戦い方であり、ある意味で信頼していなければ成立しなかった、本命を囮とした本命の一撃を浴びせる。
【メガスラッシュ!】「ウらァァァっ!」
黒き鋼は目の前に迫り来る龍の奔流を全身に受けて、数m仰け反り、膝をつく。その様子から手ごたえを感じた蒼き龍は軽くガッツポーズを取る。
「喜ぶのは良いが、相手はまだ動くぞ」赤い蛇は忠告する。
「ったく、何となくいい当たりだったのによ。それにあんたが苦戦するなんて、相当な強敵だなぁ」蒼い龍は地面に埋もれた剣を引き抜き、黒き鋼に向けて赤き蛇に睨みを効かせる。
「あれは東都の敵、そしてファウストの敵でもある。ド派手にぶっ壊せ、相手は何らかの目的を持った侵略ロボットだからよぉ」鏡合わせに、自身の銃を黒き鋼に向けて赤い蛇は蒼い龍を嘲笑う。
「これはこれは。協力する気なんて無いからな」
「いいねぇその跳ねっ返り精神。どっかの蝙蝠よりかマシだな」
赤き蛇と蒼き龍が利害の一致を図ったところで、黒き鋼は何処からかアサルトライフルを取り出して引き金を引く。分/800発の雨あられが二人に襲いかかる。しかし、フルボトル由来の超硬度耐衝撃装甲を身に纏った二人は呑気に臨戦体勢を整える。
「そんなちゃちいもんじゃ、この俺を倒せないぜ」
「じゃあ、行ってこい。仮面ライダーくん」
赤き蛇は灰色のフルボトルを蒸気銃に装填。5.56mmを超える半径の銃弾を、横殴りの雨を遮る傘のように高速で発射する。蒼き龍は脇目を振らず、垂直に立てた剣を身体に寄せて走っていく。
黒き鋼は5m程の銃を再び虚空から取り出し、片手で狙いを定めにいく。蒼き龍は2017年現代における人間に向けるべきではない兵器とはいざ知らず、ベルトの赤いハンドルを回し始める。
「アンチマテリアルライフル? 皆殺しか、それともーー」
赤き蛇の呟きは、空気壁を突き破る銃撃と
一瞬の閃光。蒼き龍が吼える。黒き鋼が啼く。
真っ白な世界を塗り替えていくのは、ただ一つの青年の声だった。
「万丈!」
黒き鋼が細かい電撃を放つ。それは新たな攻撃でもなく、ただ腹部に空いた穴をどうにか修復しようとする、最後の抵抗だった。
蒼き龍は超絶な技を放った、未だ燻る右脚を黒き鋼の青いバイザー目掛けて回転蹴りを放つ。それが試合を終了させるコングであった。
ーーーーーーーーーーーーー
ベルトも無く、成分入りフルボトルも全て手持ちにない俺は、遠くでブラッドスタークとクローズの共闘を見守っていた。
相手である黒い怪人。所々ぎこちない動きが機械と感じさせる。クローズが放ったビートクローザーの一撃を受けた怪人は、何事もなく瞬時に取り出した武器を手に、二人へ乱射している。
「なんだあの技術? ビルドの武器召喚のシステムと一緒だけど、装着速度が段違いに速い」
召喚された武器はクローズ達には歯が立たないものであり、無意味なもので脅威はない。ビルドシステムを知っているものが、そんなものを優先的に呼び出して攻撃するだろうか。知っていれば一般兵器では通用しないことを見越して、クローズ達の装甲を抜くことができる兵器を真っ先に使用する。
もし、それを知らないとしたらファウストとは関係はない第三の勢力の兵器である。しかし、力試し目的だとしてもビートクローザーの一撃を何故傷一つなく受けることができたのか。可能性としてはフルボトル以外の技術を用いた超兵器であり、防御性能を極限にまで高めた技術を用いて受け止めたが、装甲を貫通する攻撃性能を持てなかった。
あるいは、ビルドシステムのような超常的な兵器がなかったからそれで十分な攻撃性能だった。
ふと、周囲を見渡すとクローズが必殺を、黒い怪人が明らかに威力の強い大型銃を取り出し、撃つ所だった。
威力を最大限に活かした一撃。二人はそうやって決着をつけようとしている。それでもやっぱり二人の放つ威力は差ができている。あれではまるで全力を引き出すような、まるでそれが目的だというような。
「万丈!」
思わず叫ぶが、クローズの励起したボトルエネルギーが黒い怪人の腹部を貫通していく。駆け寄ろうとしたが、それはブラッドスタークの手で塞がれた。
「待て、近づくな」
クローズの止めの一撃を頭部に喰らった黒い怪人は、全身を青く光らせて爆発を起こした。それは、ただの爆発であって欲しかった。
「何ーー」
万丈の言葉は爆発した青い光に飲み込まれていった。恐らく怪人が創り出したであろう青い穴へ、行き先の分からない未知数の空間へ。
それが仮面ライダークローズ、万丈龍我をこの世界で見た最後だった。