異世界で虫を食べる話 作:山田ムシ太郎
転生した。
今の俺の状況を表すならそれだけで済む、明らかに自分とは違う体、何世紀前とかそんなレベルの文化模様、耳が尖がった人間っぽい何かや妙に毛深くて獣っぽい人間的な何かがいる。これは間違いなく異世界転生ですな。
ようやく俺にも異世界で無双するときがやってきたのかと思ったが、それをするには非常に大きな問題を抱えている。
神様? 会ってません!
特典? 何それおいしいの?
言葉? 何言ってるか分かんねえ!
両親? ボッチなう!
無い、全てがない。いや贅沢は言わないからせめて言葉くらいどうにかならなかったものか。というか自分の体を見た感じまだ子供っぽいのに親の姿が見えないってどういうことだよ。孤児か、孤児なのか? よくよく観察してみれば着ている服はボロ布の集合体じみた服のような何かだし、目が覚めた場所は薄暗くてじめっとした路地裏、ゴミ箱が近くにあるのか腐ったような匂いも漂っている。
結論、二度目の人生は超ハードモードスタートのようだ。
更に路地裏から明るい大通りのほうに目をやると、耳が尖った人間っぽい何かはエルフ的な種族かな? それで毛深い方は獣人的な種族になるのだろうか。取り合えず最初に目に入った時はそれ以上の衝撃で気が付いていなかったが、明らかに人間とは違う種族の多くは首に鎖が付いてるか足に付いてるか、はたまた死んだ目で檻に入れられているいる。どうみても奴隷です。
自分の状況もハードな上に、社会も種族差別あり奴隷制ありのハード社会なようだ。幸いなことにも自分は人間以外の種族ではなさそうなので奴隷墜ちルートの確立は低そうだ。しかし誰の庇護下にある訳でもない今の状況では高確率で野垂れ死にコースである。折角の二度目の人生、ハードモードでもそんなにあっさり死んでたまるか。
一先ず情報がいる、身元不明の子供が一人で生きていけるための最低限の情報が必要だ。飯のタネでもいい、出来る仕事でもいい、あるいは社会保障が充実していて孤児は国から支援を受けられるイージーモードの可能性も無きにしも非ずだ。
そんなことを考えていたのが実はもう三日も前の話である、何がイージーモードの可能性があるだよアホか俺は。
一日目はなんとか情報を得ようと至って普通そうな身分の大人に話かけようとしたらゴミを見る目で見られた上に、俺が言葉を理解出来ないことが分かる蹴っ飛ばして追い払おうとしてきた。偶々そいつの機嫌が悪かっただけだと思って何人かに声を掛けようとするもどいつもこいつも大して変わらない反応だった。この時点で既に心が折れそうになっていた、豆腐のようなメンタルだった。
二日目には普通の大人がダメなら明らかに今の俺と同じ風体の連中に接触してみたが、近くに寄っただけで異様に警戒され、そこから更に近くに寄ると何か喚き出した、俺は両手を上げて無害ですよアピールをしたが気にせずぶん殴られた。他に何人かに接触してみたが、結局殴られそうになるか逃げられるかでコミュニケーションなんぞ全く取れなかった。ここで多分ポッキリと心が折れた気がする。あとついでに腹の虫がぐうぐう唸りだしてうるさかった。
そして三日目、そろそろ空腹感がやばいことになってきた、三日も飲まず食わずだったから当然のことかもしれない。動くのも辛くなってきた中でなんとか食い物か飲み物を探してみたが、明らかに腐ったヤバい匂いのする生ごみか、汚物やネズミの死体が浮かんだ水路しか発見出来なかった。そんな風に町を探索しているとついに限界が来たのか糸が切れたように体が地面に倒れ伏した。
その時だった、二度目の人生は三日で終了するのかと殆ど諦めていた俺の前に一匹の虫のような物が歩いているのが視界に入った。変わった虫だった、形は蟻によく似ているがその大きさは俺の知っている蟻よりも何倍も大きく数センチ程度はあった。また体の後ろ部分が大きく膨れており半透明になっていた、小さな蟻が背中にビーダマを背負って歩いているようにも見えた。
俺はここ三日で折れた心と疲れ切った体のせいか、何を思ったのかそういえば虫って食べれるんだよなと考え、倒れた俺の目の前を横切るその蟻を掴むと躊躇わず口に運んだ。
プチっと蟻もどきが潰れる感触があった、そして次の瞬間、水の味が口の中に広がった。苦い変な味を想像していた俺には衝撃的だった。
「やっと食べてくれたぁ!」
声が聞こえた、女の声だった。いや性別なんてどうでもいい、今はその声が俺にも理解出来たこのほうが重要だった。
「誰…だ…?」
「うわ、初めて私の作った虫ちゃん食べてくれた人死にかけじゃない!? ちょっと死んだらダメよ! あなたにはこれから虫ちゃん達の素晴らしさを広めて貰わないといけないんだから!」
私の作った虫? つまり今俺が食べた虫は人工的に作られたもの?
「はいこれ食べて食べて! 見た所栄養不足みたいだからしっかり食べてればそのうちよくなるよ!」
声の主はそう言いながら俺の口にさっきの蟻もどきを何匹も押し込んできた。水の味が口いっぱいに広がる、生き返る気分だ。
「いやあ折角ね、飢饉対策とか考えて人間たちのために創造してたのに誰も食べてくれなく困ってたの! ありがとね!」
「いや……だから誰……?」
「ムム、なんだか聞いたことのない言語だね? それこの辺りの言葉じゃないでしょ? まあ女神様である私だから通じてるけどさあ、まあいいや不便だろうから分かるようにしといてあげる」
女神様……? 神様…?
「あとこれプレゼントね、虫けら帽子とトンボリュック、それと昆虫図鑑、虫けら帽子は被ってたら他の人からは虫けらくらいにしか認識されなくなるよ、トンボリュックは見た目以上の容量があってついでに空も飛べちゃう。そんでもって昆虫図鑑ね、君が食べた昆虫が自動で登録されるよ! それじゃあしっかり生きて虫ちゃん普及に励んでね! バイバイ!」
声の主の気配は消えた。なんだったのか今のは逝かれた頭が見せた妄想だったのか、そう思って頭に手をやると帽子が、そして背中にはリュックサックのような物が確かにあった。となればさっきのは本当に神様だったのだろう。
よくわからないけどありがとう神様、ただ一つ言わせて欲しい。
「そういうイベントは今度から初日にお願いします……」
そう呟いたのを最後に疲労の溜まった体は強制的に睡眠へと向かっていった。
なろうとかでありそうでなさそうな転生物を書きたかった。
流石に喜んで虫を食わせてくる神様はなろう系にも存在しまい。