異世界で虫を食べる話 作:山田ムシ太郎
異世界生活三日目にしてやっとのこと神様イベントをこなすことに成功した。ついでに蟻モドキを摂取することによって野垂れ死にの危機をしのぐことにも成功した。
眠りから覚めて改めて今の自分の姿を見ると、頭にはなんかみょんみょんした触覚みたいなのが付いた帽子を被っていて、背中には薄いセロファンみたいなぺらぺらした羽状の物の付いたリュックを背負っていた。傍から見ると虫っぽいコスプレをした薄汚いショタであろうことが想像出来る。リュックの中を探ると結構な厚みの本が入っていた。ペラペラとページを捲って見るがほぼ全てのページは白紙だった、最初のページにのみさっき食べた蟻モドキの絵と名前が良くわからん文字で書いてあった。
「なんだこれ……『ヤマカアリモドキ(水)』?」
知らない文字であったが何故かすらすらと読み解くことが出来た、神様サービスかな? 名前の意味はヤマカが地名か何かか? それでアリはそのまま蟻、モドキは蟻っぽいけど蟻じゃないってことで、括弧の中の水ってのはなんだ? 水以外の種類もいるのか? 分からん……。
「まあ細かいこと考えても仕方がないか」
一先ず、水分に関してはこのアリモドキから摂取出来ることは判明している。よく見れば足元には結構な数のアリモドキがいるのが分かる、水には困ることはないから次はもっと栄養の取れる物が欲しい。神様が創ったとか言っていたのだから虫を食って死ぬこともないだろうし、おいしそうな虫を探しに行こう。
試しに近くに転がっていた石をひっくり返してみると早速発見した。
「こいつはダンゴムシか?」
見た感じは俺の知っているダンゴムシと同じ形だった。試しに突っついてみると見事に丸くなった。それを摘まみ上げよく観察してみるがやはり俺の知っているダンゴムシと相違ないように見える。食えるのかこれ?
「まあ食ってみれば分かるか」
既に蟻を食べるというミッションをこなした俺からすれば今更ダンゴムシの一匹や二匹はどうってことはない。思い切って口に入れる。歯で噛むと固い感触があるかと思ったが、予想に反して柔らかい感触だった、そんでもって甘い、非常に甘い、だけど砂糖そのままのようなきつい甘さではなくて、どこかで味わったことのある優しい甘さだった。
「あ、餡子だこれ」
そうだ思い出した餡子だ、うまい。暫くもぐもぐとしたあとに口に残った残骸を飲み込む。ダンゴムシの殻か、そういうのが微妙に口に残る、粒餡を食べているようだ。
「そうだ図鑑図鑑っと」
俺がこいつを食べたことで図鑑に登録されている筈だ。
「お、増えてる増えてる」
ヤマカアリモドキの次のページにさっき食べたダンゴムシの絵と名前が追加されていた。名前は『ヤマカダンゴモドキ(餡)』だった。こいつにも括弧が付いていた、ということは餡子以外の味もいるのだろうか? いるならデザート系統じゃなくて主食系統のダンゴが欲しい。
兎にも角にもこいつらが食えることは判明したし、味の通りなら糖分を多く含んでいる可能性が高い。そうなると暫くの間の主食はこいつらに決まりだな。石の下にはまだ何匹かいたのでそのうちの半分を口に含み、もう半分は非常食としてリュックに付いていたポケットに入れておく。それと餡子を食べて水分が欲しくなったのでアリモドキも三匹程捕まえて口に入れる。水がうまい。
「こいつらも何匹常備しておきたいけどダンゴムシより活発に動き回りそうだよなあ……、虫って生命力強いらしいから足千切ってみるか?」
追加で何匹か捕まえて試しに足を千切ってみると、まだまだ元気そうに胴体をばたつかせていた。これなら大丈夫そうだ、ダンゴムシと同じポケットに入れておく。
さてこれで一先ず最低限の命の危機は去った。だがまだまだ最低限だ、食だけでなくせめて人間らしく衣住も充実させたい。そうなると必要になるのはやはり金だな。ここ数日の探索でチラチラと目に入っていたが大人達は普通に硬貨のような物で取引を行っていた。奴隷っぽいのが入った檻と硬貨らしき物が詰まった袋が交換されているのを見るのはなんとも言えない気分だった。
「そうなると仕事をするか、或いは盗むかだが……」
社会情勢を見る限り、俺みたいなストリートチャイルドに仕事なぞ与えてくれるもの好きはそうそういないだろう、だからといって盗みはリスキーだ、明らかに人権なんて物がなさそうなこんな社会で盗みなんぞ働けば速攻で殺されてもおかしくない。困った、こうなるとそこらを歩いて金になりそうな物が落ちていないか探すしかないかもしれない。
「都合良く金貨でも落ちていないか……」
なんとなく足元を見ながら路地裏を歩き回ってみると、暫くして黒っぽくてそれなりにデカい塊が落ちていた。それは丁度、今の俺と同じくらいの大きさだった。更に言えば手と足と頭が付いていてまるで人間のようだった。しかしそれは人間とは違って頭の上に耳が付いていた、しかも耳は三角形で毛が生えていた。おまけに言えば、腰の辺りから尻尾のような物がフニャンと垂れていた。
人間みたいだと思ったが、どうやら獣人のようだった。
「わーお……」
金目の物を探していたら獣人を発見してしまった。死にかけのようだが、よく見れば倒れてはいるものも口からは呻き声のような物が漏れているし、胸も僅かに上下して呼吸をしているのが分かる。すわ、俺と同じ野垂れ死にルートかと思ったが、ふと首に鉄で出来た輪っかが付いていた。お洒落には見えない、つまりこいつは奴隷か?
「奴隷がなんとか逃亡したけど、力尽きて倒れたってとこか? ありがちだなあ……、ん?待てよ……」
さっき俺は何を考えていた? 奴隷が何と交換されているのを見た?
「こいつ……売れるか……!?」
奴隷=金の世界だ、売れば金になるかもしれない。そうと決まればこいつを死なすわけにはいかない。一先ずは何も食ってなさそうなこいつの口にストックしていたアリモドキとダンゴモドキを突っ込む。意識はなさそうだが口に何か入ってきたのを感じて無意識に口を動かしてくれた。
俺は三日で野垂れ死に掛けていたが、こいつが何日コースで野垂れ死にだったかは分からん、俺よりも腹の減りがヤバいかもしれないから、そこらにいたアリモドキとダンゴモドキを捕まえて追加で口に突っ込んだ。
「おし食え、そして生き返って金となれ」
こいつが生き返るまで暫く横で待っているか。
逃亡奴隷を見つけるのはテンプレかもしれんがその奴隷を売り払うために口に虫を突っ込むなろう系主人公は流石にいまい……