異世界で虫を食べる話 作:山田ムシ太郎
逃亡奴隷(仮)が目覚めるのを待ってはや……何時間だ? 時計なんて便利な物はないから詳しくは分からないが二時間くらいか? とにかくいくらかの時間がたった。暇だったのでポケっとして過ごすか近くにいたアリモドキとダンゴモドキを何匹か回収して時間を潰していた。
「むーしむーしダンゴムシー、おいしーおいしーダンゴムシー、世界で一番おいし……起きたか」
意味のないアホ丸出しな歌を歌っていると猫っぽい容姿の逃亡奴隷(仮)が起き上がった。寝ぼけた顔で周囲を見まわしている。
「おはよう、さっそくだが動けるようになったなら売りに行かしてもらうぞ」
そう言って声を掛けるが反応はない、無視されてるのか、虫だけに。なんてことが思い浮かぶが、そういえば神様から貰った虫けら帽子とかいうのを被ったままだったことを思い出す。もしかしたらこれのせいで気が付かれていないのかと逃亡奴隷(仮)の後ろに立って帽子を外し、肩を叩く。
「ばあっ!」
なんとなく脅かしてみると逃亡奴隷(仮)はこちらに振り返った。
「……!?」
俺の姿に気が付くと逃亡奴隷(仮)は一瞬呆けた後に声に成らない悲鳴を上げ、その場で尻もちを付いた。よく見ると彼女の尻の下に水たまりが広がっていっているのが分かった。まさかそこまで驚かれるとは思わなかった。
「あ、悪魔……!?」
逃亡奴隷(仮)は俺の方を指して悪魔呼ばわりしてきやがった。非常に失礼な奴だ。
「誰が悪魔だこら」
「だ、だって……その恐ろしく冷たい銀色の髪の色……」
「銀色?」
「それに、血の色みたいな右目に、氷みたいな青色の左目」
「オッドアイってやつだな」
「せ、背中には羽が……」
「トンボの羽だな」
「そ、そんなやつ悪魔に決まって!」
衝撃の事実、俺は銀髪オッドアイだったらしい。鏡なんて上等な物はどこにも見当たらなかったので自分の容姿なんぞ気にもしていなかった。これは踏み台転生者ですね間違いない。あ、誰に話しかけても邪険にされたのはこの容姿のせいだったのかな? 確かに見たことないと悪魔か、或いはなんかヤバい病気にしか思われないかもしれない。
「悪魔じゃねえよ。いや蠅の王とか名乗ってみるのも面白いかもな、虫だけに」
「む、虫?」
「まあそんなことはどうでもいいや、とりあえずどこの奴隷屋さんから逃げて来たんだ? 捕まえて連れて行けば売るよりも手っ取り早く金になりそうだ」
「え、あ、その……」
「なんだよ、俺のことを哀れな逃亡奴隷を助けてやる優しいお兄さんにでも見えるか?」
「そ、そこは最初から悪魔にしか見えてません……、そうじゃなくて私は逃げたんじゃなくて捨てられたんです……、だからお金にはならないと思います」
「え、つまり財布だと思って拾ったらただの粗大ゴミだったってことかよ。ていうかなんで捨てられたんだ? 普通に奴隷として扱き使われる分には問題なさそうに見えるけど?」
「私昔から体が弱くてまともに働けなかったんです……それでその事は隠してたんですけどバレて、売り物にならないからってポイっと……」
まじかよ、こんな社会でゴミ拾いボランティアをする事になるとは思わなかった。金にならないならいらないな。
「そうかい、じゃあいらね。食わせた分は運が悪かったと思ってくれてやるよ。精々しっかり生きろよ」
そう言って離れようとすると逃亡奴隷(仮)改め廃棄奴隷が俺の腰に縋り付いてきた。
「ま、待って下さい! 私こんな都会で独りぼっちにされたら生きていけません! 悪魔でもいいから助けて下さい、なんでもしますから!」
「ん? 今なんでもするって言った?」
「え、あっと悪魔の生贄とかで食べられんじゃなかったら……」
悪魔じゃねえって言ってるだろうが。それはともかくこいつが何かの役に立つか? 働けない子供なら今の俺と同じ状況だ、俺が八方塞がりなのにこいつに何か出来るとは思えない。
「あ、そうだ」
こいつ虫の毒見役にしよう。今の所はアリモドキとダンゴモドキしか食べていないがこれから他の虫を見つけた時にもし毒とか持っていても困るしな。
「じゃあテストだ、これ食え」
今の段階で虫を食えるかのテストとしてさっき捕まえておいたダンゴモドキを差し出す。
「え? なんですかこれ?」
「餡子だ」
「餡子が何かは知らないですけど、これどう見ても虫じゃないですか!?」
「なんだ食えないのか、じゃあな」
「わあ待って下さい食べます食べます!」
「ならはよ食え」
廃棄奴隷の手にダンゴモドキを乗せる。
「うぅ……」
「ちなみにさっき取れたばかりでピチピチ新鮮でまだ生きてるぞ」
「うぅぅぅ……」
なかなか口に運ぼうとせずに唸ってばかりだった廃棄奴隷に鮮度を教えてやると唸りの長さが延びた。なにこれ楽しい。
「さっきまでそこの石の裏で動いてたんだぞ、今は丸くなってるけど体の裏にある足は元気一杯にわしゃわしゃっとしていたな」
「うぅぅぅぅぅ……」
楽しい。けどいい加減に食べてくれないと面倒だな。
「そぉい!」
「むぐっ!?」
なかなか動き出さないので渡したダンゴモドキとは別の奴を無理やり口に突っ込んでみる。
「ああ、ちゃんと噛んで食べろよ」
「むぐうっ!?」
口の中にあるダンゴモドキに心底気持ち悪そうにしていた廃棄奴隷は口を動かさずに飲み込もうとしていたので釘を刺しておく。というか獣人っぽいから虫くらい平気で食べるのかと思ったけどそうでもないんだな。
「むぐうぅ……」
おお、吐きそうな顔をしながらもしっかり咀嚼しているな。ふむふむこれは合格だな。
「で、感想は?」
「甘いです……」
どうやら味覚も正常のようだ。
「よし、じゃあ合格だ。これからお前は毒見係だ、というわけいくぞドクミ」
「毒見!? というかそれ名前ですか!?」
「うるせいドクミ、虫食わすぞ」
「嫌です! 虫はもう嫌ぁ!」
嫌がっているところ悪いが俺たちの主食は基本虫だからな。
「黙ってついてこい」
そう言うと下を向いてとぼとぼと付いてきた。黙って付いてきたら虫を食わさないとは言っていないのに、素直な奴である。
毒見係のドクミが仲間になった!
嫌がる子供に無理やりダンゴムシを食わせる主人公、このレベルの鬼畜主人公はなろうでもなかなか少ないであろう。