鍵が導く心のままに【キングダムハーツⅢ×グランブルーファンタジー】 作:K氏
「それにしても、全然人を見かけないねぇ」
「……そりゃそうだよ。だって僕達、まだ森の中だよ?」
グミシップから降り立ったソラ、ドナルド、グーフィーの一行は――それから数十分経過した今も、森の中を当てもなく彷徨っていた。
と言っても、特に困った様子は無く、寧ろこういった状況に慣れているようでもあった。
「まぁまぁ。これもいつもの事、いつもの事」
「それもそうだねぇ。初めて来た世界で最初に会うの、大体ハートレスばっかりだしねぇ」
「もう! 不吉な事言わないでよ!」
ソラが両手を頭の後ろで組みながら暢気に歩き、グーフィーがそれに同調するようにのんびりと歩き、そんな二人の緊張感の無さにドナルドが眉を顰める。これが三人組のいつもの調子だった。
「心配性だなぁドナルドは」
「ソラが能天気過ぎるんだよ!」
「なにおぅ!?」
そして、気づけばソラとドナルドの二人で口喧嘩を始めてらそれをグーフィーがにこやかに見守るのもまた、いつも通りの光景であった。
「まぁまぁ。急にハートレスが襲って来るなんて、僕らの旅じゃよくある事じゃない」
「……まぁそれはそうだけど」
「そーそー。それにさ、いつだって俺達三人で蹴散らして来たじゃん。また来たって、三人ならヨユーだって!」
グーフィーに便乗してそうはっきりと言ってのけたソラの自信溢れる顔に、ドナルドは内心「相変わらず前向きだなぁ」と、かつて初めて会った時のソラを不意に思い出す。
──トラヴァースタウン。自分の世界を失った人々が流れ着き、いつしか出来上がった町という名の一つの世界。
かつての戦いの後、闇に飲まれて消えたほとんどの世界が元に戻り、その影響でこの町で暮らしていた人々もまたそれぞれの世界に帰還した事で、今ではあの町がどうなっているかわからない。だが、三人が初めて出会い、それ以降も旅の拠点のような場所になっていたというのもあって、とても思い出深い世界の一つだった。
ドナルドとグーフィーは、自分達の『王』が城を飛び出し、彼が残した伝言を頼りに『鍵』を探し求めて。ソラは自らの世界が闇に飲まれた折りに、この世界に流れ着いた。
あの頃のソラは、「外の世界を見たい」という願望こそあったが、否応無しに見知らぬ世界に放り出され、おまけに親友であるリクとカイリとも離れ離れになってしまったが為に酷く不安そうにしている姿を、ドナルドは今も覚えている。
だが、落ち込んでいてもすぐに立ち直り、笑顔で前を向いてひたすら突き進めるのは、ソラのいいところだとも思っていた。……単純過ぎて、もう少し周りを見て欲しいと思わなくもないが。
「僕ら、『三人で一人前』、だもんねぇ」
「それを言うなよお~……そこだけは納得してないんだからさぁ」
一喜一憂の激しいソラの様子に、ドナルドもさっきまでの怒りが収まり、逆に笑みが零れる。
「そうは言っても、君って一人でなんとかできた事、ほとんどないでしょ」
「うグッ! ……い、いやいや! ヘラクレスのところの大会で、一人で勝ち抜いた事とかあるし……」
「かなり昔の話だよねぇ」
「それも力を失ってない頃の」
「……うがーッ! なんで俺いっつも力失うんだよー!」
(そんな事言われても……)
そうして賑やかに会話をしながら、彼らは森の中を歩いていく。
――そして、数分後。
「それにしても、全然人を見かけないねぇ」
「……あれ、さっきも同じようなこと聞いたような……」
ソラ達一行は、今だに森を脱出できずにいた。
「そもそも、人気が全然ないんだよなー……上から見ても周りほとんど木ばっかだったし」
「じゃあなんでここに降りたのさ!?」
「降りれそうなところがここしかなかったんだよ!」
一向に人のいそうなところはおろか、人っ子一人まともに見かけないそんな状況に、ソラとドナルドは酷くうんざりしているようだった。グーフィーは相変わらず、暢気に蝶を指で追っているが。
「……こうなったら奥の手だ!」
「どうするのさ?」
疑問の声を上げるドナルドに、ソラはおもむろに手を前方にかざす。
瞬間、彼の手の中に光が集まったかと思うと、一本の剣が握られていた。
切先が鍵の形をした、不思議な剣。これこそが、ソラが勇者と呼ばれる所以の一つ……『キーブレード』。強い心を持ち、選ばれた者だけが扱う事を許される、伝説の武器。
「鍵が導く心のままに、だね」
「そ。グミシップで迷った時もキーブレードが役に立ったし、もしかしたらって思ってさ」
「うーん、そんな上手くいくものなのかなぁ」
「鍵が導く心のままに」。ソラ、そしてここにはいない親友と、ドナルド達が王と仰ぐ人物の三人にとっての師に当たる人物、イェン・シッドが度々口にしていたという言葉。
この言葉があったからこそ、本来であれば壁で隔てられ、行き来する事が本来なら不可能な星の海を渡り歩く事ができたのだ。
ソラは、キーブレードを宙にかざす。
そして、集中するように瞳を閉じ――途端に静寂が訪れた。
ドナルドもグーフィーも黙り込み、その場をそよ風に吹かれて靡き擦れる葉の音や、この一帯に住んでいるのであろう鳥や小動物の鳴き声だけが支配した。
そして――
「……ん?」
ソラが目を開く。
「どうしたの? ソラ」
「あ、うん。なんだろ、今何か感じたような気がするんだけど……」
それは、キーブレードを持つソラにしか分からない、不思議な感覚だった。
微かな光の気配。もしかすると、遠くに人がいるという事なのかもしれない。
「どっちから感じたの?」
「うーんと、あっちの方!」
普通なら疑うところだろうが、伊達に一年以上も旅を共にしてはいない。それに、とにもかくにも人と出会えなければ元も子もないのだ。今は少しでも手掛かりが欲しい。
そんなわけで、ドナルド達は藁にもすがる想いで、ソラの直感を信じる事にしたのだった。